妹が出来てた話
何で目が痛いの?
耕せ耕せ、大地を耕せ、荒野の一角に種をまけ。
鉄は餅、討っては怪物、七転び八起きの精神であたりを見れば同じような有象無象がゴロゴロと煮っ転がし。
遠くに見える森のそばは美味しいが、梅雨がないので味気ない、味噌でもいいから味が欲しい。
大豆は生憎持って来てねぇから育てられない。
掘っ立て小屋は大豪邸、二束三文で六十畳半はあった。
ついでに三階建てにしてみたら崩れて地下一階も出来た。
「え~っと、一足す一は何やったけなあ~、あんちゃん知っとる?」
「その答えは無限だな、哲学の分野だ」
「数学Fやで」
のんびりとした日々を送りながら俺は命を毎日削っていた。
削ると倍増えるから厄介で面倒くさい。
四番目の妹のですが横で二ページくらいのドリルを開いて三十ページの問題に首を抱いている。
頭の中には一番目の妹、まいちのいびきが響き、影の中の七番目の妹、ナモーが耳を塞ぎながら顔を出す。
「あにさん、ナモーの世界を救ってくださいっす!」
「ならコーヒーを苦くしろ」
「確かに傾きがつきましたけど全然明るい未来っすよ~」
ぶら下がり健康器にしようとしながらナモーは俺の首に噛まれて産声を上げた。
「なんかバナナがおいしい季節になったっす」
「何が何だかわかんねえけど暑いから夏だぞ」
「あんちゃん、この物語はフィクションです、いきなり季節なんて決められないで」
「そうだぜ、兄貴! 今日の日はカレーライスだ」
台所がカレーライスになってんじゃねえか、ダイナミックだなあ。
二日酔いに便乗した奴らが屋根裏で騒いでるから皆殺しの無法地帯。
七色に光る妹共は八人いるから一人あぶれるか? なんだいじわるかよ。
「親切は妹にだけで十分だ、お前らは行間を読んで解釈できるしな」
「鋼鉄のる抜き発言はちょっとだめよ兄さん」
しいつが特等席とばかりに俺の肩を車にする。
なんだかんだ言って暮らしていけるのは妹共がいるおかげで、俺はほとんどいてもいなくても同じようなもんだ。
兄なのになさけないが、妹達が自立しているのを喜ぶべきなんだろうな、兄としては。
「にいに! にいにとニイニイゼミには血縁関係があったのだよ」
「なかったぞ、血液でDNA鑑定したしな」
まず俺はニイニイゼミよりうるさいし、一週間の命は俺のミルフィーユだ、みんな俺を殺そうとするが、セミは殺そうとしないから賢い。
人間はセミに支配されるべきだ。
となるなら、カブトムシでも売るか。あぶらむしもいいな。
「会話機能よりも演算処理装置の方に力を割く方が得策と思われますブラザー」
ルーソラが現れた。
すっぱだかだ、アンドロイドだからそんなにエロくはないが少女の裸って感じだ。
ノクターンの扉をハンマーノッカーになるやもしれないな。
なんて考えていたら、しいつが俺の右目とふれあい、大河が見えた。
「ドラマを産もうととするなよ」
「生きてること自体がドラマだなんて言わないでよ、兄さん、わかる? 人生を勝手に見世物にされるなんてムカつくわ、やっと髪の毛生えてきたし」
「そういやお前のきれいな髪吹っ飛んだな、温泉の効能か?」
「あの名湯にそんな効果あらへんよ、しいつ姉ちゃんは巫女やから地球は二つになるんや」
手品のネタ晴らしは神の奇跡だなんて皮肉を焼肉にしたくなる。
さて、家の裏手からひっくり返った。
ななななな、が来たか。
なななはなななななの妹だ、俺のではない。
それが何故か連日、俺たちの家の裏手で騒いで、挙句ドアにすさまじい位汚いいろんなものを浴びせていくのでごみだめにシーツを熟成して、楽しめる。
「ジャーをらっわけん、あにーしゃ」(毎日毎日うるさいなあ、なんなのあれ、クソ兄貴お兄ちゃん何とかしてくれないかな、あと、もうそろそろだと思うから頼むね、誕生日は肉が食べたいなあ、ステーキでもフォアグラでもハンバーグでも出したらブちぎれるし、気をつけてほしいな)
大豆かな、豆腐ハンバーグになるからはずれだが。
とんちが効いておいしく頂ける。
いや、まいちにはその比喩は通用しないな。
それにしても、前に住んでいた町からこの未開拓地に来て暮らし始めたが、意外にも暮らしていけるな。
空気はすごいし、緑もまあまあある、後は荒野と放射能と謎の生物兵器ぐらいだ。
ただ一つラーメンが食えないのが嫌だ、その点に嫌気がさす。
あのラーメン屋のラーメンが食べたくて禁断症状が出るやもしれない位にメンマが食べたい。
水がおいしいな。
マンゴー、食いたくねえ、ああ、あの街に心残りがある。
それにしても何で俺にはこんなに妹がいるんだろうか、確か世界統合が起きて混沌として、俺の母親がかなりの数いたからだろうな。
今も顔を覚えていない母親達がどこかで戦争しながら世界順位を争い、子供も作っている。
そして俺を存在が重なりすぎた特異点として確保しようと妹を送り込んできている節もある。
俺は俺が思う以上に力があるからな。
そ れ は ち が い ま す よ
思考に声が割り込んできて俺は思わず下を見た。
しいつは振り落とされない、息があっているし体の相性もいい。
で? 何が違う?
あ な た が す べ て の 幻 聴 で す !
…………それを言うなら元凶だろ?
待ち合わせには時間通りにつく奴なんていない。
時間前か時間後か、ともかくどちらにせよ約束を守れないヤツばかりだ。
その点俺は抜かりない、例え準備が終わってなかろうと待ち合わせ場所に時間ぴったりに辿り着くことが出来るようになっている。
あの世にいようと宇宙にいようと、交尾の最中でもデスマッチに挑んでいようといつの間にか待ち合わせ場所にぴったり辿り着くことが出来る。
そんな便利さがある。
つけばそこは雲の上だったりした。
下だったりはしない。
身に覚えのない殻を手にもって回ってみんな落ちていく。
見れば向こうも時間ぴったりに来たようだ。
座標が重なって俺の中に入っているから実質俺しかそこにはいない。
す い ま せ ん 離 れ て も ら え ま す か
「離れるもクソも俺はここだ」
わ た し も こ こ で す
意固地だな、俺が折れてもいいが、どうにも気分が悪い。
それにこいつはおそらく妹だ。
名前を付けなければ。
「覚えていないようですがあなたはすでにわたしに名前を付けています」
胸の鼓動を言葉に変えて、俺の中が喋る。
全然覚えちゃいない、明日になる。
仕事が手につかないのでとりあえず今は話を進めよう、何と言っても俺と俺の中は家族らしいし。
「その事なんですが、その前に少しメタ的に整備させてもらってよろしいですか?」
「意味が分からないんだが」
「分かる前にわかられなくなりますよ。やる気次第です。すべてが主、頑張れ頑張れ頑張ってください」
それに向かって光が放たれる、俺には熱が溢れ、沸騰して炭になりそうだが不思議と身体は何ともない。
握りしめて拳をほどき、俺の頭に新たな世界が浮かんできて、なんとなく妹の意味が分かった。
目の前が白く染まって、別の世界になったかのような感覚の後、俺の意識は一瞬のパンツ。
目覚めたそこは白い空間だった。
どうやら気を失っていたみたいだ。
確か俺は突然現れた妹を名乗るヤツに出会って……
「回想タイムはそこまでにしてください」
「しなきゃついてこれなくないか?」
「……まだ体になじんでいませんか」
ワケがわからない事をつぶやきながら、自称妹は背後からゆっくりと歩いてきて、体を起こした俺の前に腰をおろした。
ここはどこか、そんな疑問もあるがそんな事よりも俺が気になっているのはあの時この妹が俺の頭に直接響かせた言葉だ。
この世界の惨状の元凶か全て俺、そんな事があるのか?
「あるんですよ、あなたはわたしの兄でありながら、この世界の管理を放棄した神なんですから、記憶はないんでしょうが」
「人の心を勝手に読むなよ、嫌われるぞ」
「あなたは妹を嫌う事は出来ません、よってわたしはあなたに嫌われません」
「そうかよ」
当然で常識のように真顔で言われても困る。
そもそもこいつが妹なのかどうかさえ記憶がないのに、何で俺はこいつが妹だと感じているんだ?
「それこそあなたの前世がわたしの兄だった証拠です、思い出すのは自分の意思でどうぞ」
勝手に心を読みやがって、まあいいか、どうにも怒る気にはなれず、俺はゆっくり立ち上がり、背の低い妹を見下ろした。
「それで、俺がこの世界の神? どういう事だ、それでどうして世界統合が起きて混沌が蔓延した」
「あなたが管理を放棄した後、この世界を求める神々の戦争が起こりまして、結果みんな死んでしまい、元から兄であるあなたの補佐をしてこの世界を管理しているわたし以外神がいなくなってしまったんです」
言われて俺は何故か納得した。
管理を外れた世界達は互いに無造作に広がり、混ざり合って一つの混沌になったってワケか。
納得と同時に激しい頭痛が襲って来て俺は顔をしかめた。
小説でよくみる記憶が戻る事による脳への衝撃か?
「思い出せそうなようですね、でも、時間みたいです」
もう少しで名前が思い出せそうな妹は寂しそうに微笑む。
気付けば白い部屋と妹が段々溶けるように透明になっていく。
「最後に、最後に一つだけお願いがあります」
妹は消え去りそうな声で俺に言う。
が、言う前に言う事が分かった、記憶を取り戻したからか、妹の事が手に取るようにわかる。
「レイ! 俺は必ず帰る、それまで待っていてくれるか」
「っ! はい! その時にはいっぱいただいまをください! おかえりをたっぷりお見舞いしますから!」
思い出した名を呼ぶとレイは笑顔で涙を流しながら俺の手を両手でぐっと握った後消えて行った。
同時に部屋もなくなって俺の足が何かに引っ張られる感覚がして、目の前は真っ白になった。
下の世界に戻るのだ。
忘れていた名前をしっかりと脳に焼き付けながら、俺は目を閉じ、思い出した記憶達の整理を脳に任せて意識を閉じた。
次の話に続きます