贖罪
その日の空は、どんよりと曇り空。
最近になって、村の近くで魔物の群れが頻繁に目撃されていた。
既に、帝都に騎士団の派遣要請もされている。
とは言え、この村には自警団も居る。
小鬼の群れに襲撃されたところで、返り討ちにするのは日時茶飯事だとの事だ。
「こう見えてもミアお姉ちゃん、槍の達人なのよ! ミアちゃんの槍捌きと言えば、王国中で知れ渡ってるんだからね!」
怪物目撃の報告に怯えている子供達を元気づけようと、槍を持って適当な事を口にする私。
子供達に強がってはみたものの……。
正直なところ、震えが止まらない。
教会の扉を厳重に閉じ、子供達と共に過ごす恐怖の時間。
この子達は、これまでもこんな時間を過ごして来たんだろうか……。
「怖がらなくても大丈夫だよ、もうすぐ帝都から騎士団がやって来てくれるから! ピカピカの剣と鎧、きっとカッコイイだろうね!」
何にせよ、一刻も早く騎士団には到着して欲しいものだ。
再び子供達を元気づけようと、そんな事を口にした、まさにその時だった。
「来たぞ、魔物の群れだッ! す、凄い数だ! みんな、家から出るなァーーーッ!」
遂に、村の中に魔物が侵入した……!
先程の槍を片手に、私は固唾を飲み込む。
この子達は、私が守り抜かなくちゃいけない……!
「みんな、台の後ろや椅子の下に隠れてなさい!」
私の声に、子供達は青褪めながら指示に従ってくれた。
「うん、みんな偉いぞ! あとはお姉ちゃんに任せなさい!」
そんな訳がないッ……!!
怖い、怖いよッ……!!
魔物相手に、私なんかが戦える訳ないじゃない……!!
今すぐにでも逃げ出したいよ……!!
ジャン、助けて!!
今すぐに、颯爽と現れて私を助けてよッ……!!
教会の外では、村人達の阿鼻叫喚の声が鳴り響く。
死にたくない……!!
私、死にたくない……!!
まだジャンに再会も出来ていないのに、私は死にたくない……!!
そして、教会の扉が蹴破られる。
扉の外には、巨大な食人鬼の巨体が見えていた……。
さよなら、ジャン……。
こんなお別れ、格好悪いなぁ……。
贖罪って厳しいんだね……。
それと……結局ジャンに謝れなくて、本当にごめんなさい……。
ミアは、ジャンの事が大好きでした。
嘘偽りなく、貴方だけを愛していました。
最後に、この子達が心配です。
もしも神様が居るのならば、この子達だけは助けてあげて下さい。
お願いします。
最後のお願いくらい、聞いて欲しいんだけどなぁ。
そして……。
槍を突き出しながら、私は食人鬼に向かって走り出したのだった。