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自分は皇女ではない。たとえそうだとしても、シルヴィアには認めるつもりはなかった。
王は、顔を歪め、しばらくうつむいた。そして、
「皇女ということを認めないというのなら、それでもかまわない。だが、ここに来るまでの兵や侍女たちの態度を見ただろう?」
ピクリと反応した。あれは、今思っていても、ただの客人にする対応ではない。
「今、やっぱり皇女ではなかったと否定すれば、余の面目は丸潰れな上、国としての威厳も保てなくなる。しばらくここに居て調べて、その後やっぱり違ったと、説明する。そなたが言ったような、一族の生き残りだとでも言う。だから、しばらくここに居てくれないか?」
それは、国王としての命令ではなく、一人の人間としてのお願いだった。
「もちろん、生活は保証する。本物の皇女と同様の環境を提供するし、侍女もつける。図書館は自由に使っていいし、したい勉強があれば好きなだけしていい。その際は、教師もつける。余の部屋を除けば、城のどこをうろついてもいい。どうだ?」
勉強の件で、反応した。
「本当に...、何を勉強しても良いのですか?」
王は、大きく頷いた。
「もちろんだ。必要ならば、研究書も用意する。そなたが望むことは、できるだけ叶えたいと思っている」
正直、シルヴィアにとっては魅力的な話だった。大叔父に勉強を教わったが、やはり足りない部分も多く、いつか本を買って勉強したいと思っていた。
「ただ、しばらくとはいえ、皇女として居てもらうのならば、多少は社交にも出てもらう。まあ、一、二回でいい。その分、環境を提供する」
シルヴィアは迷った。社交の件は面倒くさいが、勉強できることの代償だと思えばいい。それに、皇族の図書館を使えることなど、これから先の人生にあるのだろうか。
「...しばらくとは、ひと月くらいですか?」
「まぁ、そのくらいだ」
「...わかりました。いいでしょう。ただし、私にも条件があります」
「何だ?」
「社交に出れば、たくさんの人が私のことを皇女と思うでしょう。私はそのたびに否定します。『私は皇女ではない』と」
「...!」
「これを許可していただけるのならば、しばらくの間だけ、皇族になります」
王はしばらく渋い顔をしていたが、やがて頷いた。
「いいだろう。否定するのはそなたの自由だ」
「ありがとうございます」
そう言って、頭を下げた。王が侍女を呼び、玉座の間から出ようとする前、再びゆっくりと頭を下げた。そして、シルヴィアは出ていった。