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第12話 狼を受け継いで

 第12話 狼を受け継いで



 青い星。


 そこは、彼らにとって特別な星だった。


 彼らはそこで生まれ、文明を築き上げ、やがて星空に船出した。


 次々とコロニーが建造され、それは星の世界に新たな星を産むかのようであった。


 全てが輝ける、黄金の時代だったのだ。


 しかし、母なる青い星は変わっていった。


 文明が築かれていた大地は、ほぼ全てが海の中に消えてしまったのだ。


 少数の者は、海の上や海中に住まいを広げようとしたものの、青い星はその時間を彼らには与えなかった。


 様々な異常気象が猛威を奮い、とうとう人々は故郷の星を去ることにした。


 しかしながら、宇宙から見る青い星は美しかった。彼らはその姿に、神聖なものを感じるようになる。



 そこは、我らの故郷なのだ。




 それから数世紀が経ち、彼らはこの青い星へ帰還を果たす。



 遠い宇宙で出会った、彼らは傷つき、逃げていた。


 艦隊はコロニーを守っていた。しかし、相当な深手を負い、満身創痍の状態だった。


 そして遂に力尽きてしまう。コロニーは制御を失い、進路を変えてしまう。その先には、故郷の青い星があるのに。


 艦隊は進路を変えようと、必死に追従する。コロニーには、大勢の同胞が恐怖に震えているのだから。


 しかし、間に合わなかった。


 コロニーは星への落下を止めない。



 青い星の大気圏に突入し、燃え上がるコロニー。艦隊の中には、最後までコロニーを守ろうと、体当たりをして共に落ちて行った船もあった。



 その後に見えたのは、閃光。そして、火柱と衝撃波だ。雲を薙ぎ払い、海を大地ごと抉り取り、大量の土砂と水が空へと噴き上がる。それは、宇宙空間へと届くほどであった。



 まるで、大勢の命の光が噴出したかのように。




「……以上が、状況の報告です…」


「……」


 コロニーの落着。その一部始終を、琥珀の女王号は見ていた。アビーはことの経緯を推測と交えながら、エメリアたちとクルーに報告していた。


 一人一人が、目の前で起こったことを自分の心に刻み込む。クルーの多くは自分たちが何も出来なかったことを悔やむが、何が出来たのかもわからず、ただ沈黙するしかなかった。


 エメリアも報告を聞いていたが、口を開かない。重力制御がされているブリッジの中をゆっくりと歩きながら、ただ沈黙を保っていた。


 ブリッジを見回すと、そこにはソフィアの姿は無かった。この一件の直後に、彼女は操縦席でそのまま倒れてしまったのだ。医務室に運ばれ、ルーナもその付き添いだ。


 本当ならば、エメリアも彼女の側にいたい。それを堪えているのが、エルにはひしひしと伝わっていた。


「……あの時もそうだったかな。まさか、同じ痛みをここで感じることになるとは…」


 エメリアは呟くように語る。エルは黙って聞いていた。


「…船内に繋いでくれ」


「はい…エメリア様」


 エルは船内放送を繋ぐ。


「…エメリアだ。皆、まずは御苦労だった。よくぞ、この困難な嵐を乗り越えてくれた。まずは、女王として礼を言わせてくれ。皆、感謝する」


 エメリアは静かに、そして丁寧に、クルーの労をねぎらった。しかし、その口調に覇気はない。


「…皆の心、私にもわかる。我々は嵐を乗り越えた。しかし…目の前で嵐の海に沈んだ人々をこの目で見たのだ。私たちには、その痛みがよくわかるな……」


 モニター越しのエメリアは下を向き、しばらく押し黙る。モニターを見ているクルーたちは、胸が苦しくなる。


 少しの間を取り、エメリアは再び顔を上げ、語り始めた。


「…私は、情けないことだが、今の状況についてこれ以上語る言葉が見つからない。どうか許してほしい…。しかし…」


 言葉を区切り、手に拳を握ると、それを強く胸に受けとめる。


「しかし、私たちは今、ここに生きている。 ならば、その痛みを心に刻み込み、見知らぬ彼らの分まで生き続けるしかない。私は、この紋章にかけて生きることを誓おう」


 エメリアは服の胸に刺繍された紋章に手を当てる。


「この狼の心を受け継ぐ守護者の一人として…!」


 そう結び、放送を終える。


 狼の心と守護者。この船に乗っている者の多くは、その意味をよく知っている。


 それはアリアスを救った守護者である、狼の心なのだ。だが、その狼は一度使命を果たすことに失敗し、絶望した。しかし、それでも諦めずに、人々を滅びの淵から生還させたのだ。


 どんなに苦しい悲しみに襲われても、立ち上がる心。多くの人々のために、その狼は駆け抜けた。


 クルーは隣にいる者の顔を見て見合い、自然に握手を交わす。それから、それぞれが立ち上がって持ち場へと戻っていった。


「…さあて、守護者は寝てもいられねえな」


 医務室にいたフラガは、包帯が巻かれた腕を振り回す。ペーターは格納庫に戻っており、代わりに来ていたサラに頭を叩かれ、ボヤいていた。


「……狼の旦那は、ちゃんと側にいるぜ。だから、ソフィアもじいちゃんに見せてやんなよ。その心を、な」


 フラガは去り際に、同じ医務室に寝ていたソフィアに一言伝える。ソフィアは寝ながら、手を伸ばす。その先に掴みたいものは、まだ掴めない。だが、目の力を取り戻した。


「…そうだね。リゴなら、そうするね。フラガさん…お姉ちゃん…ありがと…!」


 ガバッと起き上がり、隣にいるルーナと顔を合わせる。


「行こう、ルーナ」


「うん。行こう、お姉ちゃん!」


 互いに頷き、ソフィアとルーナは颯爽と医務室を後にする。



 活力を取り戻した琥珀の女王号。


 その船に、数隻の船が接近したのは、この直後であった。



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