男なら逆らえない本能ってあるよね
途中の街や村で馬を乗り継ぎながらひたすら駆け抜け、開戦の10日前にはリルク領にあるベリンの街へ辿り着いた。
オズの村までは馬車で2週間掛かるのを考えるとだいぶ早く着いたと思う。
お陰でお尻の耐久値が何回も底を突いてしまったけどね。
そんな不満を言っても仕方ないので、避難が既に始まっている街中を何とか進み、やっと見つけた騎士団に勅令書を見せて駐留所に案内してもらった。
そのまま仮説の本部らしき部屋に入ると、そこには父の友人でもある二人の見知った顔が並んでいる。
「おぉ、来たか、坊主。久々だな」
「あらぁ?もうボケたのかしら?ロイの入学式で会ったでしょう?」
「何だと!?」
「まぁまぁ、二人共…………」
キャラが濃いこの二人は宮廷魔法師団団長ルシア=ギャザリングと宮廷騎士団団長シリウス=ローランド。
魔動姫と剣聖の子孫であり、現当主だ。
まだ小さい頃、父の友人と言う事で、この二人に魔法や剣を教わったりもした師匠でもある。
「遅くなって申し訳ありません。ルシアさん、シリウス師匠」
「あらあらぁ。さんなんてそんな他人行儀な呼び方せずに昔みたいに『ルシアお姉ちゃん』って呼んで良いのよぉ?」
「あ……えっと……ルシア……お姉……ちゃん」
「よしよ〜し、良い子ねぇ」
ルシア……お姉ちゃんは綺麗な紫色の髪をボブに切り揃え、髪より少しは薄い紫色の瞳持つ。
そして、抜群なプロポーションを惜しげも無く見せ付ける様な露出の多い魔女服を着ており、その胸元からは母上にも劣らない豊かなアレが覗いている。
頭を撫でられる僕の目線の先は、揺れるアレがあり、目線が釘付けになってしまうのは仕方無いと思う、男の子だもん。
「はっ!お姉ちゃんって歳でもないだろう?それよりも、体鍛えてるか?坊主」
「はい、ボチボチです」
「ちゃんと鍛えないと強くなれねぇぞ!」
豪快に笑うシリウス師匠は無造作ながら短く整えられた青い髪と金色の瞳を持ち、父上と同じ様にイケメンだが、体格が全く違う。
鎧の下に鎧を着ているのでは?と錯覚する程に大きい体は勿論脂肪では無く筋肉の塊だ。
「団長、そろそろ…………」
「おぉ、すまんな。よし、じゃあ始めるとするか!」
この部屋に入ってからずっと空気みたいな存在だった人がシリウス師匠に声を掛け、作戦会議が始まった。
ここにいるって事は結構お偉いさんなのかな?
「さて諸君、ようやく役者も揃った。これからベリン防衛戦とラリノア聖教国軍迎撃戦に向けての会議を始める。……ラルフ」
「はい。ここからは団長に代わり、私副団長のラルフ=ルールーフが務めさせていただきます」
ラルフと呼ばれた男性は温和そうな笑みを浮かべシリウス師匠の代わりに話を始めた。
この街に派遣された宮廷騎士団は約二万。
同じく派遣された宮廷魔法師団が約一万。
それに加えてリルク領領主である辺境伯の騎士団約二万。
合計五万の騎士団でこの戦いに臨む。
辺境伯騎士団の任務はこの街の防衛が主となるので、実際に戦場で敵軍とぶつかるのは宮廷騎士団の三万となる。
本来、防衛戦となれば籠城戦をするべきだが、今回に関してはそれは行わない方針らしい。
この街は農業や畜産を主な産業としており、それには広い土地が必要となるので防壁の造りも低く、籠城戦に向いていない。
その為、無理に籠城するよりも打って出た方が人的被害も農作物や動物達への被害を抑えられると結論付けられた。
流れとしては、開戦と同時に魔法師団が一斉に魔法を放ち、敵軍を減らす。
その後、騎士団が直接戦闘で交戦をし、相手が撤退をするのであれば可能な限り追撃を行う流れだ。
僕としては、この街の騎士団も戦えよ。と思ってしまうが、もしもの時があるので仕方が無いみたい。
何だかなぁ…………。
何はともあれ、今回と戦いの概要については大体分かったんだけど…………。
「質問宜しいでしょうか?」
「君はロレミュリア君だったかな?良いよ、答えられる事なら何でも答えるよ」
「ありがとうございます。先程大まかな流れと布陣を説明していただきましたが、僕は何処に配属されるのでしょうか?」
「あぁ、それは―――」
「私達魔法師団と同じ後方よ」
ラルフ副団長に代わって答えてくれたのはルシアお姉ちゃん…………別に直接呼ばないで良いならルシアさんで良くない?良いよね!?
「駄目よぉ?」
あ、はい。
分かりましたから心を読むのやめてもらって良いですか?
「分かったわ」
だからやめてってば!
とりあえず、ルシアお姉ちゃんと同じ後方だと言うのが分かったので、お礼を言って引き続き話を聞く事にする。
「しかし不気味だな」
「不気味?」
「あぁ、そうだ。あと10日しか無いにも関わらず、聖教国に動きが無い。普通なら既に出兵している筈だ。まるで戦争なんぞする気が無い様だ」
「成る程。それで不気味なんですね……」
「だが必ず奴らは動く。それまで一切油断する事が無い様に、全兵に伝えろ」
「「「はっ!」」」
「では解散。各々準備に移れ。勿論、適度に休息も取りながらな」
シリウス師匠の一声で会議はお開きとなり、各自の仕事に戻った。
…………僕は何をすれば良いのかな?
とりあえず場所の確認だけでもしておいた方が良いかもしれない。
そう思った僕は戦場予定地が見渡せる場所に案内してもらう為に近場の騎士さんに声を掛けた。
そして何故かルシアお姉ちゃんと共にその場所に並んでいる。
「何でルシアお姉ちゃんが?」
「私、暇なのよ。訓練しても魔力を消費するだけだもの。だったら少しでも身体を休めて集中力を高めた方が効率が良いでしょう?」
「まぁそうですけど…………」
そんな事を呟きながら、防壁の上から見渡した辺り一面の草原。
遮蔽物が一切無い見通しの良いその草原だ。
奇襲するにも隠れる場所が無いので、野戦で正面衝突以外は考えられそうに無い。
ラルフ副団長から聞いた話を反芻しながら何気無く眺めていると、少し違和感を感じる。
「ロイ君?」
「…………ルシアお姉ちゃん。何かあの辺り、違和感がありませんか?」
「ん〜?私は何も感じないわね。そっちの分野は私よりもイーサンの方が得意だったから、その息子であるロイ君の方が敏感なのかもしれないわね」
僕の感じた違和感を伝えるも彼女には分からないみたいだ。
魔導姫と賢者。
どちらも魔法を得意としているが、似て非なるとも言える。
魔導姫、つまりルシアお姉ちゃんの系譜は攻撃魔法で無類の強さを発揮するが、補助や回復魔法に関しては出来なくは無いが、得意では無い。
一方、賢者の系譜である僕や父上は魔法全般に広く精通しており、良く言えば万能、悪く言えば中途半端と言える。
中途半端と言っても一般的に見れば全能とも言えるが…………。
そのせいか、魔法の探知はルシアお姉ちゃんより僕の方が鋭いらしく、先程の認識の齟齬もそのせいだと言える。
「何も無ければそれで良いのですが、念の為調べてもらう事は出来ますか?」
「えぇ、私の名を使えば簡単よ。私がシリウスにも伝えておくし、うちからも探知魔法が得意な団員を出すわ」
「ありがとうございます」
「ふふっ。何言ってるの?可愛い弟子の為よ」
ルシアお姉ちゃんはそう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。
そんな言動とは裏腹に、表情は少し強張っている様にも見えたが、きっと気の所為だと思いたい。
ルシアのスタイルはミネアよりも全体的にスリムで高身長、胸だけは同じという何ともチートな体型です。




