4-3 上書きされ続ける古傷(3)
6月事水無月見舞い申し上げます。
今月もご拝読いただき、ありがとうございます。
※行方不明者家族視点です。よろしくお願いいたします。
――花見が、行方不明になって…早一月が、経った。
今でも妹が、通っていた塾の先生と家族総出で、駅周辺にビラ配りをしている…気になる警察の調査は、進展なし。
ビラ配りだけでなく、メールや電話もかけているけど…音沙汰なし。
妹の友達も協力を得てスマートフォンで、メールや電話を掛け続けてもらっている…けど、こちらも音沙汰なし。
花見が、行方不明になった直後――…手がかりのために花見の部屋に足を運んだ。
母は、掃除のために何度か…入った事が、あるものの父と私は、久々だった。
入らなかった理由――…父が「あっという間に大人になってしまうから」と、小学4年生の時だっただろうか…。
どんなに忙しくても…残業しても…タクシー代が、えらい事になっても…必ず、帰宅していた幼い私達の寝顔を見に来てくれていた。
しかし、私達の寝顔を見なくなってしまったのは…一体、何時の事だっただろう。
少なくとも…私の時は、小学5年生…だっただろうか。
私よりも早かった気が、する…。
丁度、その頃は――…自宅の改装増築工事をしていた。
その頃の私は…子供ながら『一人部屋=特別感』が、既に芽生えていた。
改装前は、花見と一緒の二人部屋だったけど…寂しさもあったけど、誰にでも現れる思春期には逆らえるわけもなく…。
思春期といっても…人それぞれ。
自分でも意味不明かつ理解不能なイライラに苛まれるだけでなく、一緒に暮らす家族にイライラを発散するように八つ当たりをしてしまう人もいる。
私の場合は、不発だった。
不発といっても…自然鎮火に近かったかな…。
改装工事が、終わり…一人部屋を確保したのが、大きかったのかもしれない。
掃除の日以外、プライベートというか…趣味を没頭する毎日を得たからか、思春期不発。
――妹は、どうだったんだろう。
妹も“一人部屋”への憧れを抱いていた――…と、思う。
そんな事を考えながら…あっという間に妹の部屋の前に着いていた――…母は、何の躊躇もなくドアを開けて入り込んでいった。
母の姿に父と一緒に唖然としてしまったが…意を決して、部屋に足を踏み入れた。
部屋に入ると『きちん』と、整頓されていたけれど…何処か“寂しそうな雰囲気”が、漂っていた。
私より物少ない部屋に驚いたが…木目調で、三段のカラーボックスの上には、小学2~3学年の時だっただろうか…父と母に買ってもらった水族館のイルカのぬいぐるみと動物園のコアラのぬいぐるみが、仲良く寄り添うように置いてあった。
――懐かしい。
ほっこりしながら…昔は、そこそこな量のぬいぐるみや人形を持っていたが…改装工事を機会に断捨離をした。
ぬいぐるみの量は、大から小サイズを含めても部屋一室分――…断捨離の特別番組を見たことのある方は、想像できるだろうか?
何となく取っておいた衣服の量――…あっという間に小山化である。
私の部屋にも両親が、買ってくれた遊園地のオリジナルキャラクターで…和菓子の“大福”をモチーフにしたぬいぐるみだ。
何故、大福なのか?
オーナーさんの御実家が、和菓子屋さんで好物が『大福』なのだそうで…それで、遊園地のマスコットキャラクターにしたそうです。
因みに花見シーズンには、桜餅とヨモギ餅のぬいぐるみ――…この二点を購入すると“恋が叶う”と、いう流れ星級の『お墨付き』だ。
秋の行楽シーズンには、熊本県の名物『いきなり団子』をモチーフにしたぬいぐるみだ――…購入すると、宝くじが当たるというジンクス付き。
しかし、残念ながら老朽化により廃業してしまったが…今は、お洒落な駅町となっている。
因みに人気だった遊園地のキャラクターを『ご当地復興応援キャラクター』として、復活をしていた。
所謂、ゆるキャラ。
ぬいぐるみだけでなく…あの地域は、和栗の収穫量が盛んだ。
オーナーさんの御実家でも和栗甘露煮を贅沢にも丸ごと一個入ったフルーツ大福が、人気である。
因みに…こしあん・粒あんの両方が、ある。
どちらも美味しかった。
大福だけでなく、スポンジケーキを土台に…こちらも丸ごと一個の和栗の甘露煮を優しく包む、甘さ控えめなホイップクリームに更に優しく包む黄色いマロンクリームのモンブラン。
そして、カシューナッツ風味のタルト生地を土台に…大福と黄色いモンブランと同じように丸ごと一個の和栗の甘露煮をホイップ感のあるカスタードクリームを優しく包まれ、更に渋皮を混ぜ込んだ茶色いマロンクリームに包まれた――…渋皮入りモンブラン。
二種類のモンブランは、どちらも洋酒の香りを極力控えてあり子供にも食べれるため大人気だ。
私たち姉妹も好物だ。
初めて食べたモンブランは、洋酒が…これでもかっていうくらい口一杯だけでなく、鼻にも広がり危うく酔っぱらってしまうところだったのを思い出す。
モンブランだけでなく、和栗のショートケーキやミルクレープに和栗のペーストを忍ばせているベイクドチーズケーキ――…本当に栗オンリーで、町興しに一役を買っている。
しかし、私達姉妹の“推し”がある。
見た目が『サンドイッチ』のようにカステラの間に餡子・羊羹が、挟んである“シベリア”という菓子がある。
餡子のシベリアは、三種類ある――…漉し餡と粒あん、栗の甘露煮の入った粒あんだ。
羊羹のシベリアは、二種類あり――…お店によって、違うが…シンプルに蒸し羊羹、栗蒸し羊羹。
どちらも美味しいんですよ!
お店によって『シベリア』ではなく“カステラサンド”と、呼ばれている所があるそうなので気になった方は要チェックです。
しかし、近所のスーパーやコンビニでは売られていないので…お取り寄せした方がいいかもしれない。
――妹もシベリアが、大好きだ…よく水泳の練習に私の予定があったら一緒に帰りながら買い食いしていた。
私なりの食べ物での応援で、あったが…はた迷惑だったかな。
そういえば、妹も…この遊園地の縫いぐるみも持っていたが、遊びに来た友人に見初められ…譲ったのを思い出した。
そんな事を反省と思い出に浸っていると――…机の前で、呆然としている両親の姿が…嫌でも目に入った。
尋常じゃない様子に私は「どうしたの?」と、両親に声を掛けた。
すると、一冊のノートを開いていたのを目に入った――…母に無言で、そのノートを私に手渡した。
ノートを受け取ると…書かれている内容をパッと見て、妹の日記だと分かった。
日記の内容は――…私へのは『ありがとう。お姉ちゃん』の感謝の文字が、何度も入ったが…思わず、目が痛くなったのを感じた。
中でも…水泳の練習帰りにコンビニに立ち寄った際に菓子のシベリアの事も書いてあった――…日記には『今日は、お姉ちゃんと一緒に帰れた事と“シベリア”を一緒に食べれて、応援されてる!と、思った事』と『もっと、頑張ろう♪』と、書かれていた。
――伝わってた。
また涙腺が、緩み…大粒の涙が、零れた時だった。
日記を読み進めていくと――…両親へのは、愚痴オンリーである事に気づいた。
始めたばかりの頃に水泳で、優勝して一緒に喜んでくれて嬉しかった――…までは、良かったが…年々、応援をしてくれている事と支えてくれている事は、よく分かっていたけど…苦痛になっていったという事も書かれていた。
しかし、何時からか重荷に変化していった。
友達との買い食いすら禁止され、家に帰るのと母さんに会うのが…嫌になっていた。
――極めつけは、辞めた水泳に対してだった。
ひょんな事で、足を痛めてしまい…酷く腫れあがってしまい、あまりの腫れに部活動時間だというのに救急車を呼ぶ事態となってしまった。
その間、先生に保健室に運ばれ…応急処置をしてもらった。
応急処置後に上手く着替えられなかったため、友達に着替えを手伝ってもらったそうだ。
その後、病院に担ぎ込まれた。
病院に到着後、運良く直ぐに診察をしてもらった。
触診とレントゲン検査と血液検査の結果――…重い表情をした医師の先生に「水泳は、諦めてください」と、言われた。
何故なら…診断の結果は『悪性リンパ腫』から後日、血液検査結果により『骨外性骨肉腫』になったからだ。
思わぬ診察結果にショックを受けたのは、妹自身だというのに…あろう事か、母は「管理が、なっていない!」と、心配ではなく…叱咤を受けた事にショックだっただけでなく『母にとって、私は“物”なんだ』とも書かれていた。
いくら体調管理をしていたも…風邪等の体調不良に罹るというのにだ。
この文字列を見て、母は「違うのっ…そうじゃないのっ…」と、涙を浮かべながら言い訳がましく言っていたが、説得力のない。
しかし、花見本人の意思を無視して『完全復帰を勝手に掲げられた』とも――…日記を見て無言だった父は、母に「どうゆう事なんだ?!」と、詰め寄っていた。
父も同罪だというのに…家庭を顧みなかったわけではないけど、成長と共に一人時間を優先していったのだから…。
だけど、私も同罪――こんなに近くにいたというのに…隣の部屋にいたというのに…悠々と過ごしていた。
普通に食事も一緒にとっていた…普通に喋っても居た…学校帰りに友達と買い食いなんて、当たり前にしていた。
けれど、花見は?これも…日記にも書かれていたけど、母に…何もかも制限されているようだ。
――どうやって、息抜きをしていたの?
そして、付け加えたかのように日記には『この機に水泳を辞めて、以前から美術部に入る事を両親に話すつもりだ』とも――…花見は、絵がうまい。
イラスト投稿をしていると、前に話してくれた。
私は、単純に「(趣味があっていいな~)」って、馬鹿一色をさらけ出して思っていた…私の趣味と言ったら買い食いとかショッピング巡りだ。
私は、楽観的な思考を叱咤しつつ…ある事を思い出した、ような気がした。
何時だったか、忘れていたけど…妹から「美術の授業で、使用している絵具を買いに行ってくる」と――…どうして、忘れていたんだろうか…。
重要性のある情報に…私の体温は、一気に下がっていくのを感じた。
私の異変に気付いた両親に呼びかけられても…私は、愚かにも殻に籠るように貝のように口を閉ざしてしたまま…目の前が、暗くなった。
何時の間にか、気を失ってしまったらしく…気が付いたら病院に居た。
意識を取り戻した事に気づいた看護師さんに呼ばれた担当医師さんから「貧血と急性ストレス障害」だと、診察された。
診察結果を受けた後、両親が入ってきた――…私の顔を見るなり「無理をさせて、ごめんね」と、涙を流しながら
話を聞くに…話し合っていたらしい…今後について、も…一気に与えられる『現実』に参ってしまい、思わず私が「今は、休みたい」と…言って、退室してくれた。
横になり、耳を澄ますと――…雨音が、聞こえる。
また雨が、降ってる。
雨音を聞きながら私は「花見を返して…」と、呟いた。
-完-
本日を持ちまして、4章を完結させていただきます。
物足りなさあると思いますが…後に書き直させていただくと思います。
ご拝読、ありがとうございました。