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エルロワーズの森と黒き竜  作者: 山川コタロ
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 昨日からずっと寿命が縮む思いだった。

 今思い出しても身体中に震えがくる。

 何とか表情や態度にこそ出さなかったが、その擬態が出来たのはひとえに長く生きて来たが為の経験のおかげだった。

 ただ無駄な年の取り方はしていない。

 そう証明出来た事が殊更に喜ばしい。

 なにせそのおかげで可愛い孫娘の幸せが約束されたのだから。

 寿命が縮む思いをするくらいで、その願いが叶うのならば安い買い物だと言える。


 ロッテ……そしてコイナ……

 

 あの子達の為ならば、どれほど泥をかぶっても我慢できる。

 罵られようが、蔑まれようが、なんなら命そのものを奪われても構わない。

 それほどの覚悟があった。


 しかし結果は予想外にあっけなく終わった。

 あの少年の迫力、存在感は今まで見た中でダントツ。

 なのにその中身ときたら邪龍とはほど遠いとぼけた性格。

 むしろひどく気が合うと感じた。

 考え方も態度もとても気に入ったし、何より安心出来た。

 孫娘に相応しいとそう思えた。

 ロッテが思いを寄せ、また向こうもロッテを憎からず思っているのが手に取るように解った。

 少年からジークフリートに向かって怒りや苛立ちの感情が沸き上がっても、それでも絶えずジークフリートが安心感を持って対処出来たのは、ひとえにあの少年がロッテを……コイナを大切に思うが故。

 その祖父である自分を傷付けるような行動を取らないと、そう思ったからだ。

 もし初めからロッテに嫌悪感を持たれていたなら、今頃は三人供どうなっていたか分からない。

 

 おかげで交渉はまさに上々の結果、これ以上ない結果だと言えた。

 長い人生でこれほど満足出来る結果も久し振りだった。初めてと言えるかもしれない。

 多少交渉に汚い手段をとったが、あの少年であればその真意にも気付いてくれているはず。

 むしろロッテを差し出す時など、自分から目配せまでしてきたくらいだ。

 やはり彼が身内になってくれて本当に心強い。

 それもこれも全て()()()のおかげだろう。




「で、どないやった?キミの目にはあの子はどう映った?」


 このおかしな言葉遣いをするこの男。

 初めて接触してきたのは、もう一ヶ月以上も前になる。

 部屋に一人でいた時、突然背後から声をかけられたのだ。

 殺された、そう思ったが実際は話をしに来ただけだと言う。

 後はその話を聞き、どうするかは好きにすればいいと言う。

 胡散臭い話ではあったが、話を信じるだけの力はすでに示されていた。

 だからこそザクセン領で使える自分の名前の紹介状を渡したのだ。

 この男と敵対する意思がない事を示す為に。


 気配も音も匂いもなく、その感情さえ感じない。

 実はこの場には誰もいないと言われても納得出来てしまう。

 それほど存在感の希薄な、ゴーストのような男。


「そう……ですの。賢さ、強さ、決断力、共に申し分なく。多少幼さが見え隠れしますが、王としての素養は十分かと。いえ、王というよりは神話に出てくる神に近いかと。恐ろしいほどの力を持ちながらもそれでいて気まぐれで自由。深く考えているかと思えば至極単純。純粋……なのでしょうな」


 自分で言っていて可笑しくなる。

 相手は人ではない。

 ドラゴンなのだ。

 おかしな評価だと思うが、ドラゴンだと思えばピッタリの評価だ。

 得てして御伽噺のドラゴンはそういった性格の者が多い。


「よう見とるやん!中々感心やなぁ~。取り合えずは合格やわ」


「お褒めにあずかり恐悦至極に……」


「ええって。ええって。そんな堅苦しい事言わんで。こっちまでむず痒くなってまうわ」


 ひどく気軽な調子なのは、あの少年の姿のドラゴン――レイと変わらない。

 しかしその纏う空気感はまるで違う。

 あのレイを春の一番風だとするならば、こちらは秋の終わりに吹く木枯らし。

 どちらも同じ冬を感じさせる冷たい風なのに、感じる印象はまるで違う。 

 冷たさの中にポカポカと日溜まりの温かさや優しさを感じさせるレイの印象と違い、冷たく身を突き刺すような、凍えさせる無慈悲な冬を告げる風、目の前の男はそんな印象。


「いやぁ~ホンマに()()()()()()


 細い目から微かに見える金色の獣の瞳。こちらを観察するような、その心の内を覗き込まれるような、そんな視線。

 手は震え、足がガクガクいっている。冷たい汗が止まらない。

 こちらは正真正銘の化け物。

 人間味など一切感じられない。

 気に食わない答えを返したならば即座に殺されるに違いない。

 なんの躊躇もなく、それは瞬時に行動に移されるだろう。


「そない怯えんでもええって。ボク等仲間やん?」


 いや、やはりレイは気付いていたのかもしれない。

 この男の存在に。

 だからこそあえてロッテにあの場で加護を与えさせたのかもしれない。

 このジークフリートの身の安全を確保するために。

 でなければあのタイミングで言い出すのは少し不自然だった。


 仲間やん?


 仲間でなければどうなっていたのか。

 想像すらもしたくない。


「でやな、これからの後始末をキミに任せたいんや?あの王都、意のままに操れるか?」


 出来ませんとは答えれないだろう。

 答えは一つしか用意されていないのだから。

 しかしその為の準備に時間がかかるのもまた事実。


「必ずや。しかし少々時間はかかるかと……」


「かめへんよ。その為の時間稼ぎもこっちでしたげるわ。ほれ見てみぃ?」


 突然ドサリッと床に転がされたのはアルべリア国、国王の……国王()()()者の姿だった。

 心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。

 長く生きていると死体の一つや二つくらい見た事もある。

 戦場にも行ったし、王都のスラムの道端に捨てられた蛆の湧いた死体だった見た事もある。

 エリーゼに言って目の前で暗殺者を始末させた事もある。


 しかしこの死体はさすがに……


「なんや、喜ばんのか?一応キミの仇でもあるんやで。……それとも自分でケリつけたかったんか?」


 ふざけたようにお道化る男。

 確かにこの死体は息子の、娘の仇。

 証拠なんてなくても間違いなく関わっていたはず。

 この死体を見る為に今日まで生きて来たのだから、嬉しくないはずがない。


「感謝いたします。この老いぼれの目の黒い内にこの姿を見られた事、言葉では言い表せません」


 どうしてここにこの死体があるのかも分からない。

 ここから王都までかなりの距離がある。

 今頃……考えるにどれだけ早くとも二、三日前からは王城内は混乱の極だろう。

 しかしこの死体は蟲が湧くどころか、腐ってさえいない。

 まだほんのり体温さえ残っているかのようだ。


 しかし……この際そんなことはどうでもいい。

 これは願ってもない千載一遇のチャンスなのだ。

 国王不在の王都。

 あの魑魅魍魎の輩達は互いに喰い合いを始めるはず。

 自国の民を蔑ろにし、その椅子を奪い合い、そのおこぼれに預かろうと貴族達も動き始める。


 ……時間を稼ぐ。


 レイはこの事を言っていたのか。

 なるほど。これほど効率のいい時間稼ぎは他にないだろう。


「これであれば速やかに王都を掌握してご覧に入れましょう」


「ええ返事や。おまけで今から更に王都を混乱させてきたげるわ。きっとキミんとこにもぎょうさんすり寄ってくるで」


「必ずやご期待に……」


 頬杖をついていた男がふいにチェス盤を眺める。

 嬉しそうに、顎に手を当て考え込んでいる。

 その姿につい言葉を失ってしまう。


 このチェスの違和感に気付かれた?


「こっちの黒がレイやろ?ほんまあの子は素直やないなぁ~」


 当たっている。

 盤面の勝負は戻されて、決着がつく前だというのに指し手を言い当てた。

 いや、この終盤のチェック前であれば当てれて当然か。

 

 しかし素直ではないとは一体……。


「これな?白が手番やろ?でなこれをこうすると……」


「なッ!?」


 白のクイーンを動かすとその盤面が全てひっくり返る。

 負けだと思っていた白が逆に優勢に……いや、すでに黒が詰んでいるのか……。


「あの子ワザと負けたみたいやな。自分から言うのイヤやからって……ホンマあかんたれやな」


 真剣勝負の最中そう仕向けたレイも大したモノだが、一目見てすぐこの局面に気付くこの方も……また化け物か……。


 ロッテはおろか、ジークフリートも違和感を感じるだけでその手に気付かなかったのだ。

 恐ろしい……と思うと同時に喜びが沸き上がる。


 レイは……あの方は最初からロッテを選ばれていた。

 だからこの盤面を覚えている為、駒を並べ直したのだ。

 始めから選んでいたと自分に言い聞かせるように。


 年老いたジークフリートの目に涙が零れる。

 どれだけ口で言ってくれたとしても、あの状況ではイヤイヤロッテを選んだのかもしれないと、そう思ってしまったからだ。

 しかしそうではない。

 孫娘は最初から選ばれて……もらわれていったのだ。

 

 素直ではない……。


 全くだ。

 似た者同士お似合いなのかもしれない。

 それでもあの誠実さを見るに、キチンと選ばれたのであれば間違いなくロッテは幸せになれる。

 孫娘ながら男を見る目があると褒めてやりたい。


「いや、可哀そうに……。きっとあの嬢ちゃんも苦労するんやろな……。なんや知らんけど……スマン……」


 急に謝り出す男。

 ここに来て初めて、ようやく見せたこの男の人間臭さ。

 あの少年を語る時のみに垣間見える、微かな優しさ。


 そして、言っている事の意味は分からないが、エリーゼの報告と合わせて考えるに想像は出来た。

 貴族ならば当たり前の事だ。


「御心配なさらず。ロッテにはしかと言い聞かせております。ずいぶんと見目麗しい娘御がたくさんおられるとか……。さような事貴族にとって当たり前の事。ましてやあれほどの御方が妻を一人しか娶らないなどと……」


「いや……そうやなくてな、あの子ホントにバカやから……絶対振り回されるでって……」


「バカとはッ!!そのような事は決してございません!あれ程の御方がッ!!」


 アルべリアの王族と比べれば天と地。月とすっぽん。傷薬とエリクサー。

 見た目も中身も全てにおいて比べ物にならない。


「いや、ええんやけどな……。どうせそっちも苦労するやろうから……」


「苦労などと……。これから孫娘が手に入れる幸せに比べればそのような事、些事にすぎません。それにわたくしの孫娘はそれほどやわに育ててもおりません故」


「そ、そうか……ならええんやけど……」


 今まで一切表情を変えなかったこの男の表情が引きつった。


 何を心配されているのか?

 もしや孫娘を心配してくださっているのだろうか。


 ジークフリートは、男自身がこれから巻き込まれるであろう修羅場というヤツに頭を悩ませている事など露知らない……。

 気の強い辺境伯令嬢と、魔物の姫達。どちらも一歩も引かないのだろう。

 その修羅場をレイが自分で何とかするはずなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。

 ならば必ずそのしわ寄せが、どこかの誰かに飛んでくるはず。

 その一番の被害を被るであろうどこかの誰かが、すでに頭を悩ませている事など本人以外は誰も知らない……。 

 

「ほ、ほんでな……そっちの下ごしらえにレイも同行させよ思とるんや。ええかな?」


「も、勿論で御座いますッ!むこど……あの御方がご一緒であれば話も早いでしょう!」


「いや、ほんならよかったわ。しっかりサポートしたってや」


「畏まりました。万事ご安心を」


 自分に一体あの御方の何をサポート出来るのかは分からないが、精一杯務めさせていただこう。

 なんなら孫娘のロッテも……


「失礼ながら……その調略わたくしの孫のロッテの同行もお許し頂けないでしょうか?」


「当然やな。その方が話が早そうや。ウチには王都に詳しい子が他におらんからな。その辺はレイと相談してや」


「御意」


 これで可愛い孫娘は他の娘御より優位に立てるはず。

 なんなら先に子を成してしまえばいい。

 そういう所で息子のシュテファンはよくやったと言わざるを得ない。

 よくぞ森の眷族との間に、子を成して繋がりを作ってくれた。

 手紙と婿殿に聞いていたコイナ。

 自分の可愛いもう一人の孫。

 早く会いたいモノだ。

 あの御方の約束であれば間違いはないはず。

 しかもその態度を見るにコイナもまた妻候補なのではと思ってしまう。

 これでホーエナウ家は間違いなく安泰。血が途切れる事などまずあり得ない。


「なんや……おっそろしい事考えてそうやんな……。でも……そういえば……?」


 やはり出過ぎた事を考えすぎたか。

 この方は心の奥まで読み取ってくるというのに。

 血の気が引くのが分かる。


「いやな……。キミ等全うな人間とちゃうやろ?どっか……えらい昔にも一族の誰かが加護をもろとるはずや。ほんの僅かに、本当にすこーしだけ魔物の匂いがするで?」  

 

「!!!」


 確かにホーエナウ家にはそんな伝承が残っている。

 だからこそ家紋があのような龍?と呼ばれる形なのだ。


「心当たりあるようやな……。どうりであの嬢ちゃんの魔力が異常な訳や。隔世遺伝ってヤツか……。それともエルが……」


 ブツブツと何やら理解しがたい言葉を呟いている。

 しかしどう推測しても孫達に不利な情報ではないはず。

 それは遠い昔から血縁があったという事。

 いわば親戚なのだから。

 信用は他の娘御とは比べ物にならないはずだ。


「まあええ。後は任すわ。ボクは王都でこの死体を晒してくる。情報操作もしとくさかい後は上手い事使うんやで?」


「どこまでも配慮いただき……」


「ほな」


 返事も聞かず、その姿が掻き消える。

 まるで初めからそこにいなかったように……。




 どれくらいその場で頭を下げていただろうか。

 気が付けばすでに夜が明けている。

 ドッと疲れが押し寄せ、思わず後ろの椅子に倒れこむ。

 身体的な疲労など最早感じない。

 与えられた加護によってむしろ身体の調子は良すぎるくらいだ。

 しかし精神的な疲労はそうはいかない。

 昨日から今までの時間でどれほど精神が削られた事か。

 間違いなく寿命が縮んだはず。

 出来るならこのまま椅子で永遠に眠り続けたくらいだ。


 しかしそうも言っていられない。

 あの情報が正しければ――間違いなく正しいだろうが――この後王都は混乱の渦に巻き込まれる。

 そこでの自分の仕事はアルべリアを滅ぼす事なく、婿殿に引き渡す事。

 簡単な仕事ではない。

 王族がいなくなったからといって、誰かが王になれる訳ではないのだから。

 どのような形でアルべリアを渡すのが上策か。

 それを思案しなくては。

 幸い自分もロッテも王都には慣れ親しんでいる。

 あの腐り切った王都に。醜い砂上の城。

 早く滅びればいいと思っていたあの街が、今や滅びないように努力する羽目になるとは……全く人生とは数奇なモノだ。

 しかし王家に仕えていた頃とはもう違う。

 自身の力もそうだが、後ろ盾がまるで違う。

 今の主君の為であれば、ためらわず命も捨て去ろう。

 全てをあの御方の為に……。

 

 そしてようやっと復讐の鐘が鳴る。

 終わりの始まり。

 

 初めて父親に狩りに連れて行ってもらった、あの日のような興奮。

 それを身体中で噛み締めながら、ジークフリートはザクセン領の首都キョウに向かうのであった。






 取り合えずオウミ。

 みんなまだ帰ってきていないらしい。

 街にいるはずのミケやコイナさんも行方不明だ。

 オレが帰るのに合わせて姿をくらましたらしい。

 どうやら街の噂と姿を消した時期を照らし合わせると、二人が街中で大暴れしたのは間違いなさそうだ。


 全く……!帰ったら二人ともとっちめてやらないと。


 そんな訳で、今日は朝からロッテと二人でオウミの街に出掛けている。

 エリーゼは「後はお若い二人にお任せして……」とか言って姿を消してしまった。

 どこのお見合いだ。

 大方もう護衛がいらないとか思って、アンジーとでも飲みに行ったんだろう。

 しょうがないヤツ。

 まぁ初めてに近い休暇だろうから文句は控えてやる。


「ちょっとッ!ちょっとてば!!」


 横のちっこいのがうるさい……。

 可愛いんだけど、なんていうか……娘とかじゃないんだよなぁ~。

 出会いが出会いだから娘っていうか、友達っていうか……。

 でも嫁かって言われるとなんか違う気も~。


「聞いてんのッ!?なんで無視すんのよッ!!は、初めて二人きりなのに……」

 

 ああ。そういえばそうか。

 いつもエリーゼも一緒だったしな。


 なんかする事もないからただ街をぶらついている。

 本当はしなくちゃいけない事もあるんだろうけど、張りつめていた気が緩んだからかやる気が出ない。


 王都もそうだけど、赤鱗もそうなんだよな。

 何とかしなきゃいけないのに、攻めるって発想に気が乗らない。

 今までは攻めて来られたから守っていただけで、初めてこちらから仕掛ける事になる。

 本当なら先にハクの聖域をキチンとしてあげたいし、多分だけど東と南にも同じ聖域はあるだろうから、そっちの様子も見に行きたいし。

 魔族の動向をジークフリートに聞くの忘れてたなぁ~とか、ガラフとカインの村も……。

 あそこはまぁ問題ないだろ。ジークフリートも特別気にしていないし、ザクセン領に限っては出入りも許可してくれるだろうから、自由は約束されるはずだろう。

 

「いや、悪かった。ちょっとな。この後の事を考えてた」


「……珍しいわね。あんたが心配するなんて」


 心配、ね。

 まぁ心配って言えばそうなのかも。


「あんたなら一人で何とか出来るんじゃないの?言ったら悪いけど、多分私一人でもこの国とかなんとか出来そうな気がしてきたし」


 出来るだろうなぁ。

 ロッテに限らず、ウチの子なら全員。

 なんならクロムも仲間に入れてやる。


「多分なぁ~。でもあんま無関係な人間とかをむやみやたらに巻き込みたくないんだよなぁ~」


 街を歩きながらのんびり空を見上げる。

 そんなオレを覗き込むように横から顔を覗かせるロッテ。


「ずっと聞きたかったんだけど…………あんたこの世界をどうしたいの?滅ぼしたいの?支配したいの?」


 やっぱそんなイメージなのかな。

 魔物だし。


「いや、オレはみんなとのんびり暮らしたいだけなんだよなぁ~。襲われるから守ってるだけで、別にこっちからケンカ売ってる訳じゃないし……」


 ああ。でもアルべリアと赤鱗は別だな。

 コイナさんとハクの仇もあるし。

 多分アルべリアはロッテの仇にもなるだろうから。


「ロッテはさぁ~。両親の仇とか取りたい訳?結果取る事にはなるんだろうけど」


「ん~。どうだろう?あんたと出会う前だったらそうしたかったかもしれないけど、今はなんかどうでもいい。さすがに目の前にいたのなら殺したいって思うかもしれないけど、探し出してまで復讐したいとは思わないわ。ほ、他に?しなくちゃいけない事も出来たし?」


 ロッテがチラチラこっちの顔色を窺ってくる。


 なんだ?助けて欲しいのか?


「へぇ~ロッテにもあるんだ?しなくちゃいけない事。協力出来るならオレが協力しようか?」


「ッ!!!」


 オレの提案にロッテが顔を真っ赤にして驚いている。


 なんで驚くんだよ。

 復讐より大事な事なんだろ?

 オレで言うハクの聖域の事とか、魔物達の街の事とか、それくらい大事な事だろうに。

 協力出来るならみんなでした方がロッテも楽だろう?


「そそそ、そうよねッ!やっぱ一人じゃ出来ない事だし?二人で頑張らなくちゃいけない事だもんねッ!?お、おじい様もいつ何があるか分からないしッ!?は、早いに越した事ないわよねッ!?」


 なにが?

 なぜ腕を絡ませてくる?

 じじいの今後に関わって、一人じゃ出来ない事。二人で頑張っておまけに早い方がいいときた。

 

 ……なんだ?


 ロッテの立場から考えると……ザクセン領の事か?

 跡継ぎとしてザクセン領を盛り立てていく。


 ああ。

 なるほど……そう考えると辻褄があう。

 じじいが死んだ後ロッテが後を継ぐなら、領地を治めるのは一人じゃ出来ないし、引継ぎも早い方がいいに決まってる。


「感心だなロッテは。復讐より未来を大事にするって事だろ?これなら(じじいも)安心して(ザクセン領を)任せられるな」


「本当にッ!?そう思うッ!?やっぱり(妻が)ちゃんと(家を)守った方がいいわよねッ?」


「守る?ああ。勿論だ。(防衛は)大事な事だからな。そうなると(砦や人の手が)たくさん必要だな」


「たくさん……?そ、そうねッ!私も(子供は)たくさん欲しいと思ってるのッ!」


「ああ!多ければ多いほどいいからな。資金が大量に必要になるかもしれないが、心配しなくていい。オレが何とかしてやる。だから安心して好きなだけ(砦や防衛線を)作ったらいい」


「ッ!!!そ、そんな大声で言わないでよッ!は、恥ずかしいじゃない……。でも……ありがと」


 なんで顔が真っ赤なんだ?

 気のせいか、組んでいる腕にも力が入っている。

 街中で女の子が防衛関係の話を大声でするのはやっぱり恥ずかしいのか?


「恥ずかしがる事ないだろう?オレ達はもう家族なんだ。ロッテが作りたいって思うならいくらでも協力するぞ?そうだ!なんならこれを機に新しいやり方とか試したらいいんじゃないか?オレも作った事はないから詳しくは分からないけど、多少の知識は勉強させられたからな!」


「あ、あんたも初めてなのッ!?しかも初めてなのに、あ、新しいやり方ッ!?そんなのあんのッ!?みんな一緒じゃないのッ!?魔物だとやっぱりやり方とか違うのッ!?」


「そりゃ多少は違うだろ?(身体の)大きさとかも違うんだから。やっぱ(砦は)大きい方がいいだろ?」


「おおお、おっきいィのッ!?あああ、あんたも……その……おおおお、おっきいのッ!?」


「オレか?そう言えばロッテはまだ見た事がなかったな。オレの(黒いドラゴンの姿)はかなり大きいな。(砦に)入りきらないんじゃないかな」


「ひ、人に見せびらかしてんのッ!!まだした事もないのにッ!?そ、そんなにッ!?そんなにおっきいィのッ!?」


 ……何を言ってるんだ?コイツ?


「……わ、私……頑張れるかな……?」


「……?ロッテなら大丈夫だろ?心配しなくてもオレがちゃんとサポートしてやるから」


「本当に……?や、優しくしてくれる?」


「優しく……?ああ。もちろんだッ!オレに任せとけ!」


「わ、分かったわ……私、頑張るからッ!あんたをガッカリさせないよう私も努力するッ!」


 真っ赤な顔で、強く両手を握りしめるロッテ。

 気合がみなぎっている顔つきだ。

 言ってる事は支離滅裂だけど、やっぱり自分の領地はそれだけ大切って事なんだな。


「あ、ああ。でも失敗してもガッカリなんてしないから安心してくれ。もし失敗したとしても、それはサポートしたオレの責任でもあるんだしな?」


「あ、ありがとッ!あんた相変わらず優しいわねッ!」


「当然だ。これでもオレはみんなの……森の主だからな。なんかあったら責任を取るのは当然の立場だ。ロッテの事も当然オレが責任を取るつもりだッ!」


「ッ!!!」


 当たり前だろう。

 そのためにオレはエルロワーズの名を継いだんだから。


「ホントにホントに本当の約束よねッ!?」


「当たり前だろ?そんな無責任な事をオレはしない。必ず責任をとる。約束だ!」


「神に誓って言えるッ?」


「神は……信じていないから、オレの名に誓って約束してやる。だから心配するな」


「分かったッ!私あんたを信じるわッ!一生ついて行くッ!だからそのプロポーズ受けるッ!」


「ああ!任せと……ってプロポーズ?」


「うんッ!プロポーズ!責任取ってくれるんでしょッ!私あん……レイの子をたくさん産むからッ!心配しないでッ!二人で幸せになろうねッ!」


 ……はっ?

 何の話をしてたんだ?

 子供を産むって……。

 意味が分からないんだが。


 手を振りほどいて、話の確認をしようとするが、ロッテの力が凄すぎて腕に絡まったロッテの手を振りほどけない。

 さすがオレの眷族だ。って違う!

 そんな話じゃない!

 胸も押し付けてきているし、オレの腕に寄りかかっている顔もニッカニカで満面の笑顔だ。

 すれ違う人達も微笑ましいモノを見るように、生暖かい視線を投げかけてくる。

 まるで新婚さんかバカップルだ。


 なんでッ!?

 なんでこうなったッ!?

 なんの話からこんな事態になってるんだ?


「ろ、ロッテ?ち、違う……」


「なによ?さっき約束したじゃない。私を幸せにするって。お金の心配なんかしなくていいから子供もたくさん作ろうって。責任もちゃんと取る。結婚しよう。ずっと二人で暮らしていこうって」


 言ってない!言ってない!言ってない!

 脳内変換されすぎだからッ!

 都合よく解釈しすぎ!


「まさかウソ……なんてつかないわよね?」


 笑顔が怖いッ!!

 めっちゃ黒いオーラが出てるから!


「う、ウソは言ってないけど……勘違い……」


「はぁ~!?何よ勘違いって!!私の事騙して捨てるつもりなのッ!?こんな身体にまでした責任も取らずに逃げるって言う訳ッ!?」


 言い方がおかしいからッ!!

 ほら街の人もジロジロ見てるし!


「あの男の子、散々遊んであの子を捨てるつもりらしいわよ?」


「ホントに!?信じらんない!女の敵よ!!」


「聞けばあの子のお腹には子供もいるみたいじゃねーか?」


「マジかよ……。じゃあ何か?子供が出来た途端に遊びだから捨てるっていってんのか?」


「ふてえ野郎だな!どことなく遊び慣れてそうなツラしてやがるぜ!」


 顔は関係ないだろッ!?

 ハッキリ聞こえてんだよ! 

 っていうか鮮明に聞き分けられる自分の耳が憎い!

 

「ロッテ!ロッテ!ロッテ!いいから聞いてくれ!」


「何を聞くっていうのよッ!?ハッキリ言いなさいよッ!」




「す、好きだよ?その……家族として……」


 迫力に気圧されてしまった。

 心の弱い自分が憎い……。


「……ふぅ~ん。まぁいいわ、それで。我慢してあげる」


「……アリガトウゴザイマス」 


 なんでオレがお礼を言う事になっているのか……。

 でも取り合えずロッテの機嫌は直ったらしい。

 フンスッと胸を張った後、オレにしがみついてくる。

 腕を組んでとても幸せそうだ。

 

 これ……セシリーやルナに会わせて大丈夫なんだろうか……。

 勢いでロッテを眷族にしたけど、かなりヤバい気がしてきた。

 殺し合い……とかにはならないだろうけど、絶対揉める。

 間違いない。


 


 そうだ!後はラウに任せたらいっか。

 アイツ一応序列一番上だし、みんなも素直に言う事を聞くだろう。

 そうだ!そうしよう!それがいい!


 我ながらナイスアイディアだ。

 ラウからの連絡はまだ来ないが、きっとそろそろクーロン商会に帰ってくるはず。

 なら善は急げだ。

 みんな集めて報告会を開こう。


 そう思いロッテをチラリと見る。

 オレの視線に気付いたロッテも、満面の笑顔を向けてくれる。


 よし!この勢いのままクーロン商会に帰ろう!

 それが一番だ!


 そうしてロッテの機嫌を損なわせないように気を付けながら、クーロン商会に帰るのであった。





















 

 




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