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エルロワーズの森と黒き竜  作者: 山川コタロ
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39

「何よッ!うざいッ!こっち見んなッ!変態ッ!スケベッ!」


 朝からロッテはいつも通り元気だ。

 昨日の魔力枯渇症の影響も全くなさそうだった。

 それでも、記憶はしっかりしているのか、顔が真っ赤だ。若干だが声のハリもいい。

 エリーゼもそんなロッテを見て、とても満足そうな表情を浮かべている。

 ロッテがオレを罵倒する度、隣でウンウン頷く始末だ。

 あの人にはどんな風にロッテの言葉が変換されて聞こえているのか一度聞いてみたい。


「レイ。昨日の約束忘れてはいませんよね?」


「……ああ。不本意ながらしっかりと覚えているよ……」


 今日はロッテに続き、エリーゼもご機嫌だ。


「それはよかった。それでは私も早くオウミに戻り、金策に走らなければいけませんね」


 ウザイ……。


 本人にとってはイヤミでも何でもなくアレが本心なのが余計に質が悪い。

 しかし、オレもアサギリやコイナさんの話が気になる。

 オウミに戻り次第、オレも眷族のみんなと連絡を取って早く情報を共有しなければいけない。


 本当に何故念話が繋がらないのかが不思議だ。

 ラウがいる以上、みんなに危険が及んでいるとは考えにくいけど……。


「ちょっと!早くしなさいよ!バカガラス!あんた依頼が終わったからって、たるんでるんじゃないでしょうね!街に帰るまでが依頼なんだからね!しっかりしなさいよ!」


 オレの方が早く歩いているのに……なんて理不尽な……。

 遠足は帰るまでが遠足です!みたいな言い方で……。


「お嬢様。ちょっと……お耳を……」


「何よ!エリーゼ!こんな場所で!他の誰も聞いていないんだから大きな声でハッキリ言いなさいよ!」


 荷物を持って一番後ろを歩いていたエリーゼがそそくさとロッテに近づいて耳打ちをしている。

 どうせ昨日のオレとエリーゼの会話をロッテに伝えているんだろう。

 オレがしばらくロッテの護衛について、一緒に行動するとかなんとか言ってるに違いない。


 散々脅しといて、よくもまぁ……。


 んで、それを聞いたロッテがまた罵声をオレに浴びせてって所までがパターンなんだろ?

 それをエリーゼが泣きながら遠目で見てるってのはデフォだな。


「は、はぁぁ~~!!あ、あんた私が寝てる間に、な、何してんのよ!!キ、キ、キッスちゅるなっんって!」


 ロッテとオレの間に沈黙の空気が流れた。

    

 そんな中エリーゼだけが嬉しそうに、オレ達を見て笑っていた……。




「はぁぁ~~!!してねぇ~しッ!!ずっと思ってたけど、言わせてもらうわ!お前の護衛な!頭おかしいぞ!そもそも翻訳自体が間違ってんだよ!!いいように変換し過ぎだ!バーカ!バーカ!バァァーーカ!!」


 キレた。

 さすがにキレた。

 アイツ本当に既成事実をでっち上げようとしてやがる。

 しかも、全くのウソで塗りたくって。


「な、誰に向かって口聞いてんのよ!こんのっバカッ!!エリーゼに謝りなさいよ!そんでアタシにも謝んなさいよ!こんのッ変態!!」


「謝る必要はありませーん!なぜならぁー!その話は全部、お前の頭のおかしい護衛のウソだからでーす!!」


 ほら見ろ!

 またロッテの後ろで微笑ましくハンカチを目頭に当ててやがる!

 誰かぁー!アイツをなんとかしてくれぇーー!






「はぁ。はぁ。やめるか……?」


「そ、そうね……。はぁはぁ……。こんな言い争いは無意味だったわ……。無駄な時間だったようね……」


 その後小一時間ほどオレ達は罵倒を言い合った。 

 しかもその間ずっとエリーゼはオレ達を止めもせず、嬉しそうに泣きながら眺めるだけ。

 

 アイツどうなってんだ……マジで……。


「お二人とも、これでお付き合いが始まった。という事でよろしいでしょうか?」


 どこをどう聞いたらそうなるんだ……。

 エリーゼの頭の中を見てみたい……。


「……おい。お前そんなキャラなのか……?それならそれで、こっちにも考えがあるぞ……」


「エリーゼ……。私はこんな変態で、スケベで、私の胸ばっかり見てるヤツと付き合うつもりはないわ。勘違いしないで……」


 見てませ……見てるかもしれないけど……好きじゃありませんー!

 

「おい。やめるんじゃないのか……?まだ続きをやるのか……?受けて立つぞ?」


「そ、そうね……。今のは私が悪かったわ……。あんたがスケベだろうと私には関係ないモノね……。悪かったわ……」


 クソッ。

 全く誤解が解けていない。


「これでお二人は御婚約がなされたと思っても……」


「「してない!!」」


 疲れる……。

 行きより帰りの方が遥かに疲れる……。

 精神的に持ちそうにない……。


 今もまだ帰路を進むオレの後ろで、エリーゼがゴニョゴニョとロッテに耳打ちをしているし、それを聞いたロッテも目を回して、その度に顔を真っ赤にさせている。

 

 本当に何をロッテに吹き込んでいるんだ……?


 絶対ロクでもない事に違いない。

 こうやってセシリーやルナのあの性格も、クロムによって作り上げられてきたんだと痛感した。


 今後はエリーゼもクロムと同じ扱いでいこう……。

 





「……ねぇ?私……魔法使えたの……?」


 帰りの野営で再びロッテが聞いてきた。

 この調子なら明日にでもオウミに戻れるだろう。

 そんな中、やけにしおらしくロッテがオレに聞いてくるもんだから少しドキッとした。


「……あぁ。ちゃんと使えていた……。ロッテには……間違いなく魔法の才能がある……」


「……そぅ……」


 ウソはついていない。

 魔法も使えていたし、才能も飛びぬけていると言っていいレベルだった。

 それでも、ちゃんとという所は若干ぼかしているが……。()()()()()()()()という条件付きだ。

 それ以外で魔法を使えば、魔力枯渇症でロッテは死んでしまうだろう。

 それだけロッテの魔法の才能に、人間のロッテの身体が追い付けていないって事だ。

 実に人間の身体は不便だと思った。

 才能があり、その魔法のイメージも出来ているのに、身体が付いて行かない。

 ガラフのじじいが歯噛みするのがよく分かる。

 あのじじいも魔物や魔族に生まれたなら、世紀の大魔導士として世に名前を残しただろう。


「……でも、魔法はオレが傍にいる時以外使うな。あれは……危険すぎる……。使ったらロッテが……死ぬと思え」


「……そぅ……なんだ……」


 やけに大人しい。

 素直にオレの忠告を受け入れている。

 心なしか食欲もなさそうだ。


「……どうしたんだ?まだ魔法の基礎も教えてないんだぞ。ただ使えただけだ。これからしっかり教えるからな。今更嫌だなんて言うなよ?」


「……ううん。イヤじゃ……ないよ……。むしろ嬉しい……」


 おかしい!

 どう考えても今のロッテはおかしい!

 やけに素直だし、若干……可愛い!


「……私ちょっとお花を摘みに……」


 お前またかよ!

 どうせ近くで見てるんだろ!?

 ならこのままいろよ!


 エリーゼが昨日に続き、今日もそそくさと席を立ち去ってしまった。

 

 また……ロッテと二人きりか……。


 ロッテはちょこちょことデザートのモンブランを食べている。

 肉は大口で食うくせに、ケーキは上品に食うのな。


「……あのね……私……魔法なんて使えないと思ってた……。だって……訳わかんないんだもん。魔法陣がどうとか。詠唱の発音がどうとか。何言ってんのかさっぱり分かんなかった。理解しようとも思わなかった……。ヒクッ」


 どういう教育を受けて来たのかは分からないが、少なくとも詠唱の発音に意味がない事だけは確かだった。

 ロッテの話を聞いてるとこの世界に伝わる魔法は、才能がなければないほど使いやすそうなモノだと感じた。

 つまり――それはメアがそうさせたんだろう。

 だからこそガラフのじじいも魔法の業界からは冷遇されてきたんだろう。

 ロッテもガラフも、この世界の魔法という分野においては、異端すぎるから……排除されつまはじきにされてしまう。


「私……。ヒック。あん……レイに会えて本当に幸せ……ヒクッ。いつも……ヒドイ事言って……ゴメンな……ヒク……さい……」


 ヒック?ヒクッ?


 しゃっくり……か?


 しかも、初めてレイって……。


 んーー?あれぇ~~?


 その……モンブラン……。


 ロッテの食べているモンブランを一口よそい取って食べると……微かに甘いリキュールの香りがした……。


 コイツ……まさか……。


「ねぇ?レイ。私……ヒック……の事……」


 コイツッ!?酔ってやがる!

 たったこんだけのリキュールで。

 どんだけ酒に弱いんだ!


「ロッテ!これはもう食うな!これは……危険だ!」


「えぇ~~。なんでぇ~。これ……ヒクッ。……おいしい~よ~」


 最悪だ。

 またエリーゼが()()()()()()吹き込むのが目に見えている。

 取り合えず水を飲ませるしかない。


「おい!ロッテ!これを飲め!少しは楽になるから!」


 この程度のアルコールなら水を飲ませとけばすぐに酔いが醒めるはず。


「……レイ?」


 今も近くでエリーゼが見ているはず。

 魔力探知を全開にして探さないと……。


 ……オレの人生は終わる!


「なんだ!?今は忙し……」


「口移しで……ヒック……飲ませて……」


 こんの……バカ女ッ!! 

 そこで酔っぱらっと……け……?


 ん……?


 なんだ……?


 エルロワーズの森が……。


 おかし……い……?


「……おい!エリーゼ!!見ているんだろう!?すぐに出て来い!森の様子が変だ!」


 オレに呼びかけに、上からエリーゼが忍者のように飛び降りて来た。

 今日は木の上からオレ達を見ていたらしい。


「……クソッ!完全に油断していた。マズイ……このままじゃ囲まれるぞ!中々の数だ……」 


「……本当ですか!?私には何も……」


 オレもそう思っていた。

 実際エリーゼを探す為に魔力探知を限界にして、やっと木の上のエリーゼを見つけられるくらいだ。

 明らかにオレの魔力探知が阻害されている。


 これが……オレの念話が繋がらない訳か……。


 念話が繋がらなかったのは、みんなに問題があったからじゃない。

 オレの方が妨害されていたからだ。


 気付いた時にはもう遅かった。

 オレ達の周り。半径三十メートルほどは魔物によってグルリと包囲されていた。


「……最悪だ。ヤツ等魔物だ……。完全にオレ達三人の誰かがターゲットなんだろうな。襲われる心当たりは?」


「……私もお嬢様も心当たりがあり過ぎて……誰の手による差し金か断定できませんね……。レイの方は……?」


「オレもエリーゼ達と似たようなモンだ……。むしろ襲ってくるのが魔物ならオレの方が狙われている可能性が高いかもな……」


 オレ一人なら余裕なんだが……。

 足手纏いが二人か……。

 さすがロッテとエリーゼにオレの力を隠したままこの数を相手にするのは骨が折れるな……。


「……顔に出ていますよ……。足手纏い……だと……。生まれて初めてです。戦闘で足手纏いだと思われるのは……」


 この森の魔物にとっては、ロッテもエリーゼも冒険者も男も女も子供も老人も、みんな一緒だ。


 ただの人間。


 それ以上でもそれ以下でもない。

 かける手間さえ変わらない。


 殺すにはどれも同じ……


「……悪いな。正直そうだ。出来るだけオレから離れるな。数が多過ぎて、()()()()()()二人も守れる自信がない……」


 まだ森の暗闇に魔物の姿は見えない。

 しかし、エリーゼでも気付くほどの、いくつもの殺気がオレ達に向けて森の暗闇から放たれている。


「……では……一人だけではどうです?守り切れますか?」


「……答えれない。答えたらロッテをオレに任せて、エリーゼは魔物の群れに一人で飛び出していくだろう?」


 ふふふっと笑って、エリーゼがオレからロッテを受けとる。

 ロッテはまだ酔っているのかエリーゼの腕の中で「ふにゃふにゃ」言っている。


「さすが……私の()()です。……では私は死んでもお嬢様をお守りしましょう」


「死んでもなんて言うな。死んだら許さない」


 向こうはそろそろ準備が出来たみたいだ。

 姿こそ見せないが殺気がビリビリ伝わってくる。


 風が冷たい。

 どこか生臭く、死臭が強い。

 中々の手練れを連れてきているみたいだ。


「難しい注文ですが、私もお嬢様の花嫁姿を見るまでは死んでも死に切れません。……何とかその注文。こなして見せましょう!」


 冷や汗を流しながらでも、まだ軽口が叩けるのはそれだけ修羅場をくぐり抜けて来た証拠だろう。

 今から死ぬかもしれない状況でも平常心を崩さない。


 ロッテをお姫様抱っこしながら、エリーゼはオレの背後に位置どっている。


 さすが言うだけの事はあるな。

 ボルトでオレとの距離を固定しているみたいに離れない。

 まるで影のようだ。

 それでいてオレの動きを邪魔しない絶妙な距離。

 警戒も全方位抜かりなく行っている。

 これが元暗殺者の実力か。

 100点満点に近い動きだ……あくまで()()()()()()だが……。


「さてと……どうっすかな……」


 最善はオウミの方向にオレが突っ込んで、突破口を切り開く。

 後はエリーゼ達を先行させて、オレがしんがりを務めつつ敵を殲滅ってのが理想なんだけど……。 


 それが分かったのかエリーゼもオウミの方向へ意識を向け始めている。

 会話しなくても意思の疎通が取れるのは、この不利な状況においても数少ない貴重なオレ達の武器だ。


 目で合図を送ると、それを察知したエリーゼが音もなく姿を消す。

 かなりのスピードだ。

 ロッテを抱えたままあのスピードで走れるなら、これもオレ達の武器になる。


 オレもエリーゼに見惚れているばかりじゃ意味がない。

 すぐさま二人に後を追い、風のように追い付き、追い越す。

 抜き去りざま、エリーゼが呆れたような顔をしてオレを見つめていたが、その表情はすぐに安堵したモノに変わる。

 オレの身体能力を見て、勝算を見いだせたのだろう。


「そのまま真っ直ぐ突っ走れ!オレに何があっても、だ!」


 オレの指示に返事はない。

 それでもエリーゼの強い眼差しがオレに了解と告げている。


 二人を抜き去った後、更にスピードを加速させ前方の影にそのまま突っ込んでいく。


 前方に二匹。

 四足歩行の獣型。

 

 フェンリル!?

 

 違う!フェンリルより一回り小さい!


 あれは……ガルムか!?


 黒い毛並みに、闇夜に光る赤い瞳。身体に漆黒の鎖を巻き、胸は乾いた血で汚れている。

 その全身から溢れ出る黒いオーラは、ありとあらゆる怨念をそのまま形にしたように見えた。


 予想通り、夜目が利いて、足の速いヤツを選んでいるみたいだな。


 エリーゼがこのポイントを通過するのに、コンマ七秒。

 その後ろからエリーゼに迫っている魔物がエリーゼに追い付くのにジャスト一秒。


 二匹のガルムの赤い瞳がギラリと光ると、身体に巻き付いていた鎖がオレに迫ってくる。

 黒い怨念をそのまま鎖に纏わせ、生きた蛇のように不規則に、かつ変則的に飛んでくる。

 まともに食らえば、人間くらいバラバラにしてしまうだろう。

 

 まともに食らえば……。


 相手が人間だったらな……。


 背面飛びの要領で、迫る二本の鎖の隙間を縫うように低空飛行で飛び越える。

 鎖は勢いそのままに、後ろから走ってくるエリーゼにそのまま向かっていく。

 前からはガルムの鎖が、後ろからは魔物の群れが、エリーゼ達を挟み撃ちにしている。


 だが……そのエリーゼ達の眼前の鎖が二人に届く事はない。


 エリーゼは鎖が目の前に迫ろうともその足を一切緩めない。

 当たれば死ぬであろう恐怖の中、死に向かって駆け抜けていく。それはオレの事を信頼してくれている証がなせる行動だった。

 

 イメージするのは風の鎌。


「拡散し――切り裂け!」


 低空を背面で飛びながら、両手から風の刃を無数に生み出す。

 それはキィィーーンという甲高い音を立てて、襲い来る鎖ともども二匹のガルムをバラバラに切り裂いていく。

 刃には振動付きだ。

 例え魔力の籠った鎖だろうと、オレからすれば紙切れと大差ない。手でも引きちぎれるし、魔法を使えばミリ単位でも切って見せれる。


 すでに二匹のガルムは最早原型を留めない姿にバラバラにした。

 

 そのままオレは体勢を変え、地面を蹴り上げバク宙の要領で、後ろを走るエリーゼに向かって高く飛び上がる。

 飛び上がったオレの真下をエリーゼ達が真っ直ぐに駆け抜けていく。

 その後ろには黒い犬の魔物の群れ。


 こっちはヘルハウンドか。


 その顎は今まさにエリーゼの首に食いつく瞬間。


 思ったより、早い!――っが、それでも遅い!


「速く――速く――より速く――――打ち抜けッ!」


 それは光を収束したレールガン!

 一筋の閃光がエリーゼ達に迫りくるヘルハウンドの頭部を根元から蒸発させる。 

 頭を吹き飛ばされたヘルハウンドは、そのまま他の一匹を巻き込んで後方に転がり飛んでいく。


 エリーゼは後方の異変に気付きながらも、そのスピードを一切緩めず走り抜けていく。

 オレに声を掛ける事もなく、振り返る事もせず、オレの指示に従ってただ真っ直ぐ前だけを向いて全力で疾走する。

 オレと上下にすれ違い様、俯きながらも全力で疾走するエリーゼの表情は見えない。

 しかし、その口元は歯を食いしばり……泣いているようにも見えた。


「……さすがだな。エリーゼ」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 この状況でも迷う事なく、最善の行動が取れる。

 結果がどうなろうとも、それが出来るからこそ奇跡ってヤツが起こせるんだ。

 それはエリーゼを称賛するだけの価値のある働きだった。

 

 その極短い時間の間も、空中のオレの周りには光りの玉が無数に生み出され続けている。

 その数、実に120発。

 

 なおもエリーゼ達に追いすがろうとしているヘルハウンド達。

 その数12匹。


 一匹当たり10発もあれば十分すぎるだろう。


 出来上がった光りの玉が一斉に、それぞれが一本の長い槍のように伸び、空中からヘルハウンド達を串刺しにして、地面に叩き潰していく。

 四肢が吹き飛び、脳天を串刺しにされ、ヘルハウンド達が原型を残さず絶命していく。

 串刺しで打ち抜くというよりは、まるでミキサーのミンチだ。

 少しやり過ぎた気がしないでもないが、とりあえずこれでエリーゼ達は安心だろう。


 後は後続の魔物達を殲滅して、一件落着。

 

「さて、仕上げと行くか」


 後続の魔物の数は……えーと……。


 ――分からん!!


 魔力探知の利きが良くない。

 想像するに、おそらくいつの間にかオレ達は敵の結界の中に迷い込んでいたらしい。

 オレがラウほど危機感を持っていたり、メアやクロムほど結界に詳しければこんな目に遭わなかっただろうが、もはや後の祭りだ。

 今更言ってももう遅い。

 大した結界だと思うがメアの魔法ほどじゃない。クロムの結界ほどでもない。

 なら、力尽くで食い破るだけ。


 イメージするのは()()


「咆哮――結界――消滅――……」


 イメージを一つ一つ確認しながら、地面に降り立つ。

 両手を合わせて、指でドラゴンの(あぎと)を作る。

 手に収束するのは先程のレールガンとは比べ物にならない程の魔力。

 魔を含み、闇の雷を内包するドラゴン最大の攻撃。

 両手の中で魔力の結晶がチリチリ、バチバチとうねりを上げている。

 

 オレがドラゴンに変化出来てからずっと試したかった技――ブレスだ。

 方向を修正し、両手をやや上方に向け直す。

 

「……全てを……薙ぎ払えぇー!!」






 ゴオオォォォーーーオオオォォォーーォオオオ!!!!!


 その時、エルロワーズの森に轟音と共に暗い昼が訪れた。

 森に被害を出さない為、軌道を上方に修正したにもかかわらず、オレの放ったブレスは直線状に全てを無に還した。 

 後続から迫っていた魔物はおろか、エルロワーズの森が一本の道が出来たようになくなってしまっている。

 土をえぐり、樹々を消し去り、視界には地平線の彼方までその爪痕を残している。


 あっちって確か新しい街を作っている方角じゃなかったっけ……。

 み、みんな無事だと、い、いいなぁ~……。

 ……まさか……死人とか……出てないよ……な……。

 

 過ぎてしまった事は忘れよう。

 どうせ過去には戻れない。

 どうかラウが身体を張って防いでいてくれる事を祈るのみだ。

 まぁ射線もずれてるし、距離も大分あるから平気だろう。


 そう考え、ぼんやり森の惨状を眺めていると、念話がガンガン入ってきた。

  

 携帯の電源入れたら着信とメールで履歴が埋まる、みたいな?


『レイ!キミ今どこにおるんや!?今の衝撃もどうせキミの仕業やろ!?』


『レイ様!無事なのです!?セシリーは寂しくて死にそうなのです!!』


『……レイ様……レイ様……レイ様……』


『……マスター。寂しい』


『あらあら♪みんな大騒ぎね♪』


 一人だけオレの名前をブツブツ呟いているヤンデレが混ざっていた。

 ルナの声だったように聞こえたがあれは決してルナじゃない!間違いない!


 さて、一人足りなかったけど、あの子は無事なんだろうか……?


「レェーーーイ!」


「ッ!!メアァーー!!」


 オウミの街の方向から、満月を背に夜空を飛ぶメアが滑空しながらオレの胸に飛び込んできた。

 雲は全てオレが吹き飛ばしてしまったらしい。


「来ちゃったぁ☆」


 可愛らしく「テへッ♪」っと照れながら甘えてくる。


 お母さん少しだけ出張に出てたからな。

 みんなには寂しい思いをさせてしまった。

 ちゃんとご飯を食べてたか?

 ラウお父さんのいう事をちゃんと聞いていたか?


 言いたい事は一杯あったが、この笑顔で全部報われた気がした。


「メアァ。オレもメアに会えて嬉しいよ。どうして一人でこんな所にいたんだい?まさか……出迎えに来てくれたとか!?」


 オレの質問にションボリして、メアが答えてくれた。

 ちなみに念話はヤイヤイ言い合っているだけなので、帰ったら話すとだけ答えておいた。


「……ううん。出迎えじゃないんだ……。ごめんなさい。仕事でボクだけ外に出てたんだ。この辺りに広範囲で結界が張ってあったの、気付いた?」


 いいんだ。いいんだ。

 出迎えじゃなくてもメアに会えてお母さんは嬉しい。


「結界?念話がずっと繋がらなかったのはそのせいなのか?」


「……多分ね。それでボクが調査に駆り出されたんだ。本当はレイと念話が途切れたって、みんな大騒ぎだったんだよ?」


 それは……想像すると怖いな……。

 大方セシリーとルナが一番騒いでいたのは簡単に想像できる……。


「それが森に張られている結界の仕業だと?誰が何の目的で結界を張ったのか突き止められたのか?」


「ううん。昨日から調べていたんだけど、外からじゃよく分からなかった。それで今の爆発で結界が壊れたから森の中に来たらレイがいたんだよ」


「そうか。そうか。それはラッキーだったな。メアに会えるなんて幸せだ」


 「うふふ」と笑ってメアがオレの胸に頭をくっつけて甘えてくる。

 よい。よい。精一杯甘えるがいい。


 大方オレのブレスで謎の結界が壊れたんだろう。

 なら、どうという事はない。効力もオレが気付かないほど弱かったし。


「……でも、レイがいなくなって、みんなストレスの塊みたいになっちゃって大変だったんだよ?早く帰ろうね?」


 たった三日でか!?

  

「……そんなに……か……?」


「うん。セシリーとルナは勿論だけど、ミケとアステアも酷くてさ……。ミケは眠そうな顔で全く動かないのに目だけ真っ赤にしっちゃって、体育座りで一点をジッと見つめてるの……。ピクリとも動かないその姿はまさにホラーそのモノだったよ……。アステアもずっと笑顔なのに、その笑顔がどんどん邪悪さが増してきてさ……うぅ!今思い出しても寒気がするよ……」


 その光景を思い出したのか、メアが身震いして、ブルブルと震え出してしまった。


 なんか段々帰りたくなくなってきたんだけど……。

 そこにセシリーとルナが加わったなら、確かにカオスだ……。


「あぁ!後コイナも大変なんだよ!」


「本当かッ!?」


 マズイ!コイナさんがシュテファンの娘だとバレたのか!?


「うん!毎日クーロン商会のバーで飲んだくれて、管を巻いていて大変なんだから!」


「……そ、そうか」


「ヒドイ日にはそれにミケとベビースパイダーも混ざっちゃって、朝まで飲んだくれてるんだから!」


 ちびっこ三人が飲んだくれてる姿は見たくないなぁ……。


「……じゃぁ……早く帰らないとな?」


「うん♪」


 何か大切な事を言い忘れている気がするが……。

 なんだっけ?

 まぁオウミに帰ったら思い出すに違いない。

 今夜はこのままメアとゆっくりオウミに帰ろう。

 たまには息子と二人で夜の空中散歩としゃれこむのも悪くない。





















  


 

 

 


 

 

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