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備えあれば憂いなしって言うよね

 あの違和感から5日、騎士団・魔法師団に加えて冒険者の人達にも依頼を出して、僕が感じた違和感の正体を探ってもらった。


 その結果、その正体を発見する事が出来たんだけど…………。


「あぁー!分からない!何だよ、これは!」


 違和感の正体は巨大な魔法陣だった。

 調査してくれた人達が言うにはその場に攻撃魔法を放ったり、実際に足を踏み入れたりしても発動しなかったので、設置型では無く、大規模型だと判明。

 無理を言ってその魔法陣を書き写してもらい、それの解読をしているが、現在絶賛難航中。


「やっぱり直接見たり調べたりしたいんだけどなぁ…………」


 そう、僕はその現地には行っていない。

 シリウス師匠やルシアお姉ちゃんに許可をもらえなかったのだ。

 何でも、『もしイーサンとミネアの息子に怪我を負わせたりしたら俺達の命が狙われる。主にミネアに』と言われてしまった。


 母上はそんな事…………うん、するな。

 陛下ですら切り刻むと言い放っていたので確実にやる。いや、殺る。


 戦争と一切関係無い別の脅威から二人の命を守る為に、書き写された魔法陣で我慢しているが、やはりそれだけだと情報が足りない。


「ったく、何なんだよこの魔法陣。書かれている文字も言語もバラバラだし、解読出来る部分も意味不明。何なら文字にすらなってない部分もある…………」


 聖教国の仕掛けたものなのか、そもそも昔から残されているものかするも分からない。

 本当に謎だらけだ。


「師匠は『杞憂で済んだのならそれで良い。我々が気付かない事は全部教えてくれ』と言われたけど、働いてくれた方々に申し訳無いなぁ…………」


 備えあれば憂いなしとは言うけど、過剰なのもいただけないよな、実際。


 完全に手詰まりとなった魔法陣の解読は一旦忘れて、外の空気を吸う為に部屋を出る。


 そんな廊下の曲がり角で出会ったのはラルフ副団長と、この女性は確か…………。


「やぁ、ロイ君。だいぶ疲れた顔をしているね?」

「お疲れ様です、ラルフ副団長。はい、全然解読出来なくて外の空気を吸いに行くところです」

「はは、それは大変だね。でもそんなに落ち込まなくても良いと思うよ。クーリのところでも何も分からないみたいだし」


 そうだ、彼女はクーリ。

 宮廷魔法師団の副団長で、ルシアお姉ちゃんの右腕と紹介してもらったっけ。

 見た目は僕よりも身長が低く、この世界では珍しい黒髪をストレートに下ろし、前髪で目も見えない。


「あれは無理。明らかに魔法陣として成り立っていない。もはや落書きに近い」

「でも、魔力の残滓はあるんでしょ?」

「そうだけど。あれに気付く彼は異常」


 はい、ビシッと指を刺されて異常と言われました。

 何だか話し方が少しキリエに似てるなぁ、主に容赦の無いところとか。


「偶然ですよ。では失礼します」

「あぁ。明後日の最終確認の会議、ロイ君なら大丈夫だと思うけど忘れないでね」

「勿論です。それともう一つ良いですか?今更ではありますけど、僕がそんな重要な会議に出席して良いんですか?」

「本当に今更だね。まぁそれに関しては団長の意向としか答えられないかな」

「うん。うちの団長の意向でもある」

「そうなんですか……、分かりました。今度こそ本当に失礼します」


 頭を下げてその場を後にする。

 二人の意向と言われたら仕方無いか……。


 魔法陣も二人の考えも、いくら考えても分からない様なので、早くリフレッシュしに行こう。と、僕は少し歩調を早めた。




 翌々日、開戦まで今日を含めて3日となった日、予定通り会議室に集まった各団長と副団長、その補佐数名と場違いな僕。

 そんな会議室には何とも言えない空気が流れていた。


「未だに敵軍は確認出来ず……か」

「はい。聖教国の聖都からここまでの何処にも戦争を行える様な人数の移動は発見出来ないそうです」

「その斥候に出ている子が裏切ったなんて事は無いのかしら?」

「それは可能性としては限り無く低いでしょう。騎士団に冒険者、商人等複数に調査させた結果の報告です」

「嘘を見破る魔道具も使った。それに私が直接調べたりしたから間違い無い」

「クーリがそう言うなら間違い無いわねぇ。あの便利な魔道具も使ってるのなら尚更……ね?」

「あはは…………」


 ルシアお姉ちゃんがチラリとこちらを見る。


 はい、その魔道具の作者は僕です。

 言った記憶が無いのにバレてますね、これ。


「ふむ……。だがまだ開戦までの時間はある。予定通り今日でここに集まるのは最後とし、終わり次第草原に陣を取る。だがもし、予定の日時になっても奴らが現れなかった場合、戦を放棄したと見做し、陣を解体後撤退の準備を始める」

「「「「「はっ」」」」」


 相手が現れなければ戦争はしない、そりゃそうだ。

 戦う相手がいないんだから。


 最後に細かい確認をした後に会議はお開きとなった。

 僕はルシアお姉ちゃん達と一緒に行動するので陣に向かうのは最後、開戦時の前日の夜になる。


 今日はもうやる事も無い。

 結局魔法陣も何に使うのか分からず、迷宮入りしてしまっている。


 与えられた部屋のベッドに倒れ込んで『()()ここまで来たのに……』と考えていたが―――。


「いや、おかしいでしょ。このままいけば戦争が無くなるんだから嬉しい筈なのに。人の命を……命を…………命…………」


 今の今まで何故気付かなかった?

 いつから戦争をする気満々になっていた?

 自らが命を奪い、奪われる事を考えて無かった?


 その事に気付いた時にはもう遅かった。

 体は震え、心は恐怖に染められている。


 人を殺したい程怒った事は最近もあった。

 実際に特殊練武室で人の手足、身体を吹き飛ばした事もあった。

 でも、実際に人を殺めた事は一度も無い。


 勿論、前世でもロレミュリアとしても。


 ついさっきまで戦いたいと思っていたのに。

 いや、違う。


 ()()()()()()と思っていただけだ。


 無理矢理命のやり取りを考えない様にしてきただけ。


 戦いが始まらない可能性に気が緩み、抑えていた感情が溢れ出してくる。




 怖い…………怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…………。




 恐怖に埋め尽くされた僕は、自分も知らぬ間にある人物の部屋を訪れていた。



 勇者(笑)ユウジとの戦いの時に『殺す』と言ってはいたけど、あれは実際死ぬ事は無いので、容赦無く出来たのに加えて、人を殺める恐怖よりもオズを守りたい一心が遥かに強かったので気にならなかった。


 ロイは転生者でもあるが、前世の常識よりも現在の常識を主として考えているので、盗賊等が殺されるのは仕方無いと割り切れてはいるが、実際に自分が手を下せるかは別。


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