孤児達
私が最初に訪れた孤児院。
そこはジャンの父の領地から一番近い、隣国に位置する町。
王国へと向かう街道沿いに位置し、人の往き来が多い宿場町だ。
肝心の孤児院は教会に隣接したボロボロの小屋。
私の想像よりも、遥かに酷い施設であった。
子供の世話については神父が片手間で行っており、お世辞にも子供の保護施設と語るには程遠いもの。
ここの場合、親を亡くした孤児が殆どだった。
それでも、子供達は逞しく日々を過ごしている。
私の仕事は子供達の世話係。
掃除に洗濯、そして読み書きや、敷地内に小さな菜園を作り野菜を育てる事を教えた。
悪事に巻き込まれない様、世の中のルールを教えたりもした。
中には心を閉ざした子も居たが、私が出来得る限り寄り添って、立ち直るための手助けをした。
そして、この町では……。
ジャンに関する情報は何も得られていない。
私は、次の孤児院に移る決意をする。
ようやく子供達に慕われる様になった私にとって、此処を去るのは辛いものがあった。
私に心を開いてくれた子供達との別れは、この子達を裏切る事になるのではないかとさえ思える。
この子達を私の故郷に呼び寄せてあげられないだろうか?
葡萄畑での農作業は常に人手が足りていなかった。
少なくとも、貧困に喘ぐ事はなくなる筈だ。
いつの日かお母さんと仲直りが出来たなら、この事を相談したいと思う。
そうやって、定期的に孤児院を渡り歩く日々が続いていた。
季節は移ろぎ、もうすぐ冬になる頃。
遂に、私はジャンだと思われる人物の話を耳にした……!
若い凄腕の冒険者が、この周辺で怪物を退治してくれたと言うではないか……!
彼は、かつて王国で国境警備の仕事に就いていたと語っていたらしい。
間違いなく、それはジャンだ……!
一年近くを費やして、遂に私は足取りを掴む事が出来たんだ……!
ジャンに関する情報を辿って新たに赴任した、王国から遥か西に位置する帝国領の寂れた村。
そこは、いわゆる危険地帯。
少し足を伸ばせば、魔物が徘徊する森や小鬼の巣もあるらしい。
此処に来るまでの道中さえも、冒険者の護衛を必要とした。
幸い、何事もなかったけれど。
これまでに掴んだ情報から特定すると、ジャンはこの周辺での魔物討伐依頼を幾度か受けていたらしい。
つまり、この村を拠点にしていた筈であり、此処に居ればジャンと再会出来る可能性は極めて高いだろう。
そんな村の孤児院は、今まで出会った子供達が幸せに思えてしまう程の境遇であった。
全員が怪物や魔物によって親兄弟を失っており、目の前で肉親が殺されるのを見てしまった子も居る。
子供達ほぼ全員が精神的に異常が見られ、私程度の境遇で不幸を語るのが馬鹿らしくなってしまう。
ジャンの事は別にして、私はこの村に暫く留まる決意を固めた。
この子達をこのまま見捨てられない。
いつしか、私に芽生えたそんな気持ち。
これを私にとっての贖罪と言うのは烏滸がましいかもしれないけれど、自分がやるべき事を全うしたいと思ったんだ。
いつか胸を張って、ジャンに私の贖罪が報告出来る様に……。