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秋月 忍さん主催
『ミステリアスナイト企画』参加作品です。
半月が妖しく笑う、少し不思議な夜に起こる出来事をお楽しみください。
ああ、本当にアタシは間抜けだ。
変なおまじないを信じたことがいけなかったのか、それとも学期末テストの前に妙な事を考えたのがいけなかったのか。いやそれとも、あいつを好きになったのがそもそもの間違いだったのだろうか。
全力で夜の街を駆け抜けるアタシの体はとっくに限界で、息は切れるし汗で濡れて纏わりついてくる髪が煩わしい。ああ、もう。ヘアゴムが欲しい。
けれど、今はそんな余裕は無い。一刻も早く、アタシは "アタシ" を止めなくちゃいけない。
「あー、もうっ! どうしてこんなことにッ」
荒い呼吸は白い塊になって消えてゆき、スニーカーの足音が、静かな住宅街の夜に不相応に響く。
すれ違う人たちは何事かとアタシを見やる。そうだろう、そうだろうとも。人々がコートやダウンを着て歩く中、アタシはシャツに薄手のカーディガンだ。下はスウェットだし。
不審に見えることはこの際認める。それでも、アタシは走らなければ。昔習ったメロスのように。
もっと。
もっと速く。
すべてが手遅れになってしまう前に。
○ ○ ○
さて、どうして彼女は走るのか。当然のように疑問に思うことだろう。
ただの女子高校生である彼女が冬の寒空の下を部屋着で駆け抜ける事になった成り行きを、これからここに記していく。
彼女が走るのをただ見ているだけというのも、きっと退屈だろうから。いやまあ、喘ぐ彼女の呼吸音を聞いていたいというならば、それはそれで止めないけれども。
ともあれ。端的に言ってしまえば、これはよくある青春の物語で、彼女は想い人の元へと息せき切って走っている。
そうなった大元の発端はいつからか分からないけれど、彼女の物語が動き出したのはつい先週、彼女が自らの恋心を自覚したその瞬間のこと。
彼女いわく、それはまるで三流ドラマのような出来事だった。