表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルロワーズの森と黒き竜  作者: 山川コタロ
25/58

24

 ミケを眷族にしてからすぐに、ラウと話し合いをした。


 オレを心配してくれるのはいいが、もう少し頼って欲しい。このままじゃオレがダメになると強く言って、なんとか外に働きに出る事を了承してもらった。


 オレは専業主夫じゃない!


 ついでにお前オレに隠れてコソコソと何かやってんだろ?ってのも忘れなかった。

 ラウはそれも予想していたみたいで、特に何も言わなかった。

 まぁ何はともあれ、オレにも仕事をする時間が増えた。


 何が出来るのか分からなかったから、とにかく街に出て色々試そうと考えてみた。

 街に出て、カエルの女将さんの屋台を手伝ってみたり、森の方へ行って新しい街造りを手伝ってみたり……。

 おかげで色んな所に知己が増え、今ではどこを歩いていても「坊ちゃん!」と呼ばれるようになった。

 ちなみにキツネのお面は今だに側頭部にかかっていたりする。

 あの日オレが付けていたお面だったから、すぐにばれるかと思っていたが、そうはならなかった。

 オレが街で魔力を解放した日から、街ではキツネのお面が大流行していた。

 特に子供の魔物達は大喜びで着けている。

 カエルの女将さんまで着けていた。

 このお面のどこがそんなにいいのか……。


 魔物の感性はよく分からない……。


 おかげで、オレがお面を着けて魔力を隠していても誰も不審に思わなかった。

 ラウはお面を格安で街に卸して、何故か嬉しそうだった。


 キツネ顔がいいってのもあんまり理解出来ないから魔物の感性だけじゃないのかもな……。


 それからウチの子達も仲良くやっている。

 最初はミケの事を心配したが、以外と上手くやっているみたいだ。

 セシリーとルナはなんだかんだで、あの鎧が可愛いと甘やかしているし、スライムの姿になると抱きかかえて一緒に行動していた。

 時にはどちらがミケを連れて歩くかで、言い争うほどだ。

 ミケは何も喋らないが、身体が緑色になっていたので喜んでいるのが丸解りだ。

 娘達が仲良くしていると、とても華やかになって気分もいい。

 さらにミケはメアととても仲がいいらしく、オレとコイナさん以外で初めて自分から寄っていくほどだった。


 もっともミケは基本動かないけど……。


 仕事もしないし、イタズラもしない。全く動かない。

 食事も席までミケを運ばないと食べにこない。

 唯一オレ達のトレーニングにだけはちゃんと参加してくる。

 体術も魔力も十分。何よりその力が凄かった。

 一体どこにそんな筋肉があるのか分からないけれど、クロムを上回る程のパワーとタフネスを誇っていた。

 あれはやはりスライムの身体が大きく影響しているんだろう。

 打撃や斬撃なんて効かなそうだし、オレの眷族になった事で、魔力も大幅に上がり魔法さえモノともしない。

 まさに最強の盾だ。

 

 日中はバイトかトレーニング。夕方からは主夫。

 そうなこんなでオレは無職からフリーターにスキルアップを果たしたのであった。



 

 

「おやっ!坊ちゃんじゃないかい!どうだい?一本食べていかないかい?」


 今日は一人で森の街造りに参加していたが、カエルの女将さんに呼び止められてしまった。

 今日は街ではなく、森で商売をしているらしい。あちこちと忙しいおばちゃんだ。


 実際オレは働いた給金を貰っていない。あくまでクロムから派遣された手伝いとしてあちこちを回っているからだ。

 だからといって全く金がない訳でもない。

 森に行って魔獣を狩って帰れば、獲物に合わせてラウとクロムから報酬が出る仕組みだ。

 ラウは何に使うのか魔獣の素材を酷く欲しがったし、クロムは森の治安維持の名目で給料を払ってくれたからだ。

 ラウは魔獣の素材でまた何か作っているみたいだ。実際このお面や指輪は重宝している。また何か新しい物が出来たら見せてもらいたいとも思っている。

 そんな訳でオレはそこそこ小金持ちなのだ。


 使う機会もそうそうないしな。


「おばちゃん!久し振り!せっかくだし、一本貰おうかな……」


「あいよ!今飛び切り上手いのを焼いたところさね!」


「それは楽しみだな!おばちゃんの串焼きは美味いからな~。たまにどうしても食べたくなっちゃうんだよな~!」


「何だい!嬉しい事言ってくれるね!それじゃこれはサービスだ!ほらっ!持っていきな!」


 おばちゃんは串焼きをもう一本サービスしてくれた。

 悪い気がしたが、以前申し訳ないからと断ったら、こっぴどく叱られたのでここは素直にお礼を言っておこう。


「ありがと!やっぱおばちゃんはサイコーだよ!」


「これ以上は褒めたって何も出やしないよ!」


 おばちゃんは豪快に笑って、オレを撫でて来る。

 オレは子供扱いされているらしい。

 おばちゃんにとってオレやコイナさんなんてまだまだ子供なんだそうだ。

 少し照れ臭いが、すごく嬉しい。

 ここの魔物達はみんなこんな感じだ。


「坊ちゃんも大変だね~。それでどうするんだい?」


「……ん?何がだい?」


 串焼きを頬張りながら答えると、おばちゃんはいたずらっ子のような顔をしてオレをのぞき込んでくる。


「何だい!コイナちゃんの事だよ!どうするんだい?ツガイになるんじゃないのかい?あの子は大変だからねぇ~」


「ゲッホッ!!いきなり何言うんだよ!おばちゃん!」


 肉を吐き出してしまった。

 

 おばちゃんが変な事言うからぁ~。肉が勿体ないじゃないか……。


「何って。おかしな事何もないだろ?二人ともまだ子供とはいえ、いい年なんだし!」


「ないない!そんなんじゃないから!」


「いいから!いいから!おばちゃんには隠さなくてもいいから!そりゃコイナちゃんはいい子だよ?あの子の事が好きだってオスをおばちゃんたぁ~くさん知ってるよ?おまけにコイナちゃんはアサギリ姉さんの娘だって言うじゃないかい?さんだい……()()()()にも気に入られて、まさにこの街のお姫様って言ったっておかしかないよ?でもね!!」


 おばちゃんは拳を握りしめて力説してくる。

 おばちゃんの熱気に当てられて、炭火替わりの魔石まで反応して赤く発熱している。


 熱い!熱いから!炭火もおばちゃんも!ほら!炎上がっちゃてるから!


「でもね!!おばちゃんは……そんな身分違いの恋を応援しているんだよ……」


 おばちゃんの視線が遥か彼方に飛んで行ってしまった……。

 その目にはキラリと光るモノがあった……。

 おばちゃん……アンタあちーよ……。


「……おばちゃんはね……。坊ちゃんの事を応援してんだよ……。坊ちゃんには……コイナちゃんには幸せになって欲しいんだよ……」


「おばちゃん……」


「坊ちゃん……」


 呟きながらおばちゃんと見つめ合う。

 おばちゃんは真っ直ぐ見つめて来る。


「おばちゃぁ~~ん!!」


「ぼっちゃぁ~~ん!!」


 おばちゃんは屋台を飛び出して抱き着いて来た。

 オレもおばちゃんを強く抱きしめた!


「い、いたっ!ぼ、坊ちゃん!いたい!痛いよぉ!!」


 つい、思い切り抱きしめてしまった……。

 すまねえ……。おばちゃん……。


「キミ等は何をしとるんや……。まったく……」


 呆れた声に振り返ると、抱き合うオレとおばちゃんの後ろにいつの間にかラウが立って、串焼きを頬張っていた。


 金をちゃんと払えよな!


「あら!こりゃまた!い~いオスだね!何だい?坊ちゃんの主様かい?」


 どうやらおばちゃんはラウを――二代目の顔を――知らないみたいだった。


「こりゃ美味いなぁ~!もう一本……いや、あるだけ全部もらおか」


「おまけにキップもいいときたもんだ!ちょいと待ってておくれよ!今すぐ用意するからね!」


 くっ!オレの憩いのひと時を……。

 おばちゃんまで目がハートになって、のぼせてるじゃないか……。


「キミ……仕事したいって、毎日何をしとんねん……」


「いいじゃねーか……別に……。街のみんなと触れ合うのも立派な仕事だろーが……」


「まあ……そうやけどな……。あんまりにも熱血すぎて……見てるこっちが燃えそうやったわ……」


 これがオレとおばちゃんの愛情表現なんだよ……。


「はいよ!おまち!旦那さんにもサービスしといたからね!」


「おお!ほんまおおきに」


 おばちゃんは串焼きを渡す際、さり気なくラウの手を握っていたが……見なかった事にしよう……。

 

 ラウは串焼きを無限収納でしまうと、オレに視線でついてこいと促して来た。


「坊ちゃんも旦那さんもまたよろしく頼むよ!後、坊ちゃんはコイナちゃんをしっかりとねぇ~!」


 苦笑いでおばちゃんに別れを告げると、そのままラウの後ろをついていく。


「……?なんや?コイナがどないしたんや?」


「ああ。別に何でもねーよ。おばちゃんが勘違いしてお節介を焼いてるだけだよ」


「なんや!あのおばちゃん!肉だけやのーて、お節介まで焼くんか?」


 カラカラとラウは笑っているが……別に上手い事言ったとか思ってねーからな……。


「で、何の用だよ?おまえだって忙しいだろうが……」


「いやいや。()()()やないよ」


 うるせぇ。オレだってたまには忙しいんだよ。…………本当にたまにだけど。


「キミに仕事を頼もうかと思てな?それでちいと会ってもらいたいモンがいるんや」


「オレに仕事か!?」

 

「そうや。他に暇なモンがおらんくてな。それで仕方なくや」


「……」


 ――分かっていたから……別に傷つかないからな……。


「ほら?あそこにおるじーさんや。ほな、後はじーさんから話聞いてな~」


 それだけ言うと、ラウはさっさと踵を返して元来た道を引き返してしまった。


「お、おい!仕事の内容は!?」


 手をピラピラと振るとラウはそのまま姿を消してしまった。


「はぁ!!アイツ何考えてんだ!?」


 仕方がないので、オレは離れた所に一人で立つじーさんの下に話を聞きに向かう事にした。






 じーさんは森の開けた場所でただ空を仰ぎ見て、静かに佇んでいた。


 よく見れば、クロムの街で見つけた人間のじーさんだった。

 オレがラウに言って、身の安全だけでもなんとかしてくれと頼んだんだった。

 なんとなく懐かしくなり、笑顔で手を振って佇むじーさんの傍に近づくと、ギョロリと鋭い眼光をこちらに向けて来る。

 明らかに敵意の籠った眼差しだ。

 間違いなく仕事を依頼する人間の目じゃない。

 

「なんじゃ、貴様は?ワシに何か用か?」


 ……

 

 笑顔を引きつらせたまま、手の下ろし所を探す……。


「んっ?おぬし人の姿をしておるが、人ではないな。まぁそれもそうか……。こんな所に人の子がおる訳ないしの……」


 じーさんはオレをマジマジと見つめて来るが、その目は明らかにオレを警戒していた。

 これが仕事と言われなかったら、オレはすぐさま帰っていただろう。


「……あ、あのラウに言われて仕事を請け負ったモノなんですが……」


 かつて現代で働いていたスキルを活かして、無理やり営業スマイルを作るが、そもそもオレは営業をした事がない。

 オレはただのプログラマーだった。

 多少取引先と会話した事があるが、ボッチで対人スキルゼロのオレには笑顔でさえ難しいのに……。


「ラウとは誰じゃ?ワシはそんなヤツ知らんぞ」


「……知らない?キツネ顔の胡散臭い男ですが……」


「知らんと言っておるじゃろうが!!おぬし何しにここへ来た!?ワシをバカにしておるのか!!」


「……」


 ――あの……やろう……。後でただじゃおかねぇ!


「……分かりました……。勘違いだったみたいです。それじゃ!」


 ここはさっさと退散するとしよう。

 今にも噛み付いてきそうなじーさんにこれ以上付き合ってられない。

 このツケはラウの回すとしよう。

 

 ――期待して損した!せっかくの仕事が……。


 一刻も早くこの場を立ち去りたかったオレは、そのまま空中に向かって駆け上がる。

 このままクロムの聖域まで、一直線に空から帰るつもりだった……その時……。


「ま、まて!待たんか!おぬし!何をしておる!?」


「何って……。用がないみたいだから帰るんですよ!」


 多分オレの言葉にはそうとうトゲが含まれていたと思う。実際オレの気分は最悪だし……。

 ただたんに嫌がらせを受けたのと変わらないとさえ思っている。


「お、おぬし……。それは……浮いておるのか?それとも……立っておるのか……?」

 

「立ってるに決まってるでしょう……。ん?……浮いてるとも言えるのか……?」


「す、すまん。ワシが悪かった!少し話をさせてくれんか?この通りじゃ!」


 じーさんは態度を一変させ、頭を下げてオレにおもねってきた。

 

 そこまで言うならオレも悪い気はしない。

 話くらいは聞いてもいい。


 ――なにせオレは……ヒマだから……。


「で、話ってなんすか?」


 地面に降り立つと、最早最初の態度はどこにもない。

 すごく感じが悪かったとも思うし、大人気なかったとも思う。

 例えるなら、世間知らずの新社会人みたいな言葉遣いをしている自覚もある。


 それでもじーさんは興奮した様子で、オレの身体を舐め回すように見て来る。

 態度も言葉遣いさえ気にしていないみたいだ。


「おぬし、今どうやって空に飛んだ?魔法か?それとも、何か別の能力か?」


「…………さあ?」


「隠すのか!?それとも教えれんのか!?」


 ――知らねーよ……。勝手に出来たんだよ……。


「……気付いたら……勝手にできてたんすよ……。あの……もういいっすか?自分早く帰りたいんで……」


「……なんと……生まれつきとな……。おぬし一体……」


 帰りたいって所は総スルーされるなんて……。

 てめーなんかじじいで十分だ!

 じじい!空気読めよ!!帰りてーんだよ!


「おぬし!魔法は!?魔法はどのくらい使える!?」


「魔法っすか?魔法は……」


 じじいは期待を込めた目で見て来る。

 さすがにオレもちょっと気分が良くなってきた……。


「……ぅぉほん!!え~とですね。魔法に関しましては……こんな感じで……」


 オレは黒い炎の弾丸を作り出し、それを近くの大木に向けて放った。

 イメージは弾丸。回転を加え、貫通力を重視し、拳大のそれは複数の大木に穴を空け、それにとどまらず通った後を黒炎で焼き尽くした。


 ヤベッ!やり過ぎた!後でクロムに怒られる!


 オレが使う魔法は何故か黒い形態をとる。みんなは属性が乗っているからだと言っていたが理屈は知らない。

 そうなるんだから仕方がない。


 しかしじじいは目を輝かせ、大喜びでオレに抱き着いてくる。


「魔物が……。無詠唱でこれほどとは……。しかも属性まで乗せておる……。まさに……天才じゃ!!」


 じじいはオレの肩をバンバン叩いてくるが、じじいは知らない。

 こんな事オレの眷族なら誰でも出来るという事を……。

 魔法が苦手なセシリーでさえこれに近い事は簡単にこなす。メアにやらせたなら…………うん。言わないでおこう。


「おぬし!魔法についてどう考えておる?人間と魔族の魔力保有量については?具現化のイメージと詠唱の因果関係については?杖と魔法陣の使用体制とその効率について……」


 興奮したじじいから、矢継ぎ早に質問攻めに遭うが……。


「知りませんから!すいませんが何言ってるのか分かんないです!」


「おお……。スマンスマン。つい興奮してしもうた。では、順を追って話そうではないか?」


 どうやら帰してはくれないらしい……。

 仕方ないので、ゆっくり話ができる場所を探す事にする。


 また変なヤツに絡まれた……。

 これも眷族のフラグが立った訳じゃないよな……。

 もう……絶対……うかつな事はしないと誓うオレがいた……。

 なにせ…………オレもこんなじじいが息子だなんて嫌だ!






 しょうがないのでクロムの街の茶屋にじじいを連れて来た。

 ここはオレがバイトを始めてから見つけたお気に入りの場所だ。

 小さいながらも雰囲気がよく、こじんまりとしているのに出す料理も絶品で、なにより店員さんの衣装が可愛い……。

 レトロなメイド服で、露出は低いが、上品で品がある。

 ちなみに店員さんも人型だが、明らかに魔物だ。

 オレから見れば十分可愛いが、じじいは全く興味を示さない。

 

 ――なんかムカつく……。


「あら♪坊ちゃん。いらっしゃいましぃー!今日は……………………ずいぶん変わった方とご一緒ですねぇー?んーーじゃぁ奥の個室に案内しましょうかぁー?」


「ごめんな。なんか気を使わせたみたいで……」


「いいんですよぉー♪常連さんなんだから。それよりも……キングフロッグの女将さんから聞きましたよぉー?なんでもコイナちゃんと……ウフフ♪」


 こんな所にまでおばちゃんの魔の手が……。

 これは街中に噂が広まっていると思っていいだろう。

 

 どうりで街中のオスの魔物達の視線が厳しい訳だ……。


 キツネのメイドさんに案内され、オレとじじいは奥の個室に案内される。

 じじいは早くオレと話したくて、ウズウズしているのが丸解りだ。

 

 せっかくお気に入りの店に連れてきてやったのに。


「ご注文はなんにしますぅー?坊ちゃんはいつものですかぁー?」


「ああ。お願いします。じーさんは……オレと一緒でいいか?」


「なんでも構わん!それよりの……」


「はい!オレと一緒で!」


 注文そっちのけで会話をしようとするじじいを、無理矢理遮ってキツネの店員さんと世間話と言う名の聞き込みを開始する。

 お気に入りのケーキセットを無視された嫌がらせも兼ねている。


「店員さん……。おばちゃんなんて言ってました?」


「うふふ♪坊ちゃんとぉーコイナちゃんをぉー何とかくっつけてあげたいってぇー。他のオスは認めないからって息巻いてましたよぉー。おばちゃんもなんならぁー館のクロム姉さんに直接頼みに行くってぇー。坊ちゃんもモテモテですねぇー。この店にも坊ちゃんのファンは多いんですよぉー」


 おばちゃん……。クロムに言ったら……反対されるぜ……。

 

 それより、オレのファンが……。これは嬉しい情報だ。

 人生初のモテ期到来か?気持ち店員さんの視線が艶っぽい……のか?

 よく分からん。


「そんな話はどうでもええ!それよりもじゃ!」


「あら♪人間は相変わらずせっかちですねぇー。そんなだからすぐ死んじゃうんですよぉー。じゃ坊ちゃん今用意してきますねぇー」


 キツネの店員さんは、シルバーの丸いトレイを胸に抱いたまま、スカートをひるがえして店の奥に引っ込んでしまった。


「ワシがすぐ死ぬじゃと!ワシはまだ百六十八歳じゃ!まだまだ現役じゃぞ!あのキツネめ!」


 バン!とテーブルを叩いて、店員さんの後ろ姿を睨み付けるじじいは茹で蛸のように真っ赤になっていた。

 

「じじい……。生き過ぎだろ。それとも人間はそんな長生きなのか?」


「はっ!そんな訳なかろう!魔物のおぬしは知らんじゃろうが、人間はそんなに生きられやせん!何故ワシがこんなに生きておるのかはワシにも分からんわい!」


 ドカリと椅子に腰を下ろし、鼻で笑うじじいはまだ怒りが収まらないようだ。

 言葉遣いも荒い。


「んー。じじいは魔力が多そうだからそのせいか……?」


「お、おぬし今なんと……ワシの魔力が見え……いや、そ、それよりも、寿命と魔力が関係しておるじゃと……」


 適当に呟いた言葉が、じじいの琴線に触れたらしい。

 目を見開いて驚いている。


「そ、そうか……。魔族や魔物達の寿命が人間に比べてはるかに長いのは魔力の保有量が関係しておる……」


 ブツブツと独り言を呟きながらなにやら考え込んでしまった。

 その間オレは、店員さんが持ってきてくれたケーキセットの紅茶を飲みながら、店員さんと取り留めもない世間話を楽しんでいた。


「嫌ですよぉー。こんな昼間っからナンパなんてぇー。おばちゃんにも怒られちゃいますよぉー♪」


 と、からかう店員さんに「イヤイヤ、そんな話してないから」と冗談を言い合うくらいには仲がいい。

 じじいはまだ考え込んでいる。

 別々の席でよくね?とか本気で考える。


「はっ!!いかん!いかん!つい考え込んでしもうた!それでじゃ!……おぬし……何をしておる……?」


 じじいが覚醒したようだ。

 店員さんはじじいが嫌いらしく、じじいが我に返ると席から離れてしまった。


「いや……?考え込んでくれていいけど……。オレはオレで楽しく過ごしているし……」


「……」


 じじいがジト目で見て来るが……相手にもしない。

 ゆっくり紅茶をすすり、メニューを開いて眺める。スマホがあれば間違いなくいじっているくらい、じじいに興味がない。


「おぬし……。何しにここへ来たんじゃ?」


「帰してくれなかったから、ついでに来ただけだけど……。帰っていいか?」


「はぁ~今のはワシが悪かった……。……スマン。しかし、おぬしも大概じゃぞ?」


 もうじじいには一切気を使わない。言葉遣いも態度も変える気はない。


「で、話ってなんだ?せっかくの紅茶も冷めて台無しだ。言っとくけど……オレは今気分が悪い。オレのお気に入りの店に連れてきたのに、店員さんに怒鳴り、オレを放っておいて考え事。おまけにケーキにも紅茶にも手を付けない。なんだ?それが人間じゃ当たり前なのか?」


 ハッとした後、じじいは立ち上がり、バツが悪そうに深々と頭を下げた。

 

「スマン!どこかでワシは魔物を下に見ておったらしい……。この通りじゃ!」


「……まあ。わかってくれればそれでいいよ。で……?何が聞きたい?」


「うむ。スマン……。それよりも……おぬし本当に魔物か?さっきのはまるで……人間のような物言いじゃったぞ?」


 元人間だからな……。それとも、人間社会で暮らしていたからかな……。


「色々あるんだよ……。それより魔力に関してのオレの意見だったっけ?」


「おお!そうじゃ!おぬしどう考える?」


 魔力ねー。現代日本にはなかったからな……。オレもハッキリとは分かんねーし。

 ゲームとかだとステータスの一部ってとこか。いわゆるMPってヤツだ。

 無くなると魔法が打てなくなったり、失敗したりする。ゲームによってはMPが尽きるとHPまで削られるモノもあった。

 オレはそれを伏せて、要所要所をオレの考えのように言って聞かせた。

 じじいはそれを、ただジッと聞いていた。


「……なるほどの……。その年でワシと同じ考えにいたるとは……。いや、魔物は見た目と年は大きく違うんじゃったか……。それにしても……魔法を使わん魔物がこれほど魔法に精通しておるとは……」


「年は……そんなにいってねーよ。それより、魔物って魔法を使わないのか?」


「おぬし魔物なのにそんな事も知らんのか?」


「まだ子供……らしいからな」


 やれやれといったふうにじじいは説明してくれた。


「使えんというより、使わんといった方がいいの。魔物には強力なスキルがあるからの。火を吹いたり、毒を飛ばしたり、空を飛んだり。あれは全て魔物特有の生まれ持ったスキルと言われておる。そんな魔物のスキルをマネて造られたのが魔法じゃと言われておる。ゆえに、魔物は魔法を軽んじておる者が多い。なにせ偽物を使わんでも、本物が使えるのじゃから」


「ふ~ん」


 オレの予想と大体同じだな。スキルでの能力の行使に魔力はそれほどかからない。魔法で空を飛ぶのと、スキルで空を飛ぶのとでは圧倒的に消費魔力が違う。

 スキルで空を飛ぶってのは、いわゆる自分の羽で空を飛ぶのと一緒だからな。

 とはいえ、これは大きな収穫だった。オレの眷族以外の魔物でも魔法が使える。

 圧倒的に魔力の多い魔物がスキル以外で魔法を覚えたなら……さらにオレやラウから体術の理論を教える事が出来たなら……。

 人間や魔族の軍など目じゃないだろう。

 今度街が落ち着いたら、全員に教えれる軍学校でも作るか……。

 

「他には……?なんか面白い話はないのか?」


「ワシの専門は魔法陣学じゃったからの」


 ウソは言ってないな。

 顔を見る限り、好奇心が勝っているように見える。


「それでいい。魔法陣ってのは何に使うんだ?」


「おお!おぬし魔法陣に興味があるのか!魔法陣とはな……」


 じじいが言うには、魔法の詠唱がイメージを作り、形態を決める。

 魔法陣が術の発動の消費魔力を抑え、杖でそれをコントロールする。


 じじいの専門は魔法陣。

 つまり、消費魔力の節約が専門だ。

 じじい曰く、この分野は地味で人気が少なく学ぶものが少ないらしい。

 もっとも人気があるのが詠唱。新しい魔法でも作った日には一生遊んで暮らせるだけの金と名声が手に入るらしい。

 次がマジックアイテムである杖や指輪の開発。これは貴族や王族に気に入られて売れたなら、これも遊んで暮らせる程の大金が手に入るらしい。

 その点魔法陣は……。


「ワシの研究が完成したなら、民の暮らしがどれほど楽になるのか……あのバカ共は全く分かっとらん!!」


 何かを思い出したようにじじいは大声を張り上げて、机を拳で叩きつける。

 人間の民などにオレは興味がない。

 しかし……じじいの研究には興味が湧いて来た。

 消費魔力を節約する。つまり、魔力から炎や雷といったエネルギーを生み出す効率をよくするって話だ。

 オレの予想が正しければ、夢のようなシステムが出来上がるはずだ。


「……じじい?今も人間に……人間の民達とやらに未練があるのか?」


「……どうじゃろうな……ワシにはもうよく分からん……。ワシも人にしては長く生き過ぎた。人を救いたいのか……それとも研究を完成させたいだけなのか……」


 それを聞くと、オレはニッコリと微笑み、じじいに手を差し出した。


「どうだ?オレの所に来ないか?人間を捨て、魔物の為に研究を完成させろ。その為の金と材料はオレがなんとかしてやる。どうだ。やるか?」


「……悪魔の誘いか?」


「まさか……。少なくとも人間よりは良心的なつもりだ……」


「……確かに……そうかもしれんの……。では……ワシの研究で人間を傷付ける可能性は……?」


「あるに決まってるだろう。まさか無いと思ってるのか?」


 じじいの目は全く動じていなかった。

 予想していた答えそのものだったんだろう。


「じじいはその研究を人間の国で完成させても同じ事を言うのか?魔物や魔族を傷付けないでくれと?バカバカしい……。そんな事あり得ないだろ?要はじじいを誰が認めて誰が買うかって話だ。それが魔物じゃ不服か?」


「……いや。おぬしの言う通りじゃ。ワシはとっくに人間に捨てられた身じゃからな……」


「なら、今度はじじいが人間を捨てても文句は言われないだろう?」


「……」


 明らかにじじいは迷っていた。

 その気持ちもよく分かる。人間に仇をなす相手に協力するんだ。全人類の敵になったといってもおかしくない。

 しかし……なら何でこの森にいる?この街にいる?

 この街で最初にじじいを見かけたのは街が襲撃された時だ。あれからずいぶん経つ。

 迷っただけでたどり着く場所ではないし、今だにこの街にいるのには理由があるからだろう。

 人間の街ではなく、魔物の街にいる理由。

 

「じじい……。この街には何しに来た?何か目的があるからだろう?それと取引しないか?」


「取引……じゃと……」


「じじいの願いを聞かせてくれ。オレはそれを叶えて見せる。じじいは魔法陣の研究をオレに提供する。資金も材料も場所もこっち持ち。どうだ?破格の条件だと思うけどな……?」


「ワシにとってはな……。おぬしに利が少なすぎる気がするが……?」


「それだけじじいの研究を高く評価してるだけの話だ」


 ハッキリ言ってじじいの研究がどこまで進んでいるのか全く分からない……。

 最悪ただのガラクタの可能性の方が高い……。

 それでも……じじいも人間も勘違いしている。


 ――じじいの研究の価値の高さを。


 じじいの研究が完成したなら、エネルギー問題なんて一生縁のない話になる。

 完全にエコなエネルギー源。魔力を用いて、エネルギー転用する。効率は良いに越した事はない。

 オレの魔力を使ったなら、新しい街どころか、エルロワーズの森全てのエネルギーが賄えるに違いない。

 

 何故今まで人間が、この発想をしなかったのか。

 おそらくメアが五百年前に何かしら制限をかけたんだろうな……。

 あの子なら間違いなくこの研究の価値を分かっていたはず。


 もし完成していたなら……最悪の兵器として使われるのは想像に難くない。


「……ワシの……願いは……」


 じじいがポツリと言葉を発した……。


















   


 

 


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ