朝焼けの旅立ち
「はああああ緊張する……」
早朝、太陽がようやく目を覚ました頃。鏡を前に今にも死にそうな顔を晒している男が一人いた。
眠りの浅さがくまとして顔にはっきりと刻まれており、体も小刻みに震えている。
「実は受かってないとかないよな……そんな訳が……」
「カレイド!!!」
「うわあああ!!!?」
朝の静けさに似合わない怒号のような大きな声が後ろから彼の背中に投げつけられた。
今にも死にそうな男、カレイドと呼ばれた青年は驚きのあまり転倒し、首を曲げて後ろを向く。
そこに見えたのは車椅子に乗った青髪の青年だった。
「よう、カレイド。死にそうな顔してんな」
「スウェンかよ……ビビらせないでくれ頼むから……」
「いんや無理だな、そんな面白い顔が拝めんのにビビらせないのは損だろ」
けらけらと笑いながら、からっとした笑顔を向ける声の主はスウェン。女性とも取れるような中性的な容姿をした青年だった。
「お前全然寝てないだろ?」
車椅子を動かしながらカレイドの前へスウェンは歩を進める。
「あぁ、一睡も出来なかった……。ベッドの中で出来たことといえば慄いて震えることくらいだった……」
なんとか震える体を静止しつつカレイドは首肯する。
「髪もボサボサだな、晴れ舞台だってのによ」
スウェンはカレイドの赤い髪をいじりながら、少し微笑む。
「心配しなくても受かってるって、珍しいなお前がここまで追い込まれるなんてさ」
頭をポンポンと叩きながらスウェンはカレイドを宥めた。
「実際、合格通知は届いてるから入れるのは確定してるんだけどどうもな……」
「まぁ緊張する気持ちは分かるぜ」
スウェンの言葉を区切りに、少しの静寂が訪れた。
お互い、上手く言葉を紡げなかった。
お互い、思うことがあったから。
「なぁ、スウェン」
その静寂を破ったのはカレイドの方だった。
カレイドは視線をスウェンに置くことが出来ず、床を見ながら言葉を放つ。
「俺さ、なるよ」
それは決意表明だった。立ち上がり、スウェンの空色の瞳をまっすぐ見据え、伝える。
「魔術医になって、お前の体を治すよ」
「俺の為に無理する必要はねぇよ、ってもう言っても仕方ないとこまで来ちまったな」
「あぁ」
微笑みながら返事をするカレイド。
そんなカレイドを見ながら、スウェンは大きく息を吸った。
自分のせいでとか、こいつには他になんかあったんじゃなかったのか?とか、またいつもの考えが脳裏を過ぎるが、もう目の前の男を止める言葉を吐く意味はなかった。
「頼むぜ、カレイド」