3、ハジマリ。
私の学校は、2年生になると理系と文系に分かれることになっている。私は理系だから、割とガチで勉強しないとやばい。なのに私授業中寝ちゃうからね。それで成績いいとか質悪いんだよ。自分で言うのもなんだけど。
しかもなんで2年生は5階まで上がらなきゃいけないのさ。運動部じゃないからかなり死ぬ。自慢じゃないけど中学も高校も、帰宅部だ。
今日の放課後も、いつも通り、喧騒に包まれていた。雑談しに集まってたり、部活に行く者、勉強する者もいる。すごいな。何がすごいの。
「伶菜、あのさ」
なんてバカみたいなことを思っていたら、私に声をかけた男子生徒がいた。宏大だ。
ちょっと真剣な声音だったから驚いて口がちょっと空いてしまっていた。
「ん? どうしたの?」
「あのさ…………」
「何? 早く言わないと帰っちゃうよ?」
なんだろなんだろ。なになに期待しちゃう!
「オタク部、入ら、ない……?」
オタク部…………?
***
宏大は、私を新棟の3階に連れていった。連行したって言っても合ってるかな?
新棟に来たのは久しぶりで、入学して以降一回も来ていないと思う。
「失礼しまーす」
宏大が先に部室に入り、私がそのあとに続く。結構ガチ勢っぽい? のか、かなり新しい携帯ゲーム機が置かれていた。パソゲーだったりテレビゲームだったりと、種類も豊富だ。
更にアイドルブックとかアニメのフィギュアだとか、他にもたくさんのオタクグッズが置かれていた。
「どう? すごいっしょ」
「え、もしかして宏大が立ち上げたの?」
私は疑問に思ったことを口にした。しかし、宏大は違うよ、と首を横に振った。
「先輩が作ったんだよ。その人かなりのオタクでさ。伶菜と肩並べるくらいオタクの先輩とか、同学年の子も何人かいるよ」
「いつ、入部したの?」
「昨日だよ。ほら、昨日用があったってのはこのことだよ」
あーそんなこと言ってたなそういえば。これが理由か。
「なぁるほどねえ……」
私はふむふむと頷いた。
「どう? 入らない?」
私はどうすればいいかと考えた。……だめだ。いい答えが直ぐに浮かばない。
入りたいのは入りたいけど……。
「まずここ、何する部なの?」
「えっと、アイドルとかアニメの研究したりとか、まあ普通に見る的な? あと、ゲームの大会とか出たり、他にもいろいろ……漫研とかも一緒にやってるよ」
……どうしよう。超迷うが、私はこう答えた。
「入るよ」
「ホントに!? いいの!?」
「う、うん……?」
宏大があまりにもキラキラしてこっちを見ているから、どうも落ち着かない。こんなキャラだったかしらん?
でも入ると決めたなら私は部員として頑張っていこうかな。しかしまあ……。なんかすごく変な部活に入った気がしてならないんだけど……。
***
翌日の放課後。今日から部活に行かなければいけない。だるいけどなんとなく楽しそうだった。果たして何人いることやら……。
宏大と一緒に来て、やっと着いた部室の中には既に4人も人がいた。早いな。さすがオタク。
しかし、名前分からないだろうと思って、とりあえず自己紹介した。
「あ、あの、昨日入部した、2年B組の海ノ原伶菜です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、部員達は「よろしくー」と返してくれた。よかったぁ……。いい人達ばっかり……。
知ってる人いるかな……と思い、キョロキョロしていると、どこか見覚えのあるイケメンが格ゲーをしていた。
…………もしかして?
「あの、瀬那一希君……だよ、ね?」
と聞くと、イケメンはヘッドフォンを外し、こちらに顔を向けた。
「うん? そうだけど」
そのイケメンは、瀬那君だった。むむむ。
「海ノ原さん、でしょ」
「うん。昨日入部したの。よろしくね」
言うと、瀬那君は少し俯いて、小さく頷いた。ちょっと可愛いと思った。アホか。
てか思ったんだけど、私何すればいいのん?
スマホのギガ食いたくないからポケットWi-Fi持ってきたけど、アイロクしていいのかな。
宏大に聞こうと思ったけど、トイレにでも行っているのか、姿が見当たらない。すると、困っている風に見えたのか、瀬那君が声をかけてきた。
「アイロク、していいと思うぞ」
「え……?」
「や、だから、アイロク、していいって。オタク部は何やってもいいんだよ」
ぶっきらぼうにそう言った。そうなんだ……。
「瀬那君、ありがと!」
ちょっと照れたように耳を赤くした。可愛い……。
この人なんでこんなに可愛いのよ。結構どうでもいい知識が増えてしまった。まあ、いいか。少し胸が痛いような気がするけど、気のせい気のせい。
とりあえず、アイロクするか。
部活の時間が終わると、誰でもそれぞれ退室していった。人数多いな。ざっと15人とかいた。部室が案外広くて、なかなか良かったのもいい点だ。
私はこんなふうに部活とか、一緒にゲームしたのは初めてだった。ホントに楽しかった。失敗しても笑ってくれたりして、私は幸せだと思った。
一日でここまで慣れるのは私的にかなりの進歩だと思う。明日からもこんなふうに続けばいいと願った。
翌日。朝から私は鏡の前で、「頑張れ! 私!」と入社一年目のOLの真似をしていた。弟に白い目で見られました。
登校しようと家を出たが、今日は雨だ。雨嫌い。大切な本とかスマホ濡れるし。
基本的に私は自転車通学だ。しかし、今日みたいに雨の時は濡れたくないから歩いていく。特に一緒に行くような友達とかはいないから、イヤホンをつけて朝からウキウキで登校する。アニソンとボカロは最高……っ!
学校に着いて教室へ入ると、相岡さんと本条さんが挨拶してくれた。結構仲がいい。
入学当初はあまり仲がいいとは言えなかったけど、1年生後半になってからは、結構うちとけあえるようになった。
「伶菜、あたしさ、これ解けないんだけど、教えてくれる?」
「みかにも教えて〜!」
「えーっとね、これはこの公式を使って、xにこの数字、yにはこの数字を代入して、ってやっていくと解けると思うよ」
「おー! 出来た! さすが伶菜!」
褒められるとやっぱり嬉しい。私は教えるのはあまり上手じゃないけど、教えることは自分の復習にもなるから効率もいいしためにもなる。
「みかも出来るようになりたいなぁ……。文系にすれば良かったよ……」
「あーそれな。あたしらバカだしねえ」
「伶菜ってオタクなのになんでそんなに勉強できるの?」
問われて、私は直ぐに答えは出なかった。ちょっと考えて、この答えを出した。
「勉強しないと親に怒られるからね……。スマホ没収なんてされたら私末期だよ。だから、なのかな」
「なるほどねえ……。すごいなぁ」
それほどでもない、という言葉は飲み込んだ。だって本当の理由は別にあるんだから。
そうこうやっている間に、SHRの時間になった。また、今日も始まる。
先生の喋る言葉が、いつもよりはっきり聞こえてしまった。
どうもこんにちは。青春夢依です。
やっと本格的な冬になりました。雪が積もって雪合戦とか小学生みたいなことやって遊びたいです。
でもやっぱり炬燵でぬくぬくしていた方が好きなんですよね。引きこもりに外遊びはきつい。
たまにあることって、なんで今ここにいるのかって思うことなんですよ。最近全部がテンプレ化して何もかもが違わないように見えてきちゃうんです。
きっとそれは物語の主人公も一緒です。僕はそんなことを伝えられたらいいなと思います。
ってことで、第三章、お届けいたしました。いかがでしたか?楽しんでいただけたでしょうか。
読んで下さり、ありがとうございます。
また次回、お会いいたしましょう。