5-4 昔噺の追憶(4)
3月事弥生見舞い申し上げます。
ご拝読いただきまして、ありがとうございます。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
――僧侶は、分かっていた。
所謂「此処も戦地と化すだろう」と、思考をし…食料を提供してくれた村人達だけでなく、保護した子供達も今や立派に成長と共に物書きをものともせずに『考えられる』能力を身に着けていた。
そして、意を決した――…彼等に連絡のために集めた僧侶は「此処も戦場となるから直ぐに逃げ出しなさい」と、家中の畳を上げるように促した。
しかし、その話を聞いても…村人も子供達も直ぐに行動を移さなかった。
突然の話でもあった、が…長年、沁みついた思い出深いからだ――…いくら世話になったとはいえ、僧侶の話であっても譲れないものがある。
――だが、あっという間に事態というのは…急変する。
数日後、僧侶の言葉通りになったからだ。
遅効性の毒に罹ったかのようにジワジワと、浸蝕と侵蝕していくかのように…戦場になっていった。
何度も僧侶から説得を受けただけでなく、遠方から逃げて来た者からの情報を得て…重い腰を上げたのであった。
また一つ、活気のあった村の幕下ろしつつも…それでも村に残り“最期の人生”を送ろうとした者も居た、が――…直ぐに思い直した。
何故なら自身の子と孫だけでなく…他の村人達からの説得もあったからだ。
しっかりとした足取りで、皆と一緒に逃げる村民の姿を見届けたのを確認した僧侶は…自ら逃げるように言ったのにも拘らず、地に残り『残りの人生』を終わらせるつもりであったからだ。
――だが…直ぐに僧侶の姿のない事に気づいた村の者、何人か僧侶を迎えに行った。
調達兵士の見張りの目を掻い潜り…焦る気持ちを抑えつつ、僧侶の居るであろう寺に足を運んだ――…しかし、手遅れであった。
何故なら…僧侶は、殺された後であった。
思わず、音が鳴ろうが構わずに駆け寄り…僧侶の亡骸を抱き上げた。
抱き上げたら…まだ温かかった。
村人は、嘆きを必死に抑えた――…見張りに見つかったら厄介である事を生前から僧侶に言い聞かせられていたからだ。
僧侶の懐には…今でいう、折りたたまれていた一枚の紙を忍ばせていた。
何気に周囲を見ると、放り投げられた書物――…既に血に染まってしまい無残な状態になっているが…日頃から僧侶が、書いていた『日記』だった。
その日記から一枚の紙を破り、何かを包まれているようだった――…しかし、懐に忍ばしていた紙より僧侶の日記が…無意味に気になってしまい、読んだ。
村人は、僧侶の亡骸に向かい謝罪しながら「読ませてもらいます」と…許可を取ってから日記を手に取った。
――手に取った日記は、血の湿りにより…少しだけ重かった。
所々、血に染まってしまっていたが…先程まで、今日の分を書いていたのだろう…何とか読める部分から『あっという間に戦火と化しつつある村に残っている民達の何とか、説得し見送る事が出来た』と、書かれていた。
読み進めていくと『村に残っていないかを確認し終えたら…お守りと共に最期を迎える事にする』と――…最後ではなく、最期と書かれていた事に気になった村人は…前の頁を読んで、愕然とした。
――なんと、僧侶は…死を迎える悪病に罹ってしまっていたのだ。
実は、このところ…せき込んでいた。
僧侶は「恥ずかしながら風邪を長引かせてしまった」と、笑っていたが…心配した村人と子供達が、医師の元に駆け込み…診せた事があった。
恐らく、その日に――…医師から病名と余命を伝えていたのだろう。
医師も医師で、僧侶から子供と村人達に黙っているように志願したと――…村人の目の前が、一気に濡れたのを感じた。
自分の意志とは、関係なく…熱くなった目頭から涙が、溢れて流れてしまった。
村人は、嗚咽を必死に抑え込んだ――…此方に向かってくる足音が、荒々しく聞こえてきた。
足音からして、見張りに気づかれたのか…様子を見に来たのかは、不透明だが…長居した事に変わりなかった。
村人は、僧侶から日記と懐にあった紙を無我夢中に少し乱暴に懐にしまいながら…足音から反対の壊された障子から部屋を後にした。
本当は――…僧侶の亡骸を背負いたかったが、数人の足音だったため…泣く泣く僧侶の亡骸を背負う事を断念し、そのままにして退散するしかなかった。
――その後、僧侶を迎えに行った村人から…あらましを包み隠さず、話した。
住み慣れた村は、もう戦中と化しており…全ての家屋は、もう住めない状態までに半壊されていた。
恐らく、家探しされたのだろう――…しかしながら僧侶から村から出ていくのなら口酸っぱく「最低2~3日分の着替えと全財産と貴重品を持っていくように!」と、言われていたため被害が少ない方だった。
置いてきた布団等の大物は、断念するしかなかった――…村民は“ここまで”規模が、広がると思っていなかったからだ。
僧侶の言う通りとなってしまった『現実』に慌てふためいたものの、僧侶の指導と誘導により戦火から難を逃れたのだ。
そして、獣道であるが…村民しか知らない“洞窟”に避難されていた――…元々、食料の冷蔵庫や蚕の保管庫に使用していた…が、行き来困難な場所であったため使わなくなっていた。
――今では、子供達の『隠れ家』という名の遊び場であった。
そして、此処を一時的な避難所として誘導し終えた僧侶から「私が、かつて世話になった小町あるから其処に身を隠しなさい――…其処は“絶対”に安全な場所だ」と、更に避難誘導を受けた。
一人の村人は、絶対という言葉に引っかかりを覚えつつも言う事を聞くしかなかった。
それに『かつて』とはいえ、僧侶が“信頼”を置いている場所に興味惹かれたといっても過言ではない。
――僧侶からの注意事項は、まだまだ続いた。
曰く「例え、どんな『大切な物』でも忘れ物をしても決して村に出戻ってはいけない。出戻ってしまったら殺されてしまう」と――…この脅し文句は、効果的であった。
彼等にとって、宝物は“絶対思考”であった――…が、既に僧侶からの若かりし頃に起こってしまった『痛ましい出来事』を話してくれたからだ。
それは、まだ大工として商いをしていたが…不運にも戦の対象地となってしまい、家も何もかも捨て去るしかなかった。
他の大工仲間も急いだ、が――…何人かが、犠牲になってしまった。
どうやら『大切な物=宝物』を忘れたのに気付き、慌てて取りに戻ったらしかった…何故、僧侶が「どんなに大切な物でも宝物であっても出戻ってはいけない」のか――…理解した瞬間だった。
命からがら逃げだせたものの…行き場を無くしてしまい途方に暮れていたところを後に師匠となる僧侶に拾われ、僧侶の道を歩む事にした。
仲が、良かった大工仲間の弔いたい一心であり決心だった。
数年後の年月の末、修行僧から晴れて“一人前”となった僧侶は…一時的に世話になった村に訪れた…のだが、運悪く戦禍に巻き込まれてしまい蹂躙してしまったのだ。
どうやったら建物は、壊れるのかまで全て半壊させられ…その傍らには、まるで恨みを晴らされたのかのように全ての住民の酷く痛めつけられた亡骸が…物のように積み上げられていた。
――この事を直ぐに元居た寺に駆け寄り、師匠である住職に相談しに足を急がせた。
しかし、叶わなかった――…その寺も戦禍に巻き込まれる寸前だったからだ。
不幸中の幸いと言ったら不謹慎だが…師匠と修行僧仲間達は、荷造り中だったため直ぐに手伝った。
手伝いを終えると「元気でな」と「お互い、生きていたら会おう」と、簡単な別れ言葉を交わし終えると…蜘蛛の子を散らすように去っていった。
また戦争により『第二の故郷』を失ってしまい、仲間とも散り散りとなってしまったが…仲間との口約束を胸に戦禍から逃れるために足を速めた。
辿り着いたのが――…小さな稲荷神社が、祀らわれている小町だった。
長年、小町に住んでいる長老のような方に話を聞くと「昔の昔――…いや。掻い摘ませてもらうと、だ…人間に助けられた狐様が、お礼として“今も”護り続けられている小町なのだよ」と――…そう教えられた。
狐様の住む神社の恩恵なのだろう、不思議な事に戦に巻き込まれない町に一時期であるものの住んでいたのだ。
平和そのものという言葉に相応しい町であった――…しかし、直ぐに去らなければならない事に胸を痛めた。
直ぐに去らなければ、ならなかった理由は…別の方向に他の住職と共に無事に逃げた師匠に託された書状の使いとして、託されていたからだ。
その託された書状は、とても『重要書状』のため…この書状を奪い取るため、追手から逃れるため別々に逃げたのであった。
いつ何時、その追手来るのか分からない現状と現実に生きた心地しなかっただろう――…僧侶は「(この地とも別れるのか)」と、憂鬱な気分の中でも眠りについた。
――その晩、久しぶりに『夢』を見た。
長らく、一度目ならぬ二度目も戦の地と化してしまい…泣く泣く、その場を逃げるように立ち去っていた日々だったため…気づかぬうちに夢を見ぬほど、気を張り詰めていた事に気づいた。
夢である事に気づいた僧侶は、何気に周囲を見渡した――…見渡してみると覚えのある風景。
毎朝、欠かさずに挨拶に伺っている小さな稲荷神社の境内だった。




