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初実況と鬼畜縛り


丸一日申し訳ありません……!

 

「来たぞ、ロックだ!」


 広場に踏み入ったロックは歓声で迎えられました。

 さすがに配信予定の寸前、今か今かと待ちわびている出待ちのファンで広場は大賑わいです。

 とはいえロックにとっては見慣れた光景、彼らへの返事もほどほどに企画の共演者たちへ通信を開きます。


『ロックてめえ! 親友に向かってガチャ切りはあんまりじゃねえか!?』


「スズカ、ソウ……準備はできてるか?」


『ソウちゃん泣いちゃうぞおーいおいおい、おーいおいおい!』


 いの一番に飛んできた文句をスルーし、ソウともう1人、金髪にモノクルと装飾付きのスーツを着つけた男装の娘へ確認を取ります。


『こちらいつでもOKで──こほん、こちらはいつでも大丈夫、だ!』


『……録画ドローンも絶賛旋回中だよ、むしろお前いつまでスパーリングしてんだ』


「ちょっとファンサしてた」


『は?』


『ロック先輩がファンサ!?』


「なんだ、いつもは有名人なんだからファンサくらいしろとかからかうくせに」


 淡々と返された言葉に対し2人は、


『ストイックなのがお前のウリだろ、何やってんだよ……』


『ロック先輩のファンサ…… (いいなあ)


 などとつぶやくばかり。

 こいつら! と口をとがらせたロックでしたが、声には出さずに、そのまま通話を切りました。

 身内の口論その他みにくい争いはリアルですべし。ナイアールの鉄則です。


 ウインドウを操作して企業専用の実況モードへ移行し、小さなカメラ付きドローンを3つ呼び出して【配信準備】のボタンを押せば準備完了。

 後は時間になれば自動で中継してくれます。


 そしてその開始は……。


「5秒前──!」


 誰かさんのコールに合わせカウントダウンが始まります。

 ならばここはもう【ドラグニル】の中央広場ではなく、チームのライブ会場。

 自分たちが最も輝く舞台となるのです。


「1!」


「待たせたな──ナイアール2期生のロックだ!」


 軽く息を整えて宣言すれば、彼目当てに来たプレイヤーたちから歓声が上がります。


『わこつ』

『はいつー』

『おまどうま!』


 非常にシンプルな第一声ですが、さすがに有名チームの一員。

 ストイックさはもはや知れているゆえにコメント欄も観衆もにぎわいを見せます。


「今日はアバターの顔見せと拠点になるこの【ドラグニル】の散策をやっていこうと思うから、そこまで大きな動きはしない」


『えー』

『戦えよ』

『おいおい深度足りてねえぞ』


 観客とは常に自分たちを満たす波乱を強いるもの、こうやって毎度好き勝手にいうのはざらです。

 そんな彼らに無理に合わせて破滅でもしたら目も当てられません。


「血わき肉踊らせるからこその【爆砕】だろー!」


「いつもみたいに縛らなきゃなんだから許してくれよ」


 文句が出ても話半分に流しつつ、適度に拾って退屈さを紛らわせてやるのが一流という物。


「お? 何縛りだ今回は?」


「武器装備&耐久上昇禁止またみたいです!」


「さすがに前やったのと同じことはせんよ」


「えー! オワタ式雑技団みたいですー!」


 ロックはいわゆる縛りゲーマー。

 いくつかシステムを禁止したうえで、なお達人レベルの腕前を見せる猛者でした。

 例えば、1つのパラメータにポイントを全振りするものであったり、武器の使用を一切禁止して耐久の高いモンスターと戦うことであったり。


 そんな彼の宣言ですから、自然と話題は切り替わります。

 ロックはウィンドウを操作すると、何やら便箋のようなプログラムを取り出しました。


「いつもなら視聴者さんからアンケ取ってるんだがな、今回は社長が直々に縛り内容を考案した──曰く『君に必要なものをここにしたためた』だそうだ」


『社長!?』

『あの七不思議社長か!』


 謎が常に付きまとうナイアールの社長が差出人だという手紙の話題も加わることで、コメントの食いつきも上々です。

 さて、ゲームの宣伝活動に近いこの実況で彼にどんな縛りが課されるかと、皆が一様に見つめる中で便箋を開くと。


「拝啓、ロックどの」


 全身真っ黒な顔ナシ男が現れ、抑揚のない声でその答えを話し始めました。

 どうやら自動音声プログラムが中に組まれていたようで、そのまま続きを話し出します。

 あれほどざわざわとしていた広場だというのに、今では嘘みたいに静まり返りました。


「君がわが社に所属してからの成長は目覚ましいもので、最近ではプロ目前だと言われるほどだ、正直驚いたよ……僕の目では、2期生からそのレベルの人間が出るとは思っていなかったからね」


「……そりゃ、どうも」


『律義だな……』


 まるで見ているかのようにロックへ向き直ったシルエットへ、ロックも軽く会釈します。


「だからこそ君にこの書をしたためた。縛りプレイが得意な君にとっては退屈なものかもしれないが、さらなる成長を遂げるだろうと確信しているのでぜひ取り組んでほしい」


 ごくり、と広場を囲む誰かがのどを鳴らしました。

 前置きが終わり、いよいよ本題へ入ります。


「ただいまより君には『ツーマンセル縛り』をしてもらう」


 あまりに聞かないネーミングの縛りに、一同は首をかしげてしまいました。


「ツーマンセル……つまり2人組だね。君はこれより先フィールド・ダンジョン・クエストの攻略および散策を常に2人パーティで行うんだ」


「ちょっま……」


 待ちません。

 これは音声を流すためのプログラム、一方的に言葉を話すのみ。


「2人以上のメンバーの増減はもちろん、ソウやスズカとパーティを組むことは禁止する……そうだ、ついでにサポートもその人からしかもらえないようにしよう……いつもと比べて大分ユルいしね。自己バフもダメだよ?」


『なんだそりゃw』

『社長鬼畜では?』

『ロック君のコミュ力を試してやがるwww』


 コメントで流れた通りです。

 超有名な実況者といえどゲーム始めたてであればフレンドは0……つまり募集からしなければなりません。


 更に言うならばロックはその特異なプレイングゆえにソロプレイを半ば強要されていた身……パーティプレイは長らくしていません。

 そんな彼の動きについてこれる人間は、同じナイアールの仲間くらいでしょう。


 サポートの禁止もかなり痛いです。

 MMOでのモンスター戦闘は性質上、バフ……ステータス上昇のスキルをパーティ全員が多用します。

 ロックはそのステータス上昇を相棒以外から受け取れなくなったのです。


「というわけでロック君! 君の新たな活躍、我々も期待している」


「社長! それワンチャンロクにゲームできないヤツでは──」


「あ、ちなみにこのプログラムは最後の挨拶と同時に消去される──前々からこれやってみたかったんだよね、それではマアッサラーマ!」


 ぼん!

 嘆願めいたロックの言葉も聞かず、役目を終えた社長のプログラムは一方的に跡形もなくなりました。


 なんでアラビア語なんだ、それいつの映画のネタだ、社長ってこんなお茶目で鬼畜なのか……などなど、会場はざわめいておりましたが。


「…………」


 ゆっくりとロックが顔を向けた瞬間、面白いくらいに黙ってしまいました。

 そのまなざしはものすごい哀れみがこもってました。


「ちなみに……俺についていきたいってやつ、この中いるか?」


 誰も手を上げません。

 今のロックについていくということは、プロ寸前とまで言われる彼の腕前を流す動画に強制的に出演させられることを意味します。


 しかもボスに挑めばほぼ負け確、何か少しでもやらかせばやり玉に挙げられるのは間違いないでしょう。


「そうだよなあ……いるわけないよなこの中に」


 言いながら一通り見回していると……


「はい────!」


 ……なんかいました。

 元気よく手をまっすぐに伸ばし、そのくりくりとした目をらんらんに輝かせてにっこにこの女の子がいました。


 見たことあります。

 すっっっごく見たことあります。

 ツノが生えてたり微々たる違いはありますが、さすがに12年まるまる付き合ってきた人間を見間違えることはないです。


 観衆もカメラもその子に向いて固まるなか、1人だけ前に出て少女は……アイは口を開きました。


「えへへ……きちゃった!」




次回、甘くなりますように……!


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