2-4 お天気雨から茜色の空に染まり始める
8月事葉月――…残暑お見舞い申し上げます。
毎日、暑いですが楽しんでいただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
警察は、失踪と誘拐、拉致――…考えられる事を捜索しているらしいが…何一つ掴んでいないらしくネットワークが、大炎上しているらしい。
無理も無い。
この『少女失踪事件』の前に別の事件が起こったばかりらしく、人手不足等の理由が積み重なり後回し状態になっていると、曾祖母の秘書であり遠縁にあたる“椿”が教えてくれた。
大学に登校してもクラス中から持ちきり話題になっているため、耳にタコが出来るほど頭が痛いというのに携帯が鳴った。
辻本蓬からのメールだった。
彼は、幼稚園時代からの幼馴染と言う名の腐れ縁…興味が沸いたら厭きるまで噛み付いたら放さない…まるで、スッポンのような男友達の一人だ。
メールの内容は、蓬の友人の一人・里中純という高卒ながら期待の新人記者からのメール内容を丸ごと送ってきた。
蓬もだが、この里中と言う男もスッポンのようにしつこい…何時かストーカーで捕まるんじゃないか?と、心配を通り越して『赤の他人』として接している。
蓬も例の事件が気になっているらしく、自分なりに調べているらしい…以前、危険な目に遭ったというのに懲りていない事に苛立ちと腹が立っている時だった。
椿の「如何なされましたか?菜種様」と、声を掛けられた。
椿の声に反応した私は、周りを見ると…静まり返っている教室と青ざめた顔をしているクラスメイトと私の右手に握り締められ今にも壊れそうになっている携帯の光景だった。
その光景を見た私は、握り締めていた携帯を机に置きながら「また、やってたか…?」と、椿に確認すると椿は「はい」と、即答されてしまった。
椿の反応に私は「そうか」と、返しながら椿が大事そうに両手で抱えている分厚く中身の入ったA4サイズの茶封筒が目に入った。
直ぐに曾祖母宛の依頼だと分かったが…何故か椿は、私の反応を探っている視線を感じつつ理由を聞くと『やはり』曾祖母の依頼だった。
何度も断っているのに…椿は、やり手だ。
彼女は、菜種と果歩と同い年であり…遠縁であるが、曾祖母の秘書という肩書きだけでなく…容姿端麗の黒髪美女であり頭脳明晰、性格良しとスポーツ万能の四拍子が揃っている。
その頭の良さと回転の速さを利用し、既に下調べをした後に用意していた言葉を言えば済むようにしている。
よく『敵に回したら、どうなるか怖い』という言葉通りの女性なのだ。
結果…何を言っても断っても“無駄”なので、折れるしかない。
椿は、私に分厚く中身の入った茶封筒を渡した――…茶封筒の中身は、複数の依頼主から預かってきたのであろう『行方不明者』の個人情報が書かれたリストだった。
封筒の中身の書類を触れた瞬間――…血が一気に凍るような冷気が、ほんの一瞬だけ走った。
私の中に流れている『巫女の血』からの“警鐘”だと、子供の時から母に教えられた。
その時の母の顔が、悲しそうで…申し訳なさそうにしていた。
母自身も私とは、違うが…実力のある『巫女』の一人だ。
母の子供時代も私と似たような事があったが、伯母の事で直ぐに上書きされクラスメイト達から同情されて「大変だね」と、慰められてしまい…逆に恐縮していたそうだ。
父とは、高校で出会ったらしい。
父からの一目惚れで、告白されて交際したらしい。
うろ覚えだが…母は「(厭きるだろう)」と、考えていたが…結婚してくれたそうだ。
母と父が結婚するまでの道のりは、茨の道かと思われた…何故なら父の実家は、ある大手会社の社長の御曹司で跡取りだったそうで「母と結婚するなら絶縁するぞ!」と、脅されたそうだ…しかし、むしろ父は「喜んで!」と、言い捨てた後に母の実家の婿養子になったらしい。
当ての外れた父の実家は、訴えを起こすも母の実家が用意した弁護士により敗退。
無事に母と父は、結婚した後に私が生まれた。
私が生まれた事を何処から聞きつけたのか…父の実家の祖父母から「孫を跡取りに!」と、接触が合ったらしいが、また弁護士に連絡し『厳重注意』として慰謝料請求を行ったらしい…その結果、苦虫を噛み潰したような表情を起こしながら諦めてくれたそうだ。
その父の実家は、何でも顔と名前の知らない従兄弟が引き継いだそうだが…経営が火の車で何時、倒産してもおかしくないらしい。
父の親戚と名乗る人から何度も連絡が来たらしいが「また弁護士を雇います」と、言うと大人しくなったそうだ。
自分の一族の身勝手さに嫌気を実感した父は、何度も母と曾祖母に謝り続けたそうだ。
しかし、母と曾祖母は、父を一切責めず…むしろ感謝していた。
ただでさえ、特殊な職業を行っている我が家にとって『父』の存在は、仏様か神に近い…この家業を理解してくれるか否かなのだ。
母は、父の事を始めは『物好きな人』と、思っていたが「これでもか!」と、言わんばかりに母を大事にするどころか、もっと『巫女』等の神職を理解するために高校を卒業後には、お坊さんの修行が出来る専門校に通った後に無事に卒業し、法師として母と曾祖母、叔父のサポートを今でも続けている。
そんな…父の背中を見て育った私にとっても「父は、凄い人」と、今でも自慢だ。
そして、生まれた我が子である私も『巫女の血』が血族の中でも『上』らしく…その事を知った曾祖母と両親は、言葉が理解できる年頃になると直ぐに謝ってくれた。
しかし、私は「母さん達は、悪くないよ」と、大人になった今でも言っている。
その『巫女の血』に導かれるように一枚一枚の書類を椿に次々と渡していった。
椿は、淡々と私から静かに書類を受け取っていった。
約二百枚くらいあった書類は、二種類に分けられた。
感触のあった書類は、たった指で数えられる数枚に対し…何も感じられなかった書類は、分厚かった。
分厚い書類は、勘だが…自らの意思で行方を晦ましている“生きている”人たちに対し…指で数えられる数枚の書類は“死んでいる”人たちだろう。
導かれるように二つに割れる分厚かった書類は、直ぐに終わりを告げた。
最後の書類に手を伸ばした瞬間だった。
一瞬だけ、鉄の臭いと生温かい“液体”を触ったような『ヌルッ』と、した感触を味わった。
思わず持っていた一枚の書類を落とした。
その様子に椿は、直ぐに反応し「菜種様、大丈夫ですか?」と、険しく青ざめた顔をした私を心配の言葉を掛けた。
私は、椿の言葉に我に返る事が出来たが…落としてしまった一枚の紙を拾う事ができなかった。
私の様子に直ぐに理解した椿は、私の足元に落ちている書類に手を伸ばした。
そして「後は、私奴が引き受けます…お疲れ様でした、菜種様」と、言いながら深々とお辞儀をした。
椿の対応に私は「うん…任せるよ、椿」と、言うと再び一礼をし、その場を後にした。
私は、椿の姿を見送るしかなかった。
そんな私達の様子とやり取りをビクビクしながら見続けるクラスメイトをよそにチャイムが鳴った。
チャイムが鳴るや否や、いそいそと忙しなく席に着いていった。
まだ私が、入学当初から何処から知ったのか“占い”を弄るためか、好機の目にさらされ続けたクラスメイト達だったが…ある日を境に私に怯えるようになった。
原因は、知っているが…自業自得だろう。
他人を馬鹿にすれば、倍となって己に不幸が降り注ぐ――…昔から分かっている事を何故か、経験しないと理解しない。
そんな暇があれば『自分が“幸せ”になる』方法を見つければいいのだが…何故か『他人の不幸は、甘味』であり『自分の幸せ!』と、力強く勘ぐる人達が居る…必ず、不幸せになるというのに…現に伯母・緑子と同じような人が一本道に突き進むだけなのだ。
しかし、言っても聞かない人たちに何を言っても無駄なので、放置に限る。
何時の間にか教師が教卓に立ち、着々と講義を進めていった。
講義の話しを見聞きしながら…何気に窓の外を見た。
青空だが…窓には、所々に小さな雨粒が付いていた。
気づかなかったが、お天気雨が降っていたらしい。
また何気に別の事を思い出していた。
お天気雨の別名の事を…どうして“今”思い出したのかは、分からない――…知ったとしても「(どうする事なんて…)」と、思いながら講義の話しを集中した。
第二章 -完-
また書き直すと思いますが…今日で、2章を終了です。
ありがとうございました。