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エルロワーズの森と黒き竜  作者: 山川コタロ
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 あれから一か月がたった。

 幸い街は平和そのものだ。

 オレ――アマミヤ・レイはあの調子に乗った日から、ラウによって魔力隠蔽の指輪の装着を義務付けられていた。

 それに関してはオレも賛成だ。

 あれから何度か街に降りたが、誰一人としてオレの話題を話している者がいなかったからだ……。


 ――そりゃそうだろうよ。


 何と表現したらいいのか……。コンサートに乱入して、調子に乗ってステージに乗り込んでステージを台無しにしたヤツとか思われているんだろうな……。

 実際に街を回っていた時、ラウとクロムの話をしていた魔物達にオレの印象を聞こうとしたら、思いっきり口を塞がれてしまったのだ。大慌てで周りの目を気にして、その場にいた魔物達全員から口を塞がれるなんて……。


「ぼ、坊ちゃん!軽々しくその名を口にしちゃいけないよ!あの件に関してはお屋敷から正式に箝口令が出されているんだから!」


 たまたま街で会った屋台の女主人のカエルに話を聞いたら事情を教えてくれた。どうやら、ラウとクロムが口止めをしているらしい。

 ありがたい事だ……。オレの黒歴史を広めないようにしてくれるなんて……。


「あたしゃ、あの場にいられた事が本当に誇りだよ……。あんな神々しいお姿が見れるなんて、例え明日死んだとしてもあたしゃ悔いはないね!」


 それに比べて……。ラウとクロムは大人気だな……。


「お屋敷のお達しがなくても、恐れ多くて口に出来るヤツはこの街にはいないだろうねー!もちろんアタシを含めてね!」


 ……ああ。さらに怯えてもいるのか……。オレも救いようがないな……。

 

 ――そうだろうよ。そうだろうよ。こんな閉じられた空間で、初めて魔力を全開放したんだからな!

 クロムからは()()()()()かと思ったと嘆かれたし!

 

 ラウとクロムからはあれで最高だったと褒められたが、顔は引き攣っていたし、アイツ等は無理矢理オレを引きずり出した罪悪感もあっただろうからな。

 どこからか見ていたんだろう、子供達も大はしゃぎで喜んでくれたけど、あの子達はオレが何をしても喜んでくれるからな。嬉しかったけど、あの子達の意見は参考にはならないな……。

 コイナさんは変わらず接してくれるが、少しだけよそよそしくなった気がする。顔を赤らめてモジモジしている時があるのだ。


 あの時連れ去ったコイナさんも恥ずかしかったんだろうな~。悪い事をしてしまったかな……。


 街でコイナさんを見かけると、魔物達から詰め寄られて握手を求められたり、拝まれている光景をたまに見かけたりもしたし。

 邪険に扱われていないのが救いだな。






 そんなこんなで、あの一件以来オレは大人しくする事にしたのだ。

 朝起きてからは、日課のトレーニングに励み、昼からは新しく造る街の計画をラウ達と話し合う毎日だ。

 たまに、トレーニングを延長して、一日頑張る日もある。

 あの日見た、ラウやクロムのように、オレもドラゴンの姿に変身出来たらいいなーとか思ったからだ。

 なにせ、あの時人型ではなく、ドラゴンの姿であったならここまで恥ずかしい思いをしなくてすんだだろうし……。上手くいけば好意的にとってもらえたかもしれないからな……。

 結果は失敗。

 どうやったらなれるのかも全く分からない。

 感覚は分かるし、姿のイメージも出来るけれど、あの姿になるやり方が分からないんだからしょうがない。なんとなく、出来そうな気もするし、出来なさそうな気もする。これはその内だな。訓練あるのみだ。

 それからさらに、オレのスキルだ。ラウやメアのようにオレにもスキルがあるはずなんだけど、全く分からない。

 二人とも、気付いたら勝手にできていたそうだ。使い方も自然とできるようになっていたから、上手く教えれないとの事。

 スキルもダメ。ドラゴンにも変われない。


 オレには才能がないんだろうな……。


 街の上の森は聖域らしく、街を訪れる魔物達が増え続けても、湖の近くに寄って来る魔物は一人もいなかった。おかげで自由になれる場所が確保できた。

 暇な時は大体森の中でトレーニングの毎日だ。ドラゴンに変わろうとしてみたり、スキルを使おうとしてみたり……。どれもあまり芳しくないけれど……。

 ただ、一か月かかり、一つだけ出来るようになったのが、()()の変化だ。

 正確にはオレの爪や牙がドラゴンのモノのように大きくなる訳じゃなくて、扱いやすいように変化出来たのだ。身体の魔力でサイバースーツを身に纏った時のように、変化するというより身体から生み出すといった感じが近いのかな。

 牙が身長ほどもある漆黒の刀身を持つ日本刀。鍔も柄も鞘も持たない抜き身の刀。爪が同じく漆黒の小太刀。小太刀の方は多少長さを変えて取り出せるので、実はこっちの方が牙より使い勝手がよかったりする。


 ……主に包丁の代わりとして……。

 

 ちなみにラウや子供達も()()()()()、大体ここに来て一緒にトレーニングをしている。

 各自、身体が変化した事でそれぞれが出来る事と出来ない事を試していた。

 ラウはもちろん、セシリーとルナも以前の身体に変化する事も出来るようで、それぞれフェンリルとアトラナートの身体で試す事も多そうだった。

 基本的には、オレとラウから体術を教わったり、各々のスキルの確認、メアとラウの持つ魔法の知識の共有、そして、人型になった事での一般的な教養。

 お互いに学ぶ事が多く、充実した時間を過ごしている。

 体術に関しては、セシリーが圧倒的に才能があり、とんでもないスピードで上達していった。まるで乾いたスポンジが水を吸収していくように、オレやラウから技を盗んでいく。

 このままいけば、オレやラウに匹敵する程の使い手になるのもそう遠くはなさそうだ。

 次に筋が良かったのはルナで、こちらもセシリーほどとは言わないまでも、かなり筋が良かった。

 地道に努力し、褒めれば褒めただけ、成長していった。

 褒めて伸びる子と叱って伸びる子がいるというが、ウチに限ってはみんな褒めて伸びる子なんだろうな。

 ちなみに、メアは体術に関してはからっきしダメだった。

 それでも、元々の身体能力が高いせいで、その辺の魔物達くらいには全く引けを取らないのだが……。

 というか、最も体力のないメアでさえ、素の体力だけで圧倒できていた。

 そして何よりも驚いたのが、セシリーもルナも元の獣の姿に変化しても、体術の仕組み自体を理解していた事だった。

 それによって、セシリーが圧倒的に強くなったのは当然として、ルナがヤバかった……。

 なにせ足が八本もあるクモが体術を使うのだ。八本の足を器用に使い、理合いや合気を駆使する。ただ防御するのではなく、力を受け流し、技を放ち、カウンターを合わせる。クモの足では相手を掴むのが難しいようで、投げができなくなっていたが、それを補って余りあるほどのパワーアップだった。


 メアは――しょうがないか……。人には向き不向きというものがあるしな……。


 しかし、魔力を用いた戦闘においては、この順番が逆になった。

 ラウやメアから教わった魔法の理論は中々面白かった。

 魔力を用いて、事象を具現化する。

 例えば、炎を出したいとイメージする。それを体内の魔力を用いて、どのような形態の、どのような大きさの炎にするのかを決める。

 それは、より具体的に炎をイメージする事によって無駄な魔力をはぶき、術の発動をスムーズに行える。

 マンガやアニメのように長々と詠唱をしたり、杖や魔法陣は使わなくてもいいらしい。

 

「漆黒の闇よりいでし、暗黒の神よ……」


 とかを、密かに期待していたんだけど、それはしなくてもいいらしい。

 ラウが「したかったらしてもええんやで?」と、ニヤニヤして言ってきたが、()()()()()丁重に断った。

 それは今度一人の時に試そうと思う……。絶対に誰にも見つからない所で……。


 そしてセシリーにはそのイメージが具体的に上手く出来ないのだ。

 炎といっても、ただ燃える炎しか見た事のないセシリーは、それしかイメージ出来なかった。

 それでは、威力も上がらず、術の発動に必要な魔力も大量に必要とした。

 現代に生まれ、生きて来たオレやメアとは違う。

 橙色の火より青色の火の方が温度が高く、その差は10000度以上になる場合もある。火の温度が約7000度以上になると、色が青色になる。

 赤い炎より、青い炎の方が熱い事は、普通に科学の授業を聞いていれば、現代日本では誰でも知っている。

 しかし、セシリーにはそれが理解できない。どうしてそうなるのか、どうやったらそうなるのか。それを実際に見せて説明してもやはり理解できない。

 さらに、炎の形態をイメージ出来ないのだ。

 漠然と山火事のように燃える炎しかイメージ出来ない。

 イメージなのだから、別に球体をイメージしてもいいし、槍や剣といった形態の炎でも構わないのだが、それも難しいらしい。

 それでは、炎自体を生み出せても、山火事にしかならない。大量の魔力にモノをいわせて、辺り一面を火の海にする。それはそれで、すごいのかもしれないけど……、無駄が多いし、何よりフレンドリーファイアが怖い……。

 オレ達なら山火事くらいでダメージを負う事はないが、オレ達以外はそうはいかないからな。

 

 その点、メアはヤバい。

 現代日本で得た知識をもとに、マンガやアニメの中でしかみた事がないような魔法を次々イメージしては、それを具現化していく。時には化学を応用して、更にはそれをイメージで改良して。

 悪魔の身体もそれにピッタリだったんだろう。

 体術のように、力任せに殴り、ねじ切るのではなく、魔法に関しては、自然現象の特性を科学的に理解し、さらに、別の特性を組み合わせてイメージし、発動させる。

 悪魔特有と言うべきか――セシリーやルナよりさらに巨大な魔力を存分に生かし、繊細な魔力操作もものともしない。

 まさに魔法の申し子といった感じだ。

 体術とはエライ違いだ。

 

 ルナは魔法に関しても、相応の才能を見せた。

 目の前で魔法を発動させて見せれば、それを理解できるし、科学的な理論も理解して見せた。

 ただ、体術に関してはセシリーに、魔法に関してはメアに一歩及ばない。

 どちらも非凡な才能を見せるが、天才肌という訳ではない。努力によって成長する秀才タイプといった所か。

 

 そんなこんなで体術や魔法に対するそれぞれの才能がハッキリと分かれてきた。

 オレはというと、体術は今までと変わらずトレーニングしているとして、魔法に関しては中々のモノだった。メアと同じ知識を持つオレにとって、魔法は素晴らしかった。

 なにせ、現代日本においてオレは、メアよりも成績がよかったから!

 というより誰よりも勉強だけは出来たから!

 無駄にボッチだったオレだ。勉強に費やす時間は腐る程あったからな!


 ――ボッチだったから……!


 なので、魔法に関してもメアと同じ様に――いや、メアよりもより深く理解が出来た。






 そして、最も問題になったのは一般教養だった。

 魔物の子供達に人間の常識を教えようとは思わないが、食事を取り、睡眠を取るのであれば、それなりに常識を学ばせようと思ったからだ。

 食事のマナーに関しては、全く問題なかった。

 メアは勿論、ルナもさすがに元お姫様だけあって問題ないどころか逆に、優雅にテーブルマナーをこなして見せた。

 ルナは何をさせても、そつなくこなす。

 セシリーは……一緒に頑張ろうな!

 ちなみにマナーの教官はクロムだったりする。

 ラウはイヤミなくらい何でもできるのは知っていたが、まさかクロムまでマナーが完璧だとは思わなかった。


「これくらいの事はワシ程になれば出来て当然じゃ」


 とかしたり顔でぬかしやがった。


 ――しかし!


 ――オレは文句は言わない!


 ――なぜなら……


「セシリー?何度言ったら分かるのじゃ?これで三度目じゃぞ?」


 笑顔で話しているが、クロムの目の奥は全く笑っていない。

 以前セシリーがクロムに拾われて育てられていた時は、すでにクロムは病床に臥していた。

 それゆえに、セシリーは都合が悪くなると逃げ回っていたらしい。

 しかし、今は元気一杯のクロムさんだ!

 苦手なマナーの授業も逃げる事は出来ない。

 もしサボって逃げようモノなら、()()ゲンコツが飛んでくる。

 セシリーは涙目ながらも頑張って授業を受けている。

 さすがにオレにゲンコツを落とす事はないだろうが……


「若様や?若様も()()間違っておるぞ?若様はみなの手本にならねばならんのじゃからしっかりしてもらわねば困るのう……」


 いけね。ボーっとしていたらまた間違った。


「そうじゃ!若様は後で個別に教えるとしよう!手取り足取り二人きりで!じっくりと!」


 ――勘弁してくれ!まだゲンコツの方がマシだ!


 しかし子供達もオレも一言も文句を言わない。

 なにせ、今この空間においてはクロムが神だからだ!

 張り切ってキャリアウーマンばりにビシッとスーツを着込み、クイッと眼鏡を上げる。手には教鞭まで持っている。

 ハイヒールをカツカツと鳴らしながら、教鞭を手でピシピシと叩いている。

 

 誰だよ!アイツにあんな装備を渡したヤツは!


 テーブルマナーは和食からフランス料理のフルコースにまで及んでいた。

 材料や料理そのものの準備は勿論ラウだ。なら、あのクロムの装備もラウの仕業だろうな。

 こんな異世界で和食やコース料理のマナーを学んだ所で、一体なんの意味があるのかは甚だ疑問ではあるが、オレが自分から言い出した事だし……。

 オレは箸の使い方とかを子供達に教えたかっただけなのに、ラウとクロムが張り切りやがってこんな事になってしまった。

 何故クロムがそんなマナーを熟知しているのかは謎だが、誰も余計な事は喋らない。

 なにせオレ達の後ろを、常にこの部屋の神がカツカツと音を立てて歩き回っているからだ。

 和風な館の中の洋間を作るくらいの気合のいれようだ。

 今更やっぱりもういいや、とは言えない……。


「クロム姉様。料理は以上でございます」


 遊女の格好からメイドの格好に着替えさせられたクロムの眷族達も、変わらずしっかりとした対応をこなしている。


 ――あの人達はこの後また着替えるんだろうか?


「私はこの料理よりも、いつもの料理の方がいいです……」


 ルナの呟きに全員が同意を示してくれる。

 ありがたい事だ。


「クロム姉様。それでは次の準備にとりかからせていただきます」


「う、うむ。そうじゃの。ワシは忙しいのでこの辺で席を外させていただくとするかの……」


 逃げようとするクロムの腕をガッシリと捕まえ、オレは満面の笑みを浮かべる。


 ここまで来て、逃げられると思うなよ?


 実際クロムは多忙を極めている。街に来た数多の魔物達の長との面会や、街の全てに係わる事柄の管理や治安を一手に担っているのだから、それもそうだろう。


 しかし、それはそれ!これはこれ!

 

 ――絶対に逃がさないからな?


 ちなみにラウはめったにこの街にいない。必要な打ち合わせの時だけ街に戻ってくるか、大抵の事は念話で済ませている。


「ボチボチとボクも本業に戻らせてもらうとするわ」


 それがラウの言い分だった。

 ラウの本業は自称商人だ。

 どこで何をしているのか分からないが、いつもの事だ。

 今も出稼ぎのお父さんのように外で金を稼いでいるんだろう。 


 ならお母さんもしっかり仕事をするとしよう!


「全員準備は出来たか?」


 そう。テーブルマナーの授業の後は、みんなのお料理教室の時間だ!

 全員可愛らしいエプロンを付け、頭には揃いの三角頭巾を装着している。

 一人を除いて全員がやる気に満ちている。……一人を除いて!


 あれから普段のみんなの食事はオレが作らせてもらう事にしたのだ。


「働かざるもの食うべからず!」


 これがラウと二人で暮らしていた時の決まりだった。

 全くの同感だ。

 ラウはどこからか金を稼いできていたし、オレは子供ながら家事を全てこなしていた。

 そうしなければ生活が立ちいかなかったし、当然の仕事だと思っていた。

 だからオレの家事スキルは相当高い。ベテランの主婦にさえ引けを取らないと自負している。

 特に料理は相当頑張った。

 さっきのフランス調理のフルコースとはいかないが、大抵のモノは作れる。

 あれはラウのスキルで取り出したモノだが、ラウが収納したものは劣化もせず、そのままの状態で保存されているのだ。

 しかし、そんな豪華な料理よりオレの料理をみんなが美味しいと言って食べてくれる。

 毎日の料理に気合が入るのも当然だ。

 ちなみに足りない調味料はラウが用立ててくれていたし、素材は森から取ってくれば事足りた。


「それじゃ今日も始めるか!」


 全員が元気よく返事を返すのに、若干一名が今だにブツブツと文句を言っている。

 もはやマナー教室の威勢はどこにもない。


「なぜワシが今更料理などせねばならんのじゃ……」


「クロムさん。その()()()()も出来なければ、嫁に行き遅れますよ?」


 クロムは「ウグッ」っと胸を抑えて地面に倒れこむが、文句は言わせない。


 ふっふっふっ。なぜなら……今はこの場においてオレが神だからだ!


「じゃぁ。今日は夕食のカレーでも作ってみようか」


 カレーは子供達も大好きな料理の一つだ。大喜びで作業に取り掛かるが、オレの表情は優れない。


 なぜなら……全員が壊滅的に料理が出来なかったからだ。


 ここ何日かで全員の料理の腕前を見たが、もはや頭を抱えて地面に倒れこむ勢いだ。


 セシリーは元々フェンリルなので、加熱してモノを食べる習慣自体がない。それゆえ、何を調理しても、生で大丈夫という考えがある。

 なので、セシリーの作るものは常に生臭く、生焼けのモノが多い。肉など常に生で出てくる。味付けは無しだ。そればかりは何度言っても直らない。


 ルナもアトラナートでお姫様という事があり、調理などした事もない。しかし、教えれば理解し、それなりに出来るようになるのだが、問題はその特性にあった。

 何を作っても、毒入りに変わるのだ……。麻痺毒から致死性の毒まで……。どこで混入させているのか、何故か気合をいれて作れば作るほど、毒の効果が高くなっていった……。

 味見をしてもオレが毒で死ぬ事はないが、いつも命懸けの味見になる。舌がピリピリと痺れ、身体が危険を知らせて来る……。


 メアはせっかちなのか焼く、煮る、といった作業が全く出来ない。面倒くさくなると、すぐに魔法を使って何とかしようとするのだ。

 酷い時は肉の焼ける二、三分さえ待てず、フライパンごと消し炭に変えてしまった。

 あれだけ繊細な魔力操作が出来て、何故そこまで火力を上げるのか不思議でならない。

 というより、何故料理に魔法を使おうとする?


 クロムは……もはや何も言えない……。

 そもそも材料が切れないのだ。

 いや、切れる事は切れるのだが、馬鹿力で下のまな板やテーブルごと切ってしまうのだ。

 野菜炒めを作らせた時など、出来上がった物が、焦げ焦げで出て来たにも関わらず、生焼けの野菜ばかりで、食べた時の硬い触感が、生の野菜なのかまな板やテーブルなのか区別がつかないくらい酷かった。


 そんな出来上がった料理をみんなが笑顔で差し出してくるのだ。

 あのクロムでさえ、何がそんなに自信があるのか、得意満面の笑顔で差し出してくるのだから始末に負えない……。 

 味覚はまだ普通の人間なのか、一般的に感じるので、そんな料理を四人前も出されると常に命懸けになってしまう。

 誰か一人の料理でも食べないと、その子が明らかに悲しむので、全員の料理を完食しなければいけない。

 それゆえ、このお料理教室は色んな意味で早く何とかしなければいけないのだ。

 全員の成長の為……。そして、オレの命の為に……。

 なにせ、あの魔獣の骨や皮といった、何でも食べるルナの眷族のベビースパイダー達でさえ、四人の料理の前には全力で逃げ出す始末なのだから……。

 

「出来たのです!」


 元気一杯にセシリーが鍋を差し出してくるが、何故カレーが水炊きに変わるんだ?

 というか出来るの早すぎないか?まだ開始してから、五分も経っていないぞ?


「せ、セシリー?カレーのルウはどうしたのかな?」


「ルウ?……良く分からないのです!」


 ……


「レイーー!鍋がなくなっちゃったよーー!!」


「め、メア?どうして鍋がなくなるんだい!?」


「ちょっとだけ火力が弱かったから魔法を使ったら、何故か鍋ごと消えちゃったんだよ!」


「レイ様!か、カレーが物凄い色に!何故かカレーが紫色にーー!」


「若様や?ラウ様が用意してくれた道具はどれも脆くてかなわん。使っておったらどれも壊れてしまうぞ!」


「テメ―の馬鹿力のせいだよ!道具は大事に扱え!」


「レイー!」


「レイ様ー!!」


 あああーーーー!どうしてそうなる!

 

 頭を抱えながらオレは、この後に待っているであろう、味見というさらなる地獄を完璧に頭の中から忘れ去っていたのだった。

 そして、その巻き添えを食らうであろうベビースパイダー達も全力で逃げ去ろうとしているのであった。

 

 それでもオレは諦めない……。


 この子達を立派に育て、お嫁にやるまでには何とかしてやる!

 最悪、この手料理に毎日耐えれる魔物を探して見せる!

 はてさて、料理が成長するのか、それとも忍耐強い魔物が見つかるのか、どちらが現実的なのやら……。


















 


 

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