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エルロワーズの森と黒き竜  作者: 山川コタロ
16/58

15

 コイナさんの家の屋根で、一つ、二つ、ゆっくり深呼吸を繰り返す。

 ラウに子供の頃から口を酸っぱく教えられていた事。

 戦闘中こそ熱くなるな。常に頭は冷静に。一手、一手の攻防を雑にするな。

 今思えば、アイツはこんな状況も多少は視野に入れていたのかもしれない。

 怒りに任せて突進を繰り返すのは愚かの極。大切なのは情報。

 オレ達には念話がある。これは相当なアドバンテージだ。

 仲間たちと情報を共有し、現状に対して速やかに連携を取り、対処する事ができる。

 

『ルナ?コイナさんの情報は何か出て来たか?』


『はい。どうやらレイ様の西。およそ一キロ程度の距離に集まっている魔物の群れの中心にいるのがその娘ではないかと思います』


『よくやった。ルナ。お手柄だ』


『滅相もありません。それからレイ様。おそらくその娘はまだ生きています。かなりの深手を負っているようですがまだ死んではいないようです』


『……それだけ聞ければ十分だ。よくやった』


『……ありがとうございます。グフフ』


 なんだろう。ルナの様子がおかしかった気がしたが。あの上品なルナがそんなおかしな笑い方をするはずがないだろうからきっと気のせいだろう。

 

「……さてと。さっさと助けにいくか」


 怒りはまだ収まらないが、コイナさんが生きていたというのはオレの頭を冷やすには十分な情報だった。

 しかし、だからこそ、オレは確信する。ここは徹底的に叩くべきだと。

 

 一罰百戒。見せしめの意味を込めて、二度とこんなマネをする奴が現れないように……。


『レイ。こっちは片付いたよ。メイン以外はボクとセシリーで平らげちゃった!』


『レイ様。こっちは終わったのです。オヤツにもならなかったのです!』


『二人とも早いな。お疲れ様』


 ラウと三人の念話を通じて、魔物を狩りに行ったのは聞こえていたが、ここまで早いとは思わなかった。

 さすが、ウチの子達というべきか、それとも、子供の遊び相手にもならない相手を情けないと思うべきか……。


「レイ様。お待ちください。今回の件私達だけで片づけさせていただけませんか?」


 飛び出そうとしていたオレに、追い付いたルナとクロムがオレを制止する。

 オレが行けば相手が何をしようとしても、感じる間もなくコイナさんを奪い返し、皆殺しにできるだろう。


「若様や。ここはワシの街じゃ。どうか任せてはくれんか?」


「……」


 クロムの言う事は最もだ。しかし……オレにもコイナさんを助けたいという気持ちはある。

 あの子を他の誰かに任せるというのも抵抗がある。


「とうちゃーーーくなのです!」


「ごめんね。レイ。遅くなっちゃった」


 セシリーとメアもオレの下に駆けつけて来た。

 メアは相変わらずだが、セシリーは酷い恰好だ。

 まるで泥んこ遊びをしてきた子供の様に全身が汚れている。ただし汚れは泥ではなく、真っ赤に染まった返り血でだったが……。白いワンピースはあちこちに返り血が目立つし、両手と両足は特に肌さえ見えないくらい真っ赤に染まっていた。にもかかわらず、顔や髪の毛には一切の返り血が付いていないので不思議である。


 どうしたらこんな姿になるのやら……。

 後でお風呂にいれないとな……。

 何処かに犬のシャンプーをしてくれる店とかないかな……。


「後は緑の子を助けるだけでなのです」


「時間もかけていないから、生きてるのさえ確認できている今なら安全に助けられるよ」


「その心配ももう必要ありません。とりあえずではありますが拘束だけはしてあります」


 えっ!?もう終わってんの?


「場所さえ特定できたなら……ここはもう私の巣の中です」


「な、なんじゃルナ!?それならなぜワシに先に言わん!せっかく出て来たというのに……」


「そうなのです!せっかくセシリーがいい所を見せるいい機会だったのです」


「レイ様は言われました。最優先事項だと。それを全うしたまでです」


「「……」」


 いや、オレもビックリだよ。仕事が早すぎだろ。さすがルナだな。

 ルナはさも当然といった態度でオレに跪いてくる。


「ただし、レイ様。申し訳ございません。拘束はしてありますがそう長くは持ちません。ゆえにまだ身の安全が保障できていません。あの娘の体内にはおそらく……クロム姉様と結界を吹き飛ばす何かがまだ埋まったままです。それをどうにかしない事には……。それからもう一つ報告が。上の森に多数の魔物の群れが集まっています。その数およそ一万。こちらに来ている魔物が結界の除去、および、かく乱が目的でしょう。上の森にいる魔物がこの街を襲う本命かと」

 

 そりゃそうだろうな。結界を消して、一網打尽ってのが向こうの狙いだろうからな。

 現状はこちらが有利。とはいえ、このまま敵の策どうりに進めば、こちらにも大きな被害が出かねない。

 

「いやー、スマン。スマン。えらい待たせてしもうたな。上の確認しとったら遅くなってしもうた」


 真っ暗な空からラウがフワリと降りてくる。これで全員集合だな。

 さて、これからどうするかを決めないとな。時間はあまりない。


「先ほども言いましたがここは私達に任せて頂けないでしょうか?」


「……」


 ルナがそういうなら任せてしまっても安心か……。ラウも来た事だし被害が出るような事態にはならないだろう。


「これからの事態がどう動くかはコイナさんの身体次第だな。おそらく爆弾のような物が埋まっていると考えていいだろう。それを起動させずに除去出来ればこちらの勝ち。出来ずに爆発させれば向こうの勝ちだな。ラウの考えは?」


「余裕やな。この状況ならボク一人でもどうにでもなるわ」


 大げさに両手を広げて、その場でクルクルと周りながら、最後にはメアの肩を組むようによしかかる。

 メアは顔をしかめ、鬱陶し気に腕を振り払おうとしているが、その気持ちは良く分かる。オレだって今のは鬱陶しい。


「悪いけどここはボクが仕切らせてもらうわ」


 他のみんなからは異論が出なかったが、クロム以外のその顔にはわずかに不満の色が出ていた。

 

「ああ。任せた。みんなも……頼む」


 不満はあるのだろうがみんなも首を縦に振って了解してくれた。

 さすがに結界を張るクロムは連れていけない。最悪コイナさんが犠牲になった場合でも、クロムとラウさえいればまた結界を張る事も可能だ。結界さえ無事なら、上の森で待機している魔物達も街に攻め込むなんて勝算のない争いはしないだろう。よっぽどのバカじゃない限り撤退を選ぶ。


「スマンけど、クロも連れていくで?」


「はぁ!?お前自分が何言ってるのか分かっているのか!?もし万が一があったら……」


「万が一なんて起こさへんよ。それに、もし万が一が起こってみんな死んでもうたらクロはどうなる?今度は誰も帰ってこんのに死ぬまでここで結界を張り続けさすつもりか?ボクはもうそんな事させへんよ」


「……それは……そうだな」


 静かに、穏やかに言葉を発するラウの、それでも真剣な言葉に圧倒されてしまった。

 確かにそうだな。大切な人がみんないなくなった世界で、縛り付けられて、死ぬまでそこでただ生きるというのは、死んでいるのと何も変わらない。 

 なら、ラウの言う通り万が一なんて起こさなければいい。


「じゃあ、オレもついていくぞ?」


「そう言うとは思っとったわ。まぁボクに任しとったらええ。必ずキミに勝利をプレゼントしたるわ。この……ラウ・エルロワーズの名に懸けて」


 二ヤリと笑ったラウの笑顔は悪役そのものの顔だった。そのインチキ関西弁だと四天王の中で最弱みたいだからやめた方がいいぞ。


「ほな行こか?」


 街の中の一キロ程度とはいえ、オレ達にしたら目と鼻の先と変わらない。なんなら視認できる距離だ。

 空中を移動すれば、数秒で着く。


 待っていてくれ!コイナさん!今助けるからな!





 目的地に辿りついたオレ達は、大き目の妓楼の屋根から通りを見下ろしていた。


 さすがにルナの能力は凄まじいな……。


 街から離れた通りには明かり一つなく、初めてオレがこの街に飛ばされた場所によく似ていた。

 違う所といえば、この通りには十二体の魔物達が、まるで石造のようにその場に立ち尽くしていたのだ。今まさに動いていた物が時を止められたかのように、歩き出そうとしている者、振り返ろうとしている者、コイナさんに向かって爪を振り上げている者、その全てが凍り付いたように固まっていた。

 よく見ると魔物達の身体から、いたるところにキラキラとルナの糸が突き刺さるように幾重にも絡みついている。うめき声が漏れている所を見るとまだ生きてはいるみたいだ。

 コイナさんを傷つけようとしている、赤い鱗の皮膚を持つ大きなクマの魔物。


 アイツは死刑だな。楽には死なせない。


「……さすがだな……ルナ……本当にすごいよ……」


 今日何度目か分からない称賛の言葉をルナに懸ける。オレから見ても本当にすごい。これをこの街の全て場所で出来ると思うと鳥肌が立つ。


「ありがとうございます。レイ様の指示があれば、即座に全ての者の首を落として見せますが……?」


 ルナは上機嫌でオレに向かって微笑みかける。男なら誰もが見惚れるような可愛らしい笑顔だ。


「いや、()()しなくていい。アイツ等には聞きたい事もあるしな」


「で、どうすんの?あの真ん中の童女の中に本当に爆弾が埋め込まれているのか分からないのに……。おまけに爆弾だとしても、手動なのか時限式なのか、規模はどれくらいなのかも全く分からないのに……」


 メアの言う事は最もだ。

 魔物達に囲まれて、中央でうずくまる様に倒れているコイナさんの浴衣は、肩から大きく切り裂かれ血で真っ赤に染まっている。気を失っているのか、このまま放っておけば命に係わる程のケガだろう。


 一刻も早く助けなければ――。


「そんなもん関係ないわ。ボクを誰やと思っとるん?行くで?クロ」


「了解じゃ。お前様」


 ラウはクロムを首で促すと、まるで散歩にでも出かけるような気軽さで、ヒョイっと建物から飛び降りる。クロムもそれに従うように同じく飛び降りる。

 目の前の少女の中には、自分達を殺し得るかもしれないモノが埋め込まれているというのに、気にする素振りさえ見せない。

 二人は颯爽とコイナさんに近づくと、二人でコイナさんの身体を抱きかかえる。それは一組の夫婦が、向かい合って傷ついた我が子を慈しむように抱き締めているようだった。


「危ないのです!」


 セシリーの声と同時にコイナさんに爪を振りかぶっていた魔物が、糸を振りほどいて動き出す!

 ルナの拘束を振りほどいたらしい。

 チラリとクロムを確認すると、振りかぶっていた手を腰に回し、光る何かを取り出すと、それを砕こうと手に力を込めている。

 それに反応するように、コイナさんの身体も胸の辺りから光りが漏れだす。

 

「ここは……ワシがやろう……お前様はコイナを頼む」


 そう言うとコイナさんをラウに預け、クロムが魔物の群れに飛び込んでいく。

 一匹がルナの糸を振りほどくと同時に、他の魔物達も次々拘束から逃れ始める。


「……もう遅いわ……」


 次の瞬間クロムが駆け出し、おそらくは起爆装置であろうそれを持つ魔物の上空に飛び上がる。

 いつ爆発してもおかしくないような状況の中で、それでもクロムはコイナさんに振り返らない。

 それはコイナさんを預けたラウに対する絶対的な信頼がなせる行動だった。


「はあぁぁ~~ッ!!」


 気合一閃。

 上空から振り下ろされたクロムの拳は魔物の頭を砕き、そのまま地面にクモの巣状の地割れを作る。

 周りの建物を巻き込み、半径十メートル程のクレーターだ。

 それはまるで、隕石でも落ちて来たのかと見まごうばかりの光景だった。

 凄まじい音と共に大地が揺れ、クロムの拳を喰らった魔物は車に轢かれたカエルのようにぺしゃんこになっている。

 

 あれじゃ確かにみんなが痛がって、ラウが半殺しにされる訳だ。


 改めてオレもクロムを怒らせてゲンコツを貰わないようにしようと心に決めた。


 地割れの中央で立ち上がったクロムは他の魔物達をギロリと睨み付ける。


「……ようここまでコケにしてくれたものじゃ……。それ相応の覚悟はしておるんじゃろうな?」


 言うや否や、返答も聞かずにその身をひるがえし、魔物達に襲い掛かる。

 魔物達も必死の抵抗を試みるが、全くの無意味。

 焼け石に水だ。

 クロムの身体の周りに張られている多重結界が、全ての攻撃を跳ね返しクロムに届く事さえない。

 あれじゃ重戦車に小石を投げつけるようなモンだ。

 次々クロムに潰されて行っている。

 しかしそれでもクロムの怒りは収まらない。

 辺りの建物ごと魔物を砕き、いくつもクレーターを作っている。

 とても生身の拳の威力とは思えない。


 それが終わると今度は高く空中に飛び上がる。

 さっきよりも遥か上空だ。


「あ、あれはマズイのです!」


「れ、レイ様!すぐに非難を!」


 セシリーとルナが大慌てでオレの前に出る。

 しかしその時には全てが遅かった。

 上空に佇むクロムが張った大規模な結界が、そのまま落ちてきたのだ。

 隕石どころの騒ぎじゃない。

 そのまま空が落ちてくる。そんな感覚。


「やり過ぎだ!バカッ!」


 セシリーとルナを抱え、慌てて上空に飛び上がる。

 爆風に巻き込まれながらも、なんとか無事に非難できた。

 街の中は砂煙が舞い、更地に変わってしまっている。

 それを見て、上空で満足そうにキセルをふかしているクロムがいた。


「……これが天罰じゃ」


 天罰じゃねーよ!明らかに人災だ!バカ!


 横を見るとメアやラウもコイナさんを抱えて上空に避難している。

 どうやら下にいた魔物は全滅らしい。

 あれで生きていたら大したモノだ。


「これで片付いたみたいやな」


 そう言ったラウの手には、先ほど魔物が持っていた光る石が握られていた。

 

 モウモウと立ち上がる砂煙が納まると、オレ達はゆっくり街の中に降りていく。

 コイナさんはまだ眠ったままだ。

 先に降り立っていたクロムにラウが近づき、再びコイナさんをクロムに見せている。

 宝石を持ったままコイナさんを抱きかかえるラウとクロムに近づくと、クロムはコイナさんの肩に両手をかざし、手の平から放つ柔らかな光をコイナさんに当てているのが見えた。

 光の当たったコイナさんの傷口はみるみるうちに塞がっていき、失血も止まっていった。

 顔色もよくなっていき、苦しそうだった顔は穏やかな寝顔に変わっている。


「取り合えず傷の回復は問題なさそうやな。後は身体ん中にある何かやな」


「何とかなりそうか?ラウ」


「相変わらず忘れっぽいな~。ボクのスキル、もう忘れたん?」


 ラウのスキル『無限収納』。生き物以外ならどんなものでも無限に収納できる能力。

 まさか生物の体内にある物まで収納できるのか?


「むしろ体内にあってよかったわ。これなら問題なく取り出せるわ」


 よくよく考えてみたら、ラウのスキルはかなりチートなんじゃないか?どの程度の範囲が射程か分からないが、生き物以外を全て収納――取り込めるなら、おそらく武器や防具などの物体から、下手したら魔力なんて物まで取り込んでしまえるんじゃないのだろうか……。


「クロはお嬢ちゃんの回復に専念しといてな?ボクは……」


 そういうとラウはコイナさんの胸に手を当てる。


「これでもう安心や。後はクロに任しといたらええわ」


 まさにあっという間だった。おそらく今の瞬間でコイナさんの体内から何かを取り出してしまったのだろう。


「助かった。ありがとうな。ラウ。クロム」


 コイナさんを抱きかかえる二人に頭を下げる。

 本当に助かった。オレ一人なら敵を殺す事は出来ても、コイナさんの命まで救う事は出来なかったに違いない。


「若様。頭を上げるのじゃ。これはワシ等の問題でもあったのじゃ。むしろワシの方が礼を言わせてほしいのじゃ」


「せやね。この子はクロの眷族の子やからな。ほんま助かったわ」


「レイ様?ここは解決なのですが、上の森にいる連中はどうするのです?」


 首をコテンと倒して聞いてくるセシリーの頭を撫でると、ルナとメアの方に向き直す。


「みんなは先にクロムと館に戻っててくれ。オレとラウは上を片付けてから戻るよ」


 全員がキレイに頭を下げて、了解の意を示す。

 みんな多少ついてきたそうだったが、すぐに終わらすつもりだし、見ていて楽しい物でもないからな。


「クロム。コイナさんを頼んだぞ?」


「うむ。ラジャーじゃ」


「……それじゃラウ?後始末に行くとするか?」


「了解や」


 ラウのニヤケタ笑みがほんの僅かに嬉しそうに変化したのが分かった。これからする事が分かった上での笑顔なんだろうが、それはそれで怖いものがあるな……。

 オレは手に持った透明な宝石をじっと見つめる。


 ――落とし前を付けさせてやる!オレを……オレ達を舐めやがって――!


「あぁ。それから捕まえた連中はメアに任せるよ。出来るだけ情報を優先してくれ。後は好きにしていい」


「ふふふ。ありがと!レイ。任せて」


 メアが微かに舌なめずりしたように見えた。無邪気な笑顔とは正反対にメアの心は悪魔そのもの。そもそも、身内以外に容赦とか情けとかそういった感覚さえあるのか甚だ疑問だ。

 そのメアに後を任せればアイツ等がどうなるのか、想像するのは難しくない。しかし、その覚悟があってアイツ等はここに来たんだろう?

 他者を殺すというなら自分も殺される覚悟を持つべきだ。


 それだけ指示を出すと、興味がなくなったオレはラウを首で促す。

 アイツ等も上のヤツ等も自業自得だ。ここには――この森にはオレが住んでいた日本のように法律なんて物はない。

 だから、オレはオレの感情を優先する。仕返しや復讐は何も生み出さないなんて言う人もいるだろう。けれどそれは平和な日本での話だ。ここで大人しく我慢すればまた同じ事が起こるだろう。その時またみんなを守り切る保証なんてどこにもない。


「二度とここを襲うなんてバカな事を考えないようにさせないとな……」


 ラウと二人空中に飛び上がる。オレがいれば魔法陣を使わなくても森に抜けられる。


 さぁ最後の仕上げに行くか。






「で、どないな風にしよか?」


「目には目を歯には歯を。やられたまんま、そのまま返したいんだけどな?」


 気配を消したオレとラウは一際大きな大木の上から魔物の大群を見下ろしていた。

 クロムの結界が消えた今――実際は規模を縮小して張ってあるが――魔物達はかなり近くまで迫ってきていた。


 その数、ざっと一万といった所か……。


 森の西の方から取り囲むようにして進軍してきている。

 統制は取れているように見えるが、中には明らかに無理矢理連れてこられたとおぼしき連中も多く混ざっている。


 寄せ集めの烏合の衆か……。


「ラウ?あの中にお前の事を知っている連中はいるか?」


「そりゃ多少はおるんとちゃうか?人間と違って魔物にとって五百年はそないに長い時間やないからな。長生きしとるモンはボクの事を知っとってもおかしくはないな~」


「出来ればそいつらは逃がしたいな。無駄に殺戮はしたくない」


「せやね。ならなるべく指揮を取っとるモンだけ狙おか?」


「ああ。そうしよう」


 オレは魔物の群れに向かって探知をかけると、いくつかポイントを割り出す。

 敵意だらけの群れの中で一際大きな魔力反応が五つ。

 群れの中央に大きなヤツが一つ。そこから分かれるように二つずつ。視認するとどれもが姿は違えど、街に入り込んだクマのような魔物のように赤い鱗を纏っていた。

 

「あれは……加護持ちのヤツ等みたいだな」


「おそらく、与えたヤツは赤い鱗を持っとる――龍やドラゴンみたいなヤツなんやろうか?」


 オレ達とはまた違う種類の鱗持ちか……。


「真ん中のヤツをオレがやる。周りにいる四人の内、捕らえられるヤツは捕らえてくれ。無理なら加護持ちは全員殺せ。後は逃がしても構わない」


「了解や。そしたらこれ使い?」


 ラウは空間に手を突っ込むと、そこから黒いひし形の結晶のような物をオレに手渡してきた。


「これは……コイナさんの身体に埋め込まれていた物か?」


「違うで?」


 違うのかよ!?流れ的にはそれだと思うだろ。普通。


「それよりも……おそらく強力なヤツや。月までぶっ飛ぶで?」


「……」


 コイツが味方でよかったわ。ホント。


「で、どうやって使うんだよ?これ……」


「適当にあの辺に投げてくれたら後はこっちで起爆させるわ。任しときって」


 一際大きな魔力反応がある所を指差すと、ラウはオレの背中をバンバンと叩いてくる。

 いてーんだよ。

 

「オレの仕事は投げるだけか?」


「ええやん。楽なモンやろ?」


 ジト目で見るオレを、ラウは嬉しそうにニヤニヤ眺めている。

 コイツがこういう顔をする時はろくな事がない。


 念の為もっと離れておこう……。


「ちょい待ち。どこ行くん?」


「離れるんだよ!絶対にここじゃ危険だからな!」


「なんや?信用ないな~。傷つくわぁ~」


 絶対に危険だ。今ハッキリ確信した。


 オレはそのままラウを置いて、さらに一キロ程群れの反対の方へ、木の上を飛んで距離を取る。


『それじゃ、みんな待ってるからさっさと終わらすぞ?』


『ほな、ボクも仕事に取り掛かるわ』


 念話で合図を送ると、オレはラウから渡された黒い結晶をマジマジと見つめる。


「こいつは……絶対にヤバいだろ……」


 オレでも解る。これは魔力の結晶だろ。こんな高密度の魔力をラウはどうやって……。


 ……深く考えてもどうしようもないか……。


 オレはさながらマウンドの上に立ったピッチャーのように投球フォームを取ると、そのまま全力で目標に向かって結晶を投げた。

 野球をやった事のないオレでも、今のオレの力ならこれくらいの距離簡単に届く。多少狙いは外れても問題ないだろうと思って投げたが、オレの手から放たれた結晶は音速以上の速さで、大気の摩擦をものともせず見事に魔物の頭を打ち抜いていった。


 ……あれ……?


 爆発しないけど……?


 手の平を目の上に当て覗くように魔物を観察していると次の瞬間……。

 大きな光に目を眩まされる。

 余りの眩しさに身体をよじり、木の上から落ちてしまう。

 落ちたダメージは全くないが、光と木から落ちた焦りで思わず身を屈める。


 ゴ……ゴ……ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴーーーーー!!!


 光りが収まると、地響きが振動のように大気を震わせ、地面を這うように土と埃が木々を巻き込んで迫ってくる!

 地面に落ちたオレからは大きなキノコ雲が遠くに見え、それを最後に後は風と土に身体を攫われ暗闇に飲み込まれいった……。

 やはりあんな奴を信用するんじゃなかった……。

 遅い後悔と共に、ラウへの仕返しを決意したオレだった……。



















 

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