プロローグ
「こりゃ酷ぇな……」
あちこちに横たわる遺体の数々。
同僚が呻く様にそう呟いた。
どれも身体中を喰いちぎられ、五体満足の遺体は見当たらない。
まさに死屍累々な地獄絵図を前に、数名の団員が嘔吐してしまっている。
ここは、魔物に襲撃された辺境の小さな村。
こうして目の当たりにすれば、凄惨な殺戮が行われたのを改めて実感する。
かつて訪れた事もある村の惨状に、俺は自分の無力さを噛み締めていた。
村を壊滅させた魔物の群れは、帝都から派遣された騎士団である俺達が既に討伐している。
もしも、到着が数日でも早ければ……。
そんな思いを団の誰もが胸に刻みながら、黙々と検分を執り行なう。
村の中央部に位置する教会。
他とは違い、入り口には巨大なオーガの死体があった。
人間を好んで喰い漁る、食人鬼と称される凶暴な怪物だ。
オーガの腹部には槍が突き刺さっている事から、最後まで抵抗した者が居たのだろう。
破壊された扉の脇に横たわる、若い女性と思わしき遺体。
その顔面はごっそりと抉り取られ、身体も引き裂かれて下半身が見当たらない。
中に入ってみるも、やはり凄惨な殺戮が行われていたのは変わらなかった。
数人の子供の遺体が無残な姿を晒している。
入り口の女性は、子供達を守ろうとしていたのだろうか?
名も知らぬ勇敢な彼女に対して、俺は黙祷していたのだった……。
検分の結果、生存者は無し。
全ての遺体は現地にて手厚く火葬された。
そんな後味の悪い任務が終わってから数日。
俺は知る事となる。
子供達を守ろうとした女性こそ、かつて俺を裏切って袂を別った婚約者のミアであった事を……。
俺の元に届けられたミアの遺品である日記には、贖罪の日々が紡がれていたのだった。