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親の悩みを聞いてあげるのも子の役割だよね

 休みが終わるまで残り3日となったある日の夜、僕は父上に呼ばれて執務室のソファに座っていた。


「どうしたのですか?」

「あぁ。実は少し相談なんだが……」


 父上から相談とは珍しいな。と僕は思った。

 今までも執務内容においては、世間話程度に意見を聞かれた事はあったものの、こうやってわざわざ2人きりの時間を作って話を聞かれる事は無かった。


 父上の相談内容はこんな話だ。


 ガザニア帝国の西側にあり、隣国でもあるラリノア聖教国。

 戦争する程仲が悪い訳ではないが、積極的に交友を図る程仲が良い訳でもない。

 そもそもこの2つの国は考え方が違うのだ。

 ガザニア帝国は魔王から世界を救った勇者を含む六人の英雄達が作り上げ、今でもその六人の英雄を崇拝している者が多い。

 逆にラリノア聖教国は勇者を選定した精霊王を崇拝し、この世界で唯一の宗教と呼ばれる霊王教の総本山である。

 そんな現代世界の某宗教においての、祖が上か祖を生んだ母が上か。みたいな状況となっている。


 話は逸れたが、そんな間柄の国から一つの打診があった。


 以前より試みていた勇者の再誕を、遂に成功させた。

 それに勇者育成の一貫として、世界一と言われるガザニア帝国騎士魔法学園に編入をお願いしたい。

 勿論、相応の謝礼を渡すので、前向きに検討してほしい。

 と。


「それならば受けるべきでは?」

「それがそうも簡単にいかないんだよ」


 他国との連携を強める、特に今まで表立った争いは無くても、犬猿の仲に近しい関係の相手から持ちかけられたのであれば今後の関係を考えれば悩む必要は無い。

 それでも父上が悩んでいるのは何かしらのの理由があるんだろう。


「その理由とは?」

「それが、その勇者と言うのは【異世界から召喚された者】らしいのだ」

「えっ……!?」


 異世界からの召喚。

 僕と違い転生ではなく、転移という事だろう。

 しかし、そんな事を実際にやっていたなんて……。


「いきなり言われても信じられないかもしれないがな」

「い、いえ……」


 異世界から召喚された勇者。

 それが何を示すのかは分からない。

 前世の記憶では勇者の召喚は魔王復活と同義だ。

 そうならこの世界は帝国建国以前に起こった脅威にさらされてしまう。

 そんな考えも浮かんだが、それ以上に僕が悩んでしまった事、それは……。


(異世界から召喚された勇者が学園に来たら、異世界転生ものでよくある貴族との衝突が起こる……。そして、大体は家柄が良く、学園内でもある程度の地位を持つ人物…………。僕じゃない!?)


 そんな事を考えていたのが顔に出てしまっていたのだろう。


「いきなりすまないな。成人したての息子に、国の今後を揺るがしかねない相談をしてしまって……」


 と父上から謝罪されてしまった。


「いえ。いきなりで少しビックリしただけなので、頭を上げて下さい。その勇者?と呼ばれる人物がどんな人柄かは分かりませんが、それでも国の繋がりは大切だと思います。やはり受けるべきかと」

「そうか……。ありがとう。ロイの意見を考慮して改めて陛下と話し合いをしようと思う。呼び出して悪かったな」

「お力になれず、申し訳ございません。失礼致します」

「あぁ、お休み」

「はい、お休みなさい。父上」


 父上に一礼して退出した。


 部屋まで歩きながら、僕は頭の中の考えを吐き出していく。


「仮に勇者が編入してきたとしよう。そうだとしても、僕は漫画やアニメなんかに居る傲慢貴族ではない筈。……だよな?それならば揉める事もないから大丈夫。それに、僕の居るクラスに編入すると決まったわけじゃないから、知り合いにすらならない可能性もある。それなら心配する必要無いかもしれない……」

「まんがやあにめって何?」

「うわぁっ!?」

「ご、ごめん。廊下を歩いてたらロイ君が見えて……。そんなにビックリされるとは思わなかったよ……」


 完全に自分の世界に入っていたので、声をかけられるまでオズの存在に気が付かなかった。


「それでどうしたの?何か悩み事?」

「ん〜……。悩み事って程じゃないんだけどね」

「何かあればぼく

はいつでも話を聞くからね?聞く事しか出来ないかもしれないけど……」

「それだけで助かるよ。ありがとう、オズ」

「うんっ!」


 お礼に頭をポンポンっと軽く叩くと弾けるような笑顔を見せてくれるオズ。


 起きてもいない事を考え込んでも仕方ない。

 問題がもし起これば、その時その時で対応すれば良い話だ。


「よし!じゃあ今日は寝ようか。休みももう終わるし、残りを楽しまなきゃね」

「もう少しでここでの生活は終わりなんだよね」

「でも学園に戻ってもオズとは同じ部屋だし同じクラスだからあまり変わらない位一緒に居るんだから」

「うん、うん!そうだよね!ずっと一緒だもんね!」


 そう言って腕に絡み付いてくる。

 多分平均だと思われる柔らかい双丘が胸に当たって心臓が跳ねる。


「今ロイ君が考えてる事当ててあげようか?」

「え?分かるの?」

「分かるよ―?僕の胸が当たってドキドキしてるでしょ?」

「え?い、いや……!?そそそ、そんな事ありませんよ?」

「ふふっ。分かり易いなぁ、ロイ君は。でも……」


 先程とは違い、優しい笑顔でこう口にする。


「こうしてると……。ぼくも……、凄くドキドキしてるよ」


 そんな女の子爆発の表情と台詞を言われたら、僕はもう我慢…………しましたよ。

 そりゃもう、血涙を流す勢いで。

 鋼の精神をヤスリでガリガリ削られながらも何とか部屋の前で分かれた後、僕は悶々としたままベッドに入った。






 翌日、僕は一睡も出来ないまま朝を迎える事になった。

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