エピローグ
例の魔物の群れは、いよいよ村の近くまで迫っているみたい。
もしかしたら、明日の夜には日記を書く事も出来なくなってるかもしれない。
そう思うと怖い!
怖くて眠れないよ!
私、ジャンに会えないままで死にたくない。
子供達と一緒に、どうか生き延びられます様に!
いや、私の事はどうでも良いかな。
これはきっと、ジャンを苦しめた罰だもんね。
でも、子供達だけは助けてあげたい。
私が絶対に守らなくちゃ。
守って守って、守り切って死んでやるんだ。
もしも、もしもだよ?
私が子供達を守って死んだってジャンが知ったら、きっと誇りにしてくれるよね?
俺の恋人だった人は、命を懸けて子供を守ったって。
よし! 私、頑張っちゃうよ!
いや、違うな。
生き延びよう!
絶対、絶対、絶対に生き延びて、ジャンに会うんだ。
まだ謝罪もしてないのに死ねないもんね。
とにかく、早く騎士団が来てくれたら良いんだけど。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
ミアが遺した日記の最後の頁だ。
おそらく、亡くなる前夜に書いたものだろう。
「お前さぁ……結局、子供達を守れなかったじゃねぇかよ、まったく……カッコ付けやがって……」
思わず、俺は呟いていた。
「それに……まだ、俺……謝って……貰ってないぞ……」
もう限界だった。
溢れる涙は、もう止まりそうにない。
か弱い女の子が、ミアが、怪物から子供達を懸命に守ろうとしたのだ。
怖かったに違いない……。
助けて欲しかったに違いない……。
そこから逃げ出したかったに違いない……。
なのに、ミアは……。
逃げなかった……!
子供達を守ろうとして、ミアは巨大で獰猛な食人鬼に一人で勇敢に立ち向かったんだ。
「ったく……何で……だよ? ミア……何で……死んじまったんだよ……!」
ミアの壮絶な最期を想像し、俺はただ涙を流す事しか出来なかった。
「望み通りに……世界中の誰よりも……誇れる恋人が居たんだぜって……自慢してやるから……俺は生涯、絶対に……忘れたりしないから……な、ミア……!」
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
そして、月日が流れた。
俺は帝国の騎士団長へと昇進していた。
団長となった俺は、辺境地帯に騎士団の駐屯地を作った。
かつて、魔物に襲撃されて壊滅した村の跡地だ。
俺は、そこを『ミア駐屯地』と名付けた。
付近の未開の森を切り開き、全ての魔物の巣を徹底的に殲滅し尽くした。
暫くすると街道が開かれ、人が集まり始めた。
駐屯地はいつしか『ミアの町』にまで発展した。
現在は、魔物一匹すら居ない平和な地域となっている。
そして。
壊滅した村の教会があった場所。
大聖堂の聖女アリスは、そこに女神像を建立してくれた。
『慈愛の女神ミア』
聖女によって、ミアは慈愛の女神として認定されたのだ。
「なぁ、聞いてくれるか? 慈愛の女神ミアは、実は俺の恋人だった人なんだぜ」
〜完〜
最後までお読み下さり、有難うございました。
いわゆる魅了されての寝取られ物な訳ですが、耐え忍びパート&ざまぁパートを省略し、寝取られヒロインの贖罪に絞った展開にしてみました。
この手の話では、たとえ魅了によるものでも寝取られヒロインに対して優しくない読者の方が多いですよね。
だったら最初から救われない展開にしちゃえ!って。
要するにアンチテーゼ的なやつです。
はっきり言って、執筆するのは苦痛でした。
ミアが不憫で不憫で……報われる事もなく死ぬのが確定している訳だし。
それから、その後のジャンが誰かと結ばれたのかは判明しない様なラストにしています。
ミアを想い続けて独身を貫いてるかもしれないですね。
その辺りについては、読者の皆様のご想像にお任せしたいと思います。
それでは、また何処かで!
ついでに評価して頂けると嬉しいです!