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第2話 アリアスの三姉妹

 第2話 アリアスの三姉妹



「姫様…? もしかして、エメリア陛下ですか!?」


「おっと。昔の癖で、つい姫様と呼んでしまう。そうだ、エメリア女王陛下だよ」



 まさか、こんな所にアリアスの女王陛下が来ているなんて。ペーターはすっかり眠気が吹き飛んでしまった。ニーナは相変わらず二人の女性の戦いに見入ってしまい、隣でずっとウットリしている。こちらの話は耳に入っていないようだ。



「でも、なんでここに女王陛下が? それに、誰と戦っているのですか? 妹君と言っていましたけど……」


 フラガはニヤニヤとした笑みを浮かべていたが、サラにジロッと睨まれてしょぼんとする。


「エメリア様はね、日々の執務に疲れてくると、夜中にこっそり体を動かしに来るんだ。最初は私やフラガ、それに警備班のテオ隊長が相手をしていたんだけど、エメリア様の実力は圧倒的でね。私たちじゃあ、全く相手にならなくなってしまったんだ」


「わあ……それじゃあ、今陛下のお相手をしている方は、エメリア様がお認めになるほどお強い方なんですね! なんか、かっこいいな…」


 素直に目を輝かせるペーターを見て、ちょっと苦笑いをするサラ。まだ何かありそうだ。


「あの…どうしたんですか?」


「うーん。なんと言っていいのかな…。確かにエメリア様の相手が出来るほど、凄く強くなったよ、彼女は。でも、エメリア様は、彼女と戦いの相手がしたいわけじゃないんだ」


「え? 対戦相手が欲しかったわけじゃないんですか?」



 なんだか、わけがわからない。サラさんは何が言いたいんだろう。首を傾げていると、サラは大きくため息をつく。


「まあ、隠すことでもないし、いいかな。つまり、エメリア様は可愛い妹と会う口実が欲しかったのさ。だから、強引に弟子にして、今に至るわけ。でも結果、いい弟子を持ったんだけど、エメリア様は妹が大好きだからなあ……あの子も大変だよ」



 何やら、複雑な事情があるようだ。しかし、こんな話は初めて聞いた。エメリア様に妹がいるのも初耳だし、そんなに強いとは思わなかった。というか、誰なんだろう?



「あの……エメリア様に妹君がいらっしゃったなんて、初耳です。驚きました」



 ペーターの言葉に、サラとフラガは驚いた。


「なんだ? ペーターは知らねえのか? 今時珍しいな…。なあ、お前は"アリアスの三姉妹"の噂は聞いてないのか?」


 フラガが不思議そうな顔をして、ペーターに聞く。彼はまた首を傾げて、悩んでいる。そこに横から、ニーナが急に割り込んできた。



「アリアスの三姉妹!! その話、知ってます! すっごく仲の良い三姉妹が、三人で船に乗って宇宙を駆けるんですよね? 確か…エメリア様、ソフィアさん、ルーナさんでしたっけ?」


 え? ニーナは知ってるの? というか、話を聞いてたの?


「おやおや、詳しいねぇ。その通り! その仲の良さは、船団中に知られている。お前が知らないなんて、驚きだぜ」



 ペーターはムッとするが、言われても仕方がなかった。元々、あまり世間話をするのが好きじゃない。友人達とは最低限の付き合いで、強いて言えばニーナと行動を共にすることがあるくらいだ。もう少し人付き合いがあれば、この話を聞けたかもしれない。


 そうしてペーターたちが色々と話をしているうちに、畑での戦いは終わっていた。二人の女性は武器を納め、緊張を解く。それから、サラとフラガの元にやって来るのが見えた。



「おや。エメリア様たち、今朝は終わりかな? フラガ、水を持ってきて」


「ああ。この二人はどうする? 一緒に連れて戻ろうか?」


 フラガにそう言われて、反射的にペーターとニーナは首を横に振る。その様子を見たサラは、また笑顔になる。



「ふふ。好奇心の旺盛な子は好きよ。フラガ、ここは私に任せて」


「あいよ。それじゃあ、持ってくるぜ」



 フラガが通路の奥に去って行くのを見送った後、ペーターとニーナはサラに幾つかの約束をする。


一つは、エメリア様たちの会話の邪魔はなるべくしない事。それから、質問はあまりしない事。それに、今朝の事は内緒にする事だ。



 そうこうしている内に、楽しそうに話をしながら、戦いをしていた二人がこちらにやって来た。フラガも水を持って来て、サラは二人に水を差し出す。



「エメリア様、ソフィア、お疲れ様です。今朝の勝負はどちらの勝ちですか?」


 水を受け取り、それをゴクゴクと豪快に飲んで見せたのは、銀髪の女性だ。この方が、エメリア・オーランド。アリアス王国の女王陛下であり、今はアリアス船団の船団長でもある。まだ若く、今は20代の半ばを過ぎた辺りだろうか。武技に長け、その若さで将軍も務めていたこともあり、威風堂々とした立ち居振る舞いには、覇気に満ちている。彼女はこの五年で、更に美しく、強くなっていた。


「ああ、今日は引き分けだ。ソフィアは攻め方が甘いが、ダガーでの受け流し方が上手くてな。私の手数では、中々防御を崩せない。大したものだよ」


「へへへ。お姉ちゃんにはしごかれたからね〜。私も簡単には負けないよ!」


「ふふん。キャヴァリアーの操縦なら、私の圧勝だけどな」


「むむむ……それは確かに…」



 本当に仲が良いんだ。短い会話を聞いただけで、それが不思議とわかった。銀髪をなびかせるエメリアに並んでいる、金髪の小柄な女性。容姿が似ているわけではないが、本当に姉妹に思えるくらいに自然な雰囲気を、ペーターは感じた。


 サラはエメリアたちに、ペーターとニーナを紹介することにした。急に振られて、二人はカチカチになる。



「こちらの二人は、ペーターとニーナ。私たちの整備班で実地訓練中の学生です。今日はエメリア様たちの戦いの音を聴きつけて来たんですよ。好奇心旺盛な若者たちです」


「は、は、はじめまして! ペーター・ラピスです!」


「はじめまして!! ニーナ・ロウです!!!」


 かたやガチガチ、かたや元気いっぱいの、二人らしい挨拶だった。エメリアたちは二人に優しく微笑み、挨拶を返す。



「はじめまして、二人とも。私はエメリア・オーランドだ。アリアスの女王だが、今は船団長の方がしっくりくるかもな。よろしく!」


 ガシッと握手をされ、ペーターはドキッとする。というか、握られた手が凄く痛くて、体が跳ね上がりそうになった。ニーナは負けじとガッシリ握り返していた。


 そして、次に二人に挨拶をしてくれたのは、金髪の女性。20代の前半くらいだろうか。エメリアと同じ格好だが、腰にはダガーを二刀差している。近くで見ると、やはり小柄だ。その長い髪を後ろで束ね、動き易そうにしている。


「二人とも、はじめまして! 私はソフィア・ルー。ソフィアでいいよ! よろしくね!」


 エメリア同様に、ガシッと握手される。ペーターはまたドキッとしたが、その小さな手は優しかった。心臓が高鳴り、顔が熱い。その手を離すのが惜しまれたが、素早くソフィアはニーナの手に移り、ペーターは残念そうにしていた。ニーナはソフィアと波長が合うのか、お互いに笑い続けている。



 その後、しばらく談笑が続いたが、ペーターたちは興味深い話をきく事が出来た。実はエメリアとソフィアは、ペーターたちが通う学校の先輩だったのだ。まだ学校が始まって間もない頃、慣れない生活に戸惑っている人々の先駆けとなって、エメリアは女王自ら学ぶことにした。ソフィアもそれに倣い、同年代の子供たちと一緒に学んでいたのだ。


 まだ学校が始まって五年しか経っていないので、生徒数はそこまで多くない。しかし、学校そのものは船団に認められ、子供のみならず、大人たちも仕事の合間に学びに来ることが出来るようになった。


 ある意味では、学校の存在がアリアス船団の人々を混乱から立ち直らせたのである。


 これから先、また数年も経てばもっと多くの子供たちが学校に通うようになり、知識は新しくなるが、かつてのアリアス王国のようにに文化が発展していく。エメリアたちとペーターたちは、そんな未来に想いを馳せていた。


 だが、一瞬だがソフィアは少し寂しそうな目をしていたのを、ペーターは見てしまった。その瞳は、どこか遠くを見ているようだ。


まるで、誰かを探しているかのように。



「おーい! お姉ちゃーん! どこー?!」



 その時、畑の方から女性の声が聴こえてきた。誰だろうか? ペーターが畑の方を見下ろすと、女性が車椅子に乗っていた。


「あ、ルーナだ。いけない、待ち合わせしてたの忘れてた! おーい! ルーナ!」


 ソフィアが上から叫ぶと、ルーナが気づいたのか、大きく手を振る。ソフィアは二階から軽やかに飛び降り、畑に着地する。ペーターとニーナは呆然としていたが、どうやらソフィアの身軽さは周知の事実らしい。サラやフラガたちに慌てた様子は全くなかった。



「もう、お姉ちゃん! 待ち合わせしておいて、置いてけぼりにしないでよ! 結構探したんだよ!」


 プンプンに怒る、赤毛の女性。車椅子の彼女は足が不自由のようだ。しかし、車椅子の扱いがとても上手く、移動もスムーズで、むしろ歩くより速い。


「ごめんごめん! エメリアお姉ちゃんといつもの勝負してたんだけど、その後に話し込んじゃって。あ、ルーナにも後輩君たちを紹介するね! おーい! みんなー!」


 ソフィアに呼ばれて、一同も下に降りてきた。ペーターとニーナはソフィアに背中を押されて、車椅子の女性の元に来る。


「紹介するね! 彼がペーターで、彼女はニーナ! 学校の後輩で、整備の勉強に来てるんだって!」


 元気いっぱいのソフィアに紹介されて、ペーターはモジモジしている。ニーナは明るさでも負けじと、元気よく挨拶をした。



「はじめまして、ペーター、ニーナ。私はルーナ・ルーです! こちらのソフィアの妹なんですよ。よろしくね」


 ルーナ・ルー。ソフィアより落ち着いた雰囲気の彼女は、とても優しい笑顔で微笑んだ。ペーターは少し頰を赤らめていたが、隣のニーナはもっと顔を赤くして、湯気が出そうだ。先ほどまでの元気いっぱいな感じではなく、まるでペーターのようにモジモジしている。この反応は意外だった。


 ルーナは片足が不自由なので車椅子に乗っているが、身長はおそらくソフィアよりも高い。ソフィア程長くはないが、伸ばした赤毛の髪はサラッとしており、自然な大人びた印象が残る。


「おやおや、すっかり大人しくなって。ニーナは借りてきた猫のようになってるじゃないか。さすがはルーナだな!」


 エメリアが豪快に笑いながらやって来る。



「エメリアお姉ちゃん! よかった、お姉ちゃんに会いたかったの。最近、執務が忙しそうだったから……中々会えなくて寂しかったんだ」


「そうか…寂しい想いをさせてすまないな、ルーナ。でも! 私は呼ばれればいつでも、どこでも駆けつけるぞ! 可愛い妹に呼ばれて駆けつけないお姉ちゃんなど、いない! そして認めない!」


 興奮するエメリア。なんだろうか、先ほどまでの雰囲気と違う。ふと、サラの言っていたことを思い出す。



(ああ、妹大好き…なるほど)


 二人は同時に頷き、妙に納得してしまった。



 そうしているうちに、プラント内の照明がつき始める。船団に朝がやってきたのだ。


 一同は体を伸ばしたりして解す。そして、今朝はこの場で解散することになった。エメリアたち三姉妹は、こちらに手を振りながら一緒に去っていく。ペーターとニーナは名残惜しそうにしていたが、一応実地訓練中なので、もう行かねばならなかった。



 ほんの少しの、短い時間に起こった、奇跡のような体験だったが、ペーターとニーナは帰宅後のベッドの上で、嬉しそうにしながら眠りについた。



「うん…ソフィア…さん」


「むにゃ…ルーナ…しぇんぱい」



 二人は幸せな夢の中。



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