やらかす奴はとことんやらかすよね
視点切り替えトレ(第三者視点)→ロイ視点
で、お送り致します。
精霊騎士を葬った者の言葉は更に続いた。
『…………とは言っても流石に無抵抗の方々を手に掛けるのは帝国としても気が引けます。これより少しの時間を設けますので、戦う意思の無い人は速やかにここから退避して下さい。時間になってもこの場に残った者は戦う意思があると判断し、即座に殲滅します』
負けを認めるか死か。
究極の二択を迫られるラリノア聖教国軍。
既に戦意を喪失した者達は我先に逃げ出し始める。
「お前等!勝手に戦場から逃げるな!精霊王様の意向に反するのと同義だぞ!」
逃げようとする兵達にトレ枢機卿が怒号を浴びせるが、命より大切なものがあるかとそれを無視して走り去っていく。
「くっ……この軟弱者共が……」
大精霊の名を出しても逃亡を辞めようとしない兵達に悪態を吐きながら、どうにかしなければとまた頭を回転させる。
『ま、待ちたまえ!我々は友誼を結ぼうと―――』
『黙れ』
「っ!?」
トレが口を開いた途端、それを遮る言葉と先程精霊騎士を殲滅した時と同じ魔法陣が空へと展開される。
それを見たトレは口を噤む他無かった。
『そんな言い訳を今更聞き入れると思っているんですか?貴方達は正式に我々に宣戦布告し、攻撃を仕掛けてきました。更には高尚な精霊騎士達を無理矢理召喚し、さも自分の隷属かの様に扱った。それこそ精霊王に背く行為だと分からないんですか?』
『儂が精霊王様の意に背くだと!?馬鹿を言うな!』
『『精霊とは呼び出すものに非ず。精霊とは彼等の意思で自ら人に寄り添うもの也』。そんな事も分からないのに、ですか?』
『儂は、儂は!ラリノア聖教国教皇猊下に仕える枢機卿、トレ枢機卿だ!儂の意思は精霊王の意志と同義だと何故分からん』
『何故貴方の意志が精霊王の意志になるんですか……。もう無駄ですね。とりあえず、さっきも言ったとおり、この場に残るならその命、無いものと考えておいて下さい。では、また後程』
叫ぶトレ枢機卿に分かりやすく大きな溜息を吐いたロレミュリアはもう話す事は無い。と言いたい事を伝えて、その後に何を言おうとも返答は無くなった。
「あの青二才がぁ!巫山戯るな!儂はトレ枢機卿だぞ!そんな儂に…………。使いたくなかったが、やむを得ん。この場に残るのも国に帰っても結末は変わらん。ならば、ここにいる全ての者達を道連れにしてくれるわっ!」
倒れている者達を足蹴にしながら、魔法陣の中央、磔にされたままのユウジの下へ向かうトレ枢機卿。
その口元は三日月の様に吊り上がり、瞳の色は酷く濁りきっていた。
―――――――――――――――――――――――――――
『何勝手に決めているんだ!このバカタレがぁ!』
『す、すみません……』
『まぁまぁ、良いじゃない。ロイのお陰で最悪の事態は免れた訳だし?私達は何もせずに立っていただけなのだから、少しくらい彼に決定権を与えても誰も文句は言わないわ。……貴方以外は』
『俺もロイの言った事に異論は無い!だが、相談も許可も無く全て勝手に決めた事に対して文句を言っているんだ!』
『結局文句言ってるじゃないの…………』
はい、意思伝達の魔法を使って盛大に怒られました。
頭の中に直接声が響くので、まるで耳元で大声で怒鳴られている以上に辛い…………。
まぁ確かに全部勝手に決めちゃったし、甘んじて受け入れよう。
そんな事を考えていたら、ふと不穏な気配を感じて魔法陣を見る。
『とりあえず、もう言っちゃったんだから、ロイの言うとおり少し待ちま…………あら?どうしたの?』
『ん?どうかしたか?』
ルシアお姉ちゃんは言い切る前に 僕を見て、同じ方向に視線を向けた。
シリウス師匠は遠視の魔法を使っていないのか何も見えていないらしい。
『あれ、トレ枢機卿とやらよね?一度発動した魔法陣に魔力を注いでも何の意味も―――』
『総員!警戒して下さい!』
『おいおい、いきなり大声出すなよ。一体どうしたんだ?』
『さっきよりも拙い……気がします。早く、あいつを殺さなきゃ!』
『ちょっと!ロイっ!』
シリウス師匠の問いや、ルシアお姉ちゃんの静止を無視して最速で発動出来る雷魔法を付与した石の弾丸(簡易《電磁砲》)で撃ち出す。
完璧に捉えたと思ったその魔法はトレ枢機卿に当たる直前で弾けた。
(くそっ!間に合わなかった!)
僕の魔法が弾けた直後、トレ枢機卿とその隣で磔にされている勇者ユウジ、そして召喚魔法陣から悍ましい魔力が溢れ出し、魔法陣の近くにいる人間を呑み込んで行いく。
『今度は何よっ!?あの魔力量、洒落にならないわよ!』
『全く、次から次へと……。聖教国の枢機卿ってのはあんな馬鹿しかいないのかよ?』
精霊騎士を召喚した時とは真逆の黒い魔力。
先程から彼等と魔法陣に向けて魔法を放つが、そのどれも効果が無い。
(何か分からない……。けど、何か恐ろしいものが来る……)
溢れ出す黒い魔力が徐々に形を成していく。
幾人の命を取り込んだであろうソレは人とも獣ともとれない、正に異形と呼ぶに相応しい姿となって、この世界に権限した。
第2ラウンドスタートです!
騎士団長「怒ってはいない!ただ叱っただけだ!」
魔法師団長「つまりは嫉妬でしょう?」
シリウスはロイに良い所を取られて嫉妬していただけでした。
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【ずんぐりむっくり転移者は異世界で図太く生きる〜イケメンじゃなくても異世界で生き残れますよね?】
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