僕はレイが見える
初投稿です。
──霊を見たくない。
それが僕の長年の願いだった。
僕は霊が見えるせいで幼少期から苦労してきた。いじめられ、友達もできず、グループを作るときは常に先生とペアだった。そんな体験から僕が霊を嫌いになるのは必然だったと言える。
そんな僕にこの前、待望の友達ができた。
僕は友達となった彼女との出会いを思い出す。出会った場所は森の中の神社だった。
人気がない、夕暮れのオレンジ色に染められた森の中。一人の少女が神社で何かを祈っていた。見た感じ隣の女子高校生の女の子だ。足があるので幽霊でもない。
本物の幽霊ならちょうど僕の1メートルほど隣にいる。青いシャツの男性で常に下を見ているので顔は分からないが、足がないことから幽霊だと分かる。
コミュニケーション能力が皆無の僕は彼女を見なかったことにして帰ろうとしたら
「待った!」
という大きな声にビクつき逃亡を逃してしまった。
「私、茜。君は?」
突然僕に声をかけてきた少女の自己紹介に僕は思考が一旦止まりハッとしたように答えた。
「瀬尾、、瀬尾 暁斗」
暁斗くんか、と覚えるように復唱する彼女を見て僕の掴まれたように緊張していた心臓も落ち着いてきた。
ところが、次の彼女の言葉で僕は再び固まった。
「暁斗くん、君は幽霊が見えるの?」
「えっ、、、、!?」
「だって見えているでしょ。君の隣にいる幽霊」
確かに現在進行形で僕の隣に幽霊がいる。それが分かるという事はつまり、彼女は
「私も見えるんだ」
尋ねようと思っていたことの答えを本人からもらう。
その後、僕らは唯一無二の友達になった。
今まで、幽霊で苦労してきた話をしっかりと耳を傾けて聞いてくれる茜はすぐに僕の一番の理解者になった。
「暁斗くんは幽霊が嫌いなんだね」
「うん、大嫌いだ」
幽霊さえ、見えなければ僕はもっと幸せだった。
「でも、幽霊が見えなければ私には会えなかったんだよ?暁斗くんは私のこと嫌い?」
確かにそうだと思い、僕は少し考えて言った。
「、、、嫌いじゃない」
そういえば茜は嬉しそうに笑った。
それから毎日学校が終わると神社に行って、茜と話すのが日課になった。
話すうちに茜のことも大体分かってきた。大好きな両親がいて、学級委員長をしていて、あと茜は潔癖なことなど。彼女の話は暖かくて僕も好きだった。
僕は今日、茜に嘘つきで嫌いな親戚の話をした。
その嫌いな親戚のせいで僕は学校でいじめられた。僕が幽霊が嫌いになった原因ともいえる人物だ。
「暁斗くんは嘘つきの親戚が嫌いなんだね」
「うん、嫌いだ」
僕は即答したすると茜は
「、、、そっか。じゃあ私のことは好き?」
と、急にからかうように僕にいう。茜は冗談と分かる、ニヤニヤとした顔をして答えを待っている。
「別に、普通だけど」
と少し照れくさくて顔をそらし、ぶっきらぼうに答えた。
それを聞いた茜は安心したように、でもバツが悪そうにニコッと笑った。
時が過ぎ、
僕が茜と出会って1年が経とうとしていた。僕は今日、衝撃な一言を聞いた。
「ごめん、暁斗。もう会えない」
僕は茜が何を言っているのか分からず、少し理解するのに時間がかかった。
「どうしてっ!」
考える間もなく叫ぶように茜に投げかけた。
「家の事情で、、遠くに行かないといけなくて、、、」
茜は目を合わせずそう言った。
茜は声を震わせ、ボロボロと涙をこぼし、張り付けたような笑顔で「バイバイ」と言った。まるで会うのが最後のように。
そのまま振り向いて帰ろうとした茜に
「待って!」
と僕は叫んだ。このまま一生会えない、そんな気がした。茜は一瞬、足を止めたがまた歩き出した。
引き止めるように茜の手首に手を伸ばし、僕はその手を掴む。──はずだった。
茜の手首は実態がなく、僕は空を掴んだ。
「、、、えっ」
思わず僕からそんな声が出る。実態がないつまり、、幽霊?茜が?足があるのに?
僕はぐるぐると混乱しながら頭を回す。
バッと茜の方を見れば酷い顔をしながら涙を流していた。
茜はごめんなさい、と泣きじゃくりながら
「私、、、幽霊、なんだ」
と告白した。
「でも、、。幽霊は足がないはず」
僕は喉から震えるように声を出した。
「生きていた頃に未練があって現世に、残っている霊には足がない。でも私は、もう未練がないから、、、あとは、あの世に行くだけだから、、、あの世に行くために足がある」
ところどころ、つっかえながら茜は説明する。
つまり、茜は正真正銘の霊だ。
「ごめん、たくさん嘘ついてごめんなさい。私、茜 怜っていうの。一年前、両親と一緒に交通事故に遭って私は死んだ」
そのまま茜は話し始めた。
あの日、昏睡状態で死の淵を歩いている最愛の両親が死なないようにと神社で祈っていたら僕と出会ったこと。暗い顔をしている僕を見て放っておけなくて友達になったこと。
もう、現世にはいられないこと。
聞きたくはなかったけれど、僕は引き裂かれる思いをしながら聞いた。
「私のこと嫌いになったでしょ」
泣きながら笑って茜は言った。その顔を見たら僕はもう耐えきれずに
「好きだ!」
と告白した。
えっ、、、?と茜は困惑した後、意味を理解したのか顔を真っ赤に染める。僕も今、負けずに真っ赤な自信がある。
これは紛れもなく本心だ。茜──いや、怜は穏やかな優しい性格で世話焼きな女の子だった。
そんな怜と話すと僕は居場所を見つけたように心地が良かった。
いつも度胸がなくて言えなかったけれど、僕は怜がどうしようもなく好きだった。
「、、、っ!でっでも!私は暁斗が嫌いな幽霊で嘘つきだ!」
「僕はたとえ嫌いな幽霊でも嘘つきでも、怜、君のことが好きだ」
何回も僕は好きと言い続けた。
それを聞いていた怜は泣いていたけど張り付けた笑顔ではなく僕の好きな笑顔で笑っていた。
怜はポツリと呟く。
「なんで、死んだあとに未練ができちゃうかな。もっと現世にいたかったよ」
決意を決めた怜は涙を止め、僕を見つめてほほ笑んだ。
それから僕に向かって歩みを進める、だんだん怜が近づいてくる。
僕の目に今まで見たことないほど怜が近くに映る。怜は目を閉じる。それを眺めながら感触がない怜が僕の唇に重なる。
僕はそれがキスだと、ゆっくりと時間をかけながら理解した。
怜は僕から離れ今まででとぴっきりの笑顔を見せて
「ありがと、私も大好き。ゆっくり時間をかけてあの世に来るんだよ」
そう言って風に乗って消えていった。まるで花びらが散るように。
それから何年か経った。僕は大人になっていた。
怜とのことは、今となっては淡い初恋のようになってしまった。でも、未だに怜は僕の中で一番の女性だ。
僕は今でも神社に行ってしまう。もしかしたらまだ怜はあそこにいて「久しぶり」と笑いかけてくれると思ってしまうからだ。
今日も僕は神社に足を運んだ。
誰もいないオレンジに染まった森の中。当然、初恋の子はいない。
神社で一人、僕は祈る。
もし願いが叶うなら
ただ、どうしてもまた
──怜が見たい。