大聖堂
故郷に帰る事は赦されず、ジャンは国外追放……。
そんな私に残された『やるべき事』と言えば、大聖堂に向かう事であった。
お母さんやジャンのお父さんの立場からすれば、私は悲劇を齎した当事者。
その私が今更になって謝りたいと言ったところで、聞く耳すら持ってくれないのは当然の所業。
だからこそ、王国側から正式に真実を公表して貰わなきゃいけない。
私がクソ野郎に魅了され洗脳されていた事を、正気じゃなかった事が本当なんだと知って貰わなきゃいけないんだ。
そうすれば、お母さん達も解ってくれるに違いない。
その後で、追放されたジャンの足取りを調べるんだ……。
私が望むのは、ジャンに会って、そして謝る事だけ。
それが叶わないうちに、このまま野垂れ死にする訳にはいかないんだから……!
遠く離れた大聖堂に向かう道中、王国が持たせてくれた僅かな路銀も底を着いてしまった。
薬草摘み。
野菜の収穫。
町酒場での皿洗い。
常日頃から農作業を手伝っていた田舎の貧乏貴族だったのが功を奏し、すんなりと労働に従事出来た。
もしも高位の貴族令嬢だったりすれば大変だったに違いない。
そうして半年近くが経過した頃、私は目的である大聖堂にようやく辿り着いたのだった。
大事に持ち続けていた、かつて聖女様が持たせてくれた紹介状。
それをを受付で見せるや否や、私は枢機卿なる偉い方と面談する事となる。
荘厳な雰囲気の聖堂内、通された一番奥の部屋で待っていたのが枢機卿。
ご年輩のお爺さんだった。
その枢機卿曰く……。
王国側は、クソ野郎によって被害に遭われた他国の姫君に対しての対処を第一にしているらしい。
他国との軋轢を避けて戦争には発展させぬべく。
当然と言えば当然ではあるだろう。
つまり、それは私みたいな弱い立場の被害者のケアは後回し。
それでも、聖女様は被害者の救済のために現在も奔走してくれているらしい。
まさに私と別れる際、聖女様が仰っていた予測通りの事態になっていた……。
枢機卿の語った話を要約すると、王国側から私への救済についてはまだまだ先になる。
それまでの間、大聖堂で身柄を保護するから大人しく待っていなさい……と、そういう事だった。
そんなの、冗談じゃない!
お母さん達に真実が伝わるのは、まだまだ先になる?
それは、1年後?
それとも、3年後? 5年後?
いつまで私は待ってなきゃいけないの?
その分だけ、ジャンの足取りが掴めなくなってしまうじゃないか……!
激昂しながら、私は枢機卿に事情を説明した。
そして。
暫し考えを巡らせた後、枢機卿がある提案をする。
「ミアさん、我々大聖堂が世界中に設立している孤児院はご存知ですか? 戦争や魔物によって親を失った孤児を保護している施設ですが……」
「そんな話、私と何の関係があるんですか!」
枢機卿に怒りをぶつけたところで仕方がないのに、私の怒りは冷めやらない。
それでも、枢機卿は諭すかの様に優しく説明を続ける。
「各国に配置された孤児院を定期的に巡りながら、ジャンさんの足取りを情報収集されるのは如何でしょうか?」
「孤児院を巡って、ジャンの情報を……集める?」
「そうです。 赴任される孤児院では子供達の世話をして頂きますが、衣食住には困らせませんし、当然ながら賃金もお支払いさせて頂きます」
先の見えない現在の私にとって、枢機卿の申し出は魅力に溢れるものであるのは間違いなかった。
一日でも早くジャンを捜し出して、私は謝らなければいけないのだから……。