22
日々平和に穏やかに過ぎていく毎日。
あるだろうと思っていた、それぞれの国からの調査や偵察といったモノの報告もオレには上がってこない。
大方ラウがオレに報告が上がる前に止めているんだろうけどな。
さすがにそれくらいはオレでも分かる。
むしろ、ラウが率先して、狩りに出ているんだろうな。
アイツはいつもオレを子供扱いするが、子供だってそれなりに見るモノは見ている。
ラウがオレを引き取った後も、ラウは隠していたがオレは知っている。
実は密かにずっとオレを守ってくれていた事を……。それはオレが子供の頃からこちらの異世界に来るまでずっとだ。
全くアイツは……いくつになっても子離れの出来ないヤツだ。
そんなラウがオレやこの街に不利益をもたらすヤツ等を野放しにする訳がない。
何かしらの対策をしているに決まっている。
不自然だったのは、コイナさんと街を見て回った日からか。
とするなら、子供達もグルだろうな。
あれ以来、時折ラウも子供達も匂いが全くしない時があるのだ。
まあ、ラウのスキルでいろんな匂いを消しているんだろう。全部の匂いを消して、無臭にしてしまうのはかえって不自然だけどな。
それをラウが気付かないはずがない。
であるなら、あれはあれでラウからの遠回しの報告と受け取っておくか……。
だが!しかし!オレを仲間外れにするのは許せない!
そう!あれ以来みんな大忙しなのだ!
ラウは何をしているのか分からないが、人間や魔族の国を飛び回って何か企んでいるみたいだし、金も大量に稼いでくる。
たまに帰ってくれば、大量の食糧と資材を置いて、オレやクロムと打ち合わせの毎日だ。
打ち合わせが終わればまた出て行ってしまう。
まるで、単身赴任のお父さんのようだ。
ちなみに子供達にお小遣いやお土産まで渡している模様。
オレより出来たお父さんだ。
クロムはといえば、プライベートは相変わらずおバカさんだが、仕事となるとバリバリ働きやがる。
これまで溜まっていた鬱憤を晴らすように、片っ端から仕事をこなしていく。
日中はそれぞれの魔物の長や、面会に来た者と謁見をこなし、言葉巧みにアメとムチを使い分け、こちらの陣営に引き込んで勢力を拡大させている。
それが終われば街の統治に係わる全ての案件に目を通す。
そして、その合間を縫って新しい街の計画を立て、マナーの授業を行い、お料理教室まで出てくる。
夜は夜で変わらず子供達にゲンコツを落としている。
アイツは一体いつ休んでるんだ?
ちなみにメアはクロムに付いて謁見をサポートしている。
操るまではしないモノの、相手の心を読んで話を誘導する。
交渉においてメアほど優秀な人材も珍しいだろう。なにせ相手の弱みや、隠している裏の顔まで全てさらけ出してしまうんだから。
おかげでクロムの仕事が相当はかどっているそうだ。
何だかんだで、あの二人の相性は悪くない。
クロムのサポートが終わるとすぐにメアは森に出かけてしまう。
これも魔法特性の高いメアだからこその仕事の一つで、北の森に張られている結界の補強と拡大をして回っている。
この広い森を手作業で回るのだから、まさに寝る間を惜しんで働いている。
さらに!新しい街の土台を作る為、開けた土地に土魔法をかけてならす作業まで行っている。
元ニートとは思えない仕事ぶりだ。
ちなみに、森の中にある開けた土地というのは、オレの魔力の結晶を投げた時に出来た広大なクレーターの事だ。
赤鱗が攻めてきた時に、オレがラウに促されて投げた結果、オレまで爆風に巻き込まれて、気絶したのは懐かしい思い出だ。
セシリーはというと新しい街造りと街に訪れる魔物達の対応に大忙しだ。
メアが土台を作った大地に、ラウの置いていった資材を割り振っていく。これはこの北の森で育ったセシリーにうってつけの仕事だった。
それぞれの魔物の特性を把握し、その全てと顔見知りのセシリーにとって、それぞれの部族の棲み分けを行うのは難しい作業ではなかった。
というより、セシリーにしか出来ないだろう。資材の割り振りだって、ただ家を建てればいいという話ではないのだ。
水の中に住む者や土の中に住む者。空を飛び樹の上に棲みかを作る者もいる。
今はまだその全てに対応は出来ないが、今の状態から考えておかないと後で大変な事になる。
それゆえにここで育ったセシリーが対応せざるを得ないのだ。
ルナはさらに忙しい。
朝から晩まで糸を使い、北の森から全ての森に結界を張っているのだ。
その情報網を生かす為の連絡網の構築まで行っている。誰かが襲ってくればすぐに分かる様に、ベビースパイダー達やルナの眷族達を使い常に森の情勢にアンテナを張っている。
ルナがいれば、前の様に不意打ちで街を襲われる心配はなくなるだろう。
ルナの結界は街の中ではさらに効果を発揮する。
街の中で誰かが暴れようものなら、ルナがその場にいなくとも、すぐさまアトラナートの糸で拘束してしまう。
まさに街の警察だ。
いや、ルナの事だから秘密警察なのか……?
あの子ならやりかねないからな……。
ちなみにルナの糸は恐ろしいほどの強度になった。
ラウが現代から持ってきていた繊維をヒントに、今までとは比べ物にならない物に変わってしまった。
何がしたくてカーボンナノチューブなんて持っていたのか……。それ以前にどうやって手に入れてきたのか……。
ともかく、カーボンナノチューブをヒントに体内で糸を生成し、さらに魔力を通わせる。それによって爆発的に上がった強度をさらに編み込む事で強化する。
もはや、ルナの糸を切れるのはオレの眷族の子供達くらいのものだろう。
そんな糸で拘束される魔物達が哀れにすら感じてしまう。
とまあ、そんな訳で、ウチのみんなはすさまじく忙しい毎日を送っているのだった。
そして、オレはというと……。
「いやー、今日も大量だったなー。今日も夕飯は豪華になりそうだ!」
森の中で魔獣を狩る毎日だった……。
自分で言っていて虚しくなってきた。
自分が放った言葉とは反対にオレのテンションはどこまでも低かった。
オレが街に出て仕事をしようとするとみんなに止められるのだ。
やれ危険なのです、だの、やれ心配です、だの、やれどっしりと構えておれ、だの。
さすがのオレも気が滅入ってしまう。
唯一、北の森で魔獣を狩る事だけは許可してもらった。しかし、それすらもルナの妹のベビースパイダーを身体に乗せ、念話をオープンにした状態でようやく許可が出たのだ。
「オレも仕事がしたぁぁーーい!!!」
誰に言うでもなくオレは空に向かって大声で叫ぶ。
そのまま大の字になって仰向けに倒れる。
いい天気だ。雲一つない。
空はまだ太陽の光が差し、顔を照り付ける。こちらにも四季があるみたいで、今はまだ初夏といった所か。気持ちのいい風が顔をなでる。
「みんな心配しすぎなんだよ……。なぁ?お前もそう思わないか?」
オレは胸の上にいるベビースパイダーを優しくつつきながら問いかける。
勿論ベビースパイダーは答えない。しかし魔物なだけあって、言葉を理解しているのだろう。首を傾げて、指にすり寄ってくる。慰めてくれているみたいだ。
なかなか可愛らしい。もしオレが加護を与えたなら、ルナに似て美人になるのだろうか。
「慰めてくれているのか?ありがとな」
オレの監視はいつもこの子だ。おかげで付き合いも長くなった。
最近はこの子が喋れなくても考えている事が分かる様にもなってきた。
「じゃあお昼御飯でも食べるか?」
ゴロンと起き上がり、胡坐をかいた体勢のまま腰から巾着を取り出す。
オレはラウからもらった巾着に今日の獲物のデカい蛇をしまうと、代わりにサンドイッチの入ったバケットを取り出し、サンドイッチの一つをベビースパイダーに与える。
オレも一つ取り出し、一口頬張る。
中々上手く出来ている。朝自分で作ったカツサンドだ。
みんなにもこれと同じものを持たせてある。
「みんなで食べれたらもっと美味しかっただろうな~」
なんだかしんみりしてきた。
分かっている。みんなオレの為に働いてくれているからこそ、忙しいのだと。
これはただのオレのワガママだ。
でも、だからこそオレもみんなの為に働きたいのだ。
「よし!みんな頑張って働いてくれているんだからな!」
自分の頬を両手でパンパンと叩き、表情を笑顔に戻す。
寂しさまではぬぐえないが、せめて笑顔でみんなの帰りを待っていてあげようと気合をいれる。
「んっ?誰かいるのか?」
森の茂みからガサガサと、小枝を掻き分けて進んでくる気配がある。
敵意は感じない。
それもそうだろう。ここはクロムの聖域から目と鼻の先にある森なのだから。
――正体がバレるのはさすがにマズいか……。
いつでもかぶれる様に側頭部にかけてあるキツネの面を顔にかける。
敵意がないとはいえ、オレの存在は一応秘密という事になっているからな。
しかし、茂みから出て来たのは大きなスイカ程の大きさの赤いスライムだった。
プルプルと身体を震わせ、オレの目の前で立ち止まっている。
――迷子……なのか?
スライムに視線というものがあるとするのなら、このスライムの視線はオレの手に持っているサンドイッチに釘付けになっている。
どうしてそう思ったかは分からない。そう感じてしまうのだからしょうがない。
「……食うか?」
オレが手に持ったサンドイッチを差し出すとスライムは恐る恐る近づいて来る。
「大丈夫だよ。とって食ったりしないさ」
それでもスライムはまだ警戒しているようだった。
仕方ないので、オレがサンドイッチをもう一口かじると、それを見てようやくスライムはオレの手からサンドイッチを食べた。
食べたといっても、身体の表面から体内に取り込んで溶かしているだけだけど……。
「まるで、初めて会った時のセシリーみたいだな。そういえばあの時のセシリーにも怯えられていたっけ……」
愛しい我が子を思い出して、自然と顔から笑みがこぼれる。
スライムは安心したのか、オレの傍まで寄ってきていた。
プルプルボディが気持ち良さそうだ。青い身体も涼し気で可愛らしい。
――ん?コイツさっきは赤くなかったか?
疑問に思い、スライムの身体を持ち上げて、撫でて確かめていると、今度は緑色の身体に変化していった。
「おお!すごいな!色が変わるのか!」
――一体どういう仕組みなんだ?それともスライムはみんな色が変わるのか?
オレの知っているスライムは色が変わるなんて聞いた事なかったけど、スライム自体見るのは初めてだからな。きっとそういう生き物なんだろうな。
スライムはオレの手の中からサンドイッチの入ったバケットを眺めている。
「……まだ食べたいのか?」
スライムはオレの言葉に身体を揺らして返事する。
調理した本人としては、喜んで食べてくれるのならこんなありがたい事はない。
食べれるだけ食べさせてあげよう。
サンドイッチをちぎり、少しずつスライムに食べさせてやる。
するとスライムの身体もそれに合わせて緑色が濃くなっていく。
――これは……喜ぶと緑色に変わるのか?
試しにサンドイッチを高く上げ、届かないようにして取り上げると、スライムの身体は緑から青、そして最後には赤く変わった。
――怒ると赤くなるのか……。
スライムを膝の上で撫でつつ、サンドイッチをあげるとスライムの身体は再び緑色に戻っていった。
これは……ヤバい……可愛いすぎる……。
喋らないまでも、こちらの言葉を理解して、感情表現まで出来るなんて……。
スライムは食べ終わると満足したのか、オレの膝の上で大人しくなってしまった。
……寝てるのか?
余程疲れていたのか、子供なのか。
けれど、さすがに連れては帰れないだろうな。
ウチの子達ががんばって働いているのに、新しくまた子供を拾って帰るなんて……さすがに気が引ける。
……なによりオレ無職だし。
さて、これは困った。
オレが頭を抱えて悩んでいると、スライムは起きていたのか、身体を変形させ、オレにまとわりついて来た。
どうやら、置いて行かれたくないようだ。
餌付けしてしまったらしい。
「一緒に来たいのか?」
またもスライムは身体を揺らして返事をする。
ついてきたいらしい……。
しょうがない。ここまで来て、捨てて帰るのもかわいそうだからな……。
「みんなに聞いて、みんながいいって言ってくれたらだからな?それでもいいか?」
スライムは身体を緑に染めて喜んでいた。
これじゃみんながダメだと言っても捨てにいけないじゃないか……。
おそらくこのまま、なし崩し的に飼うであろうスライムに手を差し伸べると、差し伸べた手の上を飛び越え、オレの頭の上に飛び乗って来た。
頭から降ろして、抱きかかえようとすると、スライムは身体を赤く染め機嫌を悪くしている。
仕方がないので、スライムを頭の上に乗せたままいったん帰路に就く事にした。
そういえば、コイナさんも頭の上がお気に入りだったな。
オレの頭はそんなに居心地がいいのだろうか……。
スライムはオレの頭の上でご機嫌のようだ。
――みんなが反対したらどこかでコッソリ飼うしかないのかな……。
念話でみんなに聞くのは――やめとくか……。直接話して少しでも確率を上げた方がいいだろう。
みんなも目の前のスライムに出て行けとは言いにくいだろうし……。
そんな打算をしつつも、また魔物に懐かれる自分の体質を少しだけ嬉しくも感じていた。
「あれ?これはこれは、レイさんじゃないですか?」
森から転移場所に帰る途中で、同じく新しい街の建設の手伝いから返る途中のコイナさんとバッタリ出くわした。
「お疲れ様です。コイナさん。もう仕事終わりですか?早いですね?」
「はい。今日はクロム姉様から話があるとの事なので、仕事は午前中で終わりです!」
今日も元気一杯にコイナさんが返事を返す。
しかし、視線はオレの頭の上のスライムに釘付けだ。おまけに、何故か視線は鋭いモノになっている。
機嫌が悪いのか……?
「レイさんは今日もお休みですか?羨ましいですね」
コイナさんは笑顔で的確にオレの痛い所を付いてくる。
オレも好きで暇人をしているわけじゃないのに……。
「……はい。今日も休みなんですよ。おかげで暇で暇で……」
「私、レイさんみたいな職業の方を知っていますよ!なんて言いましたっけ……?」
オレの横を歩きながら、コイナさんはウンウン考え込んでいる。
「……ツナ?……ナワ?」
へ~この街にも暇な魔物がいるんだな。
案外仲良くなれるかもしれないな……。変わった名前の魔物みたいだけど……。
「……あぁ~!思い出しました!ヒモです!ヒモ!レイさんはヒモですね!」
「……」
目から汗を大量にかきそうだ……。
コイナさん……。名前じゃなくて、今のオレの在り方を言いたかったんですね……?
「どうしました?レイさん。いえ、ヒモさん。顔が青いですよ?風邪でもひきましたか?」
心が風邪をひきそうです……。
「ヒモさんでも風邪をひくんですね?……でも、毎日休みなのですから心配はいりませんね♪」
コイナさん……。オレの名前がヒモさんに変わってますよ……。
オレはそっとキツネのお面を顔にかぶり直す。
目から流れる汗をコイナさんに見られないように……。
「……これでも毎日家事はしているんですよ……?」
ささやかな抵抗を試みる。が……
「ヒモでも家事くらいはするでしょう?それすらもしないのなら、それはもうニートに格上げになってしまいますよ」
オレのささやかな抵抗は木っ端微塵に砕かれてしまった……。
「……はい……。そうですね……。どうもすいません……」
コイナさんは上機嫌だ。
オレと話せて嬉しかったようだ。オレは心をガリガリと削られているが……。
「ふふふ。すいません。ちょっとからかってみただけです。どうも……その……」
コイナさんの視線はスライムに向かっている。
スライムに何か言いたそうだ。
「……ちょっと?そこのあなた?そこは私の席ですよ?」
どうやらコイナさんはスライムがオレの頭の上にいるのが気に食わないらしい。
しかし、いつの間にオレの頭はコイナさんの席に変わっていたのか……。
スライムはそんなコイナさんの言葉を全く聞いていない。完全無視だ。
「……聞いていますか?早くそこをどきなさいと言っているんです!」
コイナさんの口調が厳しいモノに変わる。
コイナさんの視線とスライムの視線がバチバチと火花を散らしているように幻視できる。
第一回オレの頭の上争奪戦の開幕だ!
「……まあまあ。二人とも。たかがそんな事で……」
「たかがそんな事!?」
あっはい。すいません。
仕方がないのでスライムを降ろそうとすると、スライムは身体を真っ赤に染めて怒りだす。
オレの手を頭の上で器用に躱して、絶対に降りないと必死の抵抗だ。
ちらりとコイナさんを見ると、こちらの機嫌もだんだん悪くなっている。
オレにどうしろって言うんだよ……。
仕方がないので、コイナさんにスライムを抱きかかえてもらい、そのコイナさんを肩車することにした。 オレの頭の上の乗車率は200%を超えている。
ちなみにルナの妹のベビースパイダーも頭の上に乗っている。
なら乗車率は300%なのか……?
なんてどうでもいい事を考えているが、頭の上の二人……三人は上機嫌だ。
スライムは身体を真緑にしているし、コイナさんはそんなスライムをポムポムと叩きながら鼻歌まで歌っている。
……みんなそれで満足なのか?……そんなギュウギュウ詰めで……。
こうして第一回オレの頭の上争奪戦は幕を下ろした……。
「それよりも、ヒモさん。この子の名前は何とおっしゃるのでしょう?」
あっ、その呼び方は変わらないんですね……。
「……さっき森で出会ったばっかりなんですよ。懐かれてしまって……」
「へ~珍しいですね。色が変わるスライムなんて初めて見ました」
コイナさんはスライムを、変わらずポムポムと叩いて遊んでいる。
「やっぱり珍しいんですかね?」
「そうですね~。私は見た事も聞いた事もありませんが……。まあ、この森なら亜種が生まれても特別不思議ではありませんし……」
ふ~ん。まあ色が変わった所で何が変わる訳でもないし……。
「で、拾ったこの子も引き取ると?」
「それが……みんなに聞いてからじゃないと……」
「あぁ~それもそうですね。無職で養われている身ですものね~。無職なのに勝手に食い扶持は増やせないですよね~。なにせ無職ですから……」
そんな無職、無職言わなくても……。はぁ~マジで就職活動しようかな……。
「まぁみなさんでしたら、快く受け入れてくれると思いますけどね。なにせ、ヒモさんの頼みですし……」
「だといいんですけど……。もし捨てて来いとか言われたらどうしようかと……」
「もし、万が一、ですが、そうなったら私が引き取りますよ?なにせ友達ですから!」
「ッ!いいんですか!?助かります!……というか、いつの間にお友達に!?」
「あれ?ヒモさんは知らないのですか?一度バトルを繰り広げた相手は友達になるのは常識ですよ?強敵と書いて、トモと呼ぶんです!」
「どこの世界の常識ですか!?というかさっきのあれはバトルだったんですか!?」
ツッコミどころ満載だったが、スライムもプルプルと震えて同意を示している。
――どうなっているんだ。この二人は……。
コイナさんもスライムに向かって「ね~?」と可愛く呼びかけ、スライムも軟体の身体を縦に折り曲げ、嬉しそうにコクコクと頷いている。
最初の険悪な雰囲気はどこにもない。
仲良くなってくれたならそれでいいんだけどさ……。
「私も働いていますから、二人くらい養う相手が増えたってなんとかなりますよ!」
あっ!何気に今オレの事も養う人数にいれましたね!?
コイナさんはスライムと一緒にオレの頭を撫でてくる。何故かその視線は哀れみに満ちていた。
「無職でヒモのままなのに、居候をもう一人連れて帰るなんて……捨ててくれと言っているようなモノじゃないですか……」
さっきと言ってる事が変わっている!?
「大丈夫ですよ……?みなさんに捨てられたら代わりに私が養ってあげますから……」
止めてくれ!そんな目で見ないでくれ!誰か、誰か助けてぇぇ~~!
「とまぁ、そんな事も可能性としてはゼロではないという夢のお話です」
――イヤな夢の話をしないでください……。
童女に養ってもらう可愛らしい変わったペット。
童女に養ってもらう可愛らしい変わったペット、と無職のおっさん。
オレだけが混ざるだけで一気にダメな感じが際立つな……。
というかオレだけがダメなヤツだな……。
マジで就職活動がんばろう……。
「それでは、この子に名前を付けて上げましょう!何がいいですかね?」
コイナさんはスライムをマジマジと見つめて、考え込んでいる。
「グリーンなんてどうでしょう?」
「いや、コイナさん。色、変わりますから……」
「それもそうですね。……では……ヒモとか……?」
「ひどっ!?ていうかそれオレの名前じゃないんですか!?」
「では、ヒモツーで!私が養うかもしれないんだから、仕方ないじゃないですか?」
「そんな心配はしてもらわなくても結構です!…………多分」
コイナさんは「……ふむ」と小さく頷いて、オレの顔を覗き込んできた。
「……ではレイさんはどんな名前を付けようと思っているんです?元をただせば、レイさんが拾ったのですから、レイさんが名前を付けるのがスジですからね」
それもそうだ。名前ね……。名前。
「……ミケ……とか?」
「……本当につまらないオスですね……。…………まぁそんな所も好ましいですけれど……」
最後の方は小さくてよく聞こえなかったが、コイナさんにはありきたりな名前すぎてつまらなかったみたいだ……。
「お前はどうだ?」
スライムに声を掛けると、スライムはプルプルと震えて嬉しそうにしている。
「……じゃぁお前はこれからミケって名前だ。みんなは……オレが何とか説得するか!」
ミケとコイナさんはオレの頭の上ではしゃいでいる。
とても楽しそうだ。
「よし!じゃぁみんなの所に急ぐか!」
オレが改めて先を急ごうとしたその瞬間、急に目の前がグラリと揺れた。
眩暈を起こし、その場に立っている事も困難な状況だ。
倒れそうになる身体を踏ん張り、なんとかコイナさんとミケを頭から降ろす。
まだ昼間だというのに、オレの視界はどんどん暗く、狭まっていく。
どうやら、仰向けに倒れたのだろう。目の前には心配そうに覗き込むミケと、何かを大声で叫んでいるコイナさんの顔が見える。
――おかしいな……。コイナさん……?……何を言っているのか聞こえないです……。
オレの頬にコイナさんの涙が落ちた所で、目の前が完全に暗闇に包まれた。
――コイナさんを泣かせてしまったな……。後で謝らないとな……。
それがオレの覚えている最後の記憶だった。




