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その想い出は水泡がはじける時に

作者: 彩情一式

 幼い頃から一緒だった。

 君はいつも元気に外を駆け回っていた。高校生になってもそれは変わらなかった。僕はそれについていくだけ、君がいつも誘ってくれるから。一緒に行こうって。あるときは早朝に、あるときは夕暮れ時にと気分によって時間帯も行き先も様々だった。君は、気がすむといつも炭酸水を買って飲む。そして次にはこういうんだ。


「この刺激が人生にも欲しいんだ」


 その言葉の意味が僕には理解できなかった。ただ、いつも炭酸水を飲んでいる君は本当に人生を楽しんでるかのようで羨ましかった。

 だから僕も真似して炭酸水を一緒に飲んだ。

 いつまでも続くと思っていたこの君との関係は大学受験を機に失われてしまう。


「私さ、東京の大学に行こうと思うんだ」


 その言葉を聞いた時、僕も東京の大学に進学することを考えた。考えて考えて、諦めた。僕には新しい土地に一歩踏み出すことが怖かったんだ。いつものように君が、僕に一緒にいこうと言ってくれたなら、僕は…。


 君を見送ったあの日、「またね」って言って別れたあの日。君と会えなくなったあの日。君は最後にいつも飲んでいた炭酸水を僕にくれた。最後だから一緒に飲もうって。

 口の中に広がる炭酸の刺激が、いつもより弱く感じられた。


「東京にも遊びにきてね」


 君はそう言って駅に向かっていった。僕に勇気があれば、一緒に東京に行って、またそこで色々な場所を君と巡れたのかもしれない。もう遅いと分かっていてもそんな後悔が積もっていく。気を紛らわせようと炭酸水を口にふくむが、どうやら炭酸が全て抜けてしまっているらしい。運が悪かったのだろうか。

 違う。君はいつも僕に言っていた。


『この刺激が人生にも欲しいんだ』


気づいたら僕は走り出していた。


「待って!」


 僕の声を聞いて君は、いつも炭酸水を飲んでいるときのような、そんな表情をしていた。

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