幕間2 〜抱擁〜
「急に泣くなんて……ホント、大丈夫っスか?」
泣き出してしまった俺を気遣ってくれるニチカ。
「えっと、あの……もしかして、ジャンの彼女さんも……犠牲に……なってたんスか……?」
何も返す事が出来ず、俺は嗚咽を続けるだけだった。
それ即ち、ニチカの問いを無言で肯定したも同然である。
「その……何と言ったら良いか……アタシに調査を頼んだ理由って、それだったんスね……」
膝を突き、子供の様に泣き噦る俺の頭を、ニチカはそう言いながら撫でてくれた。
「俺が……諦めた所為で……ミアは死んだ……! 俺がミアから離れてしまったから、死んだんだよッ!」
突然、幼い頃のミアの笑顔が想い浮かぶ。
あの笑顔を守ってやらなきゃいけなかったのに……!
なのに、俺は……!
自分の情けなさに、沸々と怒りが込み上げる。
その時だった。
ニチカが優しく微笑みながら、俺を抱きしめる……。
「ニチカ……!?」
「あんまり自分を責めちゃ駄目っスよ、ジャン」
「ニチカ、俺は……俺は……守れなかった……守ってやれなかったんだ……!」
「だけど、だけど……ね? 天国に行った彼女さんもジャンには前を向いて欲しいと思ってる筈っスよ、きっと……」
まるで母の様に、俺を抱擁するニチカ。
ニチカの胸の中で、俺はひたすら泣いていた……。
そして、暫しの時間が流れた。
「その……済まなかった、ニチカ……」
「これで貸しが2つっスね! それにしても、ジャンが朴念仁でもホモでもなくて安心したっスよ……。 ちゃんと恋人が居たんスね、フフッ!」
「ちょ、何でそうなるんだよ!」
「第三皇女のヤイナ様、伯爵令嬢のマチルダ様、あと、えっと……」
「…………?」
「あの人達がジャンにアプローチ掛けてるの、気付いてなかったんスか?」
「へっ? そうなのか?」
「うわ、帝国の誇る二大美姫が可哀想っス!」
気を紛らわせようとしてくれているのだろう。
今はその優しさが、ひたすら身に染みる。
「あと、その……アタシ……とか、どうっス?」
急に顔を赤らめ、そんな事を告げるニチカ。
「気持ちは有難いけど、今は……そんな事は考えられない……済まん……」
「な、何を言ってるんスか! こんなの冗談っス! 冗談に決まってるっスよ!」
「そ、そうか、そうだよな」
「そうっスよ! 冗談っス!」
思わずニチカと笑い合う。
俺は此処に来て、本当に良い仲間を持ったと思う。
「それじゃ、ちゃんと元気出すんスよ?」
「ああ。 いろいろ有難うな、ニチカ」
彼女が部屋を出た後。
俺は再び、ミアの日記を開くのだった。
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「人のおっぱいに顔を埋めたくせに、手も出さないなんて。 ホント、鈍いッス……」
溜め息を吐きながら、ニチカは思わず独り言を呟いていた。
「ま、傷心につけ込もうとしたアタシも、褒められたもんじゃないっスよねぇ……」




