灯台下暗しって案外本当にあるよね
『オズちゃんは女の子よ』
母上の言葉が頭の中で木霊する。
ロイ、冷静になれ。
考える事を放棄するな。
『考えるな、感じろ』と前世のスターの言葉が頭を過るが今はその時じゃない。
「でも……、あれ?確か寮の部屋割りは同性同士だって…………」
実際、寮は男女に分けられ、場所も少し離れている。
クラウスはバリーと同室だし、三馬鹿は3人一部屋、他の生徒達も大体2〜4人で一部屋だ。
いくら婚約していても、男女同室は認められていない。
学園の規則にもそう書いてあった。
「基本的にはそうね。でも何事にも例外があるのよ」
「今回がその例外って事ですか?」
「そうよ」
そこから母上が話してくれたのは衝撃だった。
過去から現在に至るまで、女子が男子として学園に入学する事はそう珍しくもないらしい。
特に平民の出に多く、その理由は残酷なものだった。
平民の場合、どうしても経済的に余裕が無い為、成績で上位に入り、学費の免除を勝ち取るのが一番の選択肢となる。
しかし学習環境の差が有り、そう簡単な事では無いし、一度でも成績を落としてしまえば、免除の権利を剥奪されてしまう。
その場合はどうするか?
女子の場合は簡単、身体を使って援助してくれる相手を探すのだ。
そうすれば自分は学園に残れるし、相手は美味しい思いが出来るのでお互いWin-Winの関係となれる。
実際にもしもの保険でそういう行為を行う者も少なくないらしいし、平民の女子と分かれば成績の優劣関係無くそういった関係を迫られてしまう。
ヨルハみたいな性格であれば一蹴出来るだろうが、大半は相手に呑まれ、従ってしまう。
それをさせない為に自分の子どもを、とくは自らが率先して男子として入学するらしい。
男装する事で、もしバレたとしても『そういう関係は一切望んでいません』と予防線を張れる。
勿論、色々不便はあるが、それでもメリットが大きいのだと言う。
「男子として入学する理由はこんなところね」
「そんな事が実際にあるなんて……」
「今話した事は黙認してはいるけど、実際は禁止事項よ。だから今聞いた話は他言無用でお願いするわ」
「「「はい」」」
学園の……いや、国の闇が垣間見えた気がした。
貴族と平民、男子と女子。
同じ人であっても、他人がいる限り優劣が存在してしまう。
『比べなくて良い』『他人を気にするな』と言う者もいるが、現実問題それは不可能だ。
勿論、そうする事・そう考える事で気持ちが楽になる事もあるが、やはり根本的な解決には至らない。
他者より前へ、他者より上へ。
そうやって生物は進化して、生き残ってきた。
いくら平等を謳っても、自分以外の他者の存在がある限り不可能だろう。
と、憂鬱な事を考えていたところで、ふと母上の言葉を思い出した。
「そうだった。理由は分かったけど、それで何でオズが僕の婚約者に相応しいの?」
「だってこんなに可愛くて、真面目で、可愛くて、素直で、可愛くて、才能もあって、可愛くて。ピッタリじゃない」
「母上がオズをめちゃくちゃ可愛いと思ってるのは分かったよ」
「そ、そんなぼくなんか……」
「ロイちゃんはオズちゃんの事嫌い?」
「はいぃっ!?」
母上の剛速球ストレートに面を喰らう。
好きか嫌いかで言われれば間違いなく好きと言える。
しかし、それはあくまで友人として。
まぁ、仕草や笑顔にキュンとした。とか、素直で真っ直ぐなところが心の清涼剤だ。とかは思っていたけど。
…………オズなら同性でも良いかもとか思ったし、もしも女の子だったら良いなとか思いましたけどねっ!
それでも―――。
「すみません、母上。やっぱりすぐに異性としてどうかとは考えられません。好きか嫌いかと聞かれれば間違いなく好きですが、やっぱり『友人として』と言った方が正しいと思います。それにオズの気持ちもありますし……」
「そうね。でも、今はそれで充分よ。正直に話してくれてありがとう」
「いえ。即断出来ずに申し訳ありません」
「大切な事だもの。そんなにすぐに決められるなんて、よっぽど運命の人に巡り合ったか考え無しのどちらかよ。気にする必要ないわ」
正直な気持ちを母上に伝え、それを否定せずに受けてもらえた。
普段は少しアレだけど、こういうところがあるから母上に頭が上がらない。
「オズちゃん。私はオズちゃんが息子の婚約者になってくれると嬉しいわ。でも、これは公爵家の妻としての命令ではなく、ただの一人の母としての希望。断ってもらってま構わないわ」
「あっ……その……ぼくは……。平民の僕なんかがそんな……」
「お互いが愛し合っていれば良いのよ。勿論、それだけでは駄目だけど、それでもそこに身分の差は関係ないわ。貴女自身がどうしたいか考えてみて。たとえどんな選択をしたとしても、私はそれを応援します」
「はい……。ありがとうございます」
『これでこの話は終わり!』と胸の前でパンッと手を叩く。
その際に豊かな双丘がプルンと揺れた。
我が母ながらやはり凄まじい凶器をお持ちだ……。
「午後からはなにをするのかしら?」
「んー。特に決めてなかったけど……。オズ、何したい?」
「ふぇっ!?ぼ、ぼくっ?僕は泊めてもらうから何かお手伝いをしようかなと…………」
「そんな事する必要無いわ。息子の友達にそんな事させてたら私がイーサンに怒られてしまうわよ」
「そ、そうですか……。じゃあ、特に何も考えていません……」
オズ、そんな事考えてたのか。
僕としては、『友達が遊びに来た』くらいに思っていたけど、オズからしたら『公爵家にお邪魔する』になってたんだ。
この感覚のズレを考えておかないと、今後も迷惑を掛けてしまうかもしれない。
もし迷惑だといけないから、今日の夜にでもちゃんと聞いておこう。
それにしても、2人共特に考えていなかったので、午後からの予定が空いてしまった。
どうしよう…………。
そう考えていたら―――。
「じゃあさ、じゃあさ!」
「ん?マリィ、何か思い付いたの?」
「うんっ!リリィおねえちゃんとオズおねえちゃんが2人でロイおにいちゃんとたたかうところみたい!」
「はい?」
つまり、僕vsオズ&リリィの模擬戦をしろと?
マリィ、いつからそんな戦闘狂になってしまっんだ……。
「だめぇ?」
潤んだ瞳の上目遣いを駆使しながら僕の良心に訴えかけてくる。
こやつめ……中々やりおる……。
だが、甘やかしてばかりでは駄目だ!
「僕は良いよ、やろうか」
うん、無理でした。
天使に勝てる人間なんていないのだ、ハハハ。
「私は良いけど。その……オースタス……さんは?」
「ぼ、ぼくも問題ありませんよ……。リリ……リシリア様」
マリィの意見に賛同しているけど、その前にちょっと待とうか。
お互い気を遣い過ぎて、呼び方がぎこちない。
そんなんじゃいくら組んでも実力を発揮出来ないだろう。
「オズ、僕の妹だからリリィって呼んで構わないよ。リリィも。オースタスじゃなくて、オズで良いんじゃない?マリィみたいにお姉ちゃんでも良いし。お互い敬語も無し!」
「お、お姉ちゃんは恥ずかしいのでオズお姉さんと呼んで良い……ですか?」
「う、うん。ぼくも……リリィちゃんって呼ばせてもらう……です」
「あ、うん。ごめん、僕が悪かった。とりあえず呼び方はそれで良いし、敬語もお互い無理なく自然に無くしていこうか」
「「はい……」」
そういえば、オズは弟ばっかりで妹が欲しかったみたいだし、リリィも姉が欲しいと昔言ってたたな。
お互いが気を遣っているというよりは、恥ずかしさと嬉しさが合わさって、どう接して良いか分からない状態っぽい。
仲が悪くない訳じゃないからとりあえず今はこれで及第点かな。
「じゃあ模擬戦をやるし、地下に行こうか」
「え?地下?地下室があるの?」
「そうそう、倉庫とか訓練所とかその他諸々ね。今回は特殊練武室と同じで[仮想空間生成装置]がある部屋にも行くよ」
「分かった!」
「因みにだけどオズちゃん。地下は基本的に門外不出の施設が多いけど、うちの子になればそれを全部見る事が出来るわよ。一般的に出回らない貴重な本とか……」
「えぇ!そんな本があるんですかっ!?」
「こら、そこ!オズを物で釣らない!話は終わったんですよ」
「は〜い」
「そっかぁ……。貴重な本かぁ……」
「お〜い、帰ってこーい」
本に釣られてしまうオズ。
この子いつか騙されそうだ……。
そんな心配をしながら僕達は地下にある訓練所に向かった。
帝国は結婚に関して基本緩いです。
ファンタジー定番の多重婚は勿論、異種族婚・同性婚も認められています。
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