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第14話 帰還報告

 第14話 帰還報告



「ただいま」


 家を出てから、そんなに時間は経っていないはずだ。しかし、ペーターは自分の家の扉をくぐりながら妙な懐かしさを感じていた。



「お兄ちゃん! おかえりなさい! 無事だったんだね!」


 妹のルシアが、兄の顔を見つけるなり元気に駆け寄ってくる。ペーターは優しく微笑み、そのままルシアを抱擁する。


「ああ、ルシア。大丈夫だよ。僕はピンピンしてる。ルシアもいい子にしてた?」


「うん! お母さんのお手伝い、たっくさんしたよ!」


「そうか、そうか。ルシア、えらいぞ」


「えへん!」


 満面の笑みを浮かべる妹の顔を眺めながら、ペーターは胸の奥から込み上げるものを感じる。兄として、妹との再会は嬉しくて当たり前の事だ。それでも、想像以上に嬉しい。


 そうしてルシアとの再会を喜んでいると、パタパタと小走りの足音を立てて、部屋の奥から母が姿を現した。


「…まあ! まあまあ! ペーター! おかえりなさい! 心配したわ!」


 驚きと、歓喜の声をあげる母。ペーターが声をかけようとするよりも早く、母は息子の元へ飛び込むように駆け寄り、強く抱きしめる。


「か、母さん!? 苦しいよ!」


 母の腕の中でもがくペーター。照れくさいので手を振りほどこうと思ったところに、母が自分を抱きしめながら、すすり泣いている声が耳元で聴こえた。


 どれだけ自分を心配してくれていたのか。

 そして、自分が行っていたのはどういう場所であったのか。ペーターは理解し、しばらく母の抱擁に身を任せる。


 家の窓の外に見えるのは、夜の色をした宇宙。そして、輝く青い星があった。




 任務を終えて船団に帰還した琥珀の女王号の前では、貨物の運搬などで慌ただしく船から出入りする人々の喧騒が聴こえていた。


 傷ついた船体。中でもメインエンジンと後部格納庫のハッチはコロニーの大きな破片が直撃し大きな損傷をしており、その姿が今回の任務の過酷さを物語っている。


 船の本格的な修理はこれからになるのだが、乗組員は一旦解散となり、学生であるペーターとニーナは勿論、既に大半の乗組員は下船していた。そのため、今作業をしているのは、ほとんど別の人員だ。


 ブリッジにいたエメリアとエル、そしてイーサンの三人は早々に船団の会議へと向かい、ソフィアとルーナはアビーたちと船に残るので、乗組員の中で最後に降りたフラガとサラの二人は、船の前で立ち止まる。


「ほぉー、いちち。重力が腕にしみるぜ」


 琥珀の女王号の船内は基本的に無重力状態なので、重力制御がされている船団に戻った身体にはズシリとした重みが乗しかかる。それが怪我をしているフラガの腕に響いたのか、ジワジワと痛む腕をフラガはさすっていた。


「おやおや、大の男がだらしない。男なんだから我慢しなさいよ」


「うへぇ…厳しいなぁ」


 サラにどやされて、フラガが呻き声をあげる。怪我人にも相変わらず厳しい口調を放つサラを非難したいところだが、フラガは自分のよろめく体をしっかりと支えてくれているサラに文句を言えない。



「医者のとこまでは行ってあげるんだから、そんな顔しないの」


 サラはフラガの背中を軽く叩きながら言う。


「わかったよ。だけど、大丈夫なのか? 船の整備はこれからだろ?」


 二人は後ろを振り返り、傷ついた琥珀の女王号を見上げる。宇宙に出てから数年、ここまでの損傷を受けたことは無かった。それだけに、二人は船の無数の傷跡に目を細める。



「今回は整備と言うより、修理よ。悔しいけど…技術的な話の多くは私たちの手に余るわ。ユニットたちに頼むしかない」


「なるほどな…。まあ、俺たちとしては助かる話なんだが。力不足を実感しちまうな」



 もしもユニットたちの助けがなかったら、アリアスの人々は宇宙に出て間もなく全滅していただろう。そのことをユニットに感謝しつつ、彼らに頼ってばかりではダメなのだと、フラガは自分に言い聞かせる。


 五年間…そう、たったの五年間だ。それも成り行きで、宇宙という名の、生きるには過酷な世界に飛び込んだのだ。


 そんな自分たちが生きていくには、宇宙生活に必要な基礎知識を必死に学ぶしかない。そういう意味では、この五年間はよくやったと思いたい。しかしながら、船団に使われている数々の高度なテクノロジーの知識、並びに運用方法などは簡単に手がつけられるものではない。


 それだけに、船を操縦しているソフィアたちの適応力の高さは類い稀な才能なのだ。


「俺も若かったら、この船を動かせるくらいになれたのかねぇ」


 少し寂しげに微笑むフラガ。サラにもその気持ちはあるが、格納庫から搬出されているキャヴァリアーに視線を向けると、フッと笑う。


「私たちでは、キャヴァリアーまでだろうな。でも、それも悪くないよ。これからは若者の時代なんだから」


 サラに言われて、フラガはガハハッと豪快な笑い声をあげる。


「違いねぇ! テオ隊長に聞かせたいぜ!」


「ククッ…! そうだな。フラガ、いい考えだ!」


 二人は何かイタズラを思いついた子供の様な顔でしばらく笑い合うと、ゆっくり息を整える。そして再び船の傷跡に視線を動かした。


「早速、今回の教訓を生かさないとな。まずは格納庫の整理整頓を見直すか」


「ええ。非常時にコンテナが凶器になるなんてね。並びは勿論、固定の仕方も工夫が必要ね。それに…」



 議論を交わしながら、フラガとサラは船を後にすると、医務室へと向かう。


 二人が去った後には次々とコンテナが積まれ

 、辺りは雑多な様子になっていた。




 帰還を果たしたエメリアは、早足で船団の中枢にある会議室へと足を運ぶ。既に会議の支度はされており、到着するとテオを始めとした船団の代表者たちが集まっていた。


「エメリア様、お待ちしておりました。準備は出来ています。こちらへどうぞ」


「わかった。ありがとう」


 先に会議室へ入っていたエルは、エメリアを席に案内する。そこにはモニターも設置されており、船団に放送することも可能だ。


「さて…。皆、揃っているな? これから、今回の偵察任務の報告と、緊急で話し合うべき重要な案件がある。早速始めよう」


 エメリアの言を合図に会議が始まる、大型のモニターに映像が映る。任務中に遭遇した謎の艦隊だ。


「通信連絡で状況は既に伝わっていると思うが、あれはエリファス・ラルーシカ率いる、"自由同盟"と呼ばれる勢力の艦隊だ。彼らは現在、別勢力"連合"と戦争中であり、我々が遭遇した際は敗走中であったと考えられる。彼らの外見は我々と殆ど変わらず、意思の疎通も可能だが、我々よりも優れた技術と軍事力を保有している」


 エリファスの映像データが映し出されると、会議出席者たちは息をのむ。



「彼ら"自由同盟"と"連合"がどういう組織で、なぜ争っているのか詳細は不明だが、少なくとも現在のところ自由同盟に敵対の意思は無いようだ。そこで私としては、ひとまず彼ら自由同盟と場を設けて話がしたいと考えている。彼らの代表であるエリファスからも提案されているのだが…皆はどう思う?」


 エメリアが問うと、一同は考え込む。その中で最初に口を開いたのは、やはりテオだった。


「私はエメリア様の提案に賛成です。しかし、得られている情報だけでは不安があるのも事実ですね。彼らの誘いが罠の可能性であることも否定は出来ません」


「ふむ。まあ、最もな意見だな」



 ソフィアとルーナの父であるテオ・ルーは船団の警護全般を担当する警備班の統括であり、今回の任務でエメリアが不在の際には船団の指揮を臨時で執ることもあった。彼は王国の兵士時代に国境警備の任務に就いていた経験があり、隊長として部下を率いることにも慣れていたので、周囲からの信頼も厚い。特に惑星アリアス崩壊の混乱が始まった時には、地震で被害を受けた街に部下たちと真っ先に駆けつけて、人々の救助活動を指揮していたこともある。


 そのテオの意見は確かに的を得ている。しかし、答えを出すには他の者の意見が必要だ。


「罠であったら…ワシらは絶体絶命じゃ。関わらない方が良いかもしれん」


 短髪に白髪、そして蓄えた白髭の老人が言うと、他にも数名の老人たちが同意の頷きをする。


 彼らは五十隻からなるアリアス船団の意見を集める長老たちだ。各船、実務的な面はテオの様な若手のリーダーたちを中心に動いているのだが、長老たちは一人一人がかつての王国で市政に関わっていたこともある人物たちだ。引退していたとはいえ、その手腕は未だに衰えてはいない。


 しかし、彼ら長老はやはり慎重論が多くなりがちで、少し頑固に感じてしまうこともある。その点、若者たちは逆に積極的になりすぎることもあるので、どちらが正しいと言うわけではない。


 しばらく、会議はテオたちと長老たちで議論が交わされる。互いに互いの意見を理解はしているが、どちらを選ぶかは、相手を説得するか、されるかだ。


 こうした両方の意見を聞いた上で船団を導くのが、王たるエメリアの使命だ。そしてエメリアは既に答えを出している。


「…確かに、この誘いが罠であれば危険だ。今現在の危機を避ける判断としては、長老たちの言うようにこの場を立ち去るのが賢明だろう。しかし、今後もこの宇宙で誰かに出会うたびに、我々はそうするのか? もし、この場から脱した先で"連合"の戦力に遭遇してしまった場合、彼らも我々に友好的だろうか? 私には確信が無い」


 口を開いたエメリアの意見に、全員が黙る。


「同じ危険でも、まだ話が通じるとわかっているのであれば、エリファスたちの誘いに乗る方が良いと思う。そして、我々がまだ知らない多くの情報を集めることが出来れば、これから乗り越えなければならない苦難への大きな備えになるのではないだろうか?」


 テオたちも長老たちも、一同は頷く。エメリアの説得は成功したようだ。


「ありがとう。では、船団の総意として、我々アリアス船団は自由同盟との会談に臨む。皆、この十分な時間が無い状況の中で議論を交わしてくれたことに、王として感謝するよ」


 そう言って、その場で一礼をするエメリア。忠誠を誓う王が頭を下げたので、テオたちは慌ててその場に跪き、頭を下げる。


「うーむ、その…私は王ではあるが、皆に礼をしたくらいで跪かないでくれないか?」


 女王になった時からだが、未だにエメリアは馴染まない。


「我々は王に忠誠を誓っておりますゆえ…これくらいは…」


「まあ…そうなのだが…私も王として民に仕えているのだ。それに先代と違ってまだまだ学ぶべきことも多い身だ。この若輩の身にはもう少し楽に接してくれてもいいぞ?」


 そうは言われても、簡単にそうですかと言える臣下も、そうはいないだろう。


 エメリアは笑顔で諦めることにした。



「話はまとまったし、早速エリファスに連絡しなければ。エル、通信を繋いでくれ」


「わかりました。少々お待ちを…」


 エルは軽快に端末を操作して、通信の支度をする。任務の前と後では、エルの手つきが違う。エメリアは少し感心した顔でエルを眺めていた。


「…通信、繋がりました。モニターに映しますね」


 エルがポンっと軽く操作すると、モニターに映像が映し出される。相手はエリファスだった。


「お待たせしてすまない。こちらの話はまとまった。我々アリアス船団は自由同盟との会談を希望したい。そちらの艦隊に同行したいが、問題ないか?」


「了解した。艦隊は既に先行している。目の前にいる我々三隻が先導しよう。ついてきてもらえるか?」


「ああ。協力に感謝する。では…」


「おっと。ちょっと待ってくれ。もう一つ言っておきたい話がある」


 エメリアが簡単な確認を終えて通信を切ろうとしたところで、エリファスに止められる。彼は周囲をキョロキョロと確認している。


「なんだ?」


「いや…な。あんたらなら既に理解はしていると思うんだが…俺たちは先の敗走とコロニーの撃墜で相当ピリピリしてるんだ。そこにいきなり所属不明の船団が、予告無しにワープして来たら、わかるだろ?」


 エリファスの話にテオが俯く。エメリアも自分の指示での事なので、少し困った顔になった。


「まあ、あんたらにも事情があるのはわかるし、俺は責めたい訳じゃないんだが…。最悪、艦隊が威嚇射撃を行う可能性まであったんだ。今後は彼らを刺激する行動は謹んでくれないか? 俺からも部下たちに言い聞かせておくから」


「ああ、勿論だ。我々も今後は十分に注意する。今回はすまなかった」


 エメリアと共にテオたちも頭を下げて謝罪すると、エリファスも少し照れくさそうな笑顔を見せていた。



 エリファスとの交信を終えると、エメリアたちは会議室から移動する。普段から執務をしているこの船は船団の中枢であり、連結した船団を操船するための司令室も備えていた。


 プラント船などの一部の船を除けば、五十隻からなる船団の各船の性能に大差は無い。基本的にはどの船からも連結した船団の操船は可能だった。勿論、条件はあるのだが。


 司令室に入ると、中ではアビーやリオンの様なユニットたちが航行に必要な操舵・通信などの作業に従事している。その傍では、それぞれの作業を学ぶ見習いの人員の姿もあった。


 彼らは振り向くと、その場で気をつけの姿勢で立ち、エメリアたちを迎える。


「皆、ご苦労。楽にしてくれ」


 エメリアが声をかけると、一同は了解の返事をして作業に戻る。最初はユニットたちの作業を何一つ理解出来ず、この場にただいるだけの日々も多かったのだが、流石に五年も経つと少しは違うものだ。知識的にはまだまだこれからなのだろうが、ユニットたちに指導を受けながら確実に成長している。


 エメリアはこの司令室の光景を気に入っていた。話だけを聞いたら地味かもしれないが、現場は活気が満ちている。少数精鋭の琥珀の女王号とはまた少し違う雰囲気だ。


 だが、いつもよりは緊張気味な気もする。無理もない。目の前には宇宙に出てから初めて見る他の種族の艦隊がいるのだから。


 エメリアたち"アリアスの民"が広大な宇宙の旅で初めて出会った、人と似た外見の種族。交信を終える直前にエリファスから簡単に聞いた話によれば、彼らは自分たちのことを"セルネアの民"と呼び、幾つかの星系の種族と"自由同盟"という通商・軍事同盟を結んでいたらしい。


 この自由同盟は"連合"と呼ばれる勢力と対立しており、現在は戦争状態にある。この二つの勢力による星系間の争いは激しさを増し、大勢の民間人が暮らすコロニーが攻撃を受けて墜落するという大惨事も招いていた。アリアスの偵察隊は、その戦争の一端を目の当たりにしたのだ。



「リオン。状況を教えてくれ」


 エメリアは自分が座る席にいるユニットに声をかける。すると、リオンと呼ばれた白いユニットがピロピロ音を出していた。


 リオンは琥珀の女王号でソフィアのサポートをしていたユニット、アビーと対になっており、エメリアのサポートを主としている。リオンもまた、アビーと同様に他のユニットたちとは違う高度な人工知能を搭載したオペレーション・ユニットであり、人間味のある言い回しもすることが多い。アリアス船団が宇宙に出てからは、船団の司令室でエメリアと共に指揮を執っている。


「エメリア様、おかえりなさいませ。ご無事でなによりです。現在、船団は前方の艦隊…仮称"セルネア艦隊"に追従して移動中です。船団の皆様には通信担当の方にお願いをして、ひとまず危険は無いと伝えた上で、この後エメリア様から放送がある旨を伝えてあります」


「ありがとう。まだ私にとっても未知の存在だが…敵では無いはずだ。早速、民に伝えねばな。他には?」


「損傷を受けた琥珀の女王号の修理には時間がかかりそうです。後部ハッチはともかく、メインエンジンの損傷は簡単にはいきませんね。ドック船に入渠して、船に精通しているアビーと私、それにソフィア様とルーナ様で修理と全点検をする必要があります」


「なるほどな…。整備班の人手はいるか?」


「いえ…人手が足りているわけではないのですが、整備班の皆様でもメインエンジンの修理は技術的に困難です。琥珀の女王号は他の船とは違う仕様ですし、ソフィア様とルーナ様のように船に乗り続けている方でないと…」


 確かに、リオンの言う通りだった。琥珀の女王号は他の船とは違う点が多い。そもそも、あの船はソフィアがアビーと共に受け継いだ船だ。


 元々の船の持ち主は、ソフィアの先祖に当たる、千年前のアリアスを生きた人物であり、エメリアの先祖の親友でもあった。当時の彼らが、将来宇宙探検に出る夢を叶える為に建造されたのが琥珀の女王号なのだ。


 ルーナとエメリアはともかく、本来は他人が手を出していい船ではない。だが、宇宙に適応するためには困難も負担も多くなる。だからこそ、偵察任務の際には整備班と様々な応急対応に動ける乗組員を一緒に乗船させていたのだ。


「了解した。ひとまず、琥珀の女王号には休んでもらおう。では、私は放送を始めるとするかな」


 エメリアはモニターの前に立ち、放送を開始する。民には安心してもらいたいが、エメリアは安堵するわけにはいかない。説明をしながら、セルネアとの今後の関係について思考を巡らせていた。




 自由同盟所属のセルネア艦隊はアリアス船団を引き連れて、母星である青い星、惑星セルネアの軌道上に迫る。エリファスは星の表面を眺めながら、その一点にポッカリと空いた穴に目を止める。コロニーの落下地点だ。


「でかい墓標を立てちまったな…俺たちは」


 独り言のように呟くエリファス。隻眼の瞳の奥には揺らめく炎が灯る。怒りの炎だ。


 しかし、その怒りを向ける相手は自分だ。艦隊の指揮を執り、大勢の民が乗るコロニーの盾となるべく戦った。だが、力不足だったのだ。


「コロニーを落とされ、艦隊もボロボロ…頼りは母星の防衛システムだけか…情けないな、まったく」


「おやおや、指揮官らしからぬ発言ですね? 私が気合を入れて差し上げましょうか?」


 嘆くエリファスの背後から、女性にしては低めの声が飛んでくる。


「シルヴィア…嘆くのも指揮官の大事な仕事だぞ?」


「理解できませんね。私は自責するくらいならば、死んだ人々の倍の敵を討ちますよ」


 淡々とした口調で言われて、エリファスは苦笑いをする。


 シルヴィアはエリファスの副官であり、屈強な戦士の女性だ。浅黒い肌は分厚く、筋骨隆々とした男性にも引けを取らない。長い黒髪は後ろで編むようにしており、顔には紅い塗料で塗った戦化粧をしている。


 いかにも戦士の姿だが、特に目を引くのは彼女の右手だ。肘から先は金属の義手になっており、ナイフが鞘ごと取り付けられていた。


 初めてシルヴィアを見た者は、その威圧感に負けて大抵後ずさりする。


 そうしなかった、数少ない男がエリファスだ。


「シルヴィアは頼もしいが、手厳しいな。まあ、今回は大目に見てくれよ」


「ふぅ…。いいでしょう。確かに、今回の戦いで我々は深い傷を負いましたから…」


 シルヴィアは窓の外の青い星を眺め、少しの間、戦士の顔を緩める。その横顔は哀愁漂う女性の顔だ。


「次の戦場は、私たちの母なる星の前…絶対に死守する。敵は全て蹴散らしてやる…!」


 そう呟くと、再び戦士の顔に戻ったシルヴィア。その目には憤怒と呼ぶに相応しい炎が揺らめいていた。



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