第16話 空の上で
第16話 空の上で
「アビー、いる!?」
「おやおや? そんなに慌てて、どうされましたか?」
埠頭区画の倉庫内で他のユニットたちとキャヴァリアーの整備をしていたアビーは、丸い胴体からアヒルのような首を伸ばし、息を荒げているソフィアたちの方を振り向いて首を傾げる。
アビーが首を伸ばしていることは稀なので、初めて知ったニーナがビックリして目を丸くしていると、隣にいたルーナが微笑みながらニーナに説明していた。
「アビー、あの三人乗りのキャヴァリアーを出したいの。お願い出来る?」
ソフィアは布を被せてあるキャヴァリアーの胴体を指差しながら尋ねる。ところがアビーは理由がわからず戸惑う。
「起動することはできますが…あれは探査向きの設計ですよ? ソフィア様は何に使用するんですか?」
質問を返されると、ソフィアはニコニコしながらキャヴァリアーの後ろに置いてある翼の様なパーツを指差す。
「今から"あれ"のテストをするから、準備して欲しいの」
"あれ"と言われたパーツにアビーは目を向ける。それはキャヴァリアーが大気圏内を飛行するための装備だった。
ところが、この装備はアリアス船団が宇宙に上がってから一度も使用されていない。
「ソフィア様、それはちょっと…。アリアス船団は先程セルネアの大気圏内に到着したばかりですよ?」
そう言って、アビーは首を引っ込めていつもの丸い形態に戻ると、ソフィアの周りをグルリと飛び周る。ソフィアはすかさずアビーをがっしりと抱え込んだ。
「だからだよ! セルネアの空に一番乗りして、どんな感じか確かめようよ! ね?」
「一番乗り、ですか。うーん」
少し考え込むアビー。アビーの人工知能は同型のリオンや他のユニットたちよりも好奇心旺盛で、ソフィアと一緒にいることでそれが更に顕著になっていた。
それでも、簡単に決められない理由がある。
「ですがソフィア様、抜け駆けしてはエメリア様が…」
その言葉の意味を、ソフィアはよくわかっている。エメリアは以前から、三人で空を飛ぶのを楽しみにしていたのだ。エメリアのことを考えれば、アビーの言うことは正論に違いない。
だが、ソフィアは諦めきれない。
「うん…それはわかってるんだけど」
「でしたら…」
少し重い空気になる。その様子に耐えかねて、今度は横にいたルーナがソフィアの腕からアビーを引き取り、ひそひそ声で話しかける。
「…ねぇ、アビー。私からもお願いしたいの。ね?」
「しかしルーナ様、それではエメリア様のお気持ちが…。それに、到着早々にセルネアの上空で勝手なことをしてしまったら、ソフィア様が叱責されてしまいますよ?」
「うん、私もそう思うよ。でもね…今日は特別なの」
「特別?」
アビーは首を少し伸ばしてルーナの顔を見上げる。すると、ルーナは急に切なそうな顔をしていたので、アビーはピタッと固まってしまった。
「ルーナ様…?」
「あ…ごめんね、アビー。大丈夫だよ」
そう言うと、ルーナはアビーに微笑み、一度振り向いてソフィアにも笑顔を向ける。ソフィアはルーナが急に微笑んでいた意味がわからず、少しキョトンとしていた。
「あのね、アビー。お姉ちゃん、船が傷ついちゃったあの時から、実はまだ立ち直れてないの。以前にも似たようなことがあって、周りからはそう見えないかもしれないけど…結構無理してる。だから、お願いしたいの」
「それは……なるほど、そうでしたか」
思い出したように、アビーは納得する。ソフィアはいつも活発で明るい印象なのだが、昔から繊細で傷つきやすい心なのだ。
それでもコロニーの破片が飛来した騒ぎの中では、ソフィアは難しい操船を要求されていたにも関わらず、よく持ちこたえていた。結果的に船は損傷してしまったが、エメリアをはじめとするクルーの一同はソフィアに感謝の言葉を贈り、ソフィアもそのおかげで気力を取り戻していた。
そのはずだったのだが、やはりパイロットであるソフィアは船を損傷させてしまった責任を重く感じていたのであろう。
沈黙の中、ルーナの様にソフィアの心情を察せられなかったことをアビーは悔やむ。だが、そんなアビーの頭をルーナは優しく撫でた。
「お姉ちゃんは大丈夫だよ、アビー。それに、今回は特別。だってお姉ちゃん、昔からわがままを言ってばかりなんだから。いっつもお願いを聞いてたら大変だよ?」
ふふっと、嬉しそうに笑うルーナの顔を見上げて、アビーもピロピロと嬉しそうに音を出して笑った。
当のソフィアは、微笑ましい二人の様子を眺めていたのだが、なぜ二人が笑いあっているのか不思議で首を傾げる。
「あの…私は…ここにいても大丈夫ですか…?」
不意に背後から弱々しい声が耳に入り、ソフィアたちは驚いて振り向く。すると、少し離れたところで会話の輪の中に入れていないニーナが立っていた。その顔は今にも泣きそうだ。
「わわ! ごめんね! ニーナも一緒だよ!」
慌ててルーナは車椅子をクルッと回すと、ニーナの元に駆けつける。それからニーナの腕をがっしり掴むと、勢いよく引き寄せてソフィアたちの元に戻った。
涙目ながらニーナも無事に参加し、アビーの協力を得たソフィアたちはキャヴァリアーに搭乗する。
「私が前で、二人は後ろ…っと。ルーナ、足に気をつけてね?」
「うん。ちょっと待ってね…」
「ルーナさん! 私に掴まって下さい!」
「ふふ。ありがとね、ニーナ」
足が不自由なルーナは、ニーナの支えを借りながら慎重に後部座席に乗り込む。
キャヴァリアーは通常一人乗りだが、これは複座型になっており、前には操縦席、その後ろには二人横並びの通信席が取り付けられているので、どちらかといえば小型船に近い運用を想定して設計されていた。
キャヴァリアーの最大の特徴はその汎用性の高さにあり、操縦者が搭乗するコア部分を中心に、手足や走行用の車輪、宇宙空間での機動用スラスター、更には各種作業用の様々な装備に換装することが可能だ。その他にパイルバンカー付きの盾や剣、一部では銃火器なども装備できるが、今回は空中を飛行するための翼と大気圏内用の推進エンジンが一体となった装備に換装を行う。
とはいえ、この装備は大気の無い宇宙空間ではテストが出来なかったものだ。千年以上前の大昔の記録の上では実用実績がある装備なのだが、それを完全に信用することは出来ない。
ソフィアとルーナはシュミレーターでの訓練を思い出しながら、慎重に最終チェックを行う。その様子を緊張した面持ちで眺めているニーナは専門の訓練を受けていないので、今回は見学だ。
「主翼と尾翼の可動は正常。計器も異常なし…と。ルーナ、そっちはどう?」
前方の操縦席からソフィアが尋ねる。一人乗りのキャヴァリアーと同様に、機体の操縦方法は操縦者の手足や指の動きをセンサーで読み取るタイプのものなのだが、ソフィアは操縦桿を握って操作することに慣れていたので、多少の違和感を感じていた。
「こっちも大丈夫。レーダー・通信共に正常稼働を確認したよ。エンジンも問題なさそうだね。今、アビーが外の環境データを見てくれてるから、確認でき次第チェック終了だよ」
「いいね! さてさて…ニーナはどう? パイロットスーツが飛行中の負荷を軽減してくれると思うけど、着慣れないスーツだからね。どこか苦しくない?」
「大丈夫ですぅ…でも、なんかピチピチで…恥ずかしいかも…」
ソフィアたちが着ているパイロットスーツは性能こそ高いが、体のラインがハッキリ強調される。そのため、女性陣の中とはいえ、ニーナは羞恥心から顔を赤らめてモジモジしていた。
「はは…それ、私も初めて着た時に思ったよ。ねぇ? アビー?」
ソフィアは昔のことを思い出し、アビーに自分の華奢な体型のことをグサリと言われた記憶が蘇る。
「さ、さあ、こちらもチェック出来ましたよ! 発進しましょう!」
必死で話題を変えるアビー。この話は時折上がるが、ソフィアは未だに根に持っている。深みにハマると危険だということをアビーは忘れていない。
埠頭区画の端にあるエア・ロックは小型で、普段は船体外殻の整備作業以外にはあまり使用されていない。今回は人目をなるべく避けて発進するので好都合だ。
「エア・ロックの安全を確認しました。船外ハッチ、開きます」
アビーの声かけと同時に目の前の扉が開くと眩しい光が射し込み、ソフィアたちは眩惑されながらハッチが開ききるのを待つ。
そして……完全に開ききった時、ドクンと大きく鼓動する心臓の音を聴いた。
「わぁ……青空だ…」
下方に広がる雲海と、青い空。それに、上から燦々と降り注ぐ太陽の光。
それはかつて、アリアスの大地で見上げていた空の上に来たかの様で、ソフィアたちは言葉を失う程に驚いた。
「すごいよ…。アビー、ここはアリアスの空と同じなの?」
「ええと…アリアスに比べると、大気は少し濃いめです。でも、ほとんど変わりないですね。天候も安定してますし、ソフィア様なら上手く風に乗れると思います」
「うん…いいね! よーし…」
アビーの環境データを確認すると、ソフィアは深呼吸をした。
「みんな、行くよ!」
ソフィアは掛け声と同時にエンジンの出力を上げる。それから間もなく固定装置が解除され、キャヴァリアーは勢いよく空中へと躍り出た。
ソフィアも、ルーナも、そしてニーナも、この時の景色を生涯忘れないだろう。
そこは言葉にならない程に美しかった。どこまでも広がるかのような青い海がキラキラと輝き、浮かぶ雲の上をキャヴァリアーの影が通り抜けて行く。
「わあー!!」
なんという顔だろう。一斉に歓喜の声をあげたソフィアたちの表情を、アビーは形容出来なかった。だが、確信したことがある。
「ああ……最高ですね」
嬉しそうに、静かに呟くアビー。その言葉は三人には聞こえなかったが、それに応えるようにソフィアたちは感激し、大はしゃぎだ。直前まで緊張気味だったニーナも、満面の笑みで窓にへばりついている。そして感極まったのか、目には自然と涙まで流れていたが、本人は気にもしていない。
「さあ、風に乗るよー!」
ソフィアは気流に機体を乗せようと試みる。キャヴァリアーで大気圏内の飛行を実践するのは初めてだが、この時のためにシュミレーターで何度も練習して来たので、操縦桿を握る手には自信があった。
とはいえ、初めての空だ。流石に少々手こずったが、無事に分厚い風に乗ったキャヴァリアーは高度を上げると、太陽の光を翼に反射させてゆったりと滑空する。
しばしの遊覧飛行を楽しもうと思ったところで横を振り向くと、アリアス船団が雲海の上を連なり、ゆったりと進んでいた。
ソフィアたちがその先頭を追い抜いた直後に通信が入る。
「ソフィアーーー!! ずるいぞーーー!!!」
よく知っている叫び声。モニター越しに映ったのは、やはりエメリアだった。だがその顔は半泣きで、エルに慰められているようだ。
「…えへへ。お姉ちゃん、ごめんね!」
予想はしていたが、やっぱりエメリアは羨ましそうにしているので、少し罪悪感を感じてしまう。しかし、空の上の感動で心臓がドキドキと鳴りっぱなしだ。
ルーナたちもソフィアに続いて謝ってはいたが、拗ねて膨れているエメリアの機嫌が直る前に、今度は別の通信が割り込みが入る。
「…あー、そこの小鳥さん。俺の声が聞こえるかい?」
「ん? どこかで聞いたことがあるような? というか、どこからの通信?」
ソフィアはアビーに尋ねる。アビーが答える前に目の前のモニターに映像が映り、相手が名乗ってきた。
「ああ、突然で悪いな。俺はエリファス。今、君たちの船団を先導しているセルネア艦隊旗艦"テルハール"の指揮官だ。よろしくな」
「ということは…ええーー!?」
ソフィアとルーナは仰天する。相手はセルネアの民、そしてセルネア艦隊の指揮官であるエリファス・ラルーシカだ。ニーナだけは状況をわかっていないので、慌てるソフィアたちの方に驚いていた。
「はじめまして! よ、よろしくお願いします!!」
ルーナは慌ててモニター越しにお辞儀すると、ソフィアも妹に倣った。それを見て、通信越しにエリファスは大笑いする。
「いやぁ、素直だなぁ! まあ、そんなにカチコチにならなくても大丈夫だぜ? 目的地に到着するまで、まだ少し距離がある。お喋りでもどうだ?」
相手は何らかの通訳システムを通していると聞いていたが、信じられないくらいに自然な会話だ。それに、気さくなエリファスの物言いに、ソフィアたちは少し気が楽になる。しかしながら、セルネアの指揮官から直々にお喋りを提案されるとは予想外で、ソフィアたちはポカンとしてしまう。
「おい、エリファス。うちの妹たちと話したいのなら、まずは私を通せ」
モニターの画面半分にスズイッとエメリアが戻ってくる。
「お? なんだ、あんたの妹だったのか? それは是非とも紹介して欲しいな」
「…変な下心はないだろうな?」
「おいおい、見損なわないでくれよ。傷つくなぁ…」
大げさな手振りをするエリファスに、エメリアはため息をつく。
「わかったよ…すまないな。金髪で可愛い妹のソフィアと、赤毛で可愛い妹のルーナだ。その隣は…あれ? なんでニーナが…」
「お、お邪魔してます…」
エメリアの眼差しが痛い。ニーナは身を小さくして頭を下げた。
「いいの! ニーナも一緒に行きたかったんだから! それに、ルーナにも良くしてくれてるもん!」
そう言ってニカッと笑うソフィアに、エメリアは何か言おうとしたが諦める。
「あー、というわけで…だ。その機体に乗っているのは、私の妹二人と友達だ。血縁ではないのだが、私の大事な可愛い妹たちだ。よろしくな」
「ははっ! なかなか面白いじゃないか! こちらこそ、改めてよろしくな!」
エメリアはまた膨れていたが、ソフィアたちはエリファスの豪快な笑いにつられて、思わず一緒に笑っていた。
「さあて…簡単な紹介をしたところで、ちょっと聞きたいんだが、いいか?」
「ん? なんだ?」
エメリア、そしてソフィアたちと通信が繋がったままで、エリファスは話を続ける。
「その機体…キャヴァリアーとか言ったか? それを操縦してるのは妹さんかい?」
「ああ。ソフィアだが、それが?」
「ほぉ…。チラッと飛び方を見てたが、随分と空を飛び慣れているみたいだな。セルネアの空は初めてだろうに、やるじゃないか」
急にソフィアを褒め始めるエリファス。ところが、当の本人を含め、一同はキョトンとしている。
「なんだ? 不思議そうな顔して…。素直に褒めただけだぞ?」
「あの…それは嬉しいんですけど…」
ソフィアが少し困ったような笑顔をしているので、エリファスも困惑する。
「んん? 俺は何か変なこと言ったかな?」
「いえ…その、私…空を飛ぶの、初めてなんですが…」
「………なに?」
何を言っているのか? 理解出来ず、エリファスは聞き返してしまう。しかし、ソフィアが同じ答えを返すと、エリファスは開いた口が塞がらなかった。
「これは…驚いたな! ソフィア…さん、と呼べばいいかな? 君には天賦の才があるようだ」
「…エリファス? なぜ、私には"さん"が無いのだ?」
エメリアはジトっと冷たい視線を送る。
「まあまあ! お互いの立場を理解した上で、お固いことはなるべく少なめにしたいんだ。許してくれ」
エメリアはチラッと、周りにいるテオや重臣の顔を見て苦笑いを浮かべる。
「はぁ…まあいいさ。お固い話は後でたっぷりしなければならないんだ、許すよ。というわけで、ソフィアも素直に喜んでいいんだぞ?」
ソフィアは嬉しいやら恥ずかしいやらで、頰を赤らめて照れていた。
「ソフィアは文句なく、アリアス船団一のパイロットだ。それは見事なものだぞ?」
エメリアは誇らしげに、エリファスに妹自慢を始める。ソフィアは更に照れ臭くなってしまい、モニターから顔を隠そうとする。
ところが、エリファスは少し考え込むように黙る。
「ん? どうかしたのか?」
「おっと、すまない。ちょっとな。ところで、一つ面白い提案があるんだが…」
「…提案?」
エメリアとソフィアたちは声を揃える。するとエリファスは、ソフィアの顔を真っ直ぐに見つめる。先程までとは違う、威厳のある表情だ。
「会談を行う場所まで、まだ少し時間がある。そこで、ちょいと余興を楽しまないか?」
「余興? こんな移動中に、何をするんだ?」
エメリアが不思議そうな顔で尋ねると、エリファスはニヤリとする。
「ソフィアお嬢さんと俺で、空の上で競争でもどうだ?」
「え…? ええーー!?」
驚きのあまり、ソフィアは危うく機体のバランスを崩しそうになる。
「お、おい、エリファスが相手をするのか?」
「おう。俺も元はパイロットでな。空を飛ぶのはお手の物だ」
「しかし、艦隊の指揮官なのだろう? それは…」
「それは心配ないぜ? おい、シルヴィア!」
エリファスに呼ばれて、モニター越しにもう一人現れる。その姿は女性だが、明らかに戦士らしい、屈強な体格だった。
「はじめまして、皆さん。私は副官のシルヴィア。以後お見知り置きを」
シルヴィアにそういわれて、一同はポカンとしながら頭を下げる。
「と、いうわけで、俺が留守の間はシルヴィアが指揮を執るから安心してくれ。ちゃんと船団を案内してくれるよ。俺が保証する」
「保証はありがたいですが、あなたもほどほどにして下さい。気合いを入れましょうか?」
「…いやいや、大丈夫だ、うん。わかっているさ。な?」
エリファスの態度から察するに、どうやらシルヴィアという副官には頭が上がらないようだ。エメリアは頭の中でメモ書きをすると同時に、エリファスに強張った笑みを送る。
そうしていると、ごほんっと咳払いをしたシルヴィアが改めて話を始める。
「まあ…誠に勝手な提案で申し訳ないのですが、正直なところ、私も興味があります。エメリア様、宜しければ親善の意味も込めて…いかがですか?」
「うーん…」
エメリアはモニター越しに、ソフィアの顔を見つめる。ソフィアたちも困惑しているようだが、エメリアは同時に思うところもあった。
(ソフィアが飛ぶ理由…か)
少しの間があって、エメリアは再び口を開いた。
「わかった…ソフィアが了承するなら、私も異論は無い。ソフィアはどうする?」
「え? え? ええ?!」
決定を委ねられてしまった。
「でも…勝手に空を飛んでるのに、いいの?」
「まあ、その話は後で聞くよ。ソフィア、私の目を見てごらん」
そう言われて、モニター越しのエメリアと視線を合わせたソフィアはハッと息を呑む。
「お姉ちゃん………ありがとう」
勇気…ではないのかもしれないが、ソフィアはエメリアの視線から何か強い力を受けたように感じ、背中を押してもらった気がした。
「私、飛びます。エリファスさんとの競争、お受けします!」
張りのある声。ソフィアの力強い返事を受けて、エメリアは笑顔で頷く。
「では、決まりだな。エリファス、シルヴィア殿、こちらも賛成だ。提案をお受けします」
「ありがとうございます。では、早速準備をしますので、そのままお待ち下さい」
「…なんでシルヴィアが"殿"なんだ? 俺にも…」
「さあ、エリファス"殿"も早く格納庫に行ってください。なんでしたら、私がお連れしても…」
「よし、行くぞ。シルヴィア、指揮は任せた」
それから間もなく、一羽の鳥が旗艦テルハールの格納庫から発進する。
その鳥の名は"リーシャ"と呼ばれていた。