踊れや踊れ、MVPを目指して
「ぎぎぎぃーー!!」
トウテツの声で躍り出たゴブリンたち。
その数はおよそ10なかば、まだまだ後続がきそうです。
「アイこっちに逃げろ、沼の方に誘導するんだ!」
いくらアイに勢いがあろうと、いっきに数で攻め立てられればひとたまりもありません。
このままだと最悪各個撃破。さすがにマズイとみたロックは退却を促します。
「うーん……却下!」
「なあっ!?」
ですがアイはそれを突っぱねました。
兄のそばに居られるという、彼女にとってはとてつもなく魅力的な提案だというに。
そうして彼女はその場に座り込み、あるものを抱えたのです。
──先ほどトウテツが食いちぎってへし折った木を。
「げ」
……コンマ数秒でこの後の流れを理解したロックはその場に伏せます。
深く。深く。沼に全身を沈ませるほどに。
惨劇が起きたのはその直後です。
「だおーーー!!」
あらん限りの力を込めてアイは木をぶん回し、向かってきたゴブリンたちを一発で薙ぎ払ってしまいました。
あまりのことにトウテツは驚いて固まってしまいます。
いざ体勢を立て直そうとした矢先に、何もかもご破算になったのですから。
「わっとっと……」
これこそがアイの狙い……そして逃げるトウテツの攻略法。
ゴブリンたちが登場するたびに範囲のある攻撃で薙ぎ払いつつ、トウテツを追い込むものでした。
「ぶ、ぶぎいい!!」
そして再度振り回す準備のできたアイを見て、正気を取り返したトウテツは沼地の岸に沿って一目散に逃げ出します。
その道をふさぐようにゴブリンたちも木陰から姿を現しますが、
「まてまてーー!!」
アイが木を振り回しながら追い掛け回すものですから、時間稼ぎにすらならずに次々と吹き飛ばされていくのでした。
『うわあ……ww』
『ゴブがチリのように飛んでいく』
『チキンクソモンキー故やむなし』
『妹、こわいでしょう……?』
「……なるほどな」
コメントの談笑のさなかにロックはうなずきながら、HPをきらして今にも消えそうなゴブリンたちの武器を次々と拾っていきます。
「槍2手斧2、それに短刀3……これでいいか……」
『そんな妹のそばで何もせず武器あつめに興じる奴がいるらしい』
『近づけねえししかたねえだろ、近接職だぞ』
『これはMVP妹ちゃんか?』
『かもなあ、チキンクソモンキ―は逃げ回るばかりだし』
『末恐ろしい張り切りガールが来たもんだぜ……』
「くれてやるつもりはない」
ようやっと答えたところで逃げまどうトウテツの方に向き直ったロックは……なんというか異様な風体をしておりました。
『いや、待て……まさかこれって』
槍を右手に持ち、左は指の間に短剣をはさんでいました。
とにかくたくさん武器がいるのでしっぽも活用。器用にくねらせて手斧を抱えています。
それは彼の動画をよく知るものであれば、だれもが見た光景。
武器の装備禁止という縛りプレイで幾度となく発揮された、彼独自のプレイング技術です。
『オワタ式雑技団!』
こういう時いの一番に声を挙げてしまうのがオタクという生き物のサガ。
それを合図に彼は再始動、まずはトウテツの目の前へ槍を投擲して道をふさぎます。
「ぶぎ!?」
視界の外から突然武器が飛んでくれば誰であれ怯むもの。
そのスキにしっぽから斧と短剣を受け取って投げつけ、トウテツをかすめてすぐ後ろの木へ突き刺します。
「おにいちゃん!?」
アイが武器の飛んできた方を確認してみれば、新しく取り出した槍を構えて飛び上がる彼の姿が。
そのまま彼は槍を投げおろし、トウテツの足元へ垂直に刺します。
そしてそこへめがけ彼も落下──。
「ぎいい!」
「だめ!」
そのまま着地すればトウテツの反撃を受けるところですが、アイが木をたたきつけて強制中断。
「【崩襲脚】!」
そうしてよろめいたトウテツの背にポールダンスの要領で槍に腕を絡め、方向を変えたロックの蹴りが決まります。
これにより、後ろにアイ、前にロックの挟み撃ちが成立しました。
「アイ! 逃がすなよ!」
「うん!」
アイは振り回していた倒木を捨て、逃げる心配がなくなったトウテツへ肉薄します。
『丸太捨てていいのか!?』
『ロックに当たるかもしれないからな』
『それに小回り効かないからダメージ稼げないし』
この状況でもう倒木は必要ありません。
今必要なのは力とロックに負けない手数。
「ほくとーいっしんりゅう・ごのかた──!」
ステータスのアドバンテージがあるとはいえ、ダメージレースは負けています。
アイがとれる選択肢は1つしかありません。
「──かすみれんげ!」
霞蓮華。
それは見よう見まねの3つの内で1番長く続く技。
腕を大きく広げて振るって、遠心力による連打を繰り出す舞踏です。
「らあああああっ!」
小さい体をめいいっぱいに使ってぶつかっていくアイ。
モチロン力任せですから、踊りの出来も当たる箇所もお構いなしの不格好な力技。
「【迫撃掌】! 【花蓮撃】! 【崩襲脚】!」
ですが不思議と様になっていました。
木に刺さった斧やナイフを足場にしながらロックが多角的に立ち回ってくれるので、心置きなくぶつかっていけるのです。
胴に当たれば頭に当て。
腕にぶつかれば位置を強引にずらし。
空いた隙間に容赦なく叩き込んでいく。
『逃げ場がねえ!』
『なんだこいつら……』
もはや何を言うでもなく息を合わせて連撃を加えていく2人を差して、誰かは言います。
『なんだ……楽しそうに踊るじゃあないか、まったくもったいない』
そして不思議なことに、
「これで!!」
「終わりだ!!!」
この瞬間に勝負が決まります。
腹と背の両サイドからの掌底が決まり、トウテツのHPバーが底を尽きるのでした──。
━━━━━━Congretulation!━━━━━━
ボスエネミー『トウテツ』の討伐成功!