やるなら徹底的にやらないといけないよね
今回、視点の切り替えがあります。
「それくらい文章力で伝えろよ!」と思われるかもしれませんが、作者の力不足で伝わらず、分かりにくくならない様に予めお伝えしておきます。
因みにロイ視点→ルシア(第三者視点)→トレ(第三者視点)と変わります。
僕が準備を始めて少し経った頃、魔法陣は既に万全に近い状態に魔力が行き渡っていた。
それを確認したルシアお姉ちゃんの指示だろう、前衛の騎士団達は街の近くまで退避、魔法師団はいつでも障壁を張れる様に準備に入っていた。
とうとう魔法陣の魔力が飽和し、眩い光を放つ。
あまりの眩しさに目を閉じかけるが何とか堪え、何が現れるかを見届ける。
魔法陣の光が収まると、そこには―――
「最悪だ…………」
僕は思わず呟いた。
僕の視線の先、巨大な魔法陣の上には純白の鎧を纏った騎士の姿。
更に少し視線を上げると、同じ姿で一対の翼を持つ騎士達。
その数、十万は下らないだろう。
絶望的な戦力が突如現れた事に、こちらの士気が一気にドン底に叩き付けられたのが僕にも分かった。
勝ちを確信したのか、トレ枢機卿の声が戦場に響いた。
『無駄な時間稼ぎご苦労だった。彼等は精霊王様を守る騎士達。精霊騎士団だ。精霊王様の使徒である儂等を守るべく召喚に応じてくれたのだ。これでお前達みたいな浅はかな者でも分かるだろう。精霊王様は我等に味方しているとな!』
下品な笑い声が戦場に木霊する。
せめてもの抵抗とばかりにシリウス師匠は精霊騎士達に呼びかける。
『精霊騎士の諸君!我々は精霊王を害するつもりは毛頭無い!我々が戦うべきは大精霊の使徒の名を騙るラリノア聖教国の者達だけだ。矛を収めてはくれないか!?』
そう語りかけるも、精霊騎士達に反応は無い。
『馬鹿が!精霊騎士達は我等の味方だ。これから先は戦いでは無い!蹂躙だ!自分の国が滅びるのを地獄の底で眺めておれ!行け、精霊騎士達よ!』
トレ枢機卿の言葉を皮切りに、精霊騎士達十万が一斉にこちらへ進軍を開始する。
それを合図として、僕も魔法を発動させる。
「《刻印魔術起動》」
僕の発した言葉と共に、街の防壁の遥か上空に巨大な魔法陣が現れる。
「《多重起動》《多重展開》」
その魔法陣が更に増え、それぞれが膨大な魔力を放ち始めた。
「《収束》」
無数の巨大魔法陣は姿を消し、僕の目の前に拳程の大きさで再度現れる。
「ごめんね、高尚なる精霊の騎士達。静かに眠れ。《電磁連撃砲》」
刻印術式に詠唱術式の言霊を乗せて発動したそれは、その小さな魔法陣からは想像出来ない威力と数の魔法を放つ。
以前、父上と母上との模擬戦に使用した《極電磁大砲》は自分の一直線上に存在する全てを、有無を言わせず一撃で消し飛ばす極大魔法。
主に超大型魔獣や攻城戦で使う想定をしていた。
しかし、今回は大多数を殲滅する超広範囲殲滅魔法だ。
一発一発の威力は《極電磁大砲》に比べると対した事は無いが、精霊騎士を消滅するには充分な威力。
それを十万の敵を全て殲滅する為に放つ。
物理攻撃が通用しないであろう彼等を消滅させる雷属性の単一魔法だが、効果は抜群らしい。
頭や胸に着弾したと同時に強烈な雷撃を周囲に撒き散らし、当たった対象諸共周りの精霊騎士達も消し飛ばす。
第一射を放ってから五分、予想より早く、注ぎ込んだ魔力の六割を使った頃には、僕達とラリノア聖教国の間にあった草花で埋め尽くされた平原は荒野の様に荒れ果てていた。
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「あれは……あんな魔法……存在して良いの…………?」
ロレミュリアが放った魔法の光で埋め尽くされた視界とそれが消え、文字通り塵一つ残らない平原を目の当たりにした宮廷魔法師団長ルシアは呆然としていた。
驕りでも何でも無く、彼女は魔導姫の子孫として歴代でも上位の実力を持っている。
しかし、そんな彼女を以ってしても理解の範疇を超えた魔法だった。
本来、賢者と呼ばれた者の末裔は良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏(貧乏と呼ぶには疑問が残るが)。
攻撃魔法は魔導姫、補助・回復魔法は聖女の末裔に及ばない筈だ。
しかし、あれは何だ?
自分よりも明らかに高威力且つ効率的な殲滅魔法、更に一発足りとも外す事が無い正確性。
そして根底に込められた圧倒的殺意。
どれを取っても自分では遠く及ばない。
精霊騎士が現れる前に彼が言っていた
『僕以外には出来ませんから』
という言葉。
それをまざまざと見せ付けられた。
彼の言うとおり、自分もそれ以外の誰もあんな芸当は不可能だ。
それを簡単とは言えずとも成し遂げたまだ幼さの残る少年。
興味・関心・尊敬。
其れ等を遥かに超え、全ての感情を覆い尽くす程の畏怖の念がルシアの全身を蝕んでいた。
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「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な―――」
相手の虚を突く為の開戦ギリギリの登場。
異世界より召喚した勇者という駒を用いた大規模召喚魔法。
それによって召喚された十万に及ぶ大精霊を守護する精霊騎士の軍勢。
その全てをたった一人によって全て無に帰された。
目の前で起こったにも関わらず、とても信じられる事では無かった。
「拙い……、これではウーノやドゥーレに何を言われるか……。帝国にあの様な者がおるなど想定外だ……」
トレの名を授かった枢機卿の男は頭を抱えていた。
圧倒的有利な状況を瞬く間に覆され、このまま敗北して母国に戻れば彼の地位が失墜するのは明白。
ここから挽回する手が無い訳では無い。
だが、それを使うのはまだ憚られた。
彼は決して頭が悪い訳では無い。
必死に頭をフル回転させ、拡声魔法を発動し、舌戦に持ち込む事にした。
『見事、実に見事だ!帝国諸兄には誠に感服した。精霊王様に与えられた試練を見事乗り越えてみせた。それでこそ我がラリノア聖教国と手を取り合える友と呼ぶに相応しいだろう!』
彼の口から咄嗟に出たのは友誼の宣言。
先程も言ったとおり、彼は決して頭が悪い訳では無い。
だが、致命的な欠点を上げるとすれば、その傲慢さ。
あくまでラリノア聖教国が上、トレ枢機卿の名を冠する自分がこの場で一番上。
それを前提に話を進めればどうなるか、考えずとも分かる筈の事だが、それを彼はその傲慢さ故、理解していなかった。
本人的には最大限の譲歩をしたつもりだが、それは火に油を注ぐ事と同義だった。
『さっき迄の威勢は何処に言ったんですか?誰が貴方達みたいな人を人とも思わない国と友誼を結ぶと?馬鹿も休み休み言って下さい。最初に貴方が言った言葉をそっくりそのままお返ししますね。『これから先は戦いでは無い!蹂躙だ!』』
開戦時に応答していた騎士団長の低く重い声と違い、若い声が戦場に響き渡る。
しかし、その声には目の前にいないにも関わらず、後退りしてしまう程の明確な殺意が込められていた。
あまりの重圧に腰を抜かしてその場にへたり込むトレ枢機卿。
周りにいた騎士や魔導士達も良くて戦意喪失、その重圧に耐えきれず意識を失う者もいた。
そんな状況の中、精霊騎士を全て葬った者の言葉は続いた―――。
ロイ、圧倒的強者ムーブ。
騎士団長「あれ?俺が代表としてして話していた筈なのにいつの間にか乗っ取られてねぇか?何か凄ぇ格好良い台詞言ってるし……」




