【爆砕】ロック
ちょっと早いですが投稿です!
もしかしたら2話分投稿できる……かも!
【ドラグニル】はぽっかりと中央から開かれているドームの中に、洞穴のように掘られた家といくつもの楼閣が建てられた中華風の国でした。
何でも大昔、大陸にも等しいサイズの超大型ドラゴンが卵から生まれ、その名残から国となったのだそう。
見上げれば確かに中央からばっくりと割れた、出来損ないのドームのようなものが視界の端に映ります。
これほどまでに大きなドラゴンが生まれた場所というのであればなるほど、外敵への威嚇として大きな意味を成しそうです。
けれど本当かどうかは真実のみが知るところ。
─植物とか育たなそうだよなあ……音々子のやつ花好きだし、もし遊ぶとしたらこの国は勧めないでおくか─
等と空を見上げながら考えていた響は。
『あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!』
「うるさいぞ、ソウ」
……電話相手の同期にバカ笑いされてました。
原因は響のアバターの頭の上に、なんともまあでっかいたんこぶが出来上がっていたのです。
腕に青の竜鱗やしっぽを生やし格好良くなっている今の響にはあまりにも似合わないものとなっていました。
しかも電話の主、ソウを笑わせていた原因はそれだけじゃありません。
『いやあだってこれはありえねえよ、だってプロ目前とか【爆砕】とか巷で言われてるロックがチュートリアルでたんこぶ作るか? 笑えなさ過ぎて笑えるわこんなん』
「……俺だって信じたくねえよ」
狩衣が汚れるのもかまわず笑っているソウを見てぷいと響──ロックはそっぽを向きました。
そう、彼は今しがたまでチュートリアルをしておりました。
深度6の設定で人間よりも竜に近くなったせいで、体の動きに狂いはないかと肩慣らしに挑んでいたのです……くしくもアイが挑んでいた隣の訓練場で。
そこでの訓練中、彼は全然集中できてなかったせいで、ぱこんと女性トカゲ教官に木剣の一撃を見舞われたのでした。
『まあまあ拗ねんなよ! ……それでさ』
ひとしきり笑ったあと、ソウは急に声のトーンを落としロックに尋ねます。
『……マジでなんもねえのか? 体調不良とかねえよな?』
「……ない」
嘘です。
主に精神状況が非常に悪いです。
『いやいやさすがのソウちゃんもこれはマジモードだぞおい、どうしたよお前マジでよ』
「機材がヘンになったんだろ」
『きょうび機材がヘンになるかよ、天下のナイアール様だぞ……引っ越し疲れでもしてるんじゃねえか? もしくは家族さん関連でなんか──』
「……とにかく予定に変更はないのは分かったまたあとでな」
『あってめ図ぼ──』
通話ボタンを殴って止め、重々しく息をついて座り込みます。
大きなしっぽはオートで動く仕様なので無理に動かそうとせずとも、自動でベストな位置に調整してくれます。べんり。
「本当なっさけねえよな、たった1回突き放しただけだぞ……」
ソウの予想は大当たりです。
音々子に冷たく接したことを後悔しきりな彼は憂鬱そのものでした。
そして、そんな様子の彼は活気のある町中ですさまじく浮いてしまいます。
「あれ、もしかしてチームナイアールの──」
「マジ? イマイチわかんねえ……深度いくつだ?」
「実況今日からだったっけ……」
「はあぁ……」
ロックはため息をつきました。
実況者という存在は今広く社会に知れわたっており、芸能人のような扱いも珍しくありません。
このまま気づかれれば、ごった返して中央広場に行きつけなくなるのは明白。
「あ、あのもしかして本物のロックですか? もしよかったらスクショお願いできませんか!」
「わるい、今はちょっと……」
ゆえに早く立ち去りたいのですが、残念そうな顔をするセミロングの女の子を見て、言葉を詰まらせてしまいます。
「そうですか……」
「──っ!」
そして脳裏に一瞬だけ、悲しそうな顔の音々子がフラッシュバックしました。
勘弁してくれ、と頭を片手で抑えつつ。
「……わかった、この場でやろう──」
「えっ──わ!?」
言うが早いか、ロックは女の子の肩を少しだけ強引に引き寄せます。
「はい、ちーず」
有無を言わさないまま軽くポーズをとれば、フレーム音がパシャリと二人の思い出を残します。
「は、はひゃあ……」
「じゃ、サインとかは勘弁してくれよ」
そういってロックはさっさと退散、広場に向けて駆け出しました。
女の子は顔を真っ赤にさせて夢見心地のようです。多分話なんてほとんど聞いてないでしょう。
明らかな過剰サービスに一瞬通りがどよめきますが、
―音々子も少ししたらああなるのかなあ……―
そんなこと1ミクロンも介さないまま、ロックは中央広場へと踏み入るのでした。
チーム【ナイアール】
『貴方の望むままに、無限の顔役を』をモットーに活動する実況チーム。
いわゆるにじ〇んじのようなもの。
イベント進行やテレビ、雑誌などに活躍の幅を広げており、プロゲーマーの世界にも近々進出するという実力派集団。
メンバーは社長自らのヘッドハンティングが大半という今時かなり珍しい集団であり、実況者の界隈ではステータスのようなものになっている。
ただ、七不思議めいた謎が多く
チーム名の由来はなんなのか
なぜ社長自らヘッドハントするのか
最新の機材を万全の状態でどこから調達してるのか
……というか社長が浅黒の肌であること以外ほとんど謎に包まれて(手記はここで途切れている)