知っていても見た事無いものって沢山あるよね
皇帝陛下が練武室にやってきた事で、問題は無事解決…………しなかった。
その場は解散となり、僕・学園長である父上と母上・皇帝陛下・ジン先生・勇者ユウジが学園長室に集められた。
僕と父上がソファに座り、その向かいに皇帝陛下とユウジ、それぞれの後ろには母上とジン先生が立っている。
重苦しい雰囲気の中、父上が開口一番陛下を非難する。
「陛下、一人でいらっしゃったのですか?」
「あぁ、そうだよ」
「御自分の立場を考えて下さいよ…………」
「だって急ぎみたいだったし。学園ならイーサンも居るだろう?それに私にはこれがあるからね」
ケタケタと笑いながら陛下が懐から取り出したのは1枚の紙だった。
「僕がアルベルト=アインシュタイン氏に直接お願いして創ってもらった特別性の魔道具だよ」
陛下のその言葉を聞いて父上が僕の方を見る。
『私は何も聞いてないぞ?』と目で訴えながら。
陛下……それ秘密って言ったじゃん。
それに対して僕が首を横に振ると、諦めた様に溜め息を吐いた。
そりゃそうだ。
皇帝陛下から直接言われて断れる筈が無い。
まぁ、皇帝陛下であると共にクラウスの父親で父上の友人からの頼みだからそもそも断るつもりも無かったけど。
「…………それはどの様な効果が?」
「氏曰く、『魔力を帯びた樹木を使った紙に魔石を砕いて作ったインクを用いて、一度だけ持っている者の命を必ず守る身代わりになる』代物らしいよ。暗殺でも毒殺でも何でもね」
「それはまた…………」
「それに、見た事無い食べ物や他国で出された料理に毒が入ってたとしても何の異常も無い。毒見無しで食べてもお腹を壊さずに済むから助かるよ」
「………………………………はぁ」
父上が先程より盛大に溜め息を吐く。
てか、陛下?
そんな食べ物の為にそれ使わないでくださいよ。
創るの結構大変なんですから。
「ロイ。因みにだか、それはどれ程の数を創ったんだ?」
「…………1000から先は数えていません」
あ、また溜め息を吐かれた。
そんなにしてると幸せ逃げちゃいますよ?
「…………後で私達にも1枚か貰えるか?」
「あ、はい。1枚と言わず何枚で「1枚で良い」……はい」
便利だから沢山ある方が良いのに。
話が一段落し、改めて今度は陛下が口を開く。
「話を本題に戻そう。今回の件については既にガストンブルク公爵から話は聴いている。だが、当事者である2人から改めて事の経緯を聴きたい。良いかな?」
「はっ。勿論にございます」
陛下が『イーサン』では無く『ガストンブルク公爵』と言ったからには従うより他無い。
僕は慌てて頭を下げようとするが、手で制され元に戻る。
もう一方の当事者であるユウジは何の反応もしない。
「……と思ったのだが、勇者君がこれではな……。しょうがない。話を聞くのはロイ君だけにして、この子はレイエナの下へ連れて行って治療してもらうことに―――」
「誰だっ!?」
「ロイ!!何をやっている!?」
陛下の言葉が言い終わる前に僕は立ち上がり、右手を前に出しそこに魔法を発動して陛下の後ろ、ジン先生と逆側を見据える。
その行動に流石の父上も慌てて陛下を守る様に僕と前に立ちはだかる。
そりゃそうだ、陛下に魔法を向けているのだから、僕の頭がおかしくなったと思われても仕方が無い。
勿論、僕は至って正常。
「二人共落ち着いて。イーサン、ロイ君の行動はある意味間違ってない。ロイ君、彼は大丈夫だから安心して」
「はい、早とちりして申し訳ございません」
「彼……ですか?」
「そう、彼。オボロ、姿を見せてくれ」
「御意」
陛下がそう言うと陛下の影から真っ黒い衣装を着た人物が跪いた状態で現れた。
いや、ちょっと待って。
それって…………。
「忍者じゃねぇか!」
「流石ロイ君、博識だね。彼はとある場所にある里の出身なんだよ」
「某、オボロと申す。僭越ながらロイ殿、何故某に気が付いたのだ?」
「あ、忍者ってこっちにもいたんですね…………」
「……?こっちとは?」
「いえ、何でもありません。何で気が付いたか?ですよね?単純な話ですよ。この部屋は今防音の魔道具が発動されているので、空間全体がその魔力で覆われています。それなのに陛下がオボロさんに声を掛けた時に魔力の流れが変わったんです」
「……本当にそれだけ?」
「…………実は最初からその場所が魔力を遮っていたので警戒はしていました」
「なんと…………」
「まさかオボロが隠れているのを見抜かれるなんてね……」
「某もまだまだ修行が足りぬでござる」
今ござるって言った!初めて聞いたよ!本当にござるって言うんだなぁ、忍者って。
「陛下……ロイの行動に問題無いのは承知しました。それより早く続きを……」
「あぁ、そうだったね。オボロ、彼を現聖女の下へ案内して。体は問題無いが、精神が壊れかけている。と言伝もお願い」
「御意」
父上が話を本題に戻したので、オボロさんはユウジの手を取り、影の中へと沈んで消えてしまった。
あれ触ってれば誰でも潜れるのかな?
僕も今度やってもらおう。
そんな感じで最初の重苦しい空気は何処へやら、話は脱線に脱線を繰り返しながら微速で進んでいく。
忍者キャラ、書いてみたかったんです。




