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狐の嫁入り -土姫ノ章-  作者: ツカサシキ
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3-2 切羽詰まった梅雨空の下での“ひょんな”依頼

 9月・長月見舞いを申し上げます。

 よろしくお願いします。

 突然の田中さんの言動と行動に驚きつつも僕は「落ち着いて!落ち着いて!」と、必死に宥めるしかなかった。


 その後、通報があったのであろう…騒ぎを聞きつけた駅員さんや交番の警察の人達に理由を説明するのに途轍もなく、時間が掛かってしまったのは、割愛します。


 何とか…落ち着かせる事が出来た田中さんと直ぐ側でビラ配りをしていた、ご家族の方々の話しを聞く事にした。

 近くのファミレスに向かおうと思ったが…駅から学校の部活帰りの高校生や会社から帰宅する人で、ごった返していた。


 僕も高校生の時に部活帰りにファミレスを利用した事があるが…ファミレスが、高校生の溜まり場と化してしまい嫌な思いをした事がある。


 それに――…田中さん一家の人数も人数だ。

 お店に迷惑が掛かってしまうのを考慮し、独断だが…大学進学したのを機に大学に通いやすいようにと下宿してもらっている叔父夫婦の許可を得て、家に招待した。


 僕は、下宿先が近づくに連れ緊張したが…要らぬ心配に終わった。

 急な頼みであるというのに叔父さんと叔母さんは「蓬を信用しているから」の一言と共に田中さん一家を快く家に招きいれた。


 叔父さんに連れられ、僕と田中さん達を広い居間に通された。


 叔母さんは、台所で飲み物の準備をしているのだろう『カチャカチャ』と、コップを置く音が聞こえた。


 直ぐに僕は、居間の座椅子に通学カバンを置いて叔母さんの手伝いをするために台所に向かった。


 叔父さんは、田中さん達に寛ぐように促すが…遅い時間のため、物凄く恐縮していた。

 僕は、叔母さんに「簡単な物を作るから温かい飲み物を持って行ってくれる?」と、人数分の温かい玄米茶を淹れた湯飲み茶碗をオボンに乗せながら言われたので僕は「分かった」と、持とうとするも8人数の飲み物を置いてあるオボンは、やや重みのある…思わず、零さないように慎重になるが…両手が返って緊張してしまい震える。


 慎重に運ぶ僕の元に田中さんが、駆けつけてくれた。

 田中さんは、オボンから二個のコップを手を伸ばすと…また田中さんの右目から『ポロッ』と、大粒の涙が零れ落ちた。

 また突然の事に僕は「どうしましたっ?」と、思わず慌てた。


 すると、田中さんは「すみません…飲み物が…温かかったものですから…」と、零れ落ちる涙を必死に拭っていた。


 よく見れば、田中さんの両手の指先…特に爪が、青紫色になっていた…寒かったのだろう。

 梅雨入りし、ジメジメとした湿気と生温い気温になってきているが、まだ寒い日が続いている。


 僕は、田中さんを宥めながら座らせた後に叔母が、淹れてくれた温かい玄米茶を叔父と田中さんの家族の方々の前に湯飲み茶碗を置いていった。


 僕が、配り終えた後に田中さんが改めて「教授…!お願いします!教授のお知り合いの方に連絡をっ…!」と、言いながら土下座をした。


 また思わぬ田中さんの行動に驚きを隠せない僕は、頭を上げるように頼むが…田中さんは、頑なに頭を上げるどころか下げる一方だった。


 すると、叔父に「何か遭ったのは、直ぐに分かった…蓬の知り合いの方が解決するのであれば、早い方がいいんじゃないか?」と、諭すように言われてしまった。


 僕は、考えるまでもなく菜種に今直ぐにでも連絡をしたいが――…菜種だ。

 第一声が嫌ってほど、考え付く。


 しかし、切羽詰っている田中さんとご家族が目の前にして『嫌みを言われそう』と、いう理由で背けたくなかった。


 駄目元承知で、菜種にメールをした。


 数分後――…僕の携帯からメールの受信音が聞こえた。直ぐにメールを開くと菜種から『何?』と、とてもシンプルな内容が届いた。


 直ぐに僕は「(今朝のメールの事があるけど…緊急事態だから!)」と、菜種の威圧がヒシヒシと感じつつ、怯える心を押し殺しながら返信を続けた。

 二度目の僕からの返信に対して『何で?』と、返事が届いた。

 三度目の僕からの返信に対して『だから?』と、返事が届いた。

 四度目――…にて『名前と本人と分かる顔写真。』と、またシンプルな返事が届いた。


 この菜種の返事に僕は、引き受けてくれると確信した。

 僕の“しつこさ”を小学校時代から熟知している彼女の“厭きれ”の対応・対策なのは、割愛させてもらう。

 直ぐに僕は、田中さんご一家から事前に聞いた行方不明になっている女性の名前を打つ前に家に向かう途中に手渡された一枚の写真を送る許可を頂き、その写真をケータイの写メをし、菜種に送信した。


 送信した内容は、行方不明になってしまった女性の名前と家族旅行の写真――…カメラに向けて、田中さんと一緒に足湯に浸かってフルーツ牛乳を片手にステキな笑みを浮かべながらピースをしている姿が映っていた。


 行方不明になってしまった女性の名前は『()(なか)(はな)()』さん。


 田中さんの妹さんで、公立中学校に通う中学2年生、水泳部に所属していたらしいのだが…1学年の夏休みの練習合宿の時にアキレス腱を痛めてしまったのを皮切りに治療のために水泳部を辞めて、帰宅部に異動したのだそうだ。


 帰宅部だが、出来なくなってしまった水泳の変わりに今まで保留にしていた学業に専念するため自ら塾に志願し、少しばかり遅れていた勉強に励むようになったそうだ。


 でも実際は――…姉である田中さんの話によると、クラスメイトや友達も通っている塾にカッコイイ講師の方が居るらしく、講師の先生目当てて頑張っているそうだ。


 妹さんより写メを見せてもらった田中さんによると、明るい茶髪の短髪であるが、今時の若者なのだが身なり等の清潔感で、無駄にイケメンの性格良しとの事。


 興味本意で、妹さんの話しを聞くと――…何でも、初めての面談の時に担当者になってくれたそうで、その面談時にチラッと『当時の自分』を話してくれたそうだ。


 学生時代の塾講師さんは、学校に通っていたが…不良をしていたそうだ。


 不良になってしまった理由は、在学中に体験・経験した『大人への幻滅』と『自分の心を殺させない意地抵抗』と『学生同士の上下格差による弄り』等々だそうだ。


 田中さんから塾講師さんの生い立ちを聞く進むにつれて、共感を持った。


 どの時代に比べたら今の方が『重く』捉えられている…つもりだ。

 その『重く受け止める』行為は、素晴らしい。


 素晴らしいのに…素晴らしいはずなのに…――乾拭きな表向きだ。

 表向きの反対である『裏向き』では、受け止めないといけないはずの人々の多くは「話しを伺った」だけの偽善者だ。


 ――無意味すぎる。


 現に、小学校時代の菜種の時もそうだった。

 本人は、気にせず…と、いうか…無関心…?どんな相手でも『眼中に無し』か『興味が無い』という言葉が合っているだろう。


 いわゆる“一匹オオカミ”と、いう名の位置。


 よく、大人に「長いものには~」とか「後悔するぞ~」と、いう言葉を言うが…菜種本人は、突っぱねてた。


 そして、その大人相手に質問し返していた。

 そして、菜種からの質問し返された大人は…何故か、口ごもる。


 理由は、簡単だ。


 自分の『好き=大事』に当てはまらないのを態々、相手にすると疲労だけでなく不快・不愉快という痛い目に遭うからだ。


 大人達は、その事を知っているはずなのに…何故か、子供達に『どんな相手でも仲良く』を教え込み続ける。


 そう大人達に教え込まれた子供達は、成長と共に相手の事を「嫌だな」と、思って距離を取ろうとすると大人達は「仲間外れは、駄目だぞ」と、捩じ伏せながら我慢を強要し続ける。


 大人の場合は、直ぐに『不快・不愉快な対象』として除外するのに…子供の場合は、許されない。


 子供達に対する大人達からの“イジメ”でしかならないのにだ。

 しかし…子供達は、その大人達を頼らないといけない。学ばないといけない。

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