手っ取り早いのは話し合い(物理)だよね
気まずい雰囲気のまま一夜明け、早々にドラゴンの討伐もといドラゴンとの対話に向かう事になった。
鉱山に向かう道中の馬車の中では女子達が「あれが美味しかった」「高級宿は違う」とキャッキャウフフしているが、男子組は無言のまま。
ていうかクラウスが昨日「先に休む」と言ってから一言も発さず今に至るので必然的に僕も口数が少なくなっていた。
クラウスを見るに、落ち込んでいるというよりは何かをずっと考えている雰囲気なので多分大丈夫……だと思いたい。
直情的な面もあるが、頭が悪いなんて事は皇子だから有り得ないしいずれ話してくれるだろう。
え?冷たいって?
男同士なんてこんなもんでしょ。
そんなに時間も掛からず鉱山に到着した。
入り口には村の規模にも満たない集落と言えば良いのかな?
掘っ立て小屋が幾つか建っており、坑夫達に必要な食料や道具を販売する商店が少しある。
近くにいた坑夫の1人にドラゴンの居場所を聞くと快く教えてくれた。
何でも、ここから一番近い坑道を通って反対側に抜けて、そちらの山道から頂上付近へ登る途中のワイバーンの巣にいるらしい。
「そんな訳だから、さっさと飛んでいこう」
「飛んでいこうって…………まぁ、良いわ。登るのも大変そうだし」
「ヨルハちゃんもだいぶロイ君側になってきたよね」
「今までの事を考えたら空を飛ぶくらいで驚かなくなるわよ……。クラウス殿下もそれで良い?」
「……あぁ」
「よし、じゃあ出発ー!」
ささっと全員に浮遊魔法を発動させて目的の場所に向かう。
何か下で声がするけど気にしない、気にしない。
何か横で「ほらやっぱりスカートにしなくて良かったでしょ?」とか聞こえたけど気にしない、気にしない。
向かってる最中に何かがこちらに飛んできたけど気にしない、気にしない。
「いや、気にしなさいよ!」
さて、目的地が見えてきたところで同時にドラゴンも目に入った。
うん、純白も純白。
白過ぎて鱗が分かりにくく白のテクスチャを塗りたくっているのかってくらい。
因みにさっき飛んできたワイバーン達は死なない程度に撃ち落としました。
「うわぁ〜神々しいねぇ〜」
「綺麗過ぎて寧ろ怖いくらいね……」
「あれが古代種のドラゴンか…………」
三者三様の感想を口にしていた。
流石にクラウスも口を開かずにはいられなかったみたいだ。
「ん〜?」
「どうしたの?」
「あのドラゴン、こっちには確実に気が付いている筈なんだけど寝たまんまだよね」
「人間なんて矮小な存在、相手にもならないって事かしら?」
『本来ならそうであろうな』
「何だ?今の声は?」
重厚感のある声が頭に直接響く。
この感覚は精霊王と話す時に似ている。
『ほう?少々珍しいと思っていたが、よもやあやつと縁を結ぶ者か……』
そんな声と共に今まで眠っていたドラゴンが目を開け、起き上がる。
僕以外の3人はその反応に身構えるが、敵意は感じないので大丈夫だと伝える。
『流石に使徒となれば肝が座っておるな。危害を加えるつもりは無い。此方に来ると良い』
「じゃあ遠慮無く」
「お、おい!ロイ!?」
「大丈夫大丈夫」
ドラゴンに言われるがまま、その目の前の地面に降り立つ。
『…………お主は危害を加えるつもりは無いと言った我を直ぐに信用したのか?』
「え?だって本当の事ですよね?」
『そうだが……』
「ほら、あんたの変態具合にドラゴンですら呆れてるじゃない」
だって、えぇ〜…………。
良いって言ったのあっちじゃん。
『……まぁ良い。精霊王の使徒と見定められた人間よ、名は何と言う?』
「ロレミュリア=ガストンブルクです。気軽にロイって呼んで下さい」
『ロイか、覚えておこう。他の3人はお主の従者か?』
「違いますよ?クラスメイト……じゃなくて今は生徒か。まぁ、仲間です。こっちはガザニア帝国の皇子クラウス=フォン=ガザニア。2人はヨルハとオースタスです」
『クラウスにヨルハにオースタスだな、心得た。して此度は何用だ?』
「話をしにきました」
『ほう?話とな?』
元々このドラゴンという存在から放たれている重圧は中々のものだけど、更にその重圧が増したように感じる。
後ろの3人は僕以上に強く感じているみたいで少し苦しそうだ。
「皆が貴方のプレッシャーで辛そうなので少し弱めてもらえませんか?」
『話の内容次第だ』
「危害を加えるつもりは無いのでは?」
『この程度、ドラゴンである我にとっては戯れにもならん。人間が弱過ぎるだけだ』
「あ、そうですか。じゃあ…………」
ドラゴンが高位の存在なのは分かってはいる。
その中でも古代種であれば尚更。
僕達を試しているのか知らないけど、そういった対応ならばこっちにも考えがある。
僕は抑えている魔力を徐々に解き放ち、ドラゴンの重圧から皆を守り、更に押し返す。
相手はそれに対抗する様に力を加えてくるが、関係無い。
力で来るなら相応の力で返すだけだ。
『ぐっ……』
「どうしたんですか?僕が抑えていたものを解放していってるだけなんですけど。ドラゴンって虚弱体質なんですか?」
今で大体6割程度。
更に7割……8割と魔力を解放していく。
『……もう良い。お主の力は分かった』
「もう良い?言葉が違うでしょう?」
『…………済まなかった』
「許してあげましょう」
僕はまた魔力を抑える。
苦痛に歪んでいたドラゴンが安堵の表情を浮かべる。
まぁあくまでそう感じただけで、実際の表情の変化は皆無だったけども。
「僕は話をしに来たって言ったでしょう?何が気に障ったんですか?」
『人間が言う言葉は「鱗を寄越せ」だの「この場を去れ」だの自分勝手な事ばかりであるからな』
「それは人間が悪いです、ごめんなさい」
『そこは素直に謝罪するのか』
「その点に関しては全面的に人間が悪いですから」
悪いなら謝るのは当たり前でしょ?
『それで?話とは?』
「色々聞きたいんですよ。何でここに来たのかとか」
『元の寝床に帰ってきただけだが?』
「おぉう……シンプルな理由だった」
『我等からすれば後から生まれた人間共が勝手に国を造り、大地の権利を主張しているに過ぎん。本来世界は誰の物でも無いのにだ』
「ほんと、それはそう」
『元々住んでいた場を奪われ「今日から自分の物だ。勝手に入るな!」と主張されれば怒るのも当然であろう?』
「じゃあ飛竜の寝床って元を正せば貴方の寝床だったんですか?」
『然り』
「じゃあ何でいなかったんですか?」
『人間も我が家を離れる事もあるだろう?』
「何百年も?」
『もうそんなに経っていたのか。我からすれば少し空を飛んでいただけなのだが』
うん、分かった。
今回の件は人間とドラゴンの寿命の違いからくる時間感覚のズレが原因の一つだ。
ドラゴンからすれば数百年は一瞬なんだろうけど、人からすれば何世代か交代するし。
「つまりただの帰宅……と?」
『だからそう言っているであろう?』
「はい、そうですね…………」
どうしようかと思い、後ろを振り返るも3人共首を振る。
此方に話を振るなって事ね、了解。
「貴方からすれば僕達人間に何か思うところは無いのですか?」
『コソコソと見に来るのは鬱陶しいが、特にその程度であれば問題無い』
「討伐しようとする人達もいますが?」
『その時は殺さぬ程度に追い返している。弱者を虐める趣味は無い』
「さっきの件については?」
『…………すまぬ』
話を聞く限りドラゴンには問題無いみたいだ。
後はドラゴンの帰宅によって起こっている問題をどうするか。
ところで付いてきた3人よ、本当に来た意味無くない?
ドラゴンに説教かます人間がここに1名。




