白銀の世界
朝起きて窓を開ければそこは辺り一面白銀の世界だった。
僕が綺麗と呟けば君はそうねと外を眺めた。
子供は無邪気にはしゃぎ大人は少しため息を漏らす。
大人とも子供とも言える高校生は少し苦笑いを溢した。
僕らはどうだろう?
ただ静かに美しい雪景色をただ眺めている。
「さぁ、そろそろ冷えるから窓を閉めよう」
僕はそっと君の肩を抱き寄せる。
君はひんやりと冷たかった。
僕が暖まっておいでと言えば君は直ぐにストーブの前に座った。
僕はそのまま外をまた少し眺めた。
情緒的な雪景色。
少し触っただけでもその景色は崩れてしまう。
葉の無い木の枝。
そこに細く確かに積もった雪。
僕たちの関係と似ているかもしれないね。
僕は窓を閉める。
でもカーテンは閉めない。
まだその幻想のような景色を見ていたかったんだ。
振り返れば君はストーブの前で丸くなっていた。
「寒い?」
僕が訊ねれば君は大丈夫と少し微笑む。
「今日は午後から仕事なの」
君はまだ丸まりながら言う。
僕はそっかとだけ答えた。
本当は今日は君といたいと言ったら君は笑うだろうか?
僕は君に温かいココアを差し出す。
君はありがとうと受け取った。
外に出れば無数の足跡。
踏み固められた雪。
まだ誰も犯していない真っ白な未知の領域。
君はバッチリ準備した仕事姿。
僕は部屋着。
僕たちが呼吸をするたび白い吐息が二つ上がる。
一定のリズムでただ静かに。
また二人で銀の世界を静かに眺める。
君は行くねと片手を上げる。
僕は気を付けてと片手を上げる。
遠ざかる背中。
遠ざかる足跡。
遠ざかる君の温もり。
僕は気を付けてともう一度君の背中に呟いた。
僕はその夜葬儀場にいた。
君は写真のなかで今朝と変わらぬ笑顔で笑ってる。
否、今より少し幼いだろうか?
僕は君の冷たくなった体に触れる。
君はスリップしたトラックに跳ねらた。
僕は静かに涙を流す。
"気を付けてって言ったのに"______...
写真の君は"ごめんね"と言ってるように見えた。
白銀の世界が消える時、君はもう僕の隣には居ない________。