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エルロワーズの森と黒き竜  作者: 山川コタロ
9/58

★???視点


 ボクは海に面した街で生まれ、育った。田舎という程でもないが、都会という程でもない。ありきたりな地方都市。

 裕福な家の一人息子として生まれ、欲しい物は何でも買い与えられた。

 けれど、両親はボクに愛情はくれなかった。

 小学校に上がる頃には、そこそこ取り巻きに囲まれ、クラスの中でも中心として行動していた。

 そんな時だ。()()()に会ったのは……。

 第一印象はなんてキレイなヤツなんだろうって思った。

 まるで女の子みたいなキレイな顔で、どこか影のある寂しそうな、冷たそうな瞳。誰も近寄らせないような独特の雰囲気。

 それでもすぐに友達になりたいってボクは思った。


 けれど、そうはならなかった。ボクが何を言ってもアイツは無視するだけだった。

 アイツは初めて会った時から一人だった。誰とも係わろうとせず、いつ見ても一人で行動していた。

 男子達は、アイツを気味が悪いと遠巻きの眺め、女子達は、その整った顔立ちと独特の雰囲気に陰ながらキャーキャーとはしゃいでいた。


 ボクはそれが気に入らなかった。

 いつも一人でいるくせに、女子達の話題はいつもアイツの事で持ち切りだった。

 それが拍車をかけたのか、ボクがアイツに嫌がらせをするのに時間はかからなかった。

 影で悪い噂を流したし、教科書や上履きを捨てたりもした。

 それでもアイツは、その嫌がらせのどれにも反応しなかった。

 ボクはそれが余計に勘に触った。

 取り巻きの男子達を使った嫌がらせは、次第に暴力へと変わり激しくなっていった。


 ――なんて――幸せなんだ――


 何をしても反応しないアイツがその時だけはボクの事を見る。

 問題になった時は親が黙らせた。

 アイツの親や兄弟たちもアイツの事は疎んでいたし、ボクの親は金も権力もそれなりにあった。教師達の信頼もボクにはそれなりにあったはずだ。


 そういえば一人だけアイツを親身になって、庇っていた若い女教師がいたな。

 アイツは気にも留めていなかったし、その女教師はボクが小学校の中等部の頃には散々嫌がらせをして、親にチクって追い出していた。

 バカな女だ。アイツにベッタリくっついているから……。

 確かにその頃には最早イジメと呼べるものではなくなっていたけど。






 そんな頃だ。おかしな事が起こり始めたのは……。

 初めは取り巻きの一人が事故でケガをしたのが切っ掛けだった。

 幸い命に別状はなかったが、かなりの大ケガでちょっとした街のニュースにもなった程だ。

 それから一人、また一人と、アイツに嫌がらせをしていた連中が事故で大ケガを負っていった。

 警察や消防が調べても原因不明で、全て不思議な事故で片づけられた。 

 周りの連中はその事に怯え、徐々にアイツから距離を取っていったが、ボクは止めなかった。

 

 ――そうしなければ――アイツはボクの事なんて見てくれない――

 

 今日は一体何をして甚振ろうかと考えながら、登校している時だった。

 突然トラックが突っ込んできたのだ。


 ――そこから先は記憶がない。

 気付いた時には病院のベッドの上だった。

 下半身は一生動かないと言われた……。

 顔には酷い傷が残り、醜く歪んでいた……。

 ――病室のベットで誰かが何かを言っていたがボクの耳には何も入らなかった……。

 その時、ボクが感じたのは激しい憎しみ。

 ボクが動けなくなっても、アイツは誰かと出掛ける事もできるだろう。

 ボクがこんなに醜い顔になったのに、女達はアイツに近づいていくんだろう。


 ……憎い……憎い……憎い……憎い……憎い


 ……許せない。


 ボクはアイツの近くに行けないのに……。

 それからは自分の部屋に閉じこもり、毎日パソコンでネットを見るかアニメを見て過ごした。

 





 どれくらいの時間が経ったか……。

 気付いたら白い部屋にいた。

 何もない真っ白な部屋。

 そこには白い()()がいた。

 ()()はボクに色々喋りかけていたが、ボクはその内容を覚えていない。

 覚えているのは『神』になる方法。

 強い神格を持つ魂と身体。それを用いて神の座に上り詰める。

 今のボクにはその両方が足りない。

 なら、その両方を持つ者を探して奪えばいい。

 ()()はその為の手段と力をくれるといった。 


 くれるというなら貰ってやる!


 そう念じた時ボクは、ネットやアニメで見た異世界に飛ばされていた。

 最後に()()が言っていた言葉が、やけに耳に残っていた。


「その醜い顔と同じくらい醜い魂を持ち、自分の手を汚さず、人の力ばかり使っていたキミにピッタリの力だな」

 

 勝手にほざいていろ。神にまで上り詰めたら真っ先に貴様を殺してやる。






 ボクが手に入れた力は他人を乗っ取り、操る『スキル』。

 そして異世界から転移者を呼び出す術式。これは知識としてボクの記憶に刻まれていた。

 その力を使い、まず手始めに片っ端から他人の身体を乗っ取った。

 古い傷ついた身体を捨て、新しい身体に乗り換える事で寿命を延ばし、健康で若い身体に変えた。

 しかし、乗っ取る度にボクの魂と呼べる物――存在そのものが――少しづつ欠けていくのだ。

 かけた魂には、それまで乗っ取った魂の欠片が幾分か付着し、ボクが他人に侵食されるような感覚に襲われる。

 あまり多用するのは危険と判断し、次の段階に進む。


 ――神に上り詰める。


 この世界の生物では、魂も肉体も神になる条件は満たせず、異世界召喚の術式を使う。

 おそらく()()はこれが分かっていたので、この術式をボクによこしたのだろう。

 しかし、術式を使うには膨大な魔力を必要とする為、ボクには使えなかった。

 そこで、人間の王族や、魔族の王に取り付き、片っ端から異世界召喚をさせる事にした。

 人間や魔族を選んだのは、獣に比べて身体を乗っ取り易かったからだ。獣――特に知恵のある魔物は自我が強く、乗っ取るのに苦労した。

 中には反抗して、乗っ取り切れないヤツまでいた。


 ――あのドラゴンのように……。


 異世界召喚の術式を餌に近づいたが、『スキル』の効果が効かなかった為、乗っ取る事は諦めた。


 ヤツを乗っ取る事が出来れば、これほど苦労せずに済んだのに……。


 だが、異世界召喚の術式は教えてやった。一人でも多く召喚してもらい、より良い素材を増やすのはボクにとっても歓迎する事だった。

 おかげで、十七人のも召喚者がこの世界に呼び出された。

 そのせいで何人死のうが、この世界の魔力が枯渇し尽きようがボクには関係ない。


 ボクは神になりたかった……。





 

 出来る限り素材をこの世界に集めたら、今度は選別作業に取り掛かる。

 神になれる器の選別。


 ――これが一番愉快で――楽しかった!


 人間や魔族に憑りつき、国と国とを争わせる。

 反対する者は全て処刑し、その家族まで全て殺した。

 憎しみを煽り――増幅させ――人々を扇動する。


 ――今思い出しても身震いする。


 バカな人間や魔族共が、戦争を止めたくても止めれず、互いに憎しみ、殺しあう。


 ――最高だ!母親を殺されてガキが泣き叫ぶ声。夫や子供を殺されて悲鳴を上げる母親。阿鼻叫喚が世界を覆いつくす。


 ボクが神になったらまた同じ事を繰り返してやる。






 ここまで来たら、後は召喚者たちを騙し、戦場に送り込むだけ。

 最後の一人になるまで、互いに殺し合いをさせる。

 この争いに生き残ったヤツなら、間違いなく神の器となり得るだろう。

 

 ――笑いが止まらない。何も知らず、自分達が正義と信じて疑う事なく殺しあう。


 ……誤算があったとしたら、あのドラゴンが呼び出した人間が最後まで生き残った事だ。

 そして、あの大っ嫌いな()()()()まで呼び出されていた事か。

 あの女だけは最後まで疑い召喚者達を止めていたが、最後は仲間に裏切られて殺されていた。

 最も、計画の邪魔になりそうなので、そう仕向けたのはボクだったりする。

 バカな女だ。

 もし最後まで生き残っていたなら、ボクが乗っ取って身体だけでもアイツにもう一度会えたかもしれないのに。


 そして、最大の誤算は『スキル』による、ボクの魂の劣化だった。

 計画を成し遂げる為、ありとあらゆる種族の身体を乗っ取り、時にはかなり無茶な乗っ取り方もした。

 その反動がここに来てボクの魂を大きく削っていた。時間的な猶予はそう多くはないだろう。


 最後にこのゲームの()()()が決まり、その肉体と魂を目の前にした時など、あまりの喜びについ口が滑り、余計な事まで喋ってしまう始末だ。

 おかげで激昂した優勝者に殺されてしまった。

 ボクの悪い癖だ。どうせ優勝者の身体を乗っ取ったら、古い身体は捨ててしまうつもりなので、古い身体が壊されようが、どうなろうがボクにはどうでもいい。

 しかし、その油断こそが最大の失敗だった。

 いざ、優勝者の身体を乗っ取ろうかとした瞬間、優勝者の身体が転移してしまったのだ。

 あの時ほど自分を呪った時はない。身体がなければ魂だけのボクは消滅してしまう。このままではボクは神になるどころか死んでしまう。


 そうなったらもう……アイツに会えない……。


 優勝者が転移した後には、一匹の巨大な龍が横たわっていた。

 自我が強い知恵を持つ魔物は乗っ取りにくいが、背に腹は代えられない。

 仕方なく目標を龍の方に変える。

 なんとか龍に乗り込んだが、やはり上手くいかない。

 全く上手くいかない訳ではないが、制御が効かない場合もある。半々といった所か。

 だが、そんな事は関係ない。

 すぐに呼び戻してやる。この龍の魔力を使えば、召喚一回分くらいの魔力はひねり出せるだろう。

 この龍が死のうがどうなろうがボクには関係ない。

 すぐに転移した跡から術式を発動させようとするが……どうやら優勝者はこちらの世界に戻ってこようとしているらしい。


 これは好都合だ。


 無駄な魔力も温存できる上に、自分から身体を差し出しに来てくれるとは。

 ならばボクはこの場で待つことにするとしよう。






 ――――しかし、いつまでたっても優勝者は還って来なかった。

 気付けば龍から魔力が大量に漏れている。


 コイツなにをしやがった!?


 ボクの――ボクの身体を!!


 すぐさま龍の支配をボクに移す。


 コイツ!!――優勝者を五百年も後に飛ばしやがった!


 何てことしやがる!!


 ――どうする!?また別の転移者を呼び出して選別するか!?


 ――出来ない!大量に転移者を呼び出したばっかりでこの世界の魔力は尽き欠けている!


 今のこの世界に残った魔力では転移自体が成功しない!


 ――ならこの龍の魔力は!?


 ――それもダメだ!今時間をずらしたせいで魔力が足りない!


 魔力が回復したとしても、また、邪魔をされるかもしれない!


 ――ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!


 はぁはぁはぁ……。


 よくも――ボクの計画をよくも邪魔しやがって!

 このままじゃボクの魂が持たない……。 

 意識を保てる時間もごくわずかだ。

 それまで大人しく休むしかない……。


 五百年……。


 仕方ない……。


 ――神になって……もう一度……アイツに――。






 それからは長かった……。

 龍の身体を宝玉に納め――眠る間におかしな夢を見た――。


 アイツの夢だ……。


 アイツは相変わらずキレイだった。

 そこではボクとアイツは友達――というか、家族だった。


 穏やかで、静かな時間……。


 おかしな道場で二人きりで暮らしていた。


 初めてアイツの笑った顔を見た――。


 たまにしか笑わないが、心の底から笑っているのが分かった。


 ボクも――笑っていた――。心から……。


 いつもふざけあい、毎日一緒だった。

 夢の様な時間だった。幸せだった。ずっとこんな日が続くと思っていた――。


 けど――そうはならなかった。


 アイツが病気になった――。

 一緒に暮らすボクには分かっていた――。

 アイツが普通じゃない事――おかしな物が見え、おかしな力がある事――。

 だからアイツは誰ともかかわろうとしなかった――。

 ボクにはなんとかできたはずだった。アイツの病気も――。

 アイツは「仕方ない」とぎこちなく笑った――。

 痛々しい笑顔だった。

 そんなアイツの笑顔は見たくなかった。

 早くあのキツネ目の身体を奪い取らなければ――。

 早く神になりたいと強く願った。


 ――――でなければ……アイツが……死んでしまう――






 そこで夢から覚めた。

 ちょうど五百年たっていた。

 おかしな光の波動を受けて、目を覚ましたみたいだ。

 もう魂は摩耗しすぎて、目も耳も上手く動いていなかった。

 出来の悪いサーモグラフィの画像みたいだ。

 この龍の身体ではボクの魂に負担が大きすぎる。


 もっと弱い身体が必要だ……。


 幸い近くに、そこそこの力を持つ人間がいた。

 龍の核である宝玉に姿を納め眠っていたため、そのまま人間に近づく。

 男は宝玉を見つけると、疑いもせず懐の入れる。

 すぐさま男の体を乗っ取る。

 この世界で勇者と呼ばれる人間の男みたいだった。

 ボクにはどうでもいい。

 目的なのは優勝者であるキツネ目の身体だけだ。

 勇者と呼ばれる男の身体は弱すぎる気もするが、逆にボクの魂の負担が少なくてよかった。

 しかし、男の体でさえ今の摩耗した魂では完全には乗っ取り切れなかった。

 それも構わない。

 大きな魔力が四つ、そいつ等が向かっている先に男を誘導するくらいはできる。

 この魔力、覚えている。間違いなくキツネ目だ。


 ようやく願いが叶う――。


 早く――早く向かえ!


 ここに来てスキルを無駄遣いした事を後悔する。

 完全に乗っ取れたなら、この身体が壊れようがどうなろうが、すぐさま向かえたのに……。


 アイツらはもうすぐそこだ。もうすぐ神になれる――


 目も耳もまるでノイズがかかったように、上手く利かないがなんとかするしかない。

 男の持つ指輪のマジックアイテムは気配も魔力も全てを消してくれる。

 この身体を乗っ取って良かったと心から思う。

 これなら不意打ちで身体を乗っ取る事もできる。

 スキルを使って身体を乗り換えるのも、おそらく後一回が限界だろう。それ以上はボクの魂が持たない。

 それどころか、今この瞬間にボクが消えてもおかしくない程に『ボク』は消えかかっている。


 もう、ボクは消えても構わない!


 それでも……なんとか……アイツだけは……。

 





「キミはだれ?何がしたいの?」


 ボクは問いかける。


 誤算だった。こんなヤツがいるなんて――。


 もう、ボクにはコイツの姿も声も、見る事も聞く事もできない。ノイズを透してなんとなく感じるだけ。

 少しでも時間を稼ぎたい。

 あのキツネ目の所に――隙を見つけて――――それも難しいだろう――。

 少しでも可能性を上げる為、この男の身体を治そうとしたが、それも無意味か――。


 どうする?


 それでも時間を稼ぐしかない。この男の身体を治す時間を――。


「……驚いた。まさかボクが見えるなんて……。ボクは『プッペンマハー』。名前を聞いても?」


 仕方なく偽名を使ってでも、時間を――コイツの情報を――。


「……エルロワーズだ……」


 コイツも偽名か。感覚だけしか利かない今の状況はもはや詰みなんだろうな……。

 

 ――もういい。ボクの魂は諦めた……でも――


 ボクは龍の核を取り出す……。この身体はもういらない――。

 分の悪い賭けでもやらないよりはまし――。

 今のボクにどれだけ制御できるか――。

 目も耳も効かない――。

 魂は砕ける寸前――。

 相手は化け物みたいな人間――。


 ――ボクはこのまま消えてもいい――!


 それでも――。


 アイツだけは……アイツの病気だけはなんとか――。


 助けたい――!





 

 ――あぁ……ボクは……アイツが……好きなんだ――。


 もう人間も魔族も世界も――ボクさえもどうなってもいい……。


 ――お願いします――お願いします――お願いします――


 アイツの命を……心を……どうか……助けて下さい……お願い……します……

 

 

 ――神様……





 

 目も耳も使えないボクは、龍の意識に任せてただただ突進を繰り返すだけ……。

 そんなボクがこの化け物をどうにかできるはずもなく――。  

 もう何度目か分からない程吹き飛ばされた後、ボクは決意する。

 吹き飛ばされる度、この化け物は何か叫んでいた気がしたが――何を言っているのかボクにはもうわからない。


 キツネ目はもう無理だ。


 コイツでいい。


 いや、コイツこそが一番――最高の素材だ。

 コイツに決めた!

 最早ボクの意識はほとんどない。

 成功する可能性は限りなく低いのかもしれない。


 それでも――


 アイツに――また――笑ってもらいたいんだ。


 勝負は一瞬。

 明らかに誘っている。


 ――舐めやがって――


 そんなにボクに()()()()()ならそうしてやる。


 ボクが神になり、たった一つ――たった一つだけアイツの為に願いを叶える。そうしたら……


 ボクと……一緒に、死ねぇーー!


 ボクは最後の力を振り絞り化け物の精神に乗り込んだ。 





  

 そこはボクもよく知っている海だった。

 子供の頃からよく知っている――ボクの生まれた街にあるなんの変哲もない夜の海。

 いつも放課後、アイツが一人で来ていた海岸。

 太陽が沈んで辺りが真っ暗になっても、アイツはいつも一人でこの海岸に座っていた。

 ここはボクが見た光景そのものだった。

 今度はボクがそこに一人で立っていた。

 どれだけ身体を変えても消えなかった下半身の痛みはもうない。顔の傷もキレイに消えているのだろう。


 今まで色んなヤツの心に入って来た。

 人間から魔族、魔物に至るまで、ありとあらゆる生物の心を乗っ取って来た。


 でも――ここは異常だ!


 こんな光景――初めてだった。


 この化け物の心の中には()()()()()のだ。

 普通心の中には誰かがいる。親や兄弟といった肉親。友達や恋人。そういった自分にとって大切な人。

 でも、コイツの心の中には誰もいないのだ……。 

 ただ真っ暗な海が月明かりに照らされて続くだけ。


 ――コイツ――狂ってる――


 誰一人いない海岸の水面は月明かりに照らされ、まるで海に真っ直ぐ光の橋が架かっているようで、不気味なほど美しく――それでいて――恐ろしかった。


 ――この海はまるで――そう――まるでアイツの様――。

 

 ――あぁそうか――ここは……()()なのか。


 気付けばボクの周りには無数の光の玉がフワフワと漂っていた。

 暗闇の海に数えきれない程の光の玉。数千から一万くらいありそうな――


 幻想的な光景だった。


 ボクには分かっていた。

 

 ――ボクは――ここで消える――


 それもいいかもしれない……。

 アイツの中で眠るなら……。

 

 どこからか、いつの間にか美しい一頭のドラゴンがボクの後ろに立っていた。

 

 ――あぁ――もうお前は大丈夫なのか――?――生きて――いけるんだな――?

  

 満足だ。もう何も思い残す事はない……。

 最後にお前にも会えた。

 ボクの生き方は間違っていたのかもしれない。でも……後悔はしていない。

 

 ――ごめんな?――多分――ずっと――――――――――――好きだったんだ――


 ドラゴンの表情はボクには分からない。

 ただ二人向き合って立っているだけ。

 自然と笑みが零れる。


 ――さよなら――


 そしてボクは消えた………


 ……はずだった。

 

「よう」


 ドラゴンが話しかけてくる。

 アイツの声だった。


「お前がオレの中に来て、ようやくお前が誰か分かったよ。」


 思わず笑みが零れる。


「ボクを殺さないのか?」


 キミに殺され、キミの中で眠るなら本望だ。


「どうして?殺す程の恨みはないが?」


「ボクは……キミに殺される程の恨まれるような事をしたけど」


「別に殺すほどの恨みじゃない。それにお前の気持ちは――ここにきてよく分かった」


「――そうか」


「オレのためにしてくれたんだろ?ならオレはお前を殺せない」


 ボクの気持ちは伝わったのか。

 恥ずかしいより嬉しい気持ちの方が大きかった。初めて素直になれた気がした。


「お前を殺さない。ではなく、死なせない。オレと一緒に来い!」


「でも……」


「来ないのか?オレのために命を懸けてくれたんだ。なら今度はオレがお前の為に命を懸けてやるよ」


 ボクも現金な物だな。

 さっきまで死を受け入れていたのに、甘い言葉一つで、心が簡単に揺れる。


「何もいらない。ずっとレイの傍にいさせてくれないか?」


 ボクのたった一つの願い……。


「……分かった。オレと一緒に来い」


「ありがとう。ボクの心はずっとレイの傍に……」


 ドラゴンは満足そうに笑っている。


 ――一緒に来い――ボクも……その言葉だけで十分だ。


 改めて――これからはボクがレイを守ろう!


 レイがくれる命だ。その全てをキミに捧げよう。

 この世界のようにレイが一人だというなら、ボクがレイの傍にいよう。

 身体が光に包まれる。

 この世界とはお別れみたいだ。





 

 眩しい光に目を眩ませると、ボクはアイツの腕の中にいた。

 お姫様抱っこというやつだ。


 顔が――近い――!


「起きたか?これからはお前もオレの家族の一人だ」


「……わかった」


 アイツは――レイは輝くような笑顔を向ける。


 ――顔!顔が近い――!

  

 ボクは顔を背ける。きっと今のボクの顔は真っ赤だろう。

 レイはいたずらっ子のように笑っている。


 ……幸せ、か――。

 

 ボクはレイの眷族になったのだろう。

 それも悪くない。

 これからはボクの全てを懸けてキミを守ろう。



















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