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狐の嫁入り -土姫ノ章-  作者: ツカサシキ
23/41

5-5 昔噺の追憶(5)

4月事卯月見舞いを申し上げます。

ご拝読いただきまして、ありがとうございます。


今回もよろしくお願いします。

※苦手な方は、お閉じください。 

 僧侶は「(何故、此処に…?私は、名残惜しいのだな…せっかく、居心地の良い場所を見つけたが――…明日の朝に別れに伺わせていただきます)」と、手を合わせた。


 その時に『チリン…』と、風鈴のような耳に心地よい鈴の音――…音のした方に目を向けると、狐の面を深々に顔を隠した…見た目は、約七~八歳位の女児であった。

 顔を見られるのが、嫌なのだろうと勝手に思いながらも深々と被っている狐の面の次に目に入ったのは、赤地に愛らしい白梅の模様を描かれた振袖に身を包んでいた。


 一目で「(神社の主様だ!)」と、分かった僧侶は…深々と頭を下げた。


 ――狐様は『此処、去ルノ?』と、鈴を転がしたような可愛らしくも寂し気に声を僧侶に問い始めた。


「はい。そうでございます」

『…此処、気ニ入ラナカッタノ?』

「とんでもございません!実は…節操は、使いのために旅の途中でございます」

『ソウナンダネ。ジャア――…コレ、アゲル』と、僧侶に“あるもの”を差し出した。


 僧侶は、恐る恐る…狐様から手渡されたののを受け取ると――…五円大位の大きさの可愛らしい白く塗られた木彫りの梅の花。

 その梅の花の咲きに紅白紐が、括りつけられていた――…また一目で「(お守り)」だと、察した僧侶は…御膳前だというのに顔を上げた。


『ソレヲ持ッテル間、守ッテアゲル』


 そう狐様は、言い終えると――…また『リンッ…』と、鈴の音がした。

 鈴の音と同時に『ゴオッ』と、突風を引き起こした――…まるで「早く起きて」と、言われるように…。


 夢物語のような眠りから覚めた僧侶は「(夢、だった…?)」と、思ったそうだが…直ぐに“夢”でない事に気づいた。


 何故なら夢の中にて…手渡された愛らしい『お守り』が、右手に握っていたからだ。

 僧侶は、直ぐに既に終わらせていた旅支度を済ませ…宿屋の番頭さんと女将さんに謝礼金を渡し終えると、女将さんから頼んでいた弁当を持って出た。


 僧侶が、真っ先に向かったのは――…毎朝、欠かさずに参拝していた稲荷神社。


 稲荷神社に着いて早々、お供え用の小皿と湯飲み茶わんを取り出し…井戸から水を汲んだ水桶に付けながら洗った後に手拭いで、水気を丁寧に拭き取る。


 拭き取った小皿には、女将さんから頂いた弁当から稲荷寿司を二個を取り出し…小皿に盛った。

 そして、湯飲み茶わんに水筒から茶を注いだ後に――…お供えした。


 お供えし終えると、お社の前に跪き…また深々と頭を下げた僧侶は「夢に出ていただきまして、ありがとうございます。落ち着きましたら立ち寄らせていただきます」と、言葉にして終えると『フワリ…』と、何処からか花の香り。


 ――仄かな梅の馨り。


 もう既に戦に引き起こされた土煙と家屋や草木の焼ける臭いに慣れてしまっていたが、もう季節外れだというのに…大工時代に春の楽しみにしていた懐かしいくも消え去ろうとしていた記憶を思い出した。


 僧侶は、また深々と頭を下げた…狐様が、側にいるからだと悟った。


 軽く顔を上げた僧侶は「行ってまいります。本日は、早くて申し訳ありませんが…お食事を御楽しみください」と、また頭を下げた。


 僧侶は、意を決したかのように立ち上がり…荷物と借りた水桶を手に持ち…稲荷神社を後にした。


 ――狐様から贈られた『お守り』に毎日、感謝をしながら旅路を急いだ。

 途中、何度も恐ろしい目に遭った事あったものの…お守りの“力”に難を逃れた。


 そして――…その死と隣り合わせだった旅が、終わりを告げた。

 幸か不幸か、なんと…急であったが、生き別れとなった師匠と修行僧仲間達と再会したのだ。

 誰しも思わぬ再会をするや否や、子供に戻ったかのように再会を喜びつつも…目の前の『役目』を片づける事にした。


 その役目とは“戦を終わらせる”ため――…師匠から託された書状の正体は、御上の御子息が…強制的に戦と化した『咎める』内容。


 ――直訴状。

 真面目と評判だった御上の御子息は、時と共に“愚行”を働きだしたのだ――…その結果、私利私欲にまみれた後戻りできない悪戦と化してしまったのだ。


 始まりは――…御上は、息子に与えた仕事への“働きぶり”を心配し…部下に『素行調査』を命じた。


 主に命じられた部下は、御子息の居る地へと足を運び…愕然とした。


 ものの見事に――…と、言ったら失礼である…が、見事なまでに素行の悪い“ドラ息子”となっていった。

 恐らくだが…親の目が、離れた反動のせいであろう。


 ――部下は、事のあらましを…せっせと書き進めていった。

 日記…日誌とも呼べる報告書を作成した後、恐れていた事が…ついに発生してしまった。


 遅かれ早かれであるだろうが…父である御上が、抜き打ち素行調査に来ていた部下の存在に気づいたドラ息子が――…身分を隠していた部下を斬ったのだ。


 不幸中の幸い――…と、言ったら不謹慎であるが…その現場を目の当たりにしてしまい悲鳴を上げた村人のお陰で、部下の命は、助かった。


 だが、父の部下を切り捨てた下手人であるドラ息子を取り逃がしてしまった。


 しかしながらドラ息子の“潜伏先”は、既に把握済みであるが…部下の命は、助かったものの…深手のため絶対安静。


 その部下の手当てをしたのが、師匠の寺だった。

 師匠は、住職をしながら蘭医をしていた――…元々、寺の息子であったものの次子であるため医師の道を目指す事にし…蘭医の元に弟子入りを果たした。


 ――しかし、医師としての認められる頃合いに寺の後を継いだ。


 師匠の兄が、逆恨みによって…亡くなってしまったのだ。


 ――何故、師匠の兄が?師匠の話では…真面目で、責任感のある、面倒見の良く、誰からも頼れる人だったそうです。

 特に老いて弱った野良犬や野良猫の面倒を最期まで、看取るほど…心優しい人。


 それよりも…何故、逆恨みにより亡くなってしまったのか?


 亡くなる数日前の事――…実家の方針により奉公修行を無事に終えた兄の目に飛び込んできたのは、しつこく村娘に言い寄っている一人の浪人。


 遠出で、距離あったものの…直ぐに村娘は、実家である寺にも取れたての野菜を届けてくれる小父さんの娘さんで、幼馴染だった。


 実家でも自給自足をしているものの、やはりプロの腕…しかし、どうしても美味しい野菜を作る際に怪我や酷い手荒れをしてしまうため…困り果てていたところを薬草を煎じた傷薬と物々交換をしていたため師匠兄弟とも仲良くなっていた。


 子供の頃から兄や他の年長者の子供を筆頭に弟である師匠や村の子供達と一緒に米や野菜の収穫を手伝ったり、山に入り山菜や木の実を取りに行ったり…川で、川魚釣りをしたりもしていた。


 しかし――…年月というのは、あっという間。

 年頃になると同時に『奉公修行』に行く事となってしまった。


 跡継ぎになる修行のため、仕方のない事とは言え…修行を終えたら帰ってくる決まりだったので、別れを惜しまれながら見送った。


 ――兄を見送って、数日後に師匠も“医師”となるために村を後にした。


 村から離れても師匠を指導していた蘭医の先生に「帰れる家が、あるのなら家族や友人に顔を見せて安心させて来い」と――…送り出されていたそうな。


 長期休暇になる度に帰郷していた師匠は、蘭医の先生から勧められた日持ちする煎餅等の茶菓子や塩漬けか酢漬けにされた海産物を事前に用意され、手渡された。

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