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超エリート貴族の長男は苦悩する〜転生したら主人公では無く、貴族の息子でした〜  作者: まっしゅ@


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29/70

包容力で包まれる(物理)って癒やされるよね

 【ご報告】

 先日、2024/5/18に〜流星を放つ鷹【鷹の眼の射手】が完結致しました。

 最終話の後書きにも書きましたが、皆様の応援のお陰です。

 まだ読んだ事無い方は是非そちらも宜しくお願い致します。

「どうぞ〜……ってあらまぁ。酷い顔ねぇ……。とりあえずここに座りなさい」


 僕がお邪魔しているのはルシアお姉ちゃんの部屋だ。

 何故ここに足を運んだのかは自分でも分かっていない。


 促されるままにソファに腰掛けて、飲み物を用意してくれてるルシアお姉ちゃんの後ろ姿を眺めている。

 普段の装いと打って変わって、シンプルな黒のワンピースを着ているのはなんか不思議だ。

 勿論、一部主張が激しい部分は隠しきれていないが……。


 紅茶を乗せたトレイをテーブルに置き、僕の隣に腰掛け、上品な所作でティーカップに口を付けている。

 不意に目が合ってしまい、気恥かしくなった僕は慌てて紅茶を口にする。


「……美味しい」

「ふふっ。そうでしょう?私が選び抜いた一品だもの。美味しくないなんて言ったら承知しないわよ?」

「そんな事言いませんよ」

「それで?そんな顔をしている理由……。教えてくれるんでしょう?」


 ルシアお姉ちゃんは柔らかな笑みを崩さないながらも、真剣な声色で僕に問い掛けてくる。


「はい……。その上手く言えないんですけど…………」

「戦いが怖い?いえ、違うわね。人を殺めるのが怖いね?」

「…………はい」


 心の中を見透かされた様に核心を突かれた。


「しょうがないわよ。ロイ君はまだ15歳、本来なら学園でしっかり勉強して、卒業して騎士団…………ロイ君の場合は魔法師団かしら?そこに配属されて初めて実践を経験する。勿論、戦争なんて大層なものでは無くて、盗賊団の討伐とかね。でも、そんな諸々を飛び越えていきなり国と国との戦争。そうなるのも当たり前よ」

「…………」


 しょうがない。当たり前。

 僕自身、そう思う部分もある。


「ただ、私からすればそんなの綺麗事よ」

「え……?」

「人間だから殺すのが怖い?じゃあ他の動物や魔物は殺しても良いの?食べても罪悪感が無いの?同じ命なのに」


 確かにそうだ。

 前世でも一部の人達が同じ様な事を言っていた。


『同じ命なのにそれらを殺すのは罪では無いのか?』


 と。


「分かるわよ?食べる為に、命が危ないから生きる為に魔物や動物を殺すのはしょうがない。大体の人がそう思ってる。じゃあ今回の戦争は何の為?自分が生きる為、自分の周りの人達が生きる為、生きていくのに必要な国を守る為。そうよね?」

「……はい」

「だったら躊躇する必要無いわ。相手は魔物と同じ様に排除の対象よ」

「でも…………」

「自分と同じ人だから?同じ様に二足歩行で生きていて、同じ様に家族がいて、同じ様に友人がいるから?」

「はい……」

「でもそんなの魔物も同じよ。二足歩行の者もいるし、家族もいるし、友人……意識があるのか分からないけどいるかもしれないわ。人と同じ様に……ね」

「そう…………ですよね。分かっている……いや、分かっていたつもりだったんです。でもいざ……」


 ルシアお姉ちゃんの言う事は正論も正論。

 人だろうが魔物とだろうが動物だろうが同じ命を持ち、生活があり、家族がいる個体もいる。

 それなのに人だけ特別扱いするのは甚だおかしい。

 前世でも今でも理解はしていた。

 でも、受け入れきれないのは僕の心の弱さだろうか?


「別に心が強いとか弱いとか関係無いわ。誰だって同じ道を通るもの。私も他の団員も……あのシリウスだってそうだったわ」

「シリウス師匠が……ですか?」

「えぇ。騎士団員として意気揚々と盗賊の討伐に向かって、初めて人を手に掛けた後、『人の命……いや、生き物の命を奪うのはこんなに辛いのか……』って何日も苦しんでいたわ」


 あの『正義の為なら誰であれ斬る!』みたいなシリウス師匠にもそんな時代があったなんて…………。


 僕は勘違いしていたのか。

 シリウス師匠やルシアお姉ちゃん、それに父上も最初から強い人だと思っていたけど、そうじゃない。

 そんな経験を数え切れない程乗り越えて、今の強さになったんだ。


「…………僕も、なれますか?そんな強い人間に」

「そうね。人を殺せるのが強い人間と呼ぶならば、簡単よ。沢山沢山命を奪って、心を麻痺させれば良いもの。でも違うんでしょ?」

「はい。『人を殺める』事を目的では無く、手段の一つとして受け入れられる、そんな強さを…………」

「そんな事を選ばない様にするのが何よりなんだけどね。でも、なれるわ。ロイ君、貴方なら必ず」


 殺す為に戦うのでは無い。

 守る為に戦い、その上で殺す事を選べる。


 同じ様に見えて全く違う、命を奪う選択。


 これからロレミュリアとして、公爵家の跡取りとして、必ずその選択をしなければならない時が来る。

 そんな時に迷っていたら、自分の大切なものに被害が及ぶかもしれない。

 だから考えはするが、迷わず選べる心の強さを僕は手に入れたい。


「…………って、厳しい事を言い過ぎたわね」

「いえ……。ルシアお姉ちゃんは間違った事を言ってませんから」

「確かに間違っていないつもりよ。ただ、正しいだけが正解じゃないわ」

「えっ……と…………」

「今はまだ分からなくて良いの。悩みなさい。悩んで悩んで悩んで悩んで、悩み抜いて…………。自分なりの結論を見付けなさい。考える事を辞めるのが一番駄目よ」

「昔からそう言い聞かされてきましたから。それだけは辞めないつもりですよ。でも出した結論が間違っていた時は…………」

「誰かが止めてくれるわ。あなたがこれからも……いえ、これからもっと素敵な男になっていればね?」

「はは……。これは頑張らないといけないですね…………」

「そうね。とりあえず今は…………」


 突如視界が傾き、柔らかい何かに顔が埋まる。


「る、ルシアお姉ちゃんっ!?」

「成人したとはいえ、私から見たらまだまだ子どもよ?こんな時くらい甘えて良いのよ」


 そんな甘い言葉に唆された僕は、オズに申し訳無く思いながらも、ルシアお姉ちゃんの心地良い凶器に顔を埋め、いつの間にか意識を手放してしまっていた。

 包容力(物理)は凶器!

 

 私も一度くらいたわわに顔を埋めてみたい人生だった!

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