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第7話 遭遇

 第7話 遭遇



「アンブル・ドゥ・レーヌ号は、無事ワープ航行に移行しました。到着までの所要時間は、およそ三十分です」


 船内にルーナの柔らかい声が響くと、ペーターとニーナから安堵の声があがる。琥珀の女王号は無事、ワープ航行に移行できたのだ。


 現在この船は光速を遥かに超えた、超光速という速度で移動しているが、通常の宇宙空間を飛んでいるわけではない。


 フルチャージしたワープ・ドライヴのエネルギーにより特殊なフィールドを発生させ、一時的に別空間に船体を飛ばすことで、遠い目的地の座標に近道をしているのだ。


 こうした仕組みは、さすがに宇宙に出て間もないアリアスの人々には殆ど理解できない内容だ。そのため、細かな座標計算などはアビーやリオンたち"ユニット"と呼ばれるサポート・ロボットの助けが必須だ。


 そんな理由もあり、アリアス船団の人々にとってまず大事なのは、船や様々な装置の扱い方を学び、航行の手順を正しく安全に行えるか、ということなのだ。


生きていくために必要であるとはいえ、宇宙の概念を一から学習するというのは、相当に厳しいものになっていた。


だが、その中でもソフィアとルーナ、そしてエメリアたち三人は、特別と言えるほどに宇宙に素早く順応している。


 その理由には、ある特殊な事情もあるのだが、ソフィアには人生をかけて守ると誓った大切な約束があり、その姉を自分の力で支えたいと強く願ったルーナも、同じくらい強い意志を持っていることが大きいだろう。


更には、その二人の意志を貫けるように手助けをし、引っ張っていける存在になりたいという、別の強い心で宇宙に適応してみせたのが、他でもない、アリアス船団の長にして女王、エメリア・オーランドだった。


 彼女たち三人にはそれぞれに得意なことがあるのだが、エメリアは船団の誰よりも武勇に優れ、パワー・フレーム・ユニット"キャヴァリアー"の操縦に情熱を注いでいた。


 このキャヴァリアーの操縦機構がエメリア自身の手足の動きをトレースすることが出来るものであったため、体を動かすことに長けていたエメリアと相性が良かったこともあり、今ではエメリアよりキャヴァリアーを扱える者はいないと言われているほどだ。


彼女も、それを誇りにしている。



 尚、宇宙に出るまで剣と盾を扱ってきたアリアス王国時代の兵士たちにもキャヴァリアーは好評で、船団の警備や作業用にも多数運用されている。



「ソフィアさんたち、なんか、本当に凄いなぁ。この船を、こんなに慣れた感じで…」


 宇宙服などで保護されていたとはいえ、加速の影響で気分が悪くなり、青ざめた顔をしていたペーターが、弱々しい声で呟く。座席の固定用ベルト等が締め付ける感じが、ひどく具合が悪い。


「ふふん。ペーター、すごいでしょ? これが、船乗りって、言うのよぉ、たぶん……」


「ニーナがなんでそんなに偉そうなの…?」


 横から口を挟んできたニーナも、同じく青ざめた顔だ。座席からふらふら離れようとしたところをサラに掴まえられ、介抱されながらだが、ソフィアたちの凄さを自分のことのように威張っている。


「やれやれ。二人とも、具合が悪いんだから、あまりお喋りしてたらダメよ」


サラはニーナを座席に固定し直すと、注意を促した。青ざめている学生二人組は、揃ってうめき声のような返事を返す。


「あーあ、こいつら、やっぱりこうなったなぁ。まだこの船での任務には早いって。サラも止めりゃ良かったのに」


「わかってたけどねぇ。まあ、エメリア様の許可は出てるから、文句は無しだ。それに、口が聞けるだけマシかな。加速で気絶まではしてないんだ。船乗り見習いとしては、一応合格にしとこうか」



 フラガとサラは諦めの顔で笑いながら頷く。彼らもまた、この船に乗って訓練を始めた頃は同じ経験をしていた。


 そもそも、かつてのアリアス王国には、大海を航海する船は無かった。フラガたちが経験していたのは、湖を航行する小さな帆船くらいであろう。


 とはいえ、二人ともベテランの兵士だったのだ。ペーターたちとは体の鍛え方が違ったので、船酔いにも幾分強いほうだろう。それでもしばらくは食が進まなかったらしい。


 そんな昔話をしながら時間は経ち、早くもワープ航行が終わろうとしていた。


 ブリッジでは、ソフィアが細い指をバキバキと豪快に鳴らし、操縦桿を握り直す。それを見ていたエメリアの護衛役であるイーサン・メイは、目を丸くしていた。


「ソフィアさん、意外に豪快な… 小柄で華奢な見た目とは、ずいぶんと印象が違ってる…」


 彼は長身で、黒髪に短めの髭が似合う、護衛を勤める兵士としては若い男だ。


アリアスで最強とも言えるエメリアに護衛が必要かはともかく、彼女の護衛として仕えられるほどに彼は腕っぷしが強いのだが、その若さゆえ、少し落ち着きはない。


そんな彼が隣に立っているエメリアの側近、エル・レアの耳元にソフィアの感想をボソボソと呟く。すると突然、彼のみぞおちにエルの肘が、見事な切れで勢いよく打ち込まれる。


「ぶほっ!!」


 綺麗な一撃が決まり、鍛えた肉体の悲痛な声が口から漏れる。後ろからの鈍い音を聴いたソフィアが、怪訝な顔で後ろを振り返るが、すかさずエルが微笑みながら手を振り、誤魔化した。


「おい、エル・レア! なにしやがる!?」


 イーサンは腹を抱えて前屈みになっているので、小さくなっていた。



「あんたね、年頃の女性に小柄で華奢なんて…ソフィアさんに聞かれたら、はっ倒されるわよ? 彼女の武技はエメリア様の直伝なんだし。私に感謝しなさいよ」


 エルは腕を腰に当てて胸を張る。エルもソフィアよりは背丈が高く、髪は短めだが整えられて品があり、年齢もエメリアに近いので大人びた雰囲気をしているが、華奢な体つきはソフィアと大差なかった。


「うへぇ…」


 エルにも仕返しに一言、彼女のスタイルの感想を言ってやりたかったが、イーサンの本能が凄まじい危険を感じ取っていたので、大人しく一歩下がることにした。


 そんなやりとりに構わず、ソフィアは操縦桿を更に強く握りしめる。これからワープ・アウトして通常の空間に戻るのだが、これもひと手間かかるのだ。


「ルーナ、そろそろよ。通常空間のスキャンを始めて。同時にシールドの出力上昇。いい?」


「まかせて、お姉ちゃん! エメリア様たちも席に着いて下さい」


「ああ、了解だ。エル、イーサン。お前たちも気を引き締めて、準備しろ」



 エルとイーサンはエメリアの一言で素早く自分の席につく。今回の彼らの役割は少ないが、こうした経験は貴重であり、エメリアの補佐を長く続けていく上では決して疎かには出来ないものだ。


 ソフィアとルーナは操船に集中する。エメリアたちは席に体を固定して、その様子を見守っていた。ルーナが放送で船内にワープ・アウトに備えるよう促すと、間もなく再びワープ・ドライヴのエンジン音が高鳴る。


「チェック完了。動作、異常なし」


 ルーナが細かなチェックを終えると、ソフィアに合図を送った。それを受け取ったソフィアは目を閉じ、大きく深呼吸をする。



「さあ、行くわよ!! ルーナ、ワープ・アウト開始!!」


 ソフィアは目をカッと見開き、号令を出す。操縦桿を握る手に力が入る。


「了解! ワープ・アウト開始!! 船内、隔壁閉鎖!!」


 ルーナも姉に負けないくらいに声を張り応えると、船内隔壁を手際よく閉じていく。各部の気密などに異常が無いのを確認すると、引き続き目の前のモニターの表示に目を光らせる。万が一、ワープ・アウト時にトラブルが発生し、船内にダメージを受けた場合に備えているのだ。



「各ブロック、異常無し! 航路、正常!」


「よーし! 通常空間に復帰するよ! ワープ・アウト……今!!!」



 ソフィアがワープ・ドライヴのスロットルを全開にすると、振動と共に船は緑と白の閃光に包まれる。眩い光に幻惑されるが、次第に光の中から景色が浮かびあがる。


 そこは星の海、琥珀の女王号はワープを終え、再び通常空間、宇宙に帰ってきた。船団から遥か遠い宇宙に。



「よし! まずは警戒!!」



 ワープ・アウト成功の余韻に浸る間も無く、エメリアは指示を出す。初めての任務ではない。気合いを入れていたソフィアとルーナも、すぐに落ち着いた声で返事をして、船の操舵に集中する。


 ルーナがレーダーで星図を確認しているが、そもそも船団のデータベースには、星図はほとんど無い。あるのは、アリアス船団が宇宙に出た直後に受信した、ある通信データから得た情報のみだ。


 そのデータは、アリアスの旧時代の文明、エメリアたちの祖先が残した道標だ。彼らは戦禍を逃れるために故郷である惑星アリアスを去るとき、惑星に残った人々と友たちのために、行き先を残した。


 遠い遠い先の宇宙であり、辿り着くには何年もかかる。その上、エメリアが生きている時代より遥かに古い時代の話だ。そこに本当に何か、人々にとって安住の地があるのかは、確証は無い。


 それでも、そこに行くしかあてはないのだ。



 今回偵察に訪れた辺りも、アリアス船団にとってはいつも通りに未知の宇宙だが、今回は時間的な制約があり、安全が確認されればすぐに船団がワープしてくる予定になっている。


 それでも、何か危険があれば行き先を変更しなければならない。遠回りで目的地までの行程に年単位のロスがあるとしてもだ。


 琥珀の女王号は、早速周囲を見回すように飛ぶ。ルーナもレーダーやセンサーをフルに使用して、この空間に危険が無いか確認する。



 最大限の警戒態勢をとる琥珀の女王号だが、ふと視界に入ってきた星に目を奪われた。



「これは…!」


 ブリッジにいる五人は皆、息をのむ。ワープ先にあったのは、青い惑星だ。その色は深く、透き通っている。水と、白い雲が光輝く、美しい星だった。


 エメリアはルーナに指示を出して、船内のモニターにこの青い惑星の映像を流すことにした。



「ペーター……すごいわ…すごすぎるわ…」



 ニーナは感激のあまり、目から涙が自然に零れてしまう。ペーターは開いた口が塞がらない。



 事前に長距離のスキャンを行い、調査をする価値のある環境の星があるかもしれない。それはわかっていたのだが、それでも目の前にある青い惑星は、途方もなく美しかった。



「すごい…。ねえねえ、ルーナ。この星はどう?」


 ソフィアが嬉しそうに振り向いて、ルーナに尋ねる。今回の偵察では、当初の予定よりも時間的な制約があるため、惑星の本格的な調査などは船団のワープ後になる予定ではあったが、安全確認の必要もあるため、少しは情報収集の準備をしてきている。


 早速ルーナはスキャンの設定を惑星用にセットし、操作し始めた。


「うんうん、待ってね。んん? なんか…変な感じだね。惑星のスキャンが出来ないよ」


「え? どういうこと?」


「惑星は見ての通り、目で見えるんだけど…何か特殊なエネルギーで覆われているような…なんだろ、これ?」


 特殊なエネルギー? ソフィアとエメリアたちは考えるが、思い当たらない。


 惑星の調査自体も、今回が初めてではあるので、勝手は違うのであろうが、スキャンが出来ないと言うのはなぜなのだろうか?


 一同が悩んでいると、急にブリッジのモニター越しにアビーが現れた。


「ソフィア様!! 一度この宙域から離脱してください!!」


 フヨフヨと浮かぶ、黒くて丸い体を大きく動かして、モニター越しに慌てふためくアビーが叫ぶ。


「ええ? ちょっと、アビー! どういうこと?」


 ソフィアは訳もわからず、聞き返す。アビーがここまで慌てているのは珍しい。


「私の方でもあの惑星をスキャンしましたが、その特殊なエネルギー波に似たものを知っています!! おそらく、そのエネルギー波はスキャンを人為的に妨害するためのシールド……ジャミングです!! 正体は不明ですが、ここには高度な防衛システムがあり、危険な敵がいる可能性があります!!」


 敵。


 これまでの船旅で、幸いにも出会った事は無いが、崩壊する惑星アリアスの経緯や旧文明のデータから、他にも高度な文明を持ち、宇宙に進出している星は数多くあるのはわかっていた。


 その中に、敵対的な勢力があってもおかしくない。広い宇宙とはいえ、いつでも出会う可能性はあった。


 とにかく、正体がわからないので敵と断定は出来ないが、この青い惑星の近くに留まることはできない。エメリアは即断する。


「ソフィア!! 今すぐあの星から離れるんだ!!」


 エメリアは勢いよく立ち上がり、ソフィアに指示を出す。



「了解です!! ルーナ、急旋回するから手伝って!! アビーはルーナのサポート!」



 船体の各部に設置してある内蔵の小型スラスターが起動し、琥珀の女王号が勢いよく回頭する。突然の旋回に、待機しているペーターたちは驚く。


 混乱の中、フラガとサラは予定外の急旋回から、いち早く異常事態を察知すると、扉の外に向かう。


「ええ? フラガさん! サラさん! どうしたんですか!?」



 ニーナは激しく揺れる船と気分の悪さに耐えつつも、突然動いた二人に尋ねる。



「ペーターとニーナはここにいて。私たちは念のために格納庫に向かうわ」


「念のため? 何かあったんですか?」


 ペーターはまだ青ざめた顔をしていたが、なんとか声は出るようになってきたようだ。


「わからん。だが、何かあった時のために備えるのが、俺たちの仕事でもある。まあ、今回は俺たち大人に任せておけ。ブリッジか俺たちの指示があるまで、絶対にこの部屋を出るなよ!」


 フラガはペーターたちに念を押して、扉から格納庫へと向かう。各部の通路にある隔壁は閉じたままだが、頑丈な格納庫の扉は例外であり、待機室から格納庫に至る通路には隔壁が無かった。そのおかげで、フラガとサラはすぐに格納庫へ戻ることに成功する。



「こいつは、なんてひどい揺れだ。ペーターでなくとも、青ざめそうだな」


「フラガ、得意の冗談は後にして。とにかく、キャヴァリアーを出せるように準備するわよ」


「おうよ!」



 激しい揺れの中、フラガとサラはいつでもキャヴァリアーを発進できるように、手際よく起動準備を開始する。その冷静な行動と判断力は、かつての兵士時代に培ったものであろう。


 宇宙や高度な技術の知識に慣れていくことに関しては、さすがに若い世代に一歩一歩譲ることにはなるが、それを現場で活かすのは、やはり経験なのだ。その点、フラガとサラはまさしくベテランであった。


「現在、周辺に異常なし…」


「…警戒を続けてくれ」


 静かに、しかし張りつめたような空気が、ブリッジを支配する。特にエメリアたち三姉妹の、こういう場面での集中力は凄く、エルとイーサンは圧をひしひしと感じていた。


(この方たちが、アリアスの三姉妹…)


 若手の補佐役である二人は、エメリアたちが三姉妹と呼ばれている所以を知らなかったが、仲が良い、という意味だけではないことを、ようやく理解した気がする。



 こうして警戒を続けながら、順調に青い星から遠ざかる琥珀の女王号。ワープ・ドライヴを再び使用するには、ある程度の時間がかかるため、今はひたすら距離をとるしかない。


 このまま何事もなければ… という考えをする間もなく、次の事態が起きてしまう。


「ソフィア様! 前方の広範囲に空間干渉が多数あります!」


 アビーがピロピロと激しい電子音を発しながら叫ぶ。


「空間干渉!?」


 ソフィアは胸騒ぎがする。予感があったが、これは当たらないでほしいと心から祈った。


 どうやらルーナとエメリアも同じらしく、振り向けば、二人の目がそう言っていた。


「前方に正体不明のワープ・アウトを複数確認! この陣形は…おそらく艦隊です!!」


 エメリアは瞬時に思考する。謎の艦隊は陣形を組んでいる。自分の騎馬を率いた経験が同じになるのかはわからないが、正体はともかく、これはよく訓練されており、武装している艦隊である可能性が高い。


 エメリアは歯を食いしばり、叫んだ。


「ソフィア、とにかく回避を!!!」


 エメリアが叫ぶと、ソフィアは考えるより先に操縦桿を倒し、船の進行方向を急角度で曲げる。ペーターたちからは悲鳴があがるが、放送で声をかける余裕は無かった。


 その直後だ。


「来た!」


 閃光が放たれる。艦隊がワープ・アウトを完了し、姿を現したのだ。


 まぶしい光が収束していくと、そこには多数の船が現れていた。船は剣や槍の様にシャープな外見だ。それに、決して小さくはないし、見るからに砲台と思われる設備が取り付けられている。目の前の艦隊は紛れもなく、宇宙で戦闘を行う為に造られていた。


 エメリアたちは絶句する。この状況をどう対処すべきか思考を巡らせるが、中々考えがまとまらない。


 ん?


 ふと、何かがエメリアの目にとまる。



「あれは…煙か?」



 現れた謎の船の一隻から、白い煙のようなものが出ている。よく見ると、かなりの数の船からも出ていた。



「アビー、わかるか?」



「はい。推測ですが、あの船たちは被弾…つまり、なんらかの攻撃によって被害を受けています。おそらく、何かと戦ったのでしょう」



「ということは… 更に正体不明の勢力がいるのか?」



「そうなりますね。あの艦隊のデータは記録にありません。全く未知の勢力です」


 まずい。エメリアは胆力に自信があるのだが、自分の額に汗が滲むのを感じた。



 突如現れた、謎の艦隊。そして、それを攻撃した勢力がいる。これは戦争だ。エメリアは直感で、現在の状況を把握する。無論、推測でしかないが。



「とにかく、あの傷ついた艦隊を刺激しないように努めよう。あの数に攻撃を受けたら無事では済まない。ソフィア、ルーナ。引き続き操船を頼んだぞ」


「了解!」


「了解です!」



 ソフィアとルーナの明るい返事を聞いて、エメリアは力強く頷く。



「さて… これは船団にも状況を説明しなければな」



 エメリアは指示を飛ばす。イーサンは船内のペーターたちの安全確認に向かい、エルは操縦の手が離せないルーナに代わって通信を準備、長距離通信でアリアス船団への現況報告を緊急で行う。



「さて… これからどうするかな。あの艦隊に、こちらは見つかっているのか?」


 指示を出してから、エメリアはルーナの座席に両手を乗せて尋ねる。ルーナは旋回のアシストのために端末を操作し続けているので手が離せないが、代わりにアビーが表示してくれた画面のレーダーには、相当数の艦隊の影が映っている。


「うーん… 多いな。ソフィア、どう見る?」


 エメリアはソフィアの方を振り向いて意見を聞く。こういう時、直感の面ではパイロットの目線で考えるのも、エメリアは大事だと考える。


「こっちを取り囲む様子は無いですけど… なんかあの雰囲気、逃げ疲れてる感じ?」


「逃げ疲れてる? という事は、まさか敗走しているのか?」


 エメリアは経験から、答えの一つを導き出す。自分自身が敗走した経験は少ないのだが、少人数で数に勝る相手と戦闘になった時に、撤退したことはあった。


 相手が盗賊や山賊の類いであったとはいえ、その時に出た犠牲のことを、忘れることはない。



 苦い敗走の経験を思い出していたのも束の間、艦隊の後ろに一際巨大な影が現れる。その姿は船というより、途方もなく巨大な筒だった。かつてのアリアス王国の王都が、一体いくつ入るのだろうか。


 さすがに、一同は言葉を失いかける。しかし、そうしてもいられない。


「アビー、あれはなんだ!? 船か!?」


 エメリアが語気を強めて問いかけるが、しばらく沈黙しか返ってこない。アビーでさえ、思考に時間を要しているのだ。


 答えを待つ沈黙の時間が、ほんの一分くらいだっただろうが、恐ろしく長く感じた。


 やがて、アビーがようやく返事をする。



「皆様、お待たせ致しました。先ほど、あの巨大な構造物をスキャンしたところ、ジャミングはありませんでした。彼らの種族は不明ですが、我々に近い、人型の生命体反応の様です。そしてあれは、数千万という膨大な数の民が乗る船。アリアスの古いデータベースにあるもので例えるならば、あれは"コロニー"です」


 エメリアたちは驚愕する。数千万の民が暮らす、人が作りし星、コロニー。それが今、傷ついた艦隊と共に姿を現したというのだ。



「いったい、何が起こっているのだ……」



 エメリアは、これまでにない事態に身が硬くなる。




 しかしこれは、はじまりに過ぎなかった。





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