ぽわ~~~となって、うわ~~~~と動揺する私 5
ヒロちゃんのクラスは1年3組だ。
タダと並んで廊下を歩いているとチラチラと見られる。観られるているのはほどタダだけだけど。そしてキャピキャピした感じで呼びこみをしている女の子たちは「入ってってくださ~~い♡」とタダに声をかける。私はもしかしたら連れだと思われてないんだろうな。まあいいけど。でも男子が「いらっしゃいませ~~~」と私にも声をかけてくれてちょっと嬉しい。
ヒロちゃんのクラスの手前の4組でちょうどユキちゃんが呼び込みの係をしているのが見えた。
「ユズちゃん!!」と、ユキちゃんも気付いて元気の良い声で呼んでくれる。
そっとヒラヒラ手を振る私と大きくぶんぶん振ってくれるユキちゃん。今日も可愛いな。
…ちゃんと素直に可愛いって思えるようになったな私。前はユキちゃんが可愛くて良い子なのは認めつつ、だからこそ卑屈になってその良い子さを嫌に思ったり、自分と比べてしまって悔しかったりムカついたりしたもんね。大人になったな私…
いや違った。
大人になったんじゃない。ヒロちゃんが好きな事は変わらなくても、私の中でタダの存在が前より大きくなってきたから、だからユキちゃんの事をずっと綺麗な気持ちで見れるようになったんだ。
「嬉しいユズちゃん来てくれて!」と本当に嬉しそうに言ってくれるユキちゃん。
「うん」とうなずきながらちょっとタダを見てしまうと、ユキちゃんがやっとタダに挨拶をする。
「あ、タダ君もこんにちは」
他の女の子ならまずタダの方を気にするのに、ユキちゃんはいつも私にまず話しかけてくれるんだよね。
「ヒロトのとこの後でいいから」とユキちゃんが言う。「うちにも寄ってってね!それと今日4人でお昼食べるのすごい楽しみだったんだ。花火大会ぶりだもんすごい嬉しくて」
そうだよね。4人で会うのは花火大会ぶり。そして私の、その時と今の気持ちのこの変わりよう。自分で自分が恐ろしい。
「「ユキの友達?」」と後ろから声がして振り向くとそこには、人間を大きく分けた時にハタナカさんと同じところに入りそうな、くっきりはっきりした強気な感じの派手目な女子が二人。
そうだよ、と答えたユキちゃんの方へガッと回り込んでその二人は正面からタダを見る。もうそれはゲキ見中のゲキ見。
「びっくりする」と一人目A。「すんごいカッコいいじゃん」
タダもちょっと面喰ってるけど。
「まじまじまじまじ。始めて見た」ともう一人のBも言う。「こんなかっこ良い子普通に歩いてんのはじめて見た」
「「わ~~~」」と二人が騒ぐ。「「写真撮りたかった~~~」」
すごいな初対面なのに。
「高校どこ?」とA。
「うちらも文化祭行きたい!」とB。
「「え、あれ?」」とやっと私の方を見た二人が言った。「「もしかして彼女?」」
「いえ」と私が言うと、「二人ともユキの友達?」と聞かれる?さっきユキちゃんにも聞いてユキちゃんがそうだって言ったのに。
ユキちゃんが二人に説明してくれた。「私とも友達だけどほんとはヒロトの友達」
「「ヒロト?ユキの彼氏の?マジで?こんなかっこイイ子と友達?ありえないんだけど~~~~」」
こらこら!と思っていたらユキちゃんが実際、「コラコラ!!」と言ってくれた。
「ヒロトが一番カッコいいんです!」とユキちゃん。
おおお~~~と思う。まあそうだよね!ヒロちゃんが一番カッコいい。でも…でもタダだってってユキちゃんの言葉にすぐに思った自分がどうなんだろ。私だってずっとずっとヒロちゃんが一番だって、本当にずっと思い続けていたのに。
「「そんなことないって~~~」」と笑う女子二人。
失礼だな。
「もういいからいいから」と軽く二人をあしらった後ユキちゃんは私の手を掴んで隣の3組に向かい、ドアの前にいた呼び込みの子たちの間を縫って中へ声をかけてくれた。
「ヒロト~~~~、ユズちゃんたち来てくれたよ~~~~」
教室の中のジャージカフェにいた子たちの視線がバババっと私の方を見たので、わわわ、と思う。
そしてザワザワっとするカフェの中にいた女子のみなさんの視線は、私の後ろに立っているタダの方へ。だからついすぐ後ろにいるタダの事を振り向いて見上げてしまった。その私を見て優しく笑うタダ。その優しく笑ったタダを見てさらにザワっとする女子のみなさん。
「おおお~~~」と手を上げてくれたヒロちゃんが懐かしい私たちの通っていた万田中の紺色のジャージを着ている。
懐かしい…って言ってもまだあの姿を見なくなって7ヶ月くらいだ。
やっぱりカッコいいな。ヒロちゃんはいつでもどこにいても、何を着てても何をしててもカッコいいと思う。
そして教室の奥の方から「タダ~~~」と呼ぶ方を見たらニシモトたちだ。机を4つ合わせて赤いチェックの布のテーブルクロスを敷いたテーブル席にいた5人は全員同中。ニシモトとヤマダとコガとスミダとヤマモトだ。5人全員ジャージ。みんなヒロちゃんの友達だ。そしてタダの友達でもある。小学も一緒だった子もいるし、私から見ても気安かった部類の男子だ。
「ユズにはオレの券をやるわ」とヒロちゃんが言ってくれる。「でもイズミは券買って売上げに貢献な」
タダがニシモトたちとは少し離れた二人掛けのテーブルに座ろうと言う。あの5人が見てる前でタダと二人で向かい合って席に着くのは恥ずかしい。後で絶対からかわれそう。あの5人がいなくても、向かい合って座るのは恥ずかしいけど。
「本当にあっち行かなくていいの?あんたの事、待ってるんじゃないの?」と一応言ってみる。
「行くなら大島も一緒だからな」
「…」
が、私たちが離れたテーブルに腰掛けたら、ニシモト達がすぐにぞろぞろと5人そろって移動して来た。
「おいおいおいおいおい~~~」とヤマモト。
「何二人で離れて座ってんだよ。オレらが見えてただろうが」とコガ。
「挨拶的なものはないんか」とスミダ。
「タダ~~~。お前だけカノジョ連れか?」とニシモト。「友達じゃねぇかよオレら~~~。お前のカノジョを紹介してくれや~~~ってあれ!大島じゃねえか!」
…ニシモトの絡みめんどくさいな。
「大島だ大島」とヤマダ。「大島じゃん」
5人ともニヤニヤと緩く笑って私とタダを見る。
「ヒロトに続いて彼女持ちとかなタダ。ふざけやがって。まあ大島だけど」
こらこらこら!と思う私と嬉しそうに笑うタダ。
カノジョじゃないのにやたらカノジョ呼ばわりする絡みに対して『カノジョじゃないから』って私がわざわざ訂正するのは場を盛り下げそうだけど、訂正しないのもどうなんだろ…
「ってかタダはわかるわ」とスミダ。「わかるわってか、今まで一人もカノジョいなかったのも不思議だよな」
「大島~~」とコガ。「オレもタダのケーキ食いたかったわ~~なんで大島だけ特別なのかわかんねえし」
そう言ったら残りの4人が突っ込む。「「「「そりゃカノジョだからだろ」」」」
もう~~ニシモトめ~~~やっぱ面白がってケーキの事みんなに教えたな。