危険性は出来るだけ排除するべきだよね
資料を3人に渡した僕は説明を始めた。
「先ず、現在の試験内容である学科・実技(魔法)or実技(武器・格闘術)の3つの内、格差のある実技二つを統合すれば良いと考えました」
実技(魔法)は的に自分の得意とする魔法を放ち、その的の損傷率や連射速度、詠唱時間を測るもの。
実技(武器・格闘術)は教師数名が実際に立ち会い、その実力を測るもの。
先に挙げたバリーやオズは後者を選択しているが、そもそもの配点が低いので、幾らそこで高得点を出しても実技(魔法)を選んだ者より最高得点が下がる。
更に言えば、前者は同一の動かない的に攻撃をし、損傷率や発射速度・詠唱時間などの明確な基準があるのに、後者は対人という事もあって担当教師やその担当それぞれの判断基準による……と基準が曖昧な事も問題だ。
それこそが身体強化魔法を使う魔法師の順位が上がらない原因だと思う。
だからこそ試験内容の変更を提案した。
「確かに、そこだけ見ればそれが正しいね。でも、統合した実技の科目はどうするんだ?先程言ったように危険な事は承認出来ないぞ?」
「はい、そこも考えてあります」
僕は渡した資料のあるページを開くよう促した。
そのページに目を通した3人……特に賢者と呼ばれる学園長は大きく目を見開く。
「ロイ……これは……実現可能なのか…………?」
「可能です。念の為、お渡しした資料の中に論文の一部を抜粋して記載しています」
「あらあら……。ロイ君、これはまたとんでもないものを開発しちゃったわねぇ…………」
学園長があまりの驚きにいつもの呼び方に戻ってしまっていた。
「残念ながらまだ刻印術式にまでは至っていませんが、今回僕が試験内容変更に対応する為に開発した〈魔法対応ゴーレム生成〉の魔法を使えば実技の統合は可能と考えています」
僕が開発したのはゴーレムの生成魔法。
既に地属性の魔法を扱う者がゴーレムを造り出す魔法は存在している。
しかし、その魔法で造られたゴーレムは「仲間を守れ」「敵と戦え」等の単純な命令を聞くだけであり、攻撃方法は物理攻撃のみ、物理攻撃には強いが魔法には滅法弱い。
本来そんなゴーレム生成だが、僕はそこに目を付けこの1週間改良に改良を重ねた。
「まず従来どおりゴーレムの元となる魔石を核として生成、更に後付けで属性魔力を込めた魔石を数種類埋め込む。そうする事で様々な魔法に対する抵抗力を付けられるので防御面は改善されます。勿論、各属性の反発問題も解決済みです」
反発問題に関しては難し過ぎてここで説明すると話が逸れるので割愛。
「だが、攻撃方法はどうする?属性を付与したゴーレムは実際に存在するが、物理攻撃に属性を付与する程度しか出来ないぞ?」
「そうなんです。そこで次のページに記載してある、魔石に刻印術式を施します」
「魔石への……刻印術式…………?」
ここが一番悩んだ所だった。
野良のゴーレム(がいるのも凄いけど)は場所によって属性を纏って性質を変化させる事がある。
しかしどの個体も炎を纏った拳による突き、氷塊に変えた脚による踏み付け程度。
魔法を使うゴーレムは存在せず、歴史上誰一人造り出す事は叶わなかった。
でも、刻印術式を使えばそれを解決出来ると分かった。
魔石に刻印……と言うと物理的に削る様に思えるがそれは違う。
実際そう言った研究もされているみたいたけど、未だに成果は上がっていない。
理由は単純。
魔石とは魔力が籠もった石なのだが、大切なのはその石そのものでは無く、籠められた魔力だから。
幾ら周りに刻んでも内にある魔力と合わなければ意味が無く、その魔力を正確に読み取って魔力そのものに刻み込む、つまり刻印を施す事こそに意味がある。
それに関して刻印術式はうってつけだった。
魔石の質によって刻める刻印は限られるがそれでも魔法発動出来るか否かでは大きな差があるのは確か。
正に革新的な魔法が開発された……と言うよりもした。
「これであれば、一度魔石に刻印術式を施しておけば後はそれを埋め込むだけなのでそれ程コストは掛かりません。必要な魔石の質は簡単な攻撃魔法程度であればそこら辺で取れる物で構いませんし、元々殺傷能力を持たせるつもりは無いのでむしろそれが好ましいと言えます」
「だが、逆に言えば…………」
「考えている通りです。質の良い魔石に複数の強力な魔法を刻印して、それを大量に用意すれば―――」
「死を恐れない使い捨ての兵士が無尽蔵に造れるって事ね…………」
二人の言うとおり、この魔法は危険でもある。
だからこそ刻印術式を使ったんだけどね。
「それなんですが、ぶっちゃけそう便利でも無いんですよ」
「……と言うと?」
「完璧な刻印術式、しかもより高度なものを創り、刻める人ってこの国にどれくらいいると思います?」
「…………そうか!」
「ん?どういう事かしら?」
学園長はどうやら答えに辿り着いたみたいだけど、母上は分かってない様子。
ナーベラ学年主任に至っては無言を貫いている。
「ぶっちゃけた話、無機物に刻印術式を施すなんて、現状僕にしか出来ないんです。強いて言えば父上とルシア様がどうにか……ですかね?」
「あぁ、私でも今はまだ難しいだろう。魔石と一括りにすれば簡単だが、魔石一つ一つの籠められた魔力の質を正確に読み取らなければならないからね」
本当はこのまま行けばそう遠くない未来、クラウスとヨルハ辺りなら出来るようになりそうだけどわざわざ言う必要無いと思う。
あの二人なら心配無いだろうし。
そうして、学園創設以来初の試験内容見直しの話し合いは日が暮れる迄続いた。
面談をしてない先生方、ごめんなさい。
と、心の中で思いながら…………。
矛盾点がありそうな気もしますが、多分大丈夫な筈……。




