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兄妹デート大作戦、そのいち


デート回です。

力不足を感じました。

もう少し甘いのを目指したい。

 

「ねね────!?」


 思わず本名を言いそうになったロックは口をおさえつつ狼狽していました。

 三行半を突き付けたその日のうちにこうして再会したのですからさもありなん。


 どこで自分がここにいるのを知ったのか、どうやってきたのかとまあいろいろ、この数瞬だけで聞きたいことが山ほど生まれました。

 なんでアイというユーザー名なのかはすぐわかります。どうせ愛でしょう。


「おにいちゃん!」


 時がそのまま止まってしまったかのように見つめる観客たちに目もくれず、アイはロックのもとへ歩み寄ります。


『だ、だれだ……?』

『ロックの知り合いか?』

『妹いたっけ……ちょっと名鑑見てくる』

『何でもいい、とにかくロリだ!』


 それは必然、視聴者の目にも入るということ。

 お通夜ムードだったコメントも突然現れたゲストに活気が出始めます。


『ナイアールのメンバーじゃないな……ロリは居たが非合法のメスガキだし』


「めすがき?」


「わっ、バカ!」


 偶然にもアイがとらえてしまったコメントを手で払います。

 コメントはロックの周囲に映し出されるものなので、手をかざしたところで振り払えるものではないんですが、完全に混乱しています。

 らしくないその必死さに、観客の方からも小さく笑いが起きました。


『あのロックが動揺しまくってやがる……』

『かわいいw』


「ぐ……だめだ持ってかれるな、ストイック……! ストイックの心を忘れるな……!」


 ……ストイックの心がいったいなんなのかはロックしかわかりませんが、半ば自己暗示めいた唸り声でなんとか持ち前のクールさを取り戻した彼は、やってきたアイの方へ向きなおりました。


「おまえ、どうやってここにきた」


「えへへ、サイト調べて追ってきちゃった……リアルでダメでも、ゲームならいいでしょ?」


「よくな──」


 言い切りそうになった時、ちらりと周囲の観衆を見てしまいます。


 ここはゲームの広場でライブ会場。

 自宅ではありませんから「よくない、帰ればか」などと直情を口にすればどうなることやら。

 となると、どうにかこの局面を切り抜けられる言葉を選ばなければならないのですが……。


「だから──いっしょにいこっ! おにいちゃん!」


 先んずれば人を制す。

 思考の海に沈んでる間にアイに手を取られてしまったのです。


 その笑顔の無邪気なまぶしさとあたたかな手は、選び抜いていた百万語と毒気を洗い流すには十分すぎて。


『ア゜!!』

『おかわわわわわ!?』

『┏┛墓┗┓』


 コメントは軽いパニック状態になっていました。

 ストイックなロックはおにいちゃんの響に一瞬戻ってしまいました。


「ど、どこへ──?」


「町の散策だよ! いろいろ見てきたから案内してあげる!」


「はっ──イヤ待てこの会場の空気どうにかしないといてててて力つよ!?」


「あ、ごめん……まだ加減できなくて……」


 その後。

 手をぐいと引っ張られた痛みで正気を取り返したロックの一言で、広場にいた観衆は解散する運びとなりました。



 *



 ゲーム世界で最初にすることは何か? 答えは拠点となる町の探索です。


 場合によっては確認もせず即座に外へ直行することもあるそうですが、少なくともロックはそういう命知らずではありません。


 アイ自身、彼の実況をずっと見てきたのですから間違いないです。


 であれば案内役は必須。動画を見る視聴者の時間を、無意味に奪うわけにいきませんから。

 ステージの最中、どこかのタイミングで案内役を募集するだろうと踏んでいた彼女の作戦勝ちでした。


「この橋の先がクエスト受諾をするギルド会館! 球を咥えてるドラゴンが目印なんだー!」


 とはいえ断られればそれまでのつたないものです。

 だからあの時、広場の空気を凍り付かせた社長には感謝すらしていました。

 何せ今、彼女はこうして兄の役に立っているのですから!


「この【ドラグニル】って町、重要な施設には絶対どこかにドラゴンの意匠をつけるんだって!」


「ああ……」


 それだけではありません。

 ロックが生返事なのが気がかりでしたが、今2人は手をつないでいるのです。

 そう、男女が手を取り合って行動する……ということは?


―デート、デートだよね!? デートってことで良いんだよね!―


 アイは見事に1人で舞い上がっていました。

 今の彼女の脳内はおにいちゃんとデートの10文字で埋め尽くされています。


「あ、でも気を付けてね。ここの会館、こわいお兄さんがいるんだ……外見はちょっとかっこいいんだけど、言葉がカミソリみたいなの!」


「そうか……」


 ゆえに気づいてません。

 ロックがあまり……というかほとんど話を聞いていないことに。


『コウユウのことか……確かにカミソリだわ』

『すっげえわかりやすいw』

『おれのいもうとはかしこいな……』

『↑は? 俺の妹だが』

『↑↑ギルティ』

『↑↑↑俺のいもうとだふざけんな』


「ふざ……!」


 ふざけんな、俺がお兄ちゃんだぞ! といいそうになった口を慌ててふさぎました。

 それを言ったら一生、お互い離れなくなるという確信がありました。


「えへへ……かしこいだって! 頑張って走り回ったかいがあったなあ、STRだっけ? そっちにたくさん振ってるからすぐ疲れちゃうんだよね……あれ、おにいちゃん?」


『どうした妹よ』


「コメントさんじゃないよ?」


『うっ……』

『げんじつは残酷だあ……』


 ロックの今の関心事は3つ。

 瞬く間にほだされ、おにいちゃんをかけて争いだしたコメントたち。


 やたら空気を読んで、自分を背に彼女を正面に映そうとする1カメ2カメの挙動。3カメは自分を映してますがあんまり画面を出力してくれません。カメラAIにもヒエラルキーがあるようです。


 そしてもうひとつ、これからどうするか。


「おにいちゃん? さっきからぼーっとしてどうしたの?」


 アイはついてくるべきではないのです。

 初心者であることを差し引いても、STR極振りかつ完全物理職の彼女ではロックのサポートには物足りません。


 けれどそれをどう説明してもアイは言うことを聞かないでしょう。

 ……であれば。


「おにいちゃん! ねーってば!」


「……よし!」


「ひゃっ!」


『あ、モブがうごいた』


 アイが自らを実力不足だと思う状況を、作り出すしかありません。


「予定を変更しよう、これから近場のダンジョンに潜るぞ」




はたしてお兄ちゃんの作戦はうまくいくのか!?

次回をお楽しみに……!


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