二つの一人
それは、中学生のころの記憶。
私、水瀬黄色には好きな人がいた。
その人は頭がよくて、運動もできて、みんなからの憧れの存在。
それ故、みんなから快く接してもらえない。
バレンタインの日はみんな彼宛のチョコを持ってきていたが結局渡していなかった。
でも、私の恋は進む。
あの日、私があの人にチョコを渡した日から私の恋は本物になった。
私がチョコを渡してウキウキしていると
「水瀬さんってナオ君の事好きなの?」
「ひえええっ!美馬さん!?」
鞄にいつもの指輪をぶら下げている美馬さんが私に話しかけてきた。
「で、好きなの?」
私は顔を美馬さんから見えないように隠して
「…うん」
「じゃ、私たちライバルだね!」
その時私は美馬さんが、穂香ちゃんがずるいと思った。
幼稚園の時からの幼馴染で彼は穂香ちゃんのことをよく知ってる。
今この瞬間どっちが好き、と言われたら絶対、穂香さんだろう
だからこそ、頑張らなきゃとも思った。
それからは積極的に近づいて、お話しして、少しでも穂香さんとの差を縮めようと思った。
だが、その差はあまりにも大きすぎた。
彼と穂香ちゃんと同じ高校に入学したときは嬉しさと悲しさが両方あった。
そして、今になる。
私は体育器具庫の裏で体操座りしていた。
これでも、精一杯頑張った方だ。
穂香ちゃんと競り合って。
でも私が記憶喪失の直也に自分が彼女だと思い込ませそれで勝ったと思い込んでいた。
でも、それはただの裏切りだった。
「私、馬鹿だ」
「本当ですよ、水瀬さん」
そこには、穂香ちゃんがいた。
私はすぐ顔を俯かせる。
今更合わせる顔がない。
「ナオ君から聞きました。今は水瀬さんの家に住んでるって」
確かにそうだ、でももう追い出す予定だ。
私はもう金輪際、直也と接しないと今決めた。
「そのことはもう気にするのはなしです。その代わり条件が二つあります」
もうそんなこと…
「どうでもいいじゃない!」
思わず大きな声を出してしまった。
その声に穂香ちゃんが少しだけビクッとするがすぐ姿勢を直し
「謝るのは、私の方です。水瀬さん」
私はまだ俯いたままだ。
「私がナオ君と幼馴染なのをあの時すでに水瀬さんは知ってたんだよね。なのに私は何も考えずに、水瀬さんが私と同じフィールドに立っていると思ってた。」
そうだ、だからこそ今まで努力してきたのだ。
でも私はそのフィールドすらも無視して…
「水瀬さん、もう一度、私とライバルになってくれない?幼馴染とか関係なしに、ちゃんと」
ダメだ、私はもう立てないかもしれない。
穂香ちゃんが手を差し伸べてくるが、私の取るべき手ではない。
「私はもういいよ…穂香ちゃんを応援して―――」
「水瀬さん、私は知ってるよ、今までナオ君のために頑張ってきたこと」
穂香ちゃんは私の隣に座って
「勉強を教えてあげたり、忘れ物を届けてあげたり、他にももっと」
その時の光景が鮮明に思い出される。
「直也君!忘れ物だよ、これ」
「あ!マジでありがとう、水瀬さん」
その笑った顔に私はドキッとした。
「あっ、そうだ、水瀬さんこの後時間ある?教えてほしいところがあって――」
それと同時に思い出すのは事の発端。
『じゃあ、水瀬さんと私でどっちが先にナオ君と付き合えるか勝負だね!』
「私さ、今まで渡せなかったんだけど、今なら渡せるよ」
穂香ちゃんが私に穂香ちゃんがつけてるのと同じ指輪を渡してきた。
シンプルな銀色に光る指輪。
指輪の内側には『love』と彫られていた。
「私も水瀬さんと一緒。これを渡したら私が不利になっちゃうと思って…だから今まで渡さなかったの」
私はハッとして顔を上げる。
「私たち、似た者同士だね」
穂香ちゃんからも一滴の涙が流れる。
私がその涙を拭いて穂香ちゃんを抱きしめる。
「ごめんね…うん、私たち、似た者同士だね…!」
お互い強く抱きしめ合った。
その光景を校舎から見ている影があった。
「そういえば、二つの条件って何?」
そんなことを初めに行ってた気がする。
「あぁ、一つはナオ君に本当のことを教えること。記憶喪失なんでしょ?ナオ君」
それは言わずとも行おうとしてたことだ。
もう一つは――
「私も、水瀬さん家に住ませて」
「……え?」
穂香ちゃんがニッコリして提案してきた。
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