種明かしって難しいよね
ロイ視点に戻ります。
目を丸くしているジン先生と、普段笑わないのに少し楽しそうにしているキリエ、頭にはてなマークが浮かんでいる皆に対して僕はさっきの2回の攻防の種明かしを始めた。
「種明かし……と言ってもそんなに大層な種は無いんだよね、実は」
と前置きを置いて説明する。
先ず1回目の攻防。
僕は左ジャブを一直線にジン先生の顔面目掛けて放った。
その時、一瞬左手にジン先生が意識を持っていかれているので、その隙に空いてる右手へと刻印術式で《不可視の衣》を纏わせる。
そうする事で、ジン先生からすれば「左手に注目していた間に右手を見失った」状態になる。
その隙に喉元に右ストレートを軽く触れさせた。
2回目も同様。
違うのは左フックを放ったと同時に右に魔法を纏わせて、左を放ったのとほぼ同時に右アッパーを繰り出した。
先生がスウェーすると読んでアッパーと言うよりスマッシュ気味に出すつもりだったけど、ダッキングしたので途中で顎にぶつかってしまった。
予想外の事はあったけど、やはり左に意識を割かせて右への警戒を無くしたところに魔法を掛けたのは同じだ。
「ってのが、さっきのやり取りだよ」
「何をしたかは……分かった……。でも……いつの間に……《不可視の衣》の刻印術式を……創った……?」
「え?これを教えようと思った時だよ?」
皆から呆れの籠もった視線が僕に送られる。
え?なんか変な事した?
「お前が天才なのはつくづく分かったよ。でも、俺を騙せるなんて相当な早さと正確性で発動しないといけないよな?魔法陣なんて見えなかったぞ?」
「それがこの魔法の有用性ですよ。正確に、素早く発動出来れば相手の裏をかける。戦闘中には使えないとか言われてますけど、逆に激しい攻防の最中こそ、自分も相手も全てを読み取って感じ取れる訳では無いし、ほんの一瞬意識の外に外せれば、それだけで致命の一撃を入れる事が出来ます」
「成る程な…………。確かに、俺はお前と両手の動きに細心の注意を払っていた。だが、左手を捌くとなれば、右手への意識は若干だが薄れる。その隙に《不可視の衣》を使って更にその意識の外へ持っていかれた訳か…………」
「そのとおりです。そして、これの良いところはもう1つあるんですよ」
「ん?なんだ、それは?」
「キリエと……クラウス、ヨルハ・オズは気が付いていそうだね。あと近接戦闘が得意なバリーも何となく感じたかな?」
クラスの半分がそれに気が付いた。
それだけで充分に優秀だ。
だってこの魔法の有用性に気が付いて無い人の方がこの国はおろか、世界中で多いんだから。
「うん……分かる……。周りから見ても……何をしてるか……分からない……」
「あぁ、そうだな。俺達から見たらジン先生がわざと避けなかったり、自分から当たりに行った様にしか見えない」
「そうだよね。だからこそ、ロイ君が何をしたのか一切分からなかった。実際に受けた相手は何も分からないまま意識を刈り取られてしまうし、周りで見てても対策が何一つ思い浮かばない……」
「私みたいに中・遠距離から魔法で吹っ飛ばせば良いんでしょうけど、それを掻い潜られた時に使われたら吹っ飛ぶのは自分でしょうね」
「オレみたいに接近戦を得意とする者からすれば狐に化かされた気分になりそうだ!」
5人がそれぞれの感想を話していく。
だが、誰一人対策は出来ていないのもまた事実だった。
他の5人が付いていけている心配だったけど、今の話を聞いて納得してくれている。
「因みに、対策自体は幾つかあるし、簡単だよ」
「そう……なの……?」
またもやキリエが反応した。
と言うか、今日はキリエがめっちゃ喋る。
まぁ、キリエ用だからかもしれないけど。
「うん。一つ目はヨルハが言ったみたいになるべく離れた位置で戦って、そもそも使わせない様にする事だね。ただ、使う魔法によっては視界が遮られるからそこは注意した方が良いけど」
火属性で爆炎や砂煙を起こしたり、地属性で地形を分からなくされれば、見失う事になるので逆に有効活用されてしまう。
「次は特に近接組には覚えていてほしいんだけど、目に頼らない事だね」
「ちょっと待て。俺も目で見ずに全体を視て、起こりを感じて動いたぞ?それでも裏をかかれたが?」
「ジン先生の場合は相手の動きとその起こりを。ですよね?動きの起こりでは無く、魔法の起こりを感じなきゃいけないんですよ」
刻印術式が幾ら素早く正確に発動出来たとしても、所詮は魔法。
魔法の発動時には魔力の揺らぎが必ず起こるので、それを魔力探知で見過ごさなければ良い。
「まぁ、発動したと勘違いさせて別の魔法を……って選択も出来るからそこは騙し合いだね」
揺らぎを感じてもそれが《不可視の衣》とは限らないからね。
「でも、それがあるか無いだけでも相手に後手を無理矢理押し付けられるから強みになる筈だよ…………って対策の話してたのに強みの話になっちゃったね。まぁどの魔法でも関わらず、直ぐに感知して、対応出来る様に心掛けておけば良いって事だね」
「それが出来たら苦労しねぇよ…………」
隣のジン先生がそうボヤいた。
確かにそうなんだけどね。
「ここ迄で《不可視の衣》の有用性は伝わったかな?」
「うん……よく分かった……。使えない……なんて事……全然無い……」
「とりあえず術式は…………っと。はい、これが刻印術式。先ずは紙に書いていて覚えた後、魔力で空中に書いて、間違わない様になったら、それを何度も取り込んで覚え込ませてね」
「うん……頑張る……」
胸の前で小さくガッツポーズをして、いつもと違い目が燃えている。
勿論物理的にじゃないよ?
周りを見てもそれぞれが強い決意を抱いているのが分かった。
こうなると後は分かっている。
どうせ残りの皆の分も一通り刻印術式創らされるんですよね、はい。
そんな訳で、今日の残り時間はまだ渡した事の無い皆に話を聞き、それぞれに合う刻印術式を創ってプレゼントする事になった。
毎回説明をしていたので、一日たっぷり時間を掛けながら…………。




