ほっと・ないと
「ごめんよ」
ちょっと不機嫌そうな、ごくわずかにふくれた頬を見て、彼は何度目かの謝罪を口にした。
ささっと差し出すのは、甘めに作ったミルクココア。
バレンタインも目前なためか、砂糖で出来た赤いバラが浮かんでいる。
「いや、したつもりだったんだって。次からは気をつけるから」
何かの失点があったようで、彼はおわびと称して貢ぎ物の星と化している。
飲み物から始まって、最初はココアに合わせて甘さ控えめのミニクロワッサン。そのうちに塩味のものも食べたくなって、サラダせんべい。細長い焼き菓子にチョコをコーティングしてある高名なお菓子。ポテトチップスまで次々と出てくる。
「あれ、飲み物が空になってるね。作り足そうか。別なのがいいかな、お茶よりは……カフェインのないハーブティーとか」
ささ。と勧める両手の中には、多種のティーバッグが収まっていた。
相手が、ふくれているのがばかばかしくなって、くす。と笑ってしまうまで続けるのが彼の流儀。そうして暖房の夜が過ぎていく。