5-16 昔噺の追憶(16)
書き溜められましたので、投稿させていただきます。
よろしくお願いいたします。
しかも今回は、前回の狼よりも大柄なツキノワグマ――…よく見ると、お腹に負担をかからないように体当たりをしていた。
――この場から動けなくなってしまい…どれ位、経っただろう。
狼の一件により、安全性を考慮しながら何度も話し合って変更したというのに…狼も危険だが、運悪く“若い”ツキノワグマ。
何より、恐ろしいのが…若いツキノワグマは、約3~5歳児の子供と同じ位の好奇心旺盛であると同時に『驚く』と手の付けられなくなるほどの大暴れを繰り出す――…と、年齢補理由に辞めた当時のマタギさんは…語り部のように話した。
だが――…電光石火な体当たりをし続けられた結果…遂にツキノワグマが、音を上げたと思ったら一目散に森へと逃げ去った。
逃げる途中に大人の太もも位の枝に引っ掛かり…あたふたしていたものの、勢いよく突き切ると太い枝を折りながら慌てながら森の奥へと逃げ込んでいった。
そんな逃げ去ったツキノワグマの姿が、見えなくなっても…警戒心を解かない狐様の黒き目は『ギラリッ』と、光っていた。
――何もかも“突然”だ。
突然に始まり、突然に終わる――…狐様の対峙を見守る事しかできなかった大人子供の恐怖心は、ようやく解き始めていった。
しかし――…直ぐに「メェエー!」と、子羊達の鳴き声に我に返った。
今直ぐにでも父羊の許に駆け寄りたい子羊達が、次々と首輪紐を勢いよく引っ張られ…その拍子に手紐を『するり』と、抜けた。
止める暇なく、一目散に父羊の許に駆け寄るや否や…子羊達は「メェエ!メェエ!」と、まだ横たわる父羊を「終わったよ。帰ろう」と、言っているかのように…早く起きるように顔や体を擦り付けるながら促していた。
だが――…どんなに子羊達が、促しても…父羊は、ピクリともしなかった。
誰もが、恐れていた“最悪な結末”以外に何物でもなかった――…その様子に狐様が、父羊の許に歩み寄った。
狐様が、歩み寄ると同時に子羊達は「メェー…メェエー…」と、まるで『悲願』しているかのように見えた。
子羊達からの“願い”を聞き入れたとばかりに狐様は、横たわったままの父羊の匂いを念入りに嗅ぎ終えると――…父羊の額に鼻で『チョンチョン』と、軽めに触れた。
その瞬間に『ピクリ…』と、父羊の頭が…動いたように見えた――…そう見えた錯覚だと思おうとした時だった。
父羊の体が――…まるで、植物の成長記録のスロー再生のように『ピクリ…ピクリ…』と、徐々に動き出した。
ありえない光景に一同、目を見開き…お地蔵様のように固まった。
人間の我々を物ともせずに父羊は「何事だ?」と、言わんばかりに辺りを見渡すと同時に『ガバッ』と、立ち上がったのだ。
――奇跡。
ツキノワグマの叩きつけられて以来、狐様の活躍により安全を確保したものの…現実を見るのが、恐ろしく…父羊の許に駆け寄れなかった。
そんな人間の心情なんか露知らずに放置され、一目散に父羊の素に駆け寄った子羊達の姿を見て――…胸を締め付けられてしまった。
しかし、それを…どんなに子羊達が、大泣きしても『ピクリ』とも動かなかった父羊を狐様に軽めに“起こされた”のだ――…又もや信じられぬ出来事に目が、点になるしかなかった。
同時に誰もが「(やはり、狐様は『神の化身』である)」事を…口にしなかったが、確信を得た瞬間だった。
――その後、またツキノワグマの警戒を強めながら…下山していった。
幸いにもツキノワグマの“出待ち”は、無かった――…育った環境によるそうだが、頭脳戦も得意としている個体も存在しているそうだ。
下山途中に狐様は、何度も振り返りながら…周囲を警戒してくれていた。
無事に下山し、村に到着すると――…大人の誰かが、後ろにピッタリと着いてきていたはずの狐様の様子を窺ったら…また忽然と姿を消していた。
また目を点にしていると――…その大人の驚愕した顔を見た子供達が、周囲を見渡してしまい…狐様の姿が、無い事を知るや否や“また”泣きじゃくり始めてしまった。
泣き始めてしまった子供達を宥めても『焼け石に水』状態――…伝染するように子羊達も鳴き始めてしまった。
――因みに狐様は、森の目と鼻の先の入り口にて…身重の体のため、火照ってしまい一休みをしていた。
人間の一般的に高温期は――…低温期よりも約0.3~0.5度の程度の基礎体温の差が、みられるそうです。
妊娠していると約37度に近い微熱が、続く方も多いようです――…これは“妊娠を維持しよう”とするホルモンの影響で、熱っぽさを感じるようになるそうです。
狐様も種族問わずに例外なく『妊婦』だ――…先程のツキノワグマの対峙も加わり、妊娠前の体温ではない事に戸惑っていた。
しかし――…長居は、しない。
先程のツキノワグマの件もある、が――…人の言葉と気持ちを感づける狐様は、何かと大人のみならずに子供達に大人気だ。
ちょっと、お手洗い休憩でも気が抜けない――…そろそろ、戻ろうと立つと子供達の泣きわめきである。
子供達の泣きじゃくりながら必死に狐様を呼びつつけていた――…狐様は、軽く溜息をつくと直ぐに出入り口に向かった。
狐様が、駆けつけるまでの間――…大人達と年長者さん達が、泣き喚く子供達を必死に宥めていた。
子供達だけでなく、子羊達も鳴いていたが…大半の子羊達は、父羊に寄り添って大人しくしていた。
――困り果てていると、狐様が“ひょっこり”現れた。
狐様が、現れるや否や…子供達は、呆気に取られながらも…あんなに泣き喚いていたというのに『パッ』と、花開いたように無邪気な笑顔になった。
例えるなら――…まだ先の話であるが、遊園地にて“お目当て”の人気キャラクターに出会った時の子供だろうか?それでも…くずったままの時の方が、多い気もするが…。
子供達は「狐様ー!」と、また駆け寄ろうとした所を大人達と年長者さんに速攻阻止されていた。
子狐時代から人懐っこいとはいえ、野生動物である狐様の方が『距離』を解っているのもあり――…いくら阻止されているとはいえ、また森の入り口前に行く姿勢を取られていた。
それでも…お構いなしに狐様の許へと駆け寄ろうとする子供達に大人の一人が「狐様は、大事な時期だから駆け寄っちゃ駄目だ」と――…諭すと、子供達も次々に『ハッ』と…すると同時に騒ぐのを止めていった。
子供達も親御さんや兄姉から「狐様が、妊婦さんなんだよ」と――…教えられたから知っていた。
何より“妊婦さんを大切に大事にする・見守る”事を言葉の意味を解り始めた頃に親御さんだけでなく、子供達の兄弟からも指導という名の教育を施されていた。
本来ならば――…縄張りを拡大するために生まれ育った故郷を離れるそうだが、それでも狐様は『戻ってきた』のだ。
――村に戻ってきた理由は、村の作物類を脅かすネズミやモグラの“味好み”だったのだろうか?
それとも…もしかしたら狐様と友達の羊との皆、知らぬ内に『約束事』を交わしていたのかもしれない。
何はともあれ――…村の収入源である作物類を護ってくれる“狐”様が、今にも待ち遠しい『命の誕生』と共に見守っていくつもりだ。
例え、子狐と共に村に去っても――…狐様親子が、決めた事なのだ。




